2017 / 06
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「私はね、君に・・・堂前和華子さんに本当に会いたかった。
・・・やっと念願叶ったよ」

そう言いながら秘書の人に渡した書類の入っていた
同じ大きさの封筒を見せた。
中から数冊のアルバムが入っていた。
私がそのアルバムと社長の顔を不躾にも見比べていると
「見てごらん」と1冊のアルバムを差し出した。

そっとアルバムの表紙を捲り・・・。
「あっ!」と小さく声を出してしまった。

「驚いたかね?そうだろうね・・・」
「あの・・・これが・・・なぜここにあるの・・・ですか?」

あまりにも驚きすぎて、口が上手く回らずきちんと喋れなかった。
それでもアルバムの中のそれらは全て知っている。
だってそれは全て我が子と自分だったから。

「これは私の大学の後輩に頼んで、事ある毎に貰っていたものだ。
もっと早くに・・・いや、この子が生まれる前にきちんとすべきだった。
私の息子は・・・この子のお父さんだ」
「えっ!?」
「そう、驚かないでくれよ?はははっ・・・本当に・・・」
「映の・・・お父さんって・・・マオさんの?」
「そうだね、『マオ』は私の息子で次男だが・・・」
「ええっ!?」

社長の前だというのに素っ頓狂な声を出してしまった。
頭の中を色々なことが巡り始めた。
そして・・・今までの色々な想いが溢れるように涙が一筋流れた。

「今まで本当に苦労させてしまった。
どんなに謝っても足りないくらいだ・・・これからは・・・
孫のために、そして・・・次男のお嫁さんのために・・・」
「いいえ・・・苦労なんか・・・していません
むしろ、マオさんのおかげで私はかけがえのない幸せを
宝物をこの胸に抱くことができました。
だから謝らないでください・・・でも・・・
もしそれでも・・・気がおさまらないと仰るのでしたら・・・
是非この子・・・いつか抱きしめてください」

いつの間にかお互いの両手を握り締め、昔からの知り合いのように
微笑みあった。
それぞれの心は温かだった。

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書類を持っていくようにと上司から仰せつかって
今、滅多に上がって来ない重役フロアにいる。
エレベーター降りたときには「なぜ?」という思いよりも
興味のほうが先立ってしまい秘書室をもう少しで通り過ぎるところだった。

「総務部の・・・堂前ですが・・・」
「連絡をいただいております。こちらへ・・・」
「はい・・・」

通されたのは秘書室の隣にある小会議室だった。
同期の中でもなかなかの評判の男性秘書の人に案内された。
持参した書類を渡してそのまま自分の部署へ戻れると思っていたが、
その人に「ここでお待ちください」と言われて・・・。
座り心地の好い背もたれの高い椅子に座った。
室内の壁にかかっている時計をただぼんやりと眺めながら・・・。

それから少し経って扉が静かに開いた。
先ほどの秘書の人と穏やかな顔立ちの男性が入ってきた。
どこかでお目にかかったことのあるような・・・。
そんな思いが頭の中を過ぎって、ハッと椅子から立ち上がった。
それと同時に秘書の人は静かに部屋の扉を閉めながら出て行った。

「君が・・・そうか・・・君なんだね?」
「あの・・・」
「いやいや、そう硬くならずに」

そう言いながらその男性は手を差し伸べながら
もう一度椅子に座るように促した。
そして私のすぐ隣に自分もゆったりと腰掛けられた。

「私のことは知っているかね?」
「あの・・・先日の訓示でお顔を拝見しました」
「ははは・・・そうか・・・
じゃぁ、君は私を知っているということだね?」
「はい、社長でしらっしゃいますね?」
「まぁ、そういうことだね」
「そんな社長が、なぜ、一社員の私に?」
「社長たるもの社員全員と話がしたくなってね。
まずは君がトップバッターなんだよ」
「はぁ・・・」
「ははは・・・というのは、まぁ、冗談で、
いやいや、社員全員と話がしたいというのはいつもそう思っているよ。
敢えてここに君を呼んだのは・・・大切な用があったからだよ」

そう言う社長のお顔はとても大手企業のトップとは思えないくらい
茶目っ気たっぷりの満面の笑みだった。
そう、その穏やかな雰囲気も含めて想い人を連想させるようだった。

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表の喧騒とは別世界のようにここには静かである。
時折、琥珀色の液体の氷が溶けるのか静寂の中で『カラン』と音を立てる。
薄暗いダウンライトがその静かさを際立たせていた。
2人の男性がローテーブルを挟みソファにゆったりと腰掛けていた。
端から見れば・・・静かに酒を楽しんでいるようにも見える。
バーの個室の外からはそんな印象を受けた。

新進俳優と売れっ子アイドルグループの一人がお忍びでバーの個室で
酒を酌み交わしていれば・・・。
芸能リポーターなら飛びつくはずがない。
ましてや話の内容を聞けば尚更である。

「全部、事情を聞きましたよ」
「そうか・・・」
「それだけですか?リアクションは?」
「いや・・・じたばた言い訳しても仕方が無いし
俺もそれなりにあの頃より大人になったから」
「彼女が出て行ってから自堕落な生活をしていたとは
少なくともファンには微塵も見せていなかったとは!
さすがですね、先輩!」
「嫌味か?」
「そう捉えてくれるのなら俺の気持ちもまだ救われるってもんですよ」
薄く笑った事務所の先輩は一口琥珀色のウィスキーをのどに流し込み、
翔はそれを睨みつけるように見た後深いため息を吐いた。

「どうした?」
「いや・・・全然、歯が立たないっていうか・・・
敵わないっていうか・・・・あぁ~~もう!マジでむかつく!」
「おい!先輩に言う言葉か?」
「コレに関しては先輩も後輩もないですよ」
「まぁ、そうだな・・・むしろお前の方が色々知っているんだもんな
俺の方が敵わないさ」
「あぁ~~そういうことをさらっと言う、マオさん、
悔しいけれどかっこいいですよ!」

茶目っ気たっぷりに・・・しかしどこか寂しそうに笑いながら
親指を立てたよき後輩を改めてグラス片手に見た。
愛する女性の一番辛いときに傍にいてくれたのが
彼でよかったのかもしれない。
本来なら自分が傍にいて息も止まるほどの幸せで包み込んでいたはずなのに
しかし、そのことを今悔やんでいては前には進めない。
辛い時期があってやっと本当の意味での幸せを
掴むことができたのできたのだから。
この後輩は自分たちにとってかけがえのない存在になった。

「マジで、和華子と映を今まで以上に幸せにしてやってください。
もし、できなかったらその時は・・・俺が彼女たちを幸せにします!」

ウィスキーのグラスを一気に空にして翔がやや据わった目で呟いた。
迫真の演技でもきっとこんな目はできないはず。
今にも泣き出しそうな表情の彼はそれからしばらくグラスを前に
拳を握り締め、その手は小刻みに震えていた。


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「映の父親ってあいつだったんだ」

里津さんの手伝いで母屋にお邪魔していたとき
翔からやぶからぼうに言われた。
私が返事する前にあっさりと肯定形の返事をしたのは彼の母親だった。

「お袋・・・知ってたのかよ?」
「初めから知っていたわけじゃないのよ。
でも和華ちゃんのご両親に事情を話したときに聞いたの。
全部ひっくるめて受け入れることをお父さんと約束したのよ」
「知っていたらなんで俺に話さないんだよ!」
「だってあんたは、和華ちゃんに好意を持っているでしょう?
妊娠して途方にくれている人に対して冷静でいられる?
ご両親でさえ冷静でいられなかったのよ」
「だからって・・・」
「和華ちゃん、結果的に騙したような形になってしまったけれど
全てあなたとあっくんの幸せを考えたらこういう形がいいと思ったの。
いずれ・・・彼とも話し合わなくちゃいけないと思っていたし」

里津さんは言葉を選びながら今までのことを話してくれた。
今この時期にこういう結果になったというこは
もう一歩前に進まなければいけないということだと話してくれた。
自分と子どものことを考えていてくれた両親を含めて今更ながら感謝した。


「俺は・・・映の父親にはなれないか?」
「翔、ごめんね」
「そう、あっさりとバッサリと謝られると・・・夢も希望も無いのか?」
「うん、ごめんね」
「陣痛で辛いとき、おむつを取り替えたのも、ミルクをあげたのも
お散歩のお供も、1歳のお誕生日も・・・いっつも傍にいたのに・・・」
「・・・ごめんなさい」
「あ~あ!こ~んなイケメンの俺を振るのは和華子と映だけだぞ?
2人とも見る目無いな!絶対に後悔するぞ!?」
「・・・・・」
「こんなイケメンの俺を振るんだから今以上に幸せになれよ!」
「うん、ありがとう、そうする」

最後は泣き笑いのような表情の幼友達が『トン』と背中を押してくれた。
中学の卒業式以来、彼の潤んだ瞳は見たことがなかった。
それ以来だな・・・とぼんやりと彼を見つめた。
家族以上の友人も前に進ませるために私自身も
幸せにならなければ・・・と強く感じた。

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今までの世界に全く色が無かったのか・・・と思えるくらい
世界は様々の色で彩られているのだと感じる今日この頃。
守るべき者の存在を知ったとき一気に世界が色づいた。
一日に何度も暇さえあれば携帯のディスプレイに見入る自分。
メンバーはそれを見て初めこそからかっていたが、
事情を全て話してからは優しい眼差しで見守ってくれていた。

彼女と我が子と再会して、生まれてから今までの撮り貯めていた写真を
自分のパソコンに取り込みそれを更に携帯の待ち受け画面にした。
それと一日一回は彼女から映の日常風景を写メしてもらうことにした。
頻繁に会いにいけないために。

あまり寄り付かなかった実家にも顔を出すようになった。
両親や兄弟と話しているときも
ふと彼女や映に想いを馳せてしまっているようだった。

「いい顔するようになったな」
「親父・・・」
「あの頃の・・・お前にやっと戻ってくれたか」
「えっ?」
「荒れる前のお前に・・・だよ」

そう言う父親の目じりが少し下がり気味に見えた。
何か言いたげの父親は書斎に来るように促した。
そして小さなアルバムを数冊見せてくれた。
そこにはまぎれもなく自分の愛する女性と子供が写っている
たくさんの写真だった。

「これ・・・」
「これは・・・私の大事な孫と
・・・いつか嫁と呼べる女性かな」
「どういう・・・?」
「驚いたか?はははっ・・・そうだろう、
私が反対していると思い込んでいたみたいだからな」
「大学の後輩の石川に頼んでね・・・
彼女と孫の保護者になってもらっていた」
「石川さんって・・・翔の?」
「あぁ、そうだよ、一人息子とは同じ事務所だったな」

生まれたばかりの映を優しく見つめる和華子の写真。
翔の母親と一緒に写る宮参りの写真。
鯛の尾頭付きのお膳の前で眠ってしまっている映。
ベビーカーに乗って和華子と楽しそうに笑う映。
一升餅を背負わされて泣きながら立ち上がろうとする映。

どれもこれも愛情に満ちた写真。
彼女の部屋で見た写真とダブるものもあった。

「母さんがこの写真を敢えて見ていないんだ。
本当にお前が孫と彼女を連れてくるまで見ないて言ってな。
あの頃、目先のことばかり気にして
ちゃんとお前を見てやれなかったことを後悔していて、
その結果きちんとした形で孫と嫁を迎えてやれなかった
母さんなりのけじめみたいなもんだ」
「そんなことを・・・」
「お前も私も母さんも本当に意味での幸せというのを
気づかせてくれたのが・・・彼女とこの子だな。
石川に頼んで彼女の就職先も住まいも・・・
この写真も全部頼んだというわけだ」
「会いに行きたかったよね?」
「そりゃぁ、そうさ・・・
しかし、人としてのけじめはきちんとつけなければ
以前に話したと思うが、近々連れて来なさい、いいね。
母さんも・・・恐らく限界だと思うから」
「はい、そうします。親父・・・ありがとうございます」

当分この人を超えることは出来ないと思った。
しかし近い未来かけがえのない幸せをこの手に掴みたいと、
いや・・・掴まなければならないと思った。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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