2017 / 06
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いつの頃からだったのだろう。
あいつを意識始めたのは・・・・。
お隣のかわいい弟的存在だった。
自分の妹のクラスメートで、妹の初恋の相手だった。
ある日突然私の前に現れた彼は、あっと言う間に私の心の中に棲み付いた。
そして片時も忘れられない存在となっていった。


妹が小学校に入学する年の3月の下旬、彼は母親と共にここへ引っ越してきた。
私、箕面凪子(みのお なぎこ)が小学校5年生の時、
小学1年生の如月一路(きさらぎ いちろ)は短髪で目がクリッとした男の子だった。
引越しの挨拶の時、母親の影に隠れて頭だけひょっこり出して前歯が抜け替わりなのか
隙ッ歯の顔でにっこりと笑ったのが印象的だった。
当時、お隣には一路の祖父母が長く住んでおり、
彼の両親が離婚し母親の実家であるここへ越してきた。

妹の風花(ふうか)と同い年だったので家族ぐるみで付き合うようになった。
毎朝の登校は私と妹と一路で出掛ける。
妹は元々身体が弱かったので小学校低学年の頃は入退院を繰り返していたため
自分が小学生時代の一路との登校は殆ど2人だけの時が多かったかもしれない。
彼が1~2年生の時だけでも一人っ子のせいか凄く人懐っこくて
いつも「なっちゃん!」と慕っていてくれたっけ。


春の運動会も夏祭りも初詣もいつも一緒に過ごしていた。
夏休みには隣県まで海水浴にも行った。
でも、それも私が中学に入る頃には徐々にそういう交流がなくなっていった。
・・・というより、私自身部活や勉強に忙しくなり
そういう家族ぐるみの付き合いから1人外れていったのかもしれない。


中3後期の期末試験の準備をしている頃・・・・。
隣の家の玄関扉を鍵で開ける金属音がして、
玄関にランドセルを放り投げるような音がした。
いつもならその後、改めて施錠する音とマンションの廊下を
パタパタと軽やかに走り去る音がするのだが
その日に限って自分が期待していた音がしなかった。
その代わりに我が家と真反対の間取りの家の壁に「ドン!」と
やや強めに物が当たるような音がした。

不審に思った私は自室から出て、一路の家の玄関扉を軽くノックしてから開けた。
黒いランドセルと絵の具バッグを廊下に放り出した形で、
その投げ出した本人は玄関先で蹲っている状態が目に入った。

「一路!どうしたの?」
「なっちゃん・・・?」
「怪我したの?」
「頭が・・・グルグルする・・・」
「熱出た?」

通学用の帽子を脱がせて額に手を当てると検温せずとも
一路の体温が明らかに平熱でないことがわかった。

「一路!熱出たのね?苦しいよね、
今日お母さんは?おばあちゃんとおじいちゃんは?」
「母さんは夜勤・・・ばあちゃんとじいちゃんは旅行に・・・行っている・・・」
「わかった・・・じゃぁ、うちに来て寝なさい!」
「でも、いいよ」
「ダメ!絶対にダメ!!そんな高熱であんたを家に置いておけないよ!!」

そう言いながら高学年になってからグングン身長が伸び、
今の私とそう変わらない背丈の一路を抱きかかえるようにして
半ば強引に自分の家に連れて来た。
ランドセル等は廊下の隅に置き、
下駄箱の上に大きな字で書いた手紙を一路の母親宛に置いた。

高熱でぐったりとしている一路を自分の部屋のベッドに寝かした。
ぬるめのほうじ茶を淹れ、すぐに氷枕と小児用の頓服薬も準備した。
その間、一路は歯の根も合わぬほどガタガタと震えていた。

「なっちゃん・・・ごめん・・・」
「ハイハイ、病人は気にしないんだよ?氷枕痛くない?もっとお茶飲む?」
「・・・・うぅん・・・・大丈夫・・・」
「そう?少し寝てね」
「うん・・・なっちゃん1人?・・・・おばさんは?」
「あぁ、お母さんはふうちゃんの付き添いで病院なのよ
昨夜、また発作があってね、そのまま入院になっちゃたから今は私1人お留守番よ」
「・・・・・・・・」
「寝ちゃったのね・・・・」

かなり息の荒い一路の額に手を置き、固く絞ったタオルをそっと載せた。
そして凪子は勉強道具を片手に自室からダイニングへ移った。

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いつの頃からだったのだろう。
あいつを意識始めたのは・・・・。
お隣の憧れのお姉さん的存在だった。
自分のクラスメートの姉で4歳年上。
母親の実家の隣人家族のしっかり者の長女というのが第一印象だった。
妹は青白い顔をして痩せていて小柄だったのに対して、
彼女は手足がすらりとして健康そうな体つきだった。
母親の陰に隠れてもじもじしていた自分に「よろしくね!」と握手をしてきた。
その手がとても温かくてとても安心できた。
そしてあっと言う間に俺の心の中に棲み付いた。
片時も忘れられない存在となっていった。

凪子の妹とは小1の頃から同じクラスで、
隣に住んでいるよしみで低学年の頃は登下校も一緒だった。
でもその頃の風花は1~2ヶ月に1度は入院するという体調だったので
実際の登校は姉の凪子と2人というのが殆どだった。
学校や自治会などの行事はいつも一緒に過ごした。
そんな生活も凪子が中学に入ってから徐々に少なくなっていった。


俺が小5の3学期、学内で風邪や流感が流行り始めた頃。
給食を食べ終わったくらいから悪寒が治まらなくなったため
掃除の時間に担任にその旨を伝えた。
保健室に行き検温したところ38℃以上あった。
自宅にいるであろう看護士の母親に連絡してもらい車で迎えに来てもらった。
今夜は夜勤だという母親は俺を車に乗せ、
マンション前で降ろしそのまま病院へ出勤してしまった。
子供心にもせめて玄関まで付いてきて欲しいと願ったが、
自分を女手一つで育て上げるため昼夜を問わず働きづめの母親には甘えられなかった。
最上階で止まっているエレベーターを呼ぶ間も
メリーゴーランドにでものっているような錯覚に陥るほど
世の中がグルグルと回転しているように思えた。

施錠している鍵をどうにか開けた。
肩にのめり込んでいるかのようなランドセルと絵の具バッグを
廊下に放り投げたまでは覚えている。
絶え間なく襲ってきた悪寒の中、
玄関扉が再び開いて隣のお姉ちゃんの凪子が駆け込んできた。

それから気が付けば彼女のベッドに寝かされている状態。
ぬるめのほうじ茶を半ば強引に飲まされ、氷枕を頭の下置き・・・・。
横になっているとはいえだいぶ身体は楽になった。

いつもならおばさんの元気な声が聞こえているのに
凪子の家はしんと静まり返っている。
昨夜、凪子の妹が発作を起こして入院したという。
低学年の頃は同じクラスだったので男子女子でも交流はあったが、
高学年になってクラス替えで違うクラスになり登下校すら一緒に行くこともなくなった。
しかし、隣人同士もあり、風花から声を掛けてくることもあった。

ベッドに寝ながら出来る範囲で視線をぐるりと回してみる。
6畳ほどの大きさの部屋には
こげ茶色の勉強机と同じ色合いの自分の背丈と同じくらいの本棚がある。
窓際にベッドが置いてあり足元には姿見の鏡が置いてある。
作り付けのクローゼット扉には中学の友人達と写した物であろうか・・・。
スナップ写真が数枚貼ってある。
ふとその中の1枚に目が止まった。
4~5人のクラブ活動仲間と写っている写真だったが、
凪子の横にいる男子生徒から目が離せなくなった。

いつのことだったか・・・。
その生徒と凪子がマンション近くの公園で話しているのを見かけた事がある。
その時の凪子の表情が酷く落ち込んでいて、遠目でもとても気になった。
そして子供心にも嫉妬心が芽生えた出来事だった。

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ダイニングテーブルで試験勉強をしていた時
病院から母親が帰って来た。
スーパーのショッピングバッグから中身を出し
キッチンで手を洗いながら聞いてきた。

「なっちゃん、誰か来ているの?」
「お母さん、お帰りなさい、うん、お隣の一路が熱高くって
おじいちゃん達もいないんだって~」
「あら、そうなの?それでどこに寝ているの?」
「フラフラだったから私のベッドに寝かせちゃったわ」
「そう・・・じゃぁ、これから移すのも可哀相だから、
お父さんが帰って来るまでそこで寝かせておこうね。
如月ママは今夜、夜勤みたいだし」
「お母さん、ふうちゃんの具合はどう?」
「まぁね・・・いつものことよ。また暫く入院だわね」
「ふぅん、そうなんだ・・・」
「なっちゃんには悪いけれど、またバラバラ生活になりそうよ」
「いいよ、仕方がないじゃん」
「なっちゃんが小さい頃から物分りの良い子で助かったわ・・・
それに比べて・・・ふうちゃんは・・・」
「お母さん、ふうちゃんは小さい頃から大変だったんだもん」

娘の返事を苦笑いしながら聞いた母親は、
彼女のベッドで寝ている一路の様子を見に行った。
凪子は教科書の試験範囲をもう一度確認して、
それに順ずる応用問題集のページを開いた。
そして頭の中から一路のこと、妹のこと、
その他諸々の事を締め出し試験勉強に集中した。


風花は小さい頃から入退院の繰り返しで、それでも高学年になってからは
その回数も少なくなってきた方だった。
それでも風邪を拗らせたり、季節の変わり目には
発作が起こり長引かせないために入院をした。
今回も風邪から・・・ということと徐々に思春期の入り口に立ち始め
精神的に微妙な時期に達してきているため
発作の引き金になったのだろうか。
小さい頃からそんな状況なので、母親も心配するくらいかなり我が儘に育ってしまった。
凪子にとっては大事な妹で、多少の我が儘も許してきた。
自分の持ち物や欲しいと思っているものを妹が欲求したら速やかに譲ったり、遠慮してきた。
その行為は両親は凪子がそうしたいと思いこんでいる部分があった。
しかし、彼女は凄く我慢していた。
気の毒な妹なのに、大事な妹なのに、何故かいつも嫉妬心を抱いていた。


凪子の部屋から出てきた母親は氷枕に新しい氷を入れてから父親の職場に連絡をし
一路のことと早めに帰宅してもらうようお願いしていた。

「なっちゃん、一路君のママにはあとで病院に行くから
その時に彼のことを伝えておくわね」
「うん、そうしてあげて。今夜も夜勤だってね」
「そうなのよ・・・よく働くわよあの人は・・・
お夕飯だけれど、仕度しておくからお父さんと先に食べていてね
もちろん、一路君のお粥も作っておくから」
「はい、お願いします。ごめんね、お母さん、試験前じゃなかったら作るのに・・・」
「いいわよ、いつもなっちゃんには甘えられないもの」
「炊き込みご飯と煮魚作っておくから・・・それでいいかな?」
「うん、充分だよ!じゃぁ、和え物は私があとで作っておくから」
「そう?助かるわ。じゃぁ、作ったらもう一度病院行くわね。
面会時間ギリギリまでいてあげようと思うから」
「うん、そうしてあげて・・・ふうちゃん寂しいと思うし」
「ありがとう、なっちゃん、そうそう、この氷枕を一路君の所に持って行ってあげて
一応マスクした方が良いかもよ?」
「はぁい、わかった」

手近にあったガーゼマスクを付けた。
ダイニングテーブルに置いてもらった氷枕を手に自室へ入って行った。

「一路、入るよ?」
「・・・・・なっちゃん?」
「具合、どう?」
「汗、かいた・・・」
「じゃぁ、着替え持ってくるよ、それとこれ・・・頭の下に置いて」
「き・・・がえって?パジャ・・・マ?」
「一路ン家じゃ、わかんないから、お母さんに言って適当なもので代用しようね」
「薬、効いてきた・・・みたい・・・」
「そうだね・・・少し楽になった?でもまだまだだね・・・
何にも心配しないで今夜はウチに泊まるんだよ。
お父さんが帰ってきたら客間の方に移してあげるから」
「なっちゃん・・・ありがとう」
「そんなこと、気にしないの!一路は私にとって大事な弟みたいなものなんだから」

そう言われて一路は胸の奥がズキッと痛んだ。
また凪子もなにげに言った自分の言葉に酷く傷ついたような気分になった。

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一路は凪子家族に看病してもらってから程なくして体調が全快した。
それから暫くして母親に凪子と同じ中学を受験したい旨を伝えた。

彼女の通っている中学は幼稚園から大学まである私立である。
凪子はそこに中学受験をしている。
幸いにして男女共学なので一路にも受験資格は充分にある。

そして学校の成績も良いほうで、
母親が女手一つで育てているのでそこは後々色々言われないために
早い時期から学習塾には通わせていた。
最初の頃は驚いて半分本気にしていなかったが、祖父母が応援してくれた。

一路は自分が小学低学年の頃から凪子に憧れという気持ちを抱いていたことを
『看病して貰った』という事がきっかけでその想いを改めて自分自身認識した。

だから中高一貫教育のそこに行けば校内でまた凪子に会えると思った。
そしていつか彼女の部屋で見かけた写真に
一緒に写っていた男子生徒が一体誰なのかもわかると思ったからだ。
子供心にも嫉妬心を芽生えさせ、その人が何故凪子を落ち込ませたのかを
それらの原因を知りたかった。

祖父母の全面的な応援もあって見事合格した。
その年の春に期待と多少の不安も抱えながら
一路は念願の凪子と同じ学校の中等部に入学した。
クラスメートとも仲良くなり、勉強も部活にも勤しんだ。
校舎のどこかにきっと凪子がいるのだろう・・・と思いながら過ごした。

中等部も高等部も共通の学内施設を使う。
授業の関係で廊下や入り口などでたまにお互いを見かけるときもある。
凪子に憧れて入学したが、徐々に思春期突入した一路は直接言葉を交わすことが
気恥ずかしく感じるようになった。

「一路、おはよう!これから体育の授業なの?」
「あぁ、おはよ・・・」
「どうした?調子悪いの?」
「別に・・・」
「じゃぁ、どうしたの?」
「別に・・・」
「出たね、一路の得意な『別に』発言!」
「・・・・・・」
「ふうちゃんがいっつも言っているよ!
一路はなんでも『別に』で済ますって~格好つけてんの?」
「・・・・別に」
「はいはい、ある種の返事だね・・・一路もちょっとは大人になったんだね」

そう話しているうちに凪子が男子生徒に声を掛けられた

「箕面、悪いんだけれど、一緒に理科準備室来てくれ!!」
「は~~い!いいよ。じゃぁね、一路、体育頑張ってね♪」

満面の笑みで大きく手を振ってくれている彼女の後ろにいる男子生徒が
自分の嫉妬心を煽る彼だとわかったのはだいぶ後になってからだった。
廊下を小走りで去って行く凪子の後ろ姿をチャイムが鳴るギリギリまで見ていた。
隣にいる風花に声を掛けられても気が付かないくらいだった。


どんなに足掻いても凪子との4歳という年齢差は縮まらない。
相手は、自分を『弟的存在』にしか見ていない。
望みはないと思っていても、憧れている気持ちはどうしても捨てられない。
男友達同士、それなりの際どい話題はする。
でも凪子をそういうことの話題の引き合いに出すことだけは絶対に出来なかった。
単純に憧れているから・・・という理由だけでなく、凪子はもう既に自分の中では
それだけに止まらない存在となっていったのかもしれない。

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「お姉ちゃん、やっぱり行くことにしたの?」
「うん、やっぱり・・・チャンスだから行こうかな~」
「風花も行きたいなぁ、一緒に行けないのかな?」
「それは無理じゃないの・・・だってふうちゃんはまだ中学生だもん
それに私が行くのはイギリスのハイスクールだよ」
「風花も英語得意だし、お姉ちゃんと離れるのイヤだもん!!」
「聞き分けのないこと言わないでよ、それよりもうじき中2なのに自分の事
『ふうか』って呼ぶのはどうかと思うよ?」
「えぇ~~そう?おかしいかな?だってさ、こうやって言うと
周りの皆が『かわいい♪』って思ってくれて大変な事とかやってくれたり
風花の思い通りになったりするんだもん」
「それって・・・・どうかと思うけれど・・・」
「いいの!!だってさ、小さい頃から学校にもまともに行かれなくて
病院ばっかり、注射ばっかり、薬ばっかり、
周りからは『あれダメ、これダメ』ばっかりだったもん」
「ふうちゃんはいいわね~~」

風花の部屋で数学を教えていた。
少々飽きっぽい妹は小休憩と称して姉に話し掛けて来た。
一路の中学受験を知ってから風花も一緒に塾に行き始めどうにか合格し
今は同じクラスとなった。
自分の姉が交換留学生に選ばれ、クラスメートからそんな話題になり羨ましがられ
風花は自分の事のように誇らしく思ったと同時に姉の努力をも妬ましく思った。

「お姉ちゃんだって、いいじゃないの?
交換留学生なんてそうそう自分に巡ってこないよ?
英語の先生や校長先生なんか良いこと言ったの?」
「ふうちゃん!そんな単純なことでこういうチャンスは無いんだよ
自分で言うのも変だけれどこれに関しては私自身結構努力したつもりよ」
「あぁ~そうだよね~お姉ちゃんは誰にも頼らず努力できるタイプだよね?
強いんだよね~~羨ましいよ!!お勉強だっていつもトップクラスでさ~~
風花の身にもなってよ~~いっつも比べられるんだから~~」
「ふうちゃんってば・・・・ハイハイ!もうこの話はお終いね!
さぁ、次の問題やってみようか?」
「ブゥーーーーーッ!!もうイヤだっ!!
数学なんか出来なくても困らないもん!!」

そう言って問題集とノートを乱暴に閉じて
足音を大きく響かせて部屋から出て行ってしまった。
妹が出て行ったほうに視線を向けて呆れながら机の上の問題集を揃えた。
開け放たれた扉の向こうにいる妹が
母親に向かって不平とそれをたしなめる父親の声が聞こえる。

「ふうちゃんは良いわね・・・そうやって我が儘が言えるんだもん」
声に出すつもりはなかったが、そんな風に独り言を呟いた凪子だった。


「凪子、おやつにしようか?」
「あっ、お父さん、今、行くわ」
「風花のことは気にするなよ」
「うん、別に気にしていないよ、いつもの癇癪でしょう?」
「そうなんだけれどね・・・いつも凪子に悪くてね」
「お父さん、大丈夫だよ、それに今回のことは私の我が儘聞いてもらえた形だし」
「いや、本当は心配だから行かせたくないんだよ、それでも滅多に我が儘を言わない
お前が言うのだからね・・・イギリスで良いのか?」
「うん、それにウチの高校の姉妹校だし安心だよ」
「正直言って、お母さんも心配しているよ、その分、準備は充分に手伝わせてくれ」
「うん、ありがとう、そうしてもらえて嬉しいよ、お父さん」

風花の部屋でそんな話をして父親は最後に凪子の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
その幼子にやるような行為に少し驚きを見せた凪子だったが、
その仕草と感触がとても懐かしくとても嬉しく思いにっこりと父親に向かって笑顔を見せた。

ダイニングテーブルには母特製のシフォンケーキが焼き上がっており
アッサムティーの良い香りが漂っている。
風花はまだへそを曲げているのか、凪子と視線を合わせずにいる。
キッチンでは母親がケーキに添えるホイップクリームを作っていた。
お皿等の準備をするため凪子は母親の傍へ行った。

「なっちゃん、大丈夫?ふうちゃんが・・・」
「ううん、大丈夫だよ、いつものことじゃないの」
「いつものことにしちゃいけないことよ?」
「大丈夫、それに今、お父さんがフォローしてくれたもん」
「そう?」
「うん、それにこの家に私が1年いなければ風花も少しは落ち着くんじゃないのかな?」
「そうかしら・・・・」
「きっと・・・そうだよ」

母親のホイップクリーム作りを交代して自分1人だけキッチンに残った。
無心になって泡立て器を使いちょうど良い感じでホイップクリームが出来上がった
背中には刺すような風花の視線は感じていたが・・・・。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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