2008 / 05
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「門限が気になるのよね?」
彼女の友人が言った。
その言葉に彼女はすまなさそうに頷き、俺の方を向いた。
彼女にも事情があるのだろう。
このまま引き留めていたい気持ちはかなり強かったがそれより俺自身が
彼女を困らせるようなことだけは避けたかった。

電車を乗り継いで行っても恐らく門限ギリギリだという。
それでも帰らなければならないので彼女は友人に「来週、学校でね」と言い
そして俺達に今日のお礼を言い「では、また・・・」とペコリと会釈をして
手を振って足早に歩いて行った。

来週も電車の中で逢えるだろうか?
今まで以上に話しが出来るだろうか?
次の約束は?彼女をもっと知りたい!!
そう想うだけで足は地に貼りついてしまったかのように動けなくなってしまった。


俺の斜め後ろにいた友人が、俺の肩をグイッと押し一言「追いかけろ!」
それを合図に俺は走り出し、前方をややうな垂れながら歩いている彼女の手を取った。
驚いて顔を上げた彼女の瞳は潤んでいて・・・・。
それを目にした俺の心に痛みが走った。


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その後友人達と合流し、先ほどの自分の醜態を晒してしまったことを全員に謝った。
俺の友人は『人間っぽい反応だった』と俺をからかった。
彼女を含み全員が普通に接してくれていたのが、嬉しかったと同時に照れくさかった。


彼女は相変わらず控えめに付いて来る。
グランドが一望できる校舎の大きなバルコニーで各々好きな飲み物を持って
お喋りすることにした。
自然に俺の友人は彼女の友人と・・・・
そして俺は彼女と隣り合わせで、丸テーブルに座った。

彼女はいつものように聞き役に徹していたが、
俺としては彼女のほんの小さなことでも知りたかった。
話し手の顔をジッと見つめながら聞いてる彼女。
俺の友人が話しをしている時もそうしているのだが、
それだけで俺は・・・・嫉妬でおかしくなりそうだった。
・・・・・・・重症だなと、独りごちた。
自分でもおかしいくらいに彼女を知りたいと思い
彼女の目に映るもの全てに嫉妬しているなんて・・・・。


それから暫く話しをしていたが、陽が傾いてきたので肌寒くなってきた。
彼女が頻りに時計を気にし始めた。


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気が付けば、彼女の両手を握り向かい合うように立っていた。
彼女にだけ告白させるわけにはいかない。
俺も・・・・話さなければ!
しかし、あまりに嬉しすぎる告白と
先ほどからの落ち込みから浮上していない部分もあり
喉の奥がはり付いてしまったかのように、声が、言葉が出なくなってしまった。
周りの喧騒も聞こえなくなり、時が止まってしまったような感覚に陥った。

怪訝な面持ちで見上げている彼女。
それを半ば呆然とした面持ちで見つめている俺。
だが、お互いにしっかり握られた両手から言葉にしなくても想いが伝わった。

そうしてやっと・・・・
花が咲くように微笑んだ。
その瞳は、潤んだままだったが・・・・。
その中に俺自身を確認して更に彼女の手を強く握り返した。


その途端、学内の喧騒さが耳に入ってきた。
そして俺も彼女に微笑み返した。


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落ち着かない様子で彼女が立っていたので隣の椅子を勧めた。
彼女は浅く座り、膝の上に両手を握り締め俯き加減に話し始めた。
「あの・・・・ごめんなさい、あの時私があなたの手を握ったりしたから・・・」
そう言っているうちに彼女の顔は更に俯き、ストレートの髪がハラリと肩に掛かった。
耳の裏まで赤くなって一所懸命話そうとしている。
それなのに俺は彼女の友人が説明してくれたこと考えながら
今、目の前にいる彼女の態度を半ば呆然と照らし合わせていた。

俺が返事もせず黙り込んでいたため、ふと彼女は顔を上げ俺の表情を読み取ろうとしていた。
そして何か誤解したのか、徐々に瞳が潤んできてしまった。
「やっぱり・・・・怒っていらっしゃるんですね?
あなたは・・・・・私に対して・・・えっと・・・そんな風に思っていらっしゃらないのに
私だけが・・・・・あなたを!!・・・ご、ごめんなさい」


今なんと言った!?
ま、まさか!?彼女の母国語は殆ど理解できているはずなのに
一瞬思考回路がストップしてしまったかのように
ただ一つの言葉だけしか耳に入らず、それだけしか考えられなくなってしまった。

『私だけがあなたを・・・・』その言葉だけ
これだけで充分だった。

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「あの子、帰りました・・・・せっかく学園祭を案内してくれたのに
嫌な雰囲気にさせてしまってごめんなさい。
あの子・・・・この子にやっかんでいたみたいで」
彼女の友人が言った。


リーダー的な友人が俺に対して恋心を抱いていたこと
その応援を彼女に頼んでいたこと
俺自身が彼女に対して好意を持っていた事を勘付いていたこと
講堂での一件を後ろの席から見ていたこと
それについて俺が席を外している間、彼女を激しく責めたこと

それらを掻い摘んで説明をしてくれた。
彼女は時折友人の話を制止するような素振りはあったがその間、
すまなさそうに俯いたまま話を聞いていた。



彼女の友人が話し終えた後、彼女は少し顔を上げ顔が赤らんでいるように見えた。
「じゃぁ、あとは自分で言いなさいね。こういうことは自分の口から言わなきゃダメ!
それに誰の遠慮もいらないの!・・・・頑張ってね」
小声だったがシッカリした口調で彼女を励まして、俺に会釈して俺の友人の待つところへ行ってしまった。

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仲間から離れた俺は、カフェのオープンテラスのベンチで深い溜息を吐いて
半ば頭を抱えるように座った。
まさに自己嫌悪。
身から出た錆とはいえ、ここまで落ち込むのは初めてなことだ。
それと自分自身の感情を制御不能となってしまった。


そんな中でも俺は彼女のことばかり考えていた。
キツイ部分の俺を彼女前にさらけ出して、俺に対してどう思ったか。
硬直させてしまうほど驚かせてしまったこと謝りたかった。
もう1度、俺が瞬時に魅せられたあの笑顔を見せてくれないのか?
そして・・・・・
俺の傍にいてくれないのか?


そんなことばかり考えていた時、足元にふと誰かが近づいてきたのがわかった。
そこには少し怒っている感じの彼女の友人とかなり困り顔の彼女が立っていた。


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俺の友人が話題を変えようとしたが、俺は何も言わず首を横に振った。
そして誰もが口をつぐんでしまった。


俺は後悔した。
彼女の友人に対してではなく、自分に対して・・・・
今日は彼女にもっと俺自身のことを知って貰いたくてここへ連れて来たのに。
自分がとった態度でこんなに悔いたことは初めてに近かった。

兄弟の中でもかなり責任感の強い方だと思っていた。
幼い頃こら帝王学を学び、自制心も養ってきたはず。
父親からのお墨付きを貰えるほどの精神力も持っていたはず。
だが、今回ばかりは・・・・キレてしまった。

仲間の輪から1歩程はなれた位置にいる彼女と目が合った。
彼女は半ば身体を硬直させて、驚いた目で俺をジッと見つめていた。
そんな目で俺を見ないでくれっ!

自分で招いてしまったこの場の雰囲気に俺だけが居た堪れない気持ちになって
「少し頭を冷やしてくる・・・・」
そう言い残し、この場から離れた。


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彼女の様子が気になる。
先ほどまで一瞬でも俺にだけは見せていた笑顔がそこにあったのに。
感情を押し殺してような態度。
表情は普通にしていても、心は泣いているような・・・・。
彼女の想いが伝わってくる。
しかし、他の仲間の手前そのことについて彼女に問いただすチャンスは無かった。
 
更に俺が彼女を気にする素振りを見せれば、リーダー的の子が必要以上に絡み付いていくる。
それなりの育ちの子だろう、だがその行動は男に媚を売る女にしか見えない。
そう、俺が今まで付き合ってきた女の類と同じだ。

俺の腕に手を回し、喋り続ける女・・・・
それを俺と視線を合わせないようにチラチラと見る彼女の唇が震えてる!?
彼女を見た瞬間、俺は氷点下の視線を絡み付いている女に向けて言い放った。
「その手を放せ」
その場の雰囲気は一気に冷え切った。

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目立った催しを数点見た後、俺は所用があったので暫く彼女達と別行動をとった。
約1時間後に目印となるシンボリー・ツリーの前で待ち合わせをすることにした。
正直に言えば、彼女だけを用事のある研究室へ連れて行きたかったが、
さすがにそんなことをしたらまずいなと思い、彼女達をあとにした。
後から考えればあの時、無理にでも連れて行けば良かったと後悔した。

俺の方の所用も済み、約束の場所で待っていたのは
満面笑みのリーダー的存在の彼女友人と、少し複雑な面持ちの友人と
・・・・俯き加減で下唇を噛みながら、少し震えた彼女がいた。
「俺達のいない間に何があった?」
強い口調で言葉が吐いて出てしまいそうになったが、
持ち前の精神力を総動員して自制し待たせたことだけ詫びた。


先ほどの彼女とは違い、移動し始めても俺の1~2歩後から付いて来るだけ。
何度か振り返りながら様子を伺ったが何も言わず・・・・
俺と視線を合わさないように極力努力しているように思えた。
講堂での反応は、夢だったのか?と錯覚してしまうくらい
彼女の気持ちが見えなくなってしまった。


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秋晴れの好い天気の中、学内カフェのオープンテラスで軽食をとった。
女の子特有の甘党らしく甘めのペストリーとカフェ・オ・レ
それだけでお腹が空かないのか?と何度聞いても微笑みながら頷くだけ。

友人達と和やかな時間を過ごし、この後学内のどこに行きたいかを聞いてみた。
彼女の友人達は、しきりに俺の大学院の方へ案内を強請っていたが
さすがにこれは俺も俺の友人も困り果てた顔をしていたのだろう。
彼女が小声だがしっかりした口調で
「ご迷惑よ、無理にお願いしたら・・・・いけないわ」
一言自分の友人達を諌めた。
それでも食い下がるリーダー的存在の友人が彼女を睨んだのを見て
衝動的に俺は、その視線の先にいる彼女を背で庇うようにさり気なく立ちはだかった。


その場の雰囲気が悪くなりそうになったので
努めて明るい声で彼女が次はどこへ案内してくれるのか聞いてきた。
心配りの出来る彼女の性格に更に惹かれた。

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大学に着いたとき既に彼女以外の友人はテンションがMAX状態。
かくいう俺も事前に計画していたことは、頭の中から消えていった。
ただ、彼女と同じ空間にいて、同じものを見ている・・・・と
思っただけで気持ちは浮き立った。

とりあえず、JAZZ演奏をしている講堂へ皆を連れて行き
暫く演奏を聴くことにした。
この大学のJAZZグループはアマチュアだが、この界隈ではなかなか評判が良く
たまにライブハウスなどで演奏する。
俺としては幼い頃から慣れしたしんだジャンルなのでスケジュールが合えば
聴きに行くこともあった。


そんな軽快なサウンドに彼女は心地良さそうに指先でリズムを刻んでいた。
俺は彼女の左側に座していたのだが、彼女が手先を脱力した形で左手を肘掛に掛けていた。
俺は自分の右手で彼女の左手を掬う形で、指先だけ絡ませるように手を繋いだ。
彼女は一瞬驚いた顔をしてチラッと振り向き、手元と俺を交互に見て笑った。
そしてほんの一瞬だったが、絡ませた指をギュッと握り返してきた。


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学園祭を案内するという約束の前日、俺は遠足に行く前の幼子のように
落ち着きが無かった。
約束当日の10日前あたりから、上の空でハッキリ言ってどんな風に友人や側近達と
過ごしていたか今思い出そうとしても殆ど思い出せない。
思い出せるといえば・・・・彼女の笑顔だけだった。


約束の日、約束の場所で彼女と友人達が待っていた。
私服の彼女に、年甲斐も無くドキドキした。
他の友人達は、所謂ブランド物の服を着ていたようだが
俺には、彼女しか目に入らなかった。

いつもキチンと制服を着ている彼女が、パステルカラーのブラウスとボレロ
紺色のプリーツスカートを着て、紺色のカチューシャをしている彼女がとても新鮮に見えた。
俺と目が合った一瞬、少しはにかみながら微笑んだ彼女の瞳から目が離せなくなった。


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彼女の養父は、あまり大きくはないが会社を経営しているらしい。
こういうところで世間は狭いものだと感じる。
実家の事業の傘下に入っている大手企業の下請け会社だという。
そのおかげで彼女の両親に関しては手っ取り早く調べることが出来たが・・・・。


養父は仕事一筋のところがあり、家庭全般は妻に任せているらしい。
彼女の事細かな養育に関しては妻である養母に一任させている。
養母は血の繋がった子どもや夫の会社関係、友人達の評判は悪くない。
むしろ、人あたりがかなり良いと報告されている。

何故、一見穏やかな感じの養父母が彼女に対して冷たく接するのがわからない。
他人にはわからないもっと根深いものがあるのだろうか・・・・。
生まれてすぐに引き取られて、弟が生まれるまでは本当の親子のように過ごしてきたのだろう。
いや、そう思いたい。
その3年間は溢れるほどに愛情を注いでもらったから、
彼女も穏やかな、優しく、そして芯の強い女性と成長しつつあるのだと。

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子どもが生まれなかったという理由で育ての親に引き取られたという。
所謂養女で今の両親とは直接血が繋がっていない。
父方の遠縁に当たる子どもだったという。
彼女の出生に関しては・・・・歓迎されて生まれてきた子どもではなかったらしい。


その彼女が引き取られてから3年後に弟、その1年後の妹が生まれたそうだ。
自分の子が生まれたから、彼女を施設へ送り返さなかったのはせめてもの救いだ。
やはり血が繋がっている子の方がより愛しいと思うのは、当然と言えば当然だ。
そして・・・・
必然的に彼女は家の中で、孤立していったという。

妹は彼女と同じ私立の女子校・中等部に在学し
弟は私立の男子校に通っているようだ。
彼女と彼らの関係は、親の感情が先立って上手く行っていない部分もあるらしい。
妹は中等部でも割合、アイドル的存在らしく高等部の生徒からも可愛がられという。
そんな中、彼女は高等部の中でも成績優秀クラスに入っているため
容姿も手伝って、目立つことこの上ない。
親としては自分の血の繋がった子より、養女の方が成績優秀で目立つことが面白くないという。


他人から見れば、養女とはいえ成績優秀な娘と可愛らしい娘がいる
それならば普通鼻が高いと思うが・・・・親の感情はそうではないらしい。
どうにもならないことで育ての親から感情をぶつけられる度に、自分自身を押し殺しているという。
唯一、家から離れ登下校途中が彼女自身を取り戻せる時間のようだった。




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俺の大学の友人と彼女の友人達も交えて近々、大学の学園祭を案内する約束をした。
この約束を機に、彼女の友人・リーダー的存在の子が積極的に近づいてきた。
どこから『ツテ』を探してきたか知らないが、俺の大学の友人と共通の友人の名前を使って
大学で待ち伏せされた時にはかなり閉口した。
しかし、俺もこれをチャンスに彼女のことを聞きだすことにした。


彼女の家のこと、弟、妹のこと、親のこと・・・・
親のことが彼女の笑顔を曇らす原因だったなんて。
思いもよらなかった・・・・

俺が育った環境では、子どもにとって親は何よりも自分の味方であり
最大級に甘えさせてくれる存在であると思っていたが・・・・。
彼女は、そうではなかった。

自分の想いを、欲求を、押し殺して、我慢して。
それでも卑屈にならず、穏やかに過ごしているという。
俺の自惚れかもしれないが、
傍にいて味方になり甘えさせてあげられるのは自分しかいないと思った。


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彼女が1人で乗車する時は殆ど喋らないが、友人達と一緒の時は少しだけ声が聞ける。
基本的に話の中心となって喋る方ではないらしい。
聞き上手のようで、いつも微笑みながら話しにあいづちを打つという風だ。

むしろ彼女の友人・リーダー的存在の子の方が積極的俺に話しかけてくる。
「日本語が上手ですね」とか「何を専攻にているんですか?」とか「彼女はいるんですか?」等々。
正直言って俺が彼女に色々質問をしたいのだが、なかなかそんなチャンスにはめぐり合えず・・・・。

だが折りもよく、ちょうど俺の通っている大学院で学園祭があるので彼女達を誘ってみた。
予想通り、リーダー的な子と他の友人は即OKだったが・・・・彼女は親に聞いてみるという。


少し考え込むような俯き加減で返事をした彼女の横顔が、儚げだが見惚れてしまう程綺麗だと思った。


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彼女の本を拾ってあげたのが切欠で、
翌日から彼女が乗車してくると小声だが俺に挨拶するようになった。
「おはようございます」
俺は、彼女の声、言葉を聴いただけで心が浮き立った。

この頃の俺は、側近の者(監視役)も故国いる友人にも彼女の事は、
事あるごとに色々相談しているが、半ば呆れられ溜息まじりで
「それは重症だな・・・・」とも言われた。



確かに・・・・
今までの俺の生活を知っている者から見れば、それは不思議だったかもしれない。
だが、俺はこの自分自身の行動、心境の変化が新鮮であり楽しく思っていた。


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そんなある日、いつものように彼女は小さな本を片手に乗ってきた。
この日は珍しく車内は混んでいて、彼女の後ろから雪崩込むように人が沢山乗ってきた。
必然的に彼女は、いつもの定位置ではなく俺の近くの吊り革に摑まる形となる。


定刻に発車し二駅ほど過ぎた時、電車が急停車をした。
その時、彼女の持っていた本が俺の足元に落ちたので拾った。

「あ、ありがとうございます」

彼女は鈴を転がすような声でお礼を言い、
セミロングの髪の毛を揺らしながらペコリと会釈をし本を受け取った。
もう一度彼女の声が聞きたいと思ったのは
俺と彼女が本を渡すことで一瞬繋がった時だった。



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彼女を見かけた日からほぼ毎日、彼女が乗車してこないか心待ちにしている。
そんな自分に俺は思わず、苦笑してしまう。

彼女が乗車してくるであろう駅が近づいてくるだけで少年のように胸が高鳴ってくる。
電車の速度は、いつもと変わらないのに何故か遅く感じるほどに・・・・。

彼女が乗車しているほんの15分ほど、彼女の一挙一動が気になった。
大学へ行っても、自宅へ帰っても頭の隅では彼女を考えている毎日が
何故か楽しくて仕方がなかった。

微笑みながら頷く顔、友達の話にちょっと驚いたように目を丸くするさま、
小さな本を片手に、時折「クスッ」と笑っている。
窓の外の風景を悲しげな面持ちで遠くを見つめている・・・・。


彼女の笑顔が見たい・・・・
なんの憂いもなくいつも、いつも微笑んでいて欲しい。
あの微笑を消す全てのものから、彼女を守りたいと思った。


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 「えぇーーっ!それって本当のこと?」
と、1人の女性の高い声が聞こえたので、そちらの方向へ目を向けた。
この電車の沿線にある私立の女子高校の生徒らしい。
3人ほど女子生徒が乗車して来た。
その中で頷きながら微笑んでいる女性が・・・・・・彼女だった。


一瞬、そこだけ野の花が一面咲き乱れたかのような
控えめだが、華やかになった印象を受けた。
俺の鼓動は一瞬にして体全体で鳴っているかのような錯覚に陥った。




そして俺は・・・・
俺は、彼女から目が離せなくなったんだ。


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この国で勉学に勤しむことは、俺の育った環境から考えればもの凄く開放的だった。
知らない国で、異文化に触れ、今までいかに狭い世界しか見ていなかったか思い知らされる。
それと同時に俺にとって良い刺激となっていった。

最初の頃、電車から見る風景や乗客を眺めたりするのも面白かった。
幼い子のように半ばはしゃぎながら乗っていた。
コレに関しては、常に監視している奴にチェックされたのは覚えている。
そんな毎日にも慣れて、ふとした時に彼女と出会ったんだ。

いつもの電車、いつもの風景・・・・
彼女を見つけるまでは、代わり映えのないいつもの朝だった。



presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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