2008 / 06
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当然、自宅が近所だから中学校の学区も一緒。
入学式の朝、母親と登校して雄輝を正門で見かけたとき
制服を着たところを見たのが初めてだったせいか、
ちょっぴりドキッとしたと同時に
小さい時の『泣き虫雄輝』はいなくなっちゃったんだ・・・・
寂しい気持ちになったんだよね。


中学校のクラスは小学校の倍はあって、あたしと愛ちゃんは同じクラス。
雄輝は違うクラスとなり、本格的に学校生活が始まり自分の中の『雄輝』という存在は
小さくなっていった。

それでもあの容姿だし、結構目立っていて特に先輩・お姉さま方から
「雄輝ク~ン、可愛い!!」「雄輝ク~~ン、こっち向いて~~!!」
歓声が上がりまるでアイドル扱いされていた。

そういえば、去年のバレンタイン・チョコの数が半端なかったみたいで
ウチのクラスの男子が羨ましがっていたっけ。
告られた人数も一クラス分の女子に匹敵するとか・・・・。
あたしなんか、ホワイト・デーのお返しが大変なんじゃないかな?
なんて、変な心配したりして・・・・余計なお世話だけど。

加えてそういうことを自慢したりするキャラじゃないから、更にクールさが増すらしい。
って、コレは同じクラスの雄輝@私設ファンクラブの友達が言っていた。
そこからの情報によれば、雄輝の【本命】とされている子からは貰わなかったらしいって。
この話を聞いたとき、あたしの心が一瞬、キュッと痛んだことを自覚している。

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小学校に入ってからこの関係が続いたのも低学年までで・・・・
小3になった時、クラス替えがあって登下校も同じにならなくなった。
あたしもこの頃、同じクラスになった愛ちゃんと仲良くなって
女の子達と遊ぶ方がずっと楽しくなってきたし。

たまに登下校や休み時間に見かけても、
お互い存在は認めてもそれ以上のリアクションはなく・・・・
高学年になって、雄輝は陸上部に入った途端体格も良くなって
アッという間にあたしの身長を追い越していったっけ。
手足が長くてよくあたしの母親が「雄輝クンはカモシカみたいね」なんて言っていたわ。
まぁ、雄輝の両親は共に背が高くて日本人離れした雰囲気だったし、
ちょうど伸びる時期だったのだと思う。

そういえば、彼のお母さんは若い頃ファッションモデルやっていたって聞いたことあるし
お母さん似と一目瞭然だし・・・・・イイDNA貰ったんだわね。
お姉さんの華絵先輩は、お父さん似で・・・・これまたチョー美人タイプ。

つくづく自分がごくごく平凡な生まれなんだわ~~と、痛感させられる。
あっ!お父さん、お母さん、ごめんね~~~っっ

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愛ちゃんの言う、この頃のあたしってば・・・・
東野先輩を見ながら、もう1人の陸上部員を探しているそうな。

そう、それは・・・・西 雄輝(にし ゆうき)。
あたしの最も古い友人、イヤ友人とは言えない幼友達・・・・。
これもちょっと当てはまらない。
母親同士があたし達を妊娠中からの友達だったらしい。

雄輝はあたしが住んでいる街のかなり大きな総合病院の跡取り息子で
あたしもそこで生まれたってわけ。
あたしと雄輝の誕生日も近いし、幼稚園も同じ、クラスも同じ【もも組】で。
あの頃の雄輝は、あたしより体つきが小さくて
今みたいに特にスポーツをやっていたわけではなかったから
小柄で痩せていた印象だったっけ。
クラスのやんちゃな男の子のからかわれるターゲットになっていて
いつもピーピー泣いていた。
その度に何故かいつも「ヒロちゃーーーーん!!」って、
あたしに助けを求めて泣きついてきた。
こういう日は決まって帰り道もベソかきながら、あたしと手を繋ぎなら歩いて帰った。
幼心にもあたしは、毎回「イジメタやつをとっちめてやる!!だからもう泣かないでね」
と、正義の味方の如く庇っていたんだよね。

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あたしの中学校の音楽室(オーケストラ部@活動場所)は
校舎の4階部分のほぼ中央に位置している。

フルート担当なのにフルートが苦手なあたしは、
部活が始まる時間より早めに教室に入って自主練をするわけで。
各々、自主練するときは『自分の場所』でやるのだけれど、
あたしの場合、窓の近くで・・・
実はここは校庭が一望に見えるところ。
自主練している傍ら、憧れの東野先輩の勇姿が見られる特等席。
春先はそよそよ風が吹いてき
てフルートの練習するより日向ぼっこしている方がずーーーっと良い。
そう、日向ぼっこしながら東野先輩を見られるなんて・・・なんて至福なひと時~~~♪
と、思っていたには半年以前のあたし(らしい!?)

愛ちゃんの目には・・・・
あたしが校庭を見ている片手間にフルートの練習しているように見えるらしい。
いや!断じてそれはないから!!と・・・・
声を大にして、胸張って言えない自分もいたりするんだよね。

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そんな毎日を明るく元気に過ごしているあたし。


唯一の弱みというか、コレに関しては出来れば触れて欲しくないというか・・・・
まぁ、言い替えれば・・・・・
必要以上に敏感に反応してしまうようなことが半年ほど続いている。
愛ちゃん曰く「そんなに続いているんなら、認めちゃいなよ」って言うんだけれど。
あたししてみれば認めたくない、本当に認めたら困る!
というか自分に負けるというか・・・・
イヤ、別にガチンコ勝負しているわけではないんだけれど。

今まで自分にとっての初恋は入学当時から
憧れている陸上部の東野先輩だと思っていたんだよね。
でも、ここ半年ほどのあたしの行動パターンを見て愛ちゃんが
「ヒロちゃん、違うんじゃないの?」って言うから~~
もっと挙動不審になって行動がおかしくなっているかも・・・・
もう既に自分自身の行動パターンが読めない日々。

そんなあたしを見て、愛ちゃんはいつも笑うのよ。
お願い、愛ちゃん、あたしで遊ばないで~~~。

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学校は好きだし、小学校からの友達もいるし・・・
当たり前なことだけれど、よほど体調が悪くなければ毎日学校へ行く。

そうそう、小学校からの親友で南愛子・通称愛ちゃんとはクラスが中1から一緒。
部活も同じで、愛ちゃんはバイオリン担当。
小さい頃からバイオリンを習っている愛ちゃんはコンサートマスターのポジションにいる。
いや~、花形だね~、愛ちゃんに憧れている後輩・同級生はワンサカいるんだよ。
愛ちゃん!それに貴女は気が付いていないでしょう??
他のオケ仲間とも話していたけれど・・・まったく罪作りな愛ちゃんだわ(笑)


私達は高校も出来れば同じところに行きたいと思っている。
彼女と同じレベルにするためには・・・・・!?
私は受験まで死に物狂いで勉強しなければならないみたい。
あぁ・・・誰かここだけは助けてぇ~~~

愛ちゃんはどちらかといえば大人しくて秀才タイプ。
成績も必ず学年でベスト20には入っている。
こんな私でも『親友』として付き合ってくれてありがたいことです。


親友も含めてクラスメートと仲良く平凡に学校生活を送っている
あたしは授業が終われば部活へ行き、その後帰宅してから塾の日は塾へ行くと毎日。
来年は高校受験だからじわりじわりとゆる~く投げかけられている
親からのプレッシャーをかわしながら平凡に且つ楽しく過ごしている。


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あたし北山広子、公立中学の2年生。
平凡な中学生、どこにでもいるフツーの中学生。
加えて名前もどこにで・・・・
イヤこれに関しては全国の【北山広子さん】からクレームが来そうだからこれ以上はノーコメント。
それに両親が一生懸命考えてくれたであろう最初のあたしへのプレゼントだからね。
個人的には結構気に入っている名前。
性格は自他共に認める明るく・社交的。
苦手なものは5本以上の足を持つ生物。
どんなの?と聞かれても想像してぶっ倒れそうになるくらい苦手。

部活はオケ部に所属、中学でオーケストラ部があるなんて珍しいかも。
担当は一応・・・・フルートだけどあたしにはコレが苦手で。
父親似なのが災いして、唇が厚いときている。
フルートは唇が薄い方が良いらしいし今更、どうすることも出来ないし・・・。
このためだけに唇のプチ整形を親に提案しても…
イヤその先のリアクションが怖くて言い出せないかも。

学校の成績は中の上くらい、小学生の頃から近所の学習塾に通っていてこの成績だもん。
「じゃぁ、通っていなかったら、どうなっていたのよ!?」と、よく母親がこの冗談を言ってくる。
でも目は笑っていないんだよね~。
コレに関してはあたし自身も色々考えても仕方がないから、日々精一杯努力するのみ。


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『健やかな時も病める時も彼女を愛し、彼女を助け、
 生涯変わることなく 愛し続けることを 皆様方の前に誓います
私たちはこれからふたりで力を合わせて温かく幸せな家庭を築いていくことを誓います』

梅雨の中休みのように雲ひとつ無い晴れ渡ったあの日、貴方は誓ってくれた。
神の前で、列席者の前で・・・・
ううん、それよりもなによりも私に誓ってくれたのよね?
あれから・・・・何年経ったのかしら?
貴方と出逢って私は本当に幸せだった、そして楽しかった。
幾多の苦しい事、悲しい事を2人で乗り越えて行ったわ。

子どもにも恵まれて、私を母として生きさせてくれた
それも私にとって最大の喜びだった。
貴方もそうでしょう?
ふふふっ、覚えている?最初の子が生まれた時
「こんなにかわいらしい子は見た事が無い、父親にしてくれてありがとう・・・」
泣きながら私に、子どもに何度も口付けてくれたわ。


私の方こそ貴方にお礼を言いたいわ。
感謝してもしきれないくらいなの。
だから・・・・泣かないで。
お願い、貴方が泣くなんて・・・・。
いつも私を力強く守ってくれて何事にも怯まず突き進んで来た貴方が・・・・。

「ありがとう、本当に幸せだったわ・・・・
天に召されたらきっと私、あの日・・・貴方が誓ってくれた言葉を
『変わることなく 愛し続けること』と本当に神の御前で誓うわ・・・
先に逝くけれど・・・・待っているわね。愛しているわ・・・・貴方・・・・・・・・・」



君は天に召された・・・・。
誓いの言葉を立てたあの日と同じ雲ひとつ無い晴れた日、
私は永遠の伴侶を想い呟いた。

「ありがとう・・・・そして愛してるいるよ・・・・・」と。

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あなたの手、とっても大きいのね。
男の人だから当たり前なんだけれど。
それがとても安心するの。
その温もりが、私をあなたへ誘うの。

私の手をそっと握ってくれる時「愛している」と伝わるの。
自分自身を見失った時、
不安に駆られて叫びたくなった時
自暴自棄になった時
あなたのぬくもりをこの手に思い出すの。
そうすると・・・不安や恐れが不思議と
すっと消えて自分自身を取り戻すことが出来るの。

本当に不思議ねって、いつかあなたに言ったわ。
「僕もだよ、同じだね」って
微笑みながら私の頬を撫でてくれたあなたの手は温かかった。

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皆様、こんばんは。

フッと思い立ってこのブログ小説を立ち上げて早2ヶ月経ちました。
頭の中で考えていたことを文字にしてみようか・・・
そう思い我が子達が作文の宿題を書く傍ら
母親である私も一緒に文章の組み立てから始めました。

第一作目(処女作・笑)が思いのほか長くなってしまって。。。
文章をまとめることは難しいと、日々痛感しました。
拙い小説をお読みくださいました全ての方々に感謝いたします。
まだまだこれから課題があるとおもいますが、
今後も宜しくお願いします。
           

          紫苑あかね拝

             



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俺は・・・・
今日も同じ空を見上げている。
この国で運命の女性を見つけ、一度は手放してしまったと思った。
言い知れぬ絶望感に苛まれた時期もあった。
だが、再びこの国で彼女にめぐり逢えた。


再会してから彼女は派遣会社を辞め、正式にこちらの企業の正社員となった。
彼女の正式なプロフィールを見て、人事担当者は相当驚いていた。
スキルに関してもかなりのもので・・・・
将来俺のビジネスパートナーとしても充分に発揮できるものばかりだった。
これについて彼女を褒めると少し顔を赤らめて照れていた。
でも彼女にとって俺と離れている間に
自転車をちゃんと乗れるようになったことの方が重要だったと話していた。


俺は生活の拠点を敢えて彼女の国に置いた。
母国の家族にも紹介して、温かく迎えられた。
特に母親が気に入り、1~2ヶ月に1度は暇を見つけてはやってくる。
この2年半で新しく家族に加わった者に会いに来たいのは仕方がないだろう。

スーツのポケットに入っている携帯電話が震えた。
彼女からのメール。
『お仕事お疲れ様です。今夜は何時ごろ帰られますか?
お義母様が今夜はお夕食を作ってくれるそうです。
楽しみですね。私は少し楽させて貰っています。
それからお土産に頂いたお人形は肌身離さず、家中どこにでも持っていきます。
余程気に入ったようね♪ 気を付けて帰ってきてね。』

携帯電話を閉じ、書類に目を通すために椅子に座った。
右斜め前にあるパソコンに視線を移しその横にあるフォトスタンドを眺めた。
そこにはかけがえのない存在の彼女ともう1人・・・・
彼女に抱かれながらブラウンの髪色をした女の子が笑っている。


彼女達に逢えた運命を感じながら・・・・
俺はもう一度夕焼けになった空をもう一度見上げた。






                  -おわりー

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「こんなに苦労したなんて・・・・知らなかった。
こんなに待たせてしまって・・・・ごめん。
お義父さんへの返済は俺が・・・・」
そう話したら少し顔を上げた彼女がゆっくり首を横に振った。

返済は必ず自分だけの力でやらなくてはいけないこと。
『苦労』も『待ったこと』も大した事はないと。
それよりも希望を失わずにいられたこと、そしてまた再びめぐり逢えたこと
自分を見つけてくれたことについて喜んでいると・・・・。
そう言いながら、俺が一番好きな笑顔を浮かべた。


出会ってから今日まで心が強くなったという。
俺に相応しい女性になれるよう努力を惜しまなかった。
彼女はもう家族と呼べる人間は自分の傍にはいない、
でも俺だけいれば、いやずっと俺の傍にいさせて欲しいと
目を真っすぐに見て言った。
それを肯定するように俺は、彼女の顎に手を添え上向かせ
「約束する、死が俺たちを別つまで・・・いやそれでも傍にいる・・・・愛している」
これまでの想いのたけを込めて口付けた。

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日中は生活のために事務員をし、夕方から大学で勉強をする・・・・
というような生活を続けていったという。
とにかく義父も莫大な借金の中から学費を捻出してくれたので、
働きながら毎月少しずつ返済している。
「完済は一体いつのことになるやら・・・」
と、苦笑しながら彼女は言った。

返済するのは、状況が苦しくなっても育ててくれた特に養父に対する
せめてもの恩返しだと話した。

大学卒業後は、学生時代に取得した数種類のスキルを生かせるように
派遣会社に登録することにした。
数社を経て、この企業へ派遣されたのは2ヶ月ほど前。
高校時代の友人の縁で派遣先に選んだそうだ。
それがまさか・・・・
重役メンバーに俺がいるとは知らずに。


彼女が話している間、俺は彼女を半ば抱かかえるようにソファに座り
右手で彼女の左手を握っていた。
彼女はチェーンに通したペアリングを胸元で握りながら・・・・
そうすることで心が強くなれるという。
きっと俺にまた逢えるということに希望を持ち続ける力が湧いてくるという。
離れていても2人とも同じ気持ちでいられたことを改めてお互いの愛情の深さを感じた。

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俺が急遽帰国してから、今までの話しを彼女はぽつぽつと話し始めた。


あの後、ごく平凡に高校生活を送っていたが徐々に義父の事業が傾き始めて
生活も以前のように穏やかではなくなっていったという。
それでも義父は、「せめて高校だけでも無事に卒業するように」と・・・
義母からの執拗な反対もあったが教育費を捻出してくれたようだ。
奨学金でその上の大学にも進学することも可能だったようだが、
これ以上義父母に負担を掛けたくないと思い・・・・
また、義母の精神状態を考え養子関係をも解消する形となった。
帰国前に挨拶したことで、彼女の付き合っている相手が俺だということも
義母の精神状態を不安定にさせる一因になっていたらしい。

莫大な借金を抱えた義父は、
妻子に負担を掛けることを懸念して離婚をしたそうだ。
血の繋がった2人の子ども達とは、月に数回は会っているそうだ。
義母は、2人の子どもとともに実家へ身を寄せた。
彼女は、義父の遠い親戚なのでそのまま義父の養子として傍にいることも
周りから薦められたらしいが・・・・
敢えて義父は今後のことを考えてそれは避けたそうだ。
こういう状況になってせめてもの慰謝料として学費を貰い、
それで大学の夜学へ進学した。


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秘書に温かい飲み物を用意させて、彼女が配属されている部署には俺から事情を話し
オフィス内の俺専用の部屋へ彼女を案内した。
ゆったりとしたソファへ彼女を座らせ、俺は斜め前の1人掛けのソファに座った。
彼女はまだ状況が飲み込めていない状態だったが、
元来芯の強い女性なのでそれも徐々に冷静さを取り戻していった。


俺はありとあらゆることを彼女に聞きたかったが、
彼女が話し出すのを辛抱強く待つつもりだった。
その間、俺はいつもの癖で右手のリングを親指で触っていた。
その仕種を見た彼女の目からまた涙が溢れてきた。

俺は、彼女の前に跪き左手で両手を包み込むように握り
右手で彼女の涙を優しく拭った。
下から見上げるように彼女の目を見つめて・・・・掠れた声で言った。

「もう泣かないで、これからは決して離れないから
俺がずっと君の傍にいる・・・・だから泣かないで・・・あの笑顔を見せて」
彼女はまた泣きながら俺の首にしがみ付いてきた。
「約束よ・・・・」と言いながら。

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「本当にあなたなのね?・・・・何故ここにいるの?
ううん・・・・そんなこともういいの・・・・
ただ・・・・ずっと逢いたかったの・・・・」
俺の胸元でくぐもった涙声がこう聞こえた。
そして彼女から香った花の香りがしたと同時に、
俺の周りは一瞬にして色が彩られた。


俺にしがみ付いて泣きじゃくる彼女をただ優しく抱き締めるしかなかった。
周りの同僚達は面食らっていたが、それももう俺にしてみれば関係ない。
彼女の友人も涙ぐんでいる。
俺はその友人に一言「あの時と変わらず、今も彼女と友達でいてくれてありがとう」と言った。
会釈して心から喜んでいるように笑った。

さすがにここではひと目が付くので、俺達は場所を変えることにした。
彼女の友人が「一番大切なものでしょ?忘れちゃダメよ」
人形を突っつきながら、彼女にデニムの手提げポーチを渡した。
彼女は、泣き笑いで頷き大事そうに手提げポーチごと人形を抱き締めた。
その仕草は、俺の心をも抱き締められてような感覚に陥った。

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そこには・・・・・
黒髪の女の子とライトブラウンの髪で青い目の男の子が
手を繋いでいる人形がポーチにぶら下がっていた。
その人形は決して新しいものではなくて、
むしろすっかりくたびれた感じの印象だった。

ま、まさか!?

俺は人形とその持ち主であろう女性を交互に見比べた。
周りの人達が一様に驚いたのをよそに、俺は大きな音をたてて立ち上がった。
「君は・・・・もしかして・・・・!?」
大声で発してしまったため、2人の女性がこちらを見た。

高い声の女性が、かつての俺だとすぐに気が付いた。
確かにその女性は俺の友人と近々結婚をするのだから・・・・
当然俺のことも知っている。
向かいに座っている彼女に人形を指差しながら興奮気味に話している。
話しを聞いている彼女は、
突然立ち上がりみるみるうちに瞳に涙が盛り上がってくるのが見えた。
勢いよく立ち上がったため、
テーブル上の手提げポーチが音を立てて下に落ちた。
俺はそれに気を取られていたために、
急に胸に衝撃があったことが何故なのか瞬時にわからなかった。

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同僚が声を掛けていることすら気が付かないまま
俺は思い出に浸っていたようで・・・・。

斜め前に食事をしている女性が、向かい側に座る女性に対して話している。
「もうちょっと食べた方が良いよ。絶対今日も残業だからちゃんと食事しなくちゃ!
節約したい気持ちはわかるけど・・・身体壊したら元も子もないでしょう?」
言われた方の女性は「ハイハイ」と笑いながら返事をしていた。


あの時も彼女の友人があんな風に言い聞かせていたな。
ちょっと腹を立てていたようだったが、彼女の友人として好印象を持った。
そういえば、あの後俺の友人と付き合うことになって
今でも良い関係だと聞いた。いずれ結婚すると・・・・。
俺は切ない気持ちと羨ましい気持ちで落ち着かなくなってしまった。

その女性達の食事を見るとは無しに眺めていた。
返事をしていた女性がデニム生地の手提げポーチをテーブルの脇に置いた。
その時、あるものが俺の目に飛び込んできた。

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またこの国に戻ることが出来て心底喜んでいる。
しかし、事業の現地での準備や
また新たなる取引先との事業展開に仕事に忙殺される毎日だった。
彼女を探すことは引き続き行っていたが・・・・正直思うように動けなかった。


そんな毎日が4ヶ月ほど続いたある日。
オフィスに併設されているカフェで同僚達と食事をしようとテーブルについた時
「カフェ・オ・レとこっちの甘いペストリーで良いの?
それだけで足りるの?お腹空いちゃうよ・・・・」
高い声でそんな言葉が聞こえた。

『ドクンッ!!』

俺の心臓が跳ね上がったように感じた。
かつて俺が彼女に同じようなことを言った覚えがある。
条件反射だが、右手の薬指に嵌めている指輪を親指で触った。
こうすることでいつも切なくなる気持ちを抑えてきたからだ。
あの時、学園祭で俺が彼女に聞いたんだ。
そして彼女の花が咲いたような笑顔を思い出した。

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事業の方は順調に立て直し、そして新たなるプロジェクトを
他国で展開することとなった。
俺がかつて留学していた国・・・・・そう最愛の彼女が住まう国。

俺は率先してこのプロジェクトに参加し、
現地スタッフとして彼女のいる国へ行くこととなった。
兄弟は「愛の力は素晴らしいね~」と笑っていたが、
俺としては彼女を探し出すチャンスだと思った。
そして彼女にまためぐり逢えるチャンスだと・・・・。


出国前の準備は、然程手間取ることは無かったが
一族の年長者達が俺の年齢を考えて、身を固めてから行った方が良いと煩く言ってきた。
華やかな社交界にも身を置く俺と同じ環境の女性を何人も紹介してきた。
取引先のトップの令嬢や他国の貴族の娘など。
しかし俺の周りの色を彩らせることが出来る女性や
心ときめかせるような女性は1人としていなかった。
そう、かつて俺が最も愛しそして今もそれが止まらずにいる彼女のような人には・・・・。

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1年半ほど休学したので、実家の方が落ち着き
次第留学先の大学院へはすぐに復学した。
勉強の傍ら、事業の手伝い、
そして何よりも彼女の居場所を探すことに専念した。
義父母らはすぐに見つかったが、
彼女は高校卒業と同時に義父母の元から出て行ったという。
戸籍の養子関係も解消した形となったらしい。
元々父方の遠い親戚だと聞いていたが・・・・そちらの方には身を寄せていないという。


その事実を知ってから・・・・早5年。
俺は大学院の方も無事卒業し学位を取得し実家の事業に専念することとなった。
片時も彼女を忘れることはなかったが・・・・・
殆ど母国で仕事をしていたため、なかなか思うように動けなかった。
華やかな世界に身を置いているが、
自分の周りには色というものを感じない毎日を過ごしていった。
・・・・・・ただ虚しさだけは付き纏っていた。


彼女を思い出し切ない想いで苦しめられるより、
身体が疲労で悲鳴を上げているほうがましだと思う毎日。
自宅へ戻っても、半ば倒れ込むように眠りを貪った。
唯一の慰めは、空港で彼女に貰った手紙と小さな人形だった。
『私のいる処の空はあなたのいる処に繋がっているから。』
この空の下に彼女がいてくれているのだろうか。
本当に俺を待っていてくれているのだろうか。

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そう・・・・あの時俺は誓ったはずだ。
彼女との再会、そして傍にいることを。
いつも思い出すのは鈴を転がすような声で俺を呼ぶ彼女。
コロコロとよく笑う彼女。
そして最期に空港で別れた時の泣きながら俺に縋りついた彼女。


あの後、俺は帰国して実家の緊急事態の諸々を両親や兄弟達と処理をして
気が付けば1年半という時間が経ってしまった。
最初の3~4ヶ月は頻繁に手紙や電話のやり取りをしていた。
だが俺も実家の事業を手伝う形となっていったために徐々にその数は少なくなっていった。
彼女のことは常に気にしながらも、母国で2回のクリスマスを過ごした。
それから細かいことは解決していないが、俺は彼女の待つあの国へ戻った。
入国したその足で連絡は取っていなかったが、彼女の自宅へ向かった。
そこには彼女の自宅がそのままだったが、表札のない家が建っているだけだった。

彼女がいない!
すぐに側近の者に調べさせた。
彼女の義父の事業が傾き、膨大な借金を抱えて一家離散となったらしい。
皮肉にも実家の事業の影響がここにまであったとは・・・・。


あの時のそのままの苦い気持ちを抱き彼女とのペアリングに口付けて、
オフィスの大きな窓から空を仰いだ。

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『この手紙を読んでいる頃は・・・もう太平洋上空かしら?
今まで心から好きになった人はいなかったの。
家族も・・・本当の家族ではなかったし
友人もいつかきっと私から離れていくと思っていた。
でもあなたと回り逢って・・・・
あなたを徐々に好きになってもう独りじゃないと感じていたの。
独りでいた頃はそれが寂しいと感じたことは無かった。
でもあなたという人を好きになって独りが怖くなったの。
あなたのお家の方が落ち着いたら必ず戻ってくると仰ってくれた言葉を信じて・・・・
私は待っています。独りでも寂しくないです。
だって私のいる処の空はあなたのいる処に繋がっているから。
あなたを愛しています。心から・・・・・』


彼女の手紙に雫が落ちた。
ようやく俺は自分が泣いていることを自覚した。
その夜、俺は彼女の作った人形と手紙を彼女を抱いているが如く胸に抱き
必ず彼女に再会することを心に誓いながら機内のシートで眠った。

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機上の人となっても腕に彼女のぬくもりが残っているようだった。
そして唇にも彼女の涙の味が・・・・。
元々芯はしっかりしている彼女が、今にも消え入りそうな雰囲気を纏いながら
泣き笑いの様な表情で、自分のトートバッグから俺の両手に納まる位の箱を出した。
「飛行機に乗ったら開けてね」


彼女からのプレゼントがあったのを思い出した。
濃紺の立方体の箱を開けてみれば・・・・
ピンクの封筒とフエルト生地で作られた小さな人形が入っていた。
その人形は黒髪の女の子とライトブラウンの髪で青い目の男の子が手を繋いでいるものだった。
帰国が決まってから、学校やデートの合間を縫って作ってくれたのだろう。
人形それぞれ、俺達の特徴を捉えている。
特に彼女の方は可愛らしいものだった。
そして人形を片手にピンクの封筒を開けた。

Page.29

2週間は瞬く間に過ぎ、帰国している間俺は大学の方は暫く休学することにした。
彼女は見送りに空港まで来てくれた。
搭乗手続きまでお互いの手をしっかり握り繋ぎ、
「電話をするから」とか「手紙も書くから」、
「またこちらにすぐにでも戻ってくるから」とか。
俺は何か話していないと泣き出したい気分になった。
それでも彼女は気丈にも微笑みながら頷いて
「私も手紙書きます」「こちらに戻ってくるのを待っています」
「お身体大事にしてね」と話していた。


いよいよ搭乗手続きの時間となり、俺は後ろ髪引かれる思いで搭乗口へ向かった。
ギリギリまで彼女と手を繋いでいた。
彼女が震えている?・・・泣いているのか?

「あなたが行ってしまったら・・・・私はまた独りぼっちになってしまう。
ううん、家族がいるから独りじゃないけれど、でも本当の自分を出せていたのは
あなたの前でだけだったから・・・・『行かないで!傍にいて!』と言ったら
あなたを困らせてしまうから、言わない・・・・あなたが好きだから」
俯きながら、時々言葉を詰まらせながら話す彼女。
彼女の告白に目を瞠り、彼女の身体が折れてしまうくらい力強く抱き締めた。
彼女の顔を上げさせ、涙で濡れている目、そして額、頬、唇・・・・とそっと口付けた。
そして耳元で何度も「愛している」と囁いた。

Page.28

玄関先で手をいつまでも振っている彼女に何度も俺は振り返った。
また通学途中で逢える事を楽しみにしながら、
浮き立つ気持ちを抑えながら帰宅の途についた。

これから彼女とどんな風に付き合っていこうか。
彼女の好みを聞きながら2人で愛情を育んでいこう。
将来は・・・・出来れば母国へ連れて行き俺の家族にも紹介したい。
出来れば、家族の一員として迎えたいとそこまで考えていた。


だが、俺のささやかなる願いは叶えられなくなってしまった。
俺の実家の事情により急遽母国へ帰国しなければならない。
帰国まで2週間。
たった2週間しかない・・・・。

その間、彼女とほぼ毎日登校時と下校途中で逢い休みの日は1日中一緒に過ごした。
一緒に映画を観た、一緒に食事をした、一緒に公園を散歩した、一緒に買い物にも行った。
彼女が語学に興味があるということ、趣味は手芸と読書、料理、実は自転車があまり得意ではないこと。
彼女は校則があるので、常に身に付けて行くことは出来ないがペアリングをプレゼントした。
そして「ずっと大切にする」とお互い約束した。
彼女の年齢を彼女の国では『箸が転んでも可笑しい』と、なんでもないのによくコロコロと笑うと
表現するらしいが、彼女も最初の印象より違い俺の前ではよく笑った。
それだけ本当の自分自身を出してくれていると思うと尚も愛しく思った。


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彼女が下車する駅に到着した時、既に門限が15分ほど過ぎてしまった。
不安げな表情の彼女に安心するよう、話したが一向に表情は和らがない。
俺は両親に挨拶するつもりで、駅近くの彼女の家まで行くことにした。

玄関先で彼女と義母の2~3言のやり取りがあって
俺は玄関内に招き入れられた。
義父も在宅していたので、門限を過ぎてしまったことを詫び
自己紹介をした。
すぐに俺の素性がわかったようで特に義父は動揺を隠せないようだった。
一応、正式名と出身国を言えば傘下の企業トップはわかるようなものだが・・・・。
義父母の動揺振りと真反対に
傍に立っている彼女がどこかキョトンとしている様子が可愛らしいと思った。

早急すぎるとは思ったが、彼女ときちんとした形でお付き合いをしたいという旨も伝えた。
一様に義父母は驚いていたが、半ば渋々承諾してくれた。


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彼女の門限に間に合わせるためなのか!?
いや、それだけじゃなかったが・・・・
なぜか気持ちが急くようで、その勢いで彼女の手を半ば引っ張るように
足早に最寄り駅へ向かった。


改札口で別れるつもりだったが、気付けば発車ベルと共に2人で飛び乗っていた。
『危険ですから駆け込み乗車はお止めください』
その車内アナウンスに2人同時に噴出してしまった。
彼女は息せき切って乗車したために、
笑いと動悸で半ば泣き笑い状態だった。
電車の揺れや他の乗客から自分の背で
彼女を庇い守っていたのでかなり距離が近かった。

彼女は目元をハンカチで拭きながらまだ笑っていたが、
急に恥ずかしくなったのか頬がサーッと赤くなり俯いてしまった。
俯くと彼女の頭が俺の胸元に凭れるような形となった。
俺は両手で彼女の腰の辺りをふんわりと腕を回し優しく抱き締めた。
そして彼女の髪から花の香りがした。



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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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