2008 / 07
≪ 2008 / 06 2008 / 08 ≫
Page.

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


Page.79

あれから・・・・ヒロちゃんの怪我も完治して、こうしてまた一緒に部活で練習するようになった。
陸上部の方はほぼ毎日あるみたいで、西君とヒロちゃんは待ち合わせして登校しているみたい。
私は途中で会えれば校門まで、それぐらいしか会えない程度。
東野先輩のファンクラブは未だ健在みたいで・・・・
こないだは校門から校舎までの道のりだけで、ファンクラブのお姉さま方に睨まれて
その上、腕を摑まれて突き飛ばされそうになった。
「アンタ、後輩のくせに東野君の傍に寄らないでよっ!」
「やめろよっ!!」
ファンクラブの子と思しき3年生の女子の腕を掴んで私の腕から振りほどいた。
長身の先輩が私を庇うと私は、女子達から見えなくなってしまう。
「東野君、どうして?こんなコ相手にしないでよ!」
「余計なことだよ!俺が彼女と一緒にいたいんだから、そんなことは俺が決める!」
「そんな・・・・」
「愛子ちゃん、行こう」
「あの・・・でも・・・・いいんですか?」
「俺がいいって言ってるんだから、いいんだよ。これから先、彼女に何かしたら俺が許さないからな!」
私には決して見せない鋭い目つきで彼女達を睨み返した。


そんなこともあったり・・・・
夏休みも残すところ後10日余り。
オケ部の練習はお盆休み期間以外は月水金に必ず練習があった。
私は近々・・・というか明日自分のヴァイオリンの発表会があったりする。
我ながら部活と塾の夏期講習とヴァイオリンのレッスンとよくやったと思う。
でも、ちょっぴりナーバスになっているところもあって
今日は特に顧問に目を付けられるほど間違えてばかりなり~~。

12時過ぎ昼食のために暫し休憩をとる。
楽器がある音楽室ではお弁当を広げることが出来ないので、それぞれ自分達のクラスで昼食をとる。
私達のクラスは2人だけだった。
お弁当を食べ終わる頃、ヒロちゃんが深呼吸の真似をするように両手を大きく広げた。
「愛ちゃん、リラ~~~ックス♪リラックス♪明日の土曜日の発表会は
市民会館の『大ホール』だったよね?雄輝と観に行くね♪」
「うん、西君と一緒に?仲が良いね~~!でもヒロちゃん『大』ホールと強調しないで~~~」
「えぇ!?だっていつも冷静沈着な愛ちゃんがそんなに緊張しているの?」
「全然、レーセーキンチャクじゃないよ~~~」
「あっはははっ、愛ちゃん何それ?『冷たい巾着』でも持っているの?」
「私、今何て言った???」
「『レーセーキンチャク』って言ったよ。愛ちゃん動揺しすぎ~~~
ハイハイ!貴女をこんなに動揺させる原因は何?白状して楽になっちゃいなさいよ~~」
「ヒロちゃん・・・・私で遊んでる?」
「うん!いつかの仕返し♪」
「うううっ・・・・・」
「いつもあたしがやり込められちゃうからなんだか嬉しい!!」
「ヒロちゃんってば~~」

そんなやりとりをしてるところへ西君と東野先輩が教室へ入って来た。
私達が座っている机の前の椅子にそれぞれ座った。
「楽しそうだな」
「あっ!雄輝!!お昼は?東野先輩こんにちは」
「あぁ、もう食った、北山は?おっ!おばさん特製のフルーツ寒天あるな~~食ってイイか?」
「いいよ・・・お母さんがご丁寧に沢山保冷剤入れて持たせるから重くって!」
「先輩も如何ですか?美味いですよ」
「サンキュー!本当だ!美味いな!!っていうか懐かしい味だな」
「フルーツの缶詰を寒天で固まらせただけなんですけれど・・・・愛ちゃんも召し上がれ♪」
「あっ・・・う、う・・・ん、ありがとう」
ヒロちゃんが拳半分くらいの大きさのラップで包んだコロンとしたフルーツ寒天を手の上に乗せた。
先輩が愛ちゃんのお弁当のデザートを「美味い!」と頬張っているだけで・・・・
私の気持ちは何故か沈んでいく・・・・・。
そして愛ちゃんに対してまた嫉妬みたいな気持ちも湧き上がってきたりして。
・・・・・ダメだ。こんな私。
明日発表会も控えているのにもっとモチベーションを上げなくちゃいけないのに。
お弁当箱の蓋の上に寒天を置き、私は俯いてしまった。

スポンサーサイト
Page.78

放課後の図書室は薄暗く、ヒロちゃん達のいる昇降口からは
光の加減でそこに人が立っていることは確認できない。
東野先輩はまだ私の手を握ったままで・・・・。
近づきすぎて、制汗剤のシトラス系の香りに眩暈がしそうだった。


「アイツのあんな表情見たことない・・・余程心配なんだな」
「えっ?」
思わず伸び上がって小窓から覗こうとした東野先輩は、
私の頭を押さえ込むようにして自分の胸元にぴったりとくっ付けた。
「君のおでこのピン留めが光って見えるといけないから・・・・ちょっと待って」
「ごめんなさい・・・・」
「謝ることないよ。それに彼らのお陰でこんな風に近づけたからイイよ」
「先輩・・・?」
ふと見上げた東野先輩の顔は少し照れ笑いをしていた。


暫くして昇降口の話し声も聞こえなくなった。
ヒロちゃん達は校舎から出て行ったらしい。
私は音楽室へ戻るつもりで図書室から出ようとした。
「じゃぁ、先輩・・・私はこれで部活に戻らないといけないので・・・ここで失礼します」
「そう・・・そっか・・・そうだよね。俺も練習に戻らなくちゃいけないし」
「あの・・・えっとぉ・・・なんか変な言い方になってしまうんですが、
あの・・・さっきのことありがとうございます」
「いや、いいよ。俺の方こそ・・・・ありがとう」
「先輩・・・私、嬉しかったです。
自分を認めてくれたというか・・・・そんな感じで。なんか私・・・・変で・・・・」
言い終わらないうちに再び先輩の胸の中に自分がいることに気が付くまで数秒掛かった。

「俺は来年の3月でここを卒業をしてしまう。焦っていないけど、君を急かすつもりはないけど
『気になる人』以上に早くなりたいよ。返事はゆっくりで良いよ」
「・・・・・・・・・」
「君自身が嫌悪してしまうことも全部さらけ出して欲しい
全部、好きだから・・・・ずっと前から好きだったから」
「いつから・・・・ですか?」
「君が小1の集団登校の頃からかな・・・
あの頃半ばお母さんに引っ張られるように登校していたよね?」
「あぁ、そうです。あのよくお世話をしてくれた?小2の男の子?」
「そう、あれ・・・俺。やっと気が付いてくれたんだね。良かったよ・・・」
そう言いながら私のおでこにあるピン留めを人差し指でクルクルといじり、
そのまま髪を梳いて私の首の後ろに手を顔を上向かせた。
一瞬「キスされちゃうのかな?」という考えが頭を過り、思わず目をギュッと瞑った。

東野先輩はそっと私のおでこに唇を寄せながら・・・・
「おまじない。早く君が俺を気になる人以上の存在になれるように」と、そう呟いた。

Page.77

「どうしたの?・・・君も怪我をしたの?」
東野先輩とは1m程離れた距離で急に泣き出した私を見て
日頃の先輩とは程遠い感じで慌てふためいて私の顔を覗き込んだりしていた。

「・・・・いいえ、怪我はしていません」
「じゃぁ、どうして・・・?」
「ただ・・・今までの自分自身の態度が悪くて嫌になってしまって」
「それで?」
「ヒロちゃんが東野先輩に憧れているのを知っていたのに・・・・
自分も気になり始めたから阻止すように西君が好きなんじゃないか?と勝手に応援したりして・・・・
自分が凄く我が儘で自分勝手でヒロちゃんに嫉妬して嫌な人間だって思ったら・・・・」
先輩に促されるまま一気に話してしまった私。

「あのさぁ、それってもしかして・・・・?」
「・・・・・・・・・」
「君の心配していること言い当ててあげようか?俺は西がすっ飛んで行った理由を知っている。
北山さんのことはだいぶ前からアイツから相談されていたから俺も心配だった。
直接的には知らない後輩の想い人を横からかっさらうような無粋な真似はしないよ・・・
だから・・・俺は北山さんのことは心配だけれどそういう理由があってのことだから」
「・・・・・・そうなん・・・です・・・か?」
「ハイ!そうなんです。それに・・・・俺の好きな子はちがう子だしね♪」
「・・・・・・」
気になる人からその人の好きな子がいることまで聞いて、
ここまで自分が落ちてしまうのか?と思うくらい沈み込んだ。
「また誤解してるでしょう?一人っ子特有かもね・・・・
まぁ、俺も一人っ子みたいなもんだからね。
俺の好きな子は、自分の気持ちに正直なのにそれが友人にも隠し通そうとして
自分自身を潰してしまうような・・・・そう、君みたいな子・・・・」
「・・・・えっ?今・・・なんて?」

更に私との距離を縮めてきた先輩。
「ちゃんと言うね。俺は君が好き・・・・さっき俺のこと気になる人って言ってくれたよね?
マジ嬉しかった。でも俺も男だから自分から告りたかった。県大会終わってから言うつもりだった。
なんかドサクサにまぎれて言っちゃったけれど、俺のこと『気になる人』以上になれるかな?
本当に望みはあるかな?」
「あの・・・・えっと・・・・たぶん・・・あると思います・・・・」
「よっしゃ――――――ッ!!」
放課後ということもあって廊下には誰もいなくて私達の声だけしか聞こえない。
東野先輩はまだ職員室に残っている先生達を気にしながら、
小声だったが力強い声でガッツポーズをし拳をあげた。

それから少し話していたら保健室の方からヒロちゃん達が昇降口へ来る気配がしたので
本来それぞれの部活動に勤しんでいるはずなのにこんなところを見られたら・・・と
2人同じ事を考えていたようで・・・・。
半ば先輩に手を引っ張られるようにして一番近い教室、図書室のドアの陰に隠れた。
背の高い東野先輩は引き戸の小窓から彼らの存在を確認しながら、
私に静かにするようにと口元に人差し指を立てた。

Page.76

表面的には普通に過ごしてヒロちゃんの恋のお手伝いをしているようなことをしていたけれど
・・・・・・バチが当たったんだ。

大親友って言ってくれているヒロちゃんは怪我をした。
オケ部の先輩がヒロちゃんのフルートのケース蓋に当たってしまい、
それが勢いよく閉まりケースの蓋に手を掛けていた
蓋の金具がヒロちゃんの左手の指に直撃してしまった。
驚いた先輩がヒロちゃんを保健室に連れて行った。
あの怪我の状態じゃ恐らく今日は部活どころじゃないから、
とりあえず部活の顧問の先生に報告してヒロちゃんの荷物を持って保健室へ行った。
養護の先生に応急手当をしてもらっているヒロちゃんはいつもの元気はなくて・・・・。
今までの自分の嫌な態度の罪滅ぼしのようにヒロちゃんの世話を焼いた。
ヒロちゃんは「愛ちゃん、ありがとう」と泣きそうな声で言った。
私もその声に心の中で「ごめんね、ヒロちゃん」と言い泣きそうになった。

保健室で帰り支度をしていたら、突然血相変えて西君が入ってきた。
さっき私がオケ部の顧問に話した後、
すぐさまクラス担任である陸上部の顧問へ報告となって
それを傍で聞いていた西君がすっ飛んできたという。
西君はヒロちゃんの手を取り、心配そうな口調で話している。
それを見た私は、西君の好きな子はヒロちゃんだと確信した。
それならばこの場は彼に任せたら良いと思い、
ヒロちゃんに病院へ連れて行ってもらえるように助言して
オマケにガッツポーズまで作って見せた。


保健室から出た私は音楽室へ行こうと階段を上ろうとした時、
恐らく西君を追いかけてきたのだろうか・・・・・?
東野先輩に階段横の昇降口で会った。
「北山さんが怪我をしたって聞いて・・・大丈夫なのかな?」
「えっ!?あっ、ハイ・・・・今応急手当して、これから西君が病院へ付いて行ってくれます」
「そっか・・・驚いたよ。
オケ部の顧問とウチの顧問が話しているのが聞こえてきた途端
アイツ・・・弾丸の如く校舎へ走っていったから
でも、心配だね・・・フルート担当だったよね?暫く吹けないね・・・」
「先輩・・・」
私はそれしか言えなかった。

きっと先輩はヒロちゃんのことも心配で西君を追いかけてきたのだろう。
でも彼に先を越されてここで追いかけるのをやめたのかもしれない。
そう思ったら、ヒロちゃんのことも含めて色々なことを
一人悩み続けていた事が溢れるように涙がはらはらと零れ落ちた。

Page.75

「東野先輩!?」
「君は・・・・?」
「えっとぉ・・・回覧板です。あの・・・オケ部2年の南です。」
「あぁ・・・君が噂の『コンサートマスターの愛ちゃん』だね?」
「えっ!?噂になっているんですか?・・・あのここ先輩のお家ですか?表札が違うような・・・」
「いや・・・違うんだ。ここ、じーちゃん家で俺の両親共働きだから夕食はいつもこっちで食べてるんだ
と言っても俺ん家は同じ敷地内で向こうの方に建っているけど・・・ここからじゃ見えないかな~?」
「そうなんですか」
「あっ!回覧板だね。俺、貰っとくよ、ご苦労様、ありがとう」
「はい、じゃぁ、よろしくお願いします」
「そうだ!そういえば・・・君ってよくもう一人の子と部活の練習を見に来ているよね?」
「・・・はい、ヒロちゃん・・・・いえ、北山さんとたまに見に行っています。
気が散るようなことしてごめんなさい」
「いや・・・いいよ。あの子がヒロちゃんか・・・・ふ~~ん」
なんだか意味深な含み笑いをする先輩。
どうしてなのかこの時はわからなかった。
「じゃぁ、これで失礼します」
「うん、気を付けて・・・じゃぁ、またオケ部の練習が無い時にでも陸上部の練習を見に来てよ」
「はい、ありがとうございます!!!」
私は、自分自身の嫌な部分を気にしながらもハプニングに心から喜んだ。
自宅に戻った私はスケジュール帳でオケ部の練習の無い日を
チェックして浮き立つ気持ちを抑えることが出来なかった。
翌日から校庭の片隅で朝練や放課後の部活に励んでいる陸上部を確認するのが日課となった。
ひときわ背が高いのが東野先輩、その次がヒロちゃんが気になっている西君。
それぞれに私設ファンクラブがあるのも頷けるような気がする。


「愛ちゃ~~ん!おはよう!!
今朝はごめんね~~弟と体操着を取り違えていて・・・朝からパニクッちゃったわ」
「おはよう、ヒロちゃんは大丈夫?」
「お母さんが、ご丁寧に取り違えて入れてくれたんだけれど・・・
何か朝から嫌な予感したんだよね~~
で、中身を確認したら、もう弟のじゃん!!私の体操着あんなにデカクないって!!」
「そうなんだ~~でもお母さんも大変だなんだよ。年子で中学生だったら・・・」
「確かにね~~~。小学校の時も色々工夫して目印付けていたけれど校則の関係でそれは出来ないから困ってるんだよウチの母親・・・・天然要素炸裂だからさ~~。
あっ!ねぇねぇ、あそこでトレーニングしているのは東野先輩じゃないの!?」
「・・・・そうだね」
「相変わらず、カッコイイね♪憧れちゃうな~~」
「・・・・・・・」
「ねぇ、愛ちゃんもそう思わない?」
「・・・・・・・」
「隣は・・・雄輝かな?あぁ、あの走り方は雄輝だわ・・・ねぇ、愛ちゃん?」
「・・・・・ごめん、ヒロちゃん、私、先に行くね」
「愛ちゃん・・・・?」
純粋なヒロちゃんの感情表現に嫉妬した私・・・・また自己嫌悪。
SHRから落ち込みっぱなしで今日一日中、
全てが裏目に出て結局先輩の姿も見ず部活も休んでしまった。

Page.74

小学校の6年間は充実した日々を送り、ヒロちゃんともよりいっそう仲良くなった。
お互いの親同士も仲良くなって、6年生最後の夏休みには家族全員でテーマパークにも遊びに行った。
それもちょっと贅沢に泊りがけで楽しかったな~~。
当然中学も同じで・・・中1だけでも9クラスもあるのにさすがに同じクラスは望めないだろうな・・・
と思っていたが、ラッキーなことに1年も2年も同じクラスになった。
うちの中学は3年では高校受験だからクラス替えをしない。
・・・このまま、高校も同じところに行かれればずっとヒロちゃんと一緒だね!
一人っ子の私にとってヒロちゃんは、親友であり姉妹であるから・・・・。


そんなヒロちゃんはこのところ様子がおかしい。
部活の自主練の時もいつも校庭を見ているんだけれど・・・・お目当てじゃない人を見ているような。
お目当ての人というのは、3年生の東野彰典(ひがしのあきのり)先輩。
私も部活以外の時、ヒロちゃんに連れられてギャラリーの一人となっているうちに・・・・。
だんだんと彼が気になる存在となっていった。

ヒロちゃんは自分の心に気が付く前、東野先輩に憧れているようなことを言っていたっけ。
彼女の素直なリアクションに正直羨ましいと思う気持ちと、もしかして取られてしまうという気持ちが
入り乱れる日々だった。
ヒロちゃんとは大親友と言っておきながら、自分が気になっている東野先輩を取られたくないから・・・
彼女の好きな人は先輩じゃなくて西君と決め付けちゃっている自分が・・・嫌な感じ。
表面的にはヒロちゃんの応援をしていて、内情はそっち方面へ靡かないように阻止しているようで。
自宅に帰ってくれば、自己嫌悪の嵐~~~。
「自分自身が嫌になる――――ッ!!」と子どものように癇癪を起こして
手当たり次第、近くにあるぬいぐるみに当り散らしていた。


そんなある日、祖母に頼まれて回覧板を自治会の評議会委員さん宅に返しに行くように頼まれた時のこと。
家の前の道から1本路地を入ったところにあるお家。
評議会委員さん宅はおとぎ話に出て来そうなかわいらしいお家だった。
インターホンを鳴らして、応対してくれたのは男性の声。
もう18時過ぎだからここの家のお父さんかな?なんて思っていて玄関のドアが開いて驚いた。

Page.73

「先生、南さんは?」
保健室に静かに入ってきたヒロちゃん。
「先生、南さん、給食食べないで帰っちゃうんですか?お迎えは?」
「南さんのお母さんと連絡が取れるまでここで休んでいた方が良いと思って」
「お熱があるんですか?」
「そうね・・・少しあるかもね。5月に入って急に暑くなったでしょう。暑さに体がビックリしちゃったのかもね」
「じゃぁ、今は寝ているんですか?」
「どうかな・・・?カーテンをそっと開けてみてごらんなさい」

私は起きていて2人の会話を聞いていたのもバツが悪かったので
寝たふりをしようと布団を被ろうとしたが間に合わず、
カーテンの合わせ目からからひょっこり顔だけ出したヒロちゃんと目が合ってしまった。

「気持ち悪いの治った?」
「・・・・・・・・・・」
「さっき1時限目は国語で、2時限目は体育だったんだよ。
お外は暑かったからここにいた方がずっと南さんにとって良かったと思う」
「・・・・・・・・・・」
「次は図工だけど・・・教室戻れる?」
「・・・・・・・・・・」
「あぁ、お家に人が迎えに来るって先生が言っていたよね?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・なんかあたしだけ話しているよね?うるさいよね?ごめんね・・・
いつも1歳下の弟、あっ今幼稚園の年長組なんだけどね!
その弟にも『お姉ちゃんは声が大きいから普通に喋っていてもうるさい!』って言われちゃうんだ」
「・・・・・・ううん、うるさくないよ」
私ははにかんだ笑顔を浮かべた。
「あっ!南さん、笑った!!良かった~~」
「『良かった』って・・・・自分の事じゃないのに嬉しいの?」
「うん!だって同じクラスの友達だもん!!」
「一度も喋ったことも、幼稚園も違うのに・・・どうして・・・友達じゃないよ」
「なんで・・・?そんなふうに思っていたの?じゃぁさぁ・・・今からお友達ね♪よろしくね、愛子ちゃん!!
あたしは『広子』だからヒロちゃんでいいよ」
「お友達・・・・ね。うん!お友達になってくれるの!?私は愛ちゃんでいいよ」
「うん!!わかった!!ヨロシクネ!!愛ちゃん!!」
「ヨロシクネ!!ヒロちゃん!!」

こうして私とヒロちゃんはあっと言う間に大親友となった。

Page.72

私、南愛子(みなみあいこ)中学2年生。
親友の北山広子ちゃん、愛称ヒロちゃんとは小学校から大親友。
生まれてから幼稚園までは、父親の仕事の都合でフランスに住んでいた。
所謂、帰国子女ってこと。
小学校入学を機にこっちへ転勤となって・・・それと同時に父方の祖父母と同居し始めた。
入学当初、集団登校などもあった。
他の友達は同じ幼稚園や保育園を卒園してきているからそれぞれもうお友達がいた。
私には・・・そういう友達がいなくて。
いつもお世話してくれる小学2年生のお兄ちゃんはいたけれど・・・。

そして入学式の次の日からいきなり登校拒否!
「学校に行きたくないないら、ここでおばあちゃんのお手伝いしている?」とか
「学校行かないでおじいちゃんのお店でバイトする?」なんて祖父母は甘かったけれど
特に母親は、首に縄をつけてでも登校させたくて当時は躍起となっていたっけ。

そんなことが5月のGWまで続いて、休み明けに席替えになった。
私も窓際の席の一番前、担任の机の前。
なんか端っこ過ぎてクラスメートから仲間はずれにされた気分になってしまって・・・・。
机を移動させた途端、下を向いてしまった。

「どうしたの?南さん?気持ち悪いの?
先生っ!南さんが―――!!気持ち悪いみたいです!!」
私の後ろの席になったヒロちゃんが私の様子に気が付いて担任に教えてくれた。
補助で入っている先生が付き添って私は保健室へ。
席を立つ時、ヒロちゃんが心配そうな顔で見ていたのを今でも覚えている。

1時限の授業の前に保健室へ連れて来られたのだが、
いつも家にいる母親や祖母と連絡が取れないので
結局、2時限の終わりまでベッドで休んでいた。
「微熱があるから本当はお家に帰った方が良いのだけれど・・・・
お母さんと連絡が取れないから暫くここで休んでいてね」
養護の先生の言葉に入学して初めて自分の存在を知ってもらえたような気がして涙ぐんでしまった。

25分休みに入り、保健室の窓から校庭で遊ぶ児童の声が聞こえてきた。
ベッドの周りは白いカーテンで閉ざされていて・・・楽しそうな声と反対に私の心は沈む一方だった。

Page.71

※漫画「王家の紋章」に登場するキャラを題材にしました。



出逢いは、偶然を装うものだった
妹姫の行方を追い砂漠の国までやって来た

私に警戒心を抱く事も無く、むしろ興味を示して来た。
王を狙うと見せかけて暗殺未遂程度の騒ぎを起した。

初めは復讐のために浚って来た
だが、恋とはなんと不思議なものか

はじめは興味本位だった。
しかし気が付けば、そなたの容姿に、英知に惹かれた。

私の持っているもの全てをそなたに差し出そう。
そなたが望むもの全てを手に入れよう。

だから、そなたの愛が欲しい。
私の前で輝くような笑顔を見せてくれ。

私の差し出した手指の間から砂が零れるよう
私のそなたへの愛が届かずに足元の地に吸い込まれてゆく。

せめて・・・・
夢の中だけでも愛されたい。

Page.70

皆様、こんばんは。

我が家には、小学生のお子が2人います。
上が小6@長女、下が小2@長男。
長男はともかくとして、長女は学校でも「AちゃんはB君が好き」、「C君はD子ちゃんが気になる」
というような話題がほぼ毎日教室内で繰り広げられているようです。
自宅に戻っても長女からは、このテの話が多いです。
思春期の入り口に立ち始めているので、それぞれが異性に対して興味津々なのだろうな~と
微笑ましく見守っています。

駆け引きや打算などなく、ピュアな恋を表現したくて『ハ・ツ・コ・イ!?』を書き始めました。
登場人物の広子ちゃんのモデル(一部)は長女です(笑)
若かりしあの頃、ピュアな恋をしたであろう皆様に甘酸っぱい思い出がひと時でも蘇ったら・・・幸いです。

最後までお付き合い頂いたことに深く感謝したします。
次回の連載@短編は、広子ちゃんのお友達の愛子ちゃんをクローズアップしてみます(笑)
こちらも引き続き宜しくお願いします。



              紫苑あかね拝

Page.69

外は暑いな・・・・蝉がうるさく鳴いているよ。
あんなにかんかん照りの中、外で練習する体育会系の部活の人は大変だわ。
熱中症とかにならなきゃいいけれど、水泳部以外は最悪だと思う。
あ~~~ぁ、またサッカー部の子が水を掛けられているよ。

雄輝がいる・・・・。
「!?」目が合っちゃった♪
手を伸ばして振っているからあたしもヒラヒラと手を振り返した。
「!!」東野先輩に頭をグリグリされているし。やっぱりからかわれているのかな?

夏休みに入ってもあたしは音楽室の定位置に座ってフルートの自主練を欠かさない。
もうすぐ皆、揃うし今回の曲は結構難しいから音を落とすことは出来ないからね。
文化祭でも演奏するから、頑張らなくちゃ!

あれからほぼ毎日、消毒をしに外科の外来へ行ったのだが・・・・。
母の付き添いの回数より雄輝の方が多いかも。
外科の先生が経過を診る時は、いつの私の後ろにまわり看護士さんに自分の椅子まで用意させるほど・・・。
当初は過保護もいいところっ!!と思っていたけれど・・・
傍にいてくれるだけで凄く安心できた。
完全に包帯や絆創膏がはずれた日、
処置室から出て来てベンチであたしがしげしげと自分の指先を見ていたら
あたしの指先をそっと握り自分の唇に寄せて・・・「もうあんな思いはしたくない」と呟いた。


学校ではなるべく目立たないようにしているけど、お互いが目で追っちゃっているらしいから
あっと言う間にお互いのクラスメート公認になってしまった。
当初は『私設ファンクラブ』の子達に睨まれたけれど・・・・何故かそれも解散したらしい。
愛ちゃんのプチ情報に寄れば雄輝自身が解散作業に携わったらしい。
「『解散作業』って何?」
「北山は知らなくてイイの!」
「なんで・・・?あたしも作業したかったな~~」
「絶対に、参加させないからっ!!」
雄輝はあたしの軽く聞いただけなのに・・・過敏に反応していた。
深く追求したいけれど・・・ちょっと怖いからそれ以上聞かなかった。


そういえば、病室で雄輝にエコバッグを預けてなかなか帰って来なかった
あたしの母親は・・・・。
思ったとおり天然ボケ炸裂で受付にて治療の精算後、迷子になってしまい
たまたま通りかかった雄輝のお母さんと立ち話していたんだって。
その上病室まで送ってもらい・・・・あたし達の会話を雄輝のお母さんとずっと聞いていたんだって。
もう恥ずかしいよ~~~。

「初恋というものは成就しないものよ。でも広子は雄輝君のお陰で成就したじゃない
この恋をずっと大事にしなさいね。そして2人で育てていくのよ・・・」
天然な母親がこう言うんだもん。あたしも雄輝に相応しい女性になれるよう努力しなくちゃね!
あたしも雄輝の傍にずっと一緒にいたい。
幼い頃のように仲良く「ヒロちゃん」「ユウキ」って呼び合っていたい。
あたしのハツコイ・・・・ずっと、ずっと続きますように。






                   -おわりー

Page.68

「俺の初恋が成就するには北山の協力が必要だ。
ずっと傍にいたいから・・・良いよね?」
優しい眼差しで静かに話す雄輝。
あたしも頷いた。
来年は高校受験だからこっちも一緒に頑張ろうと、お互い微笑みながら話した。
先ずはあたしのこの怪我を治すこと。
それから文化祭に向けてまたフルートの練習を頑張ること。
雄輝も陸上の県大会で高得点の成績が取れるよう練習に励むこと。
あたしの苦手な科目も雄輝が教えてくれるって。
出来れば同じ高校に入りたいね・・・・って。
そんな話しをしていた。


でも・・・・ちょっと待てよ?
あたしは愛ちゃんと同じ高校にいくつもりだけど・・・・。
出来れば県立高校を狙うつもりなんですけれど~~~~。
雄輝に合わせたら・・・・絶対に無理!
県立高校のトップクラスの進学校か有名私立大付属高校に行くつもりでしょ?
それも将来は父親の病院を継ぐつもりでいるのなら、当然大学は『医学部』でしょ?
雄輝は雄輝で「北山も医学部行かれるといいな~」とか
「看護学科でもOKだな」なんて一人盛り上がっているし・・・・。

前言撤回!
同じ高校は無理ですって!!不可能だよ~~私の細かい成績知らないでしょう?
それに進路指導の先生に仮に相談しても・・・先生も迷わず「北山、無理するな!」と言うはず。
「だからね~~~雄輝、無理だよ・・・・同じ高校は・・・・」
「成績もっと上げれば大丈夫だよ、北山なら絶対出来る!だから一緒に頑張ろうな!
違う高校に行って、こんなカワイイ北山を誰かに取られるような事があったら・・・俺・・・・」
「その・・・心配はないと思いますが~~」
「いや!大いに心配だよ、だからね?北山、頑張ろうよ♪」
蕩けるような笑顔で言われて・・・・あたしは条件反射で肯定形の返事をしてしまった。

先が思いやられるよ~~~~最悪じゃ・・・・・。

Page.67

恐らく・・・・『鳩が豆鉄砲を食らったような顔』という顔を誰よりも上手に出来ていたと思うあたし。
「ゆ、雄輝―――――ッ!!!・・・い、い、今何した――――ッ!?」
起き上がろうとしたが、雄輝に半ば抑えつけらる様にされていて結局ベッドの上でじたばたするだけで。

「俺・・・もっとちゃんとした時に言うべきことだと思うけれど
北山がカワイイ反応するし、誰にも取られたくないから・・・・
俺、ちっちゃい時から北山のことが好きだった。
いつも『ヒロちゃん』『ユウキ』って呼び合っていて・・・
いつでも俺の『ヒロちゃん』が助けてくれていた、守っていてくれた
でも好きだから・・・・ずっと好きだったから一緒にいられるように強くなりたかった。」
・・・やっぱりこれは夢?
気になる人からの告白をこんな形で、それも世の恋人達も卒倒しちゃうような急接近状態で聞いている。

「じゃ、じゃぁさ、なんでそう思っていたのにすぐに告白してくれなかったの?」
乙女チックな感じで聞いてみているあたし。
「東野先輩に相談したら『お前が自分でも誇れるものを持って精神的に強くなってから好きな子に告白した方が良いよ』とアドバイスされた。
だから・・・県大会で上位に入ったら即刻実行に移すつもりだった。でも、こんなことになって・・・・・。
北山が怪我したことを聞いた途端もうそんなことすっ飛んで行った。
痛みを代わってあげたい。出来ないのなら傍にいて和らげてあげたいと思ったんだ。」

あの『泣き虫ユウキ』は、いつの間にか『頼もしい大好きな雄輝』になっていたんだね。
あたしは雄輝の告白に小さな声で「ありがとう」と言った。
あたしの拙いフルートの音色に感動してくれたこと。
平凡すぎるあたしの傍にいてくれたこと。
それよりもなによりもあたしをずっと好きでいてくれたこと。
色んなことを含めてお礼を言った。
雄輝はポンポンと頭を優しく叩き、髪の毛を梳いた。
そして包帯の上から手の甲を頬擦りした。

こんなに好きでいてくれてあたしは夢を見ているのだろうか。
病院のベッドではなくて本当は自宅のベッドに寝ているだけなのかな?
目覚めた時「夢だったのか・・・」と思うと悲しくなるのかな?
ううん、これは夢じゃない。
勿論、怪我をしたところもまだジンジン痛むもの。
これからは雄輝に頼って良いよね。

Page.66

「北山のフルート、暫く聴けないのか・・・・」
ぽつりと雄輝が呟いた。

今、なんて言いました?
あたしのフルート!?あのド下手なフルートですか?
「俺、北山が音楽室の窓際で自主練しているのをいつも見ていて励まされてきた。
苦手でも克服するまでひたすら練習している姿に感動したんだ・・・・
フルートの音色が俺に『頑張れ』『もっと飛べる』って言っているように
聴こえていたから・・・・」

・・・・・えっとぉ、このシチューエーションは何でしょう!?
あたしは病院の病室に寝ていて、そこの跡取り息子の告白とも思える独白を聞いている?
あうっ!雄輝の顔が近いよ
・・・・睫毛長いんだわ~
結構名鼻筋が通っていて、やっぱり学校の女子がファンクラブ作るほどのイケメンなのかも。
どっか他人事のように雄輝を見ている自分もいたりする。

「俺、あの時、オケ部の顧問が陸上部の顧問に北山のこと話しているのを聞いて
居ても立ってもいられなくなって・・・・気が付いたらこっちの顧問に即行部活早退を話して
とにかく保健室まで走り出していた。
小さい時から俺を助けてくれていた北山が怪我したって!?指先だからフルートが吹けない!
そう思ったら俺の心臓に短剣が突き刺さったみたいに痛くなったんだ。」
そう言いながら雄輝の顔は一段とあたしに近づいてきた。

あたしは思わず怪我をした方の手で雄輝の顔を押えた。
「いったーーい!!痛いっ!」
傷のところにまともに雄輝の頬が当たってしまった。
あまりの痛さに涙がじんわり目じりに溜まってくる。
雄輝はフッと笑い目を細めて、
包帯でぐるぐる巻きのあたしの手を優しく包み込むように握った。
もう片方の手の親指で目じりの涙を拭い、
おでこに「チュッ」と小さく音をたてて口付けた。

Page.65

「あれ?ここどこ?」
最初に目に映ったのは真っ白い天井。
次に目に飛び込んだのは、雄輝の心配そうな顔。
濃紺の長袖Tシャツにグリーンのチェックの半袖シャツとカーゴパンツ姿で・・・
制服と全然印象が違うけれど、私服に着替えたんだ。

それと母親のエコバッグ・・・・これは何故か雄輝が持っていた。
「なんで、雄輝がここにいるの?それもウチの母親のエコバッグ持っているの?」
実際にそう喋ったのではなくて、そう頭の中で思っただけみたいで。
ただ口をパクパク動かしただけだったみたい。
「どうした?喉が渇いたか?・・・手が痛いのか?」
雄輝は、あたしのおでこを擦りながら話しかけていた。
そうだった・・・・
あたしは外科の先生に怪我の具合を診せようとして・・・
柄にもなく気絶しちゃったんだっけ。
その時の映像が蘇ってきて目がグルグルしてきた。
あたしの顔に動揺の表情が浮かんだことを瞬時に判断した雄輝は尚もおでこを擦り続けてくれた。
お陰であたしは、パニックに陥ることも無く気持ちが穏やかになっていった。

「あたしの母親はどこ?」
この年齢でも慣れないこの環境にちょっと不安になっているあたし。
エコバッグを雄輝に預けて会計を済ませてくると言って
行ったきり戻って来ていないらしい。
お母さん!まさか、この大きな病院で迷子ですか!?
それともどこかで油売っていませんか!?
凡人家族の一員でも天然さ加減は、希少動物並みって言われている人だからね~~
・・・・あたしは違う意味での眩暈が襲って来そうになった。

Page.64

「北山広子さん、2番処置室にお入りください」と看護士さんの声が聞こえ、
あたしと母親、そして何故か雄輝も入っていった。

やたらクルクル回る患者用の椅子に座り、養護の先生が応急処置をしてくれた包帯を
看護士さんが手際良く外していく。
担当してくれた外科の先生は、雄輝の叔父さんにあたる人で
ガッチリとした体格で一見するととても医者には見えず。
むしろ格闘系の選手と言った方がイイかも。
その大きな手であたしの手の状態を見て
「そうとうパックリいっちゃったね。痛いでしょう?
よく歩いてここまで帰ってきたね。広子ちゃんはエライエライ♪」
そう言うとあたしの頭を撫でてくれた。
不覚にもあたしは目頭が熱くなってしまった。


傷の状態を診て縫うほどではないが、爪がかなりダメージを受けていて未だ出血していた。
改めて血だらけの自分の手を見たあたしは、思わず眩暈が襲った。
体が一瞬ふわっと浮いた感じ。
背もたれのない椅子だから、このまま床に背中ごと倒れこんじゃうのかな?
「お母さん、助けて」と言ったような気がする・・・。

あたしの背中は床に激突することも無く、がっちりした体の持ち主に支えられて
耳元で囁かれた「大丈夫、俺が付いているから」と・・・・。
それからあたしは意識を手放した。

Page.63

病院の正面玄関に母親が待っていた。
取るものとりあえずな感じの出で立ちでノーメークだし。
何故かいつものエコバッグも持っているし・・・・。
お母さん、学校からの電話にもの凄く動揺したのかな?
あーこういうところも凡人なんだわ~我が家って。
まぁ、当たり前だけれど娘が怪我して学校から病院へ直行しているこの状況で
『今日はお呼ばれですか?』みたいなファッショナブルな洋服とバッチリメイクだったら・・・・
あたし、娘としてかなり引くわ。

雄輝と母親が挨拶して、病院内に連れ立って入って行く際
あたしは傷の痛みも、雄輝のことも気にしながらもそんなことをぼんやりと考えていた。


やはり外来受付は閉まっていて・・・・
大きな病院だから仕方がないのかな~~
雄輝に促されてそのまま救急外来の受付の方へ行った。

我が家は家族全員、ここの病院に何かしらお世話になっているから
スムーズに受付手続きが出来た。
この間、雄輝はあたしの母親に帰宅を促されていたけれど
頑なにこの場にいることを通していた。
受付前のベンチにあたしを座らせ、自分もその横に腰掛けた雄輝。
「辛い?俺に寄り掛かって良いから・・・・」
自然とあたしは体を雄輝の方へ凭れ掛けた。

Page.62

雄輝がかばんとその他の荷物を持っていてくれるから、外靴に履き替えるのも楽だった。
それに靴箱から出したり、しまったり、
履く時も怪我をしていない方の腕を軽く支えてくれていた。

「大丈夫?痛いよね・・・すぐ親父の病院で治療しようね」
長身の身体をあたしに合わせて、少し屈みながら話しかけてくれた。
・・・もう!意識しちゃうじゃん!!
そ、そんなに顔を近づけなくても話が出来るのに。。。


通学路の幹線道路近くの歩道には、
『帰宅部』の中学生は・・・もういなくて近くのショッピングモールの買い物客が通るくらい。
雄輝はさり気なく他の歩行者からあたしを庇うように、
そしてゆっくりと歩調をあたしに合わせて病院へ向かった。
この時間だと病院の外来受付も開いているかどうかわからないけど、
あたしの母親が病院で待っていてくれているはず・・・・。

いったいあたしはどんな顔をしているの?雄輝の顔は・・・?
一度だけ彼の顔を見上げて盗み見たら・・・・・。
険しい顔をしていたけれどあたしの視線に気が付いて、一瞬にしてやわらかい表情となった。
あたしは傷の痛みからではなく、この状況にドッキドキして逃げたい気分だった。

Page.61

とにかく外科系の病院で診て貰わなくちゃいけないからあたしはこのまま帰ることにして
不自由な手で身支度を始めた。

「ヒロちゃん、ちょうど良かったじゃないの。西君に送ってもらえば?
あの調子だときっと彼も部活どころじゃないかもよ♪
ついでに彼のお父さんの病院へ連れて行ってもらいなよ!
・・・・・じゃぁ、あたしはこれで部活に戻ります。
あと・・・お願いします。(ヒロちゃん!ガンバ!!)」
愛ちゃーーーん!!ガンバ!?ちょ、ちょっと待って!!
それになんで小さくガッツポーズしているのよ!?

それから養護の先生も「良かったじゃない」とか「西君に任せるわ」とか
「自宅には西総合病院へ寄るからそちらへ迎えに来るように伝えておく」等と
あたしの返事待たずして、どんどん話し進めちゃってるよーーー!!
皆さん!あたしの要望は・・・・無視ですか?
あたしの中にこの状況に妙に喜んでいるあたしと、未だじたばたしているあたしがいたりする・・・。


雄輝は雄輝であっと言う間に帰り支度準備万端で、部活はちゃんと理由を言ったから休み扱いにしたらしい。
理由って?・・・・
聞きたかったけどもう傷が痛んで色々考えられなくて。
雄輝があたしのかばんを持ってくれて、養護の先生に挨拶してから
2人で上靴を履き替えるために、学校の玄関へ向かった。


Page.60

「北山!!怪我をしたって聞いた!大丈夫なのかよっ?
あぁ、何でこんなことになったんだよ!?これじゃフルート吹けないじゃないか!!
痛いのか?まだどこか他にも怪我をしていないのか?」

乱暴に開けられて疾風の如く入ってきて、あたしの怪我をしている手を取りながら
矢継ぎ早に聞いてくるヤツ。
西 雄輝!?

『どうして君がここにいるのよ?』

という疑問が無数の疑問符と共にそこにいる全員の脳内を駆け巡った。
その間も雄輝は自分が怪我をしたかのように真っ青な顔で、
あたしの手を握ったままで・・・・・。
あたしは指先が痛かったけれど、
雄輝の温かくて大きな手のひらに包まれた感触が何故か安心できた。


「西君、・・・部活は?まだ校庭で練習中じゃないの?」
養護の先生が全員の疑問をしっかり投げかけてくれて・・・。
雄輝は簡潔に説明した。
あたしを保健室まで送ってきてくれた先輩がオケ部の顧問の先生に報告して、
その後すぐに先生が校庭にいたあたしの担任に報告してくれて。
その担任というのが陸上部の顧問な訳で・・・・。

この経緯であたしの怪我を知った雄輝がすっ飛んでここまで来た、ということ。
雄輝の視線は養護の先生に向いているままで
あたしの手を握りながら親指で包帯の上から手の甲をずっと優しく撫でていた。

Page.59

「フルートは指を使うのだから、もっと注意しなくちゃね、ハイこれで良いわ。
今日はこれで帰りなさい。応急処置しておいたけれど念のため病院へ行った方が良いわ
この時間に帰れば診察時間内には間に合うでしょうから・・・・。」
保健室の養護の先生が穏やかな口調で言った。
あたしの左手の薬指と中指、人差し指の先に心臓があるみたいにズキズキと痛む。
海津先輩は何度も謝り、部活の教室へ戻って行った。

それと入れ替わるように愛ちゃんがあたしの荷物を持って保健室へ来てくれた。
「顧問の先生には大まかに説明しておいたからね。
先生が大事をとって病院へ行くのを勧めていたよ・・・・
私、練習あるから一緒に帰ってあげられないけど・・・・本当に1人で大丈夫?」
色々と世話を焼いていくれる愛ちゃんに感謝しつつ、あたしは痛みでただ頷くだけだった。
「雨も降りそうなのに・・・この手じゃぁ、かばん持てないよね。どうしよう・・・・
やっぱり誰か・・・・お母さんにでも迎えに来てもらう?」
「ううん、大丈夫だよ、愛ちゃん、かばんは、ショルダーにしちゃえば何とか大丈夫そうだし・・・」
「でも・・・・心配なのよ・・・ショルダーのベルトだけ長めにしておくね」
などというやりとりをしていた。



『ガタンッ!!!』


保健室の引き戸が乱暴に開けられた。
大きな音にあたし達ははじかれたように顔を上げて、視線を引き戸のほうへ向けた。

Page.58

そんなことがきっかけであたしの『雄輝を意識しちゃう日々』が始まったわけで。
愛ちゃんには『西君意識しちゃうキャンペーン実施中』って言われる始末。
全然、キャンペーンなんかやっていませんからっっ!!

愛ちゃんの言葉に翻弄されているあたしはというと・・・・
「同じ学校内にいるんだな~」
「今日は雨降っているから体育館の片隅で部活の練習かな~」
「今頃試験勉強の準備中かな~」とか・・・・・。
愛ちゃんに言われずともこんな状態で。
もう意識し始めたら常に脳内は雄輝一色!
イヤ!他の事も考えていたと思うけど・・・・
そのお陰で!?あたしは部活中にとんでもないことを~~~~

その日も早めに音楽室に入ってボーーーッとしながら楽器の準備をしようとしていた。
フルートの入っているケースを開けて・・・・
ケースの縁に手を掛けたままぼんやりと校庭を見渡していた。
そこにあたしに話しかけようとした
海津先輩が蓋に手が当たり勢いよく蓋が閉まってしまった。
「・・・・・・ッ痛い!」
金具がイイ感じに指先に当たって左手の指3本が切れてしまった。
他の人に言付けてから先輩は、青い顔して謝りながら保健室へ連れて行ってくれた。

Page.57

・・・・・・・がっくり。

愛ちゃんの陽動作戦にすっかり乗せられてあたしは、あたし自信のことを認めてしまった。
事実を受け入れたら気が楽になるって思うけれど・・・・
それは全く正反対であって。

明日からあたしはどの面下げて学校へ行ったら良いの?
(イヤ、その前に家から出られないじゃないの!!)
と、早速愛ちゃんに泣きついてみたりして・・・
「どの面って?この面しないでしょう?」
愛ちゃんはたおやかな指先で
虫をも殺さないような麗しい笑顔であたしの頬を突っついてきた。

愛ちゃん・・・・あなたは【S】でしょう?それも【ドS】!!
長年の親友の本性をココで発覚した気分。
本当に誰もが癒されるほんわかしたオーラの持ち主なのか!?と疑ってしまう。
絶対にそのオーラの裏にはSM女王も真っ青なすっごいキャラが隠れている。

愛ちゃんのバイオリンの弦が決して鞭に変わらないことを
あたしは心から願ったのだった。

Page.56

そんな雄輝をこのあたしが目で追っているって愛ちゃんが言うの・・・・。
「ええぇ~~~!?嘘?それは無いよっ!!!」
強い口調でそれも大声で言っちゃったあたし・・・・。
「なんでそんなにうろたえるの?逆に怪しいよ、ヒロちゃん♪認めたも同然だね?」
ううぅぅっ・・・愛ちゃん、カマかけないでお願い。
思いっきり墓穴掘ったあたしは、言ったことに対して恥ずかしくなって
更に大きなシャベルで掘って掘ってドツボに嵌っていった。

愛ちゃん、アナタは敏腕刑事の取調べより凄いです。
あたしの様子を見ながら「そうか、そうか、うんうん♪」と
頷きながら必要以上ににこやかな顔があたしに迫って来た。

「それで次の行動は?」
聞かれたけど、そんなこと考えていません!
っていうか、たった今あたしの気持ちを言い当てられた感じで
あたし自身まだこの事実を受け入れていない状態。
愛ちゃんのふんわりとしたオーラから程遠い性格が表に出て・・・・
「白黒ハッキリさせろ!」
愛ちゃーーん、目がすわっているよーーー

だからお願い、あたしで遊ばないで~~~半分以上楽しんでいるでしょう?
いや・・・聞かなくてもわかる。
その女神の様な微笑の下にはあたしで遊ぶ小悪魔ちゃんな愛ちゃんがいる!?

Page.55

そういえば・・・・・
バレンタイン・デーの1ヶ月前から雄輝が誰かを探している素振りを見せるって
同じクラスの陸上部所属の男子が話していた。
練習中はさすがに集中しているし、
先輩や顧問の目があるから目立って探さないようにしているみたいなんだけど
校庭に出てきたときや休憩中にそんな行動をとるとか。

雄輝!挙動不審だよーーー!!
目を凝らしながら校庭全体から校舎にかけて見回す姿はおかしいよ。
あんな感じでグルグル回っていたら円盤投げの選手みたいだって。

まったく!オリンピック選手のMさんじゃあるまいし。
見渡して探し人が見つからないと思いっきり落胆しているらしい。
本当に分かりやすい性格だね。
やれやれ・・・・。
そういうところは小さい頃と変わらないのね。

あたしは幼い頃の雄輝と変わらない姿をクラスメートの目を通して知った時
心がふわぁっと軽くなったように思えた。


Page.54

・・・・・・ほ、本命なんて誰だっていいじゃん。
雄輝の好きなタイプを知る必要もないし、
もし知ったからってあたしがそれに当てはまるとは思っていないし。

やっぱり好きになるタイプって、『自分の家族・例えば父親や母親が基準になる』
と、従姉に聞いたことあるし・・・・・。
雄輝の場合、あのお母さんとお姉さんが基準になるのか?
それは、めっちゃハードル高いわ~~。
いや~凡人には絶対に越せないよ。絶対に無理!!
孫悟空の金団雲があれば、ひとっ飛びかもしれないけど。

ちょっと待って!
なんであたしがこんなこと気にするのよ!!
あたしには関係ないじゃん。

でもさ~正直言って、赤ちゃんの頃から一緒だった雄輝の理想の女性!?
というか好きなタイプは気になっちゃうんだよね。
アイツの心を射止めた女性ってどんな人なんだろうってね。
クラスメート達とそんな話をしている時、
たまたま隣にいた男子に『おばちゃん的発想』って言われた~~~。
・・・・・その言葉が図星で結構、凹んだかも。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

只今ランキング参加中なり。 ポチッとして頂けたら嬉しいです。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。