2008 / 08
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あちらは同期を2人連れて来て3人。
こちらは私と礼子先輩の2人。
計5人で食事会という名の合コンとなった。
同期のうち1人が偶然にも礼子先輩の大学の同窓生で・・・・
かなり内輪だけで話しが盛り上がっていた。
もう1人の同期はいつかの私のように人数合わせの要員のように来た人。
実は、婚約者がいるとか・・・・。

話の中心は専らアツシ。
というか、他の人が話題を振っても自分の自慢話にすり替えてしまったり
話しの腰を折ったり、私個人的には本当に苦手なタイプだな~って感じた。

食事も終わり、人数合わせ要員の人は帰り
礼子先輩とその同窓生の人は他の同窓生に連絡を取って
そのまま別の場所へ流れるという。
私はアツシに「2人だけで飲みに行こう」と誘われたけれど
この年齢で未だ門限のある身分の私は丁重に断った。
少し驚いたアツシだったが、最寄り駅まで送るということで引き下がった。


それから食事に行ったり、試写会やお芝居のチケットが手に入り易いということで
月に1~2回の割合で会った。
傍から見れば、それはデートをしているようにみえたかもしれない。
でも私は自分の気持ちがいつもどこか違うところにあるような感覚を感じつつ、
ずるずると半ばアツシに引っ張られるように付き合っていった。

そんな関係が4ヶ月以上続いた頃・・・。
フェニックスのコンサートツアーの準備で私の生活は忙殺され始めた。
家族ともまともに話が出来ない毎日で
重要なことは家族のケータイにメールで連絡する始末。
相変わらずアツシからの『お誘いメール』(礼子先輩が命名)攻撃は衰えず、
ケータイチェックの度に閉口してしまった。


定時に退社できる日はなくとも門限には充分間に合う時間に退社した時
通用口前の道にアツシが待っていたときは少々引いた。

「どうしても会いたかったから、ここで待っていたんだ。」
「そうなんだ・・・でも、仕事が忙しくて・・・」
「今夜は食事して行こうよ!君だって僕に会いたかっただろう?」
「う――――ん、でも、ごめんね、
今夜は早めに帰れそうだから出来たら自宅で食事したいの」

その言葉に急に態度を変えたアツシは怒鳴った。
「なんだよ!君は僕に会いたかくなかったのかよっ?」
「友達としては『どうしているかな?』くらいに思っていたけど・・・・」

じりじりとアツシにビルの壁に追いやられて行く。
私の中に危険信号が点滅し始めた。

「こんなに・・・僕は君の事想っているのに・・・・
あの合コンのときから好きなのに!」
「えっ!?」
「僕とちゃんと付き合ってくれよ!
僕は・・・知っていると思うけれど未来堂のいずれ経営者側の人間となるんだよ」
「・・・・・・・・」
「こんなエリートの僕にここまで言わせて・・・・・恥を掻かせないでくれよっ!」
「私・・・そんなつもりじゃ・・・・」

突然の告白に驚いてしまった。
そしてアツシに壁に押し付けられて抵抗すら出来なくなってしまった。
ただ私の頭の中に危険信号が発し『怖い』という想いだけが満ちた。

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後半の打ち合わせも滞りなく済み、
未来堂の方々はこちら側の人と挨拶をしていた。
そこにアツシもやって来て・・・。

「こないだはどうも。今度親睦を兼ねて食事でも如何ですか?」
「1対1というのも大歓迎ですが・・・・まぁ、若者同士何人かで如何ですか?」
「とにかくセッティングはこちらに任せてくださいよ!」

私の返事を待たずに一方的に話していた。
連絡先なども含めて、私はあまり深く考えずにアドレス交換をした。
交換している間、少し離れた所でマオさんが少し心配そうな顔で見ていたらしい。
後々、渡辺チーフから聞いた話だけど・・・。



その日を境にアツシからのメールに悩まされ始めた。
最初の1週間は朝昼晩に1~2通だった。
『おはよう、今日も暑くなりそうだね』
『お昼何食べた?俺は○○食べた』
『今日も残業?俺もだよ、頑張ろうね』
等々、当たり障りの無い内容だったが・・・
そのうち『いつ食事に行く?』というフレーズが必ず語尾に付いてきた。

こちらとしても取引先の人だから無碍に断ることも出来ず・・・・。
礼子先輩に相談したら「1回くらいは良いんじゃないの?」というお答え。
少々気が進まない気持ちを抱えつつ、私はアツシと食事をする約束をした。
今回は初めてということで、礼子先輩も付いて来てくれた。
向こうももう2人、同期を連れてくるという。

「美晴、なんか気が進まないって顔しているわよ!」
「そ、そうですか~?」
「してる、してる!」
「そんなことないですけれど・・・・」
「一応ウチのアイドルがお世話になる会社なんだから
もうちょっとスマイル♪に出来ない?」
「・・・・・・うっ・・・」
「まったくアンタは真面目だからね~~~」
「そんなことないですよ・・・
というか、こういうことに慣れていなくて・・・」
「少しは遊ばなくちゃ~~!例えば私みたいに!?」
「・・・・先輩は遊びすぎです・・・・」
「そう?うふふふ・・・」
「今朝も夕食いらないことを
母に話したら、父と姉の詮索が激しくて・・・
この年で過保護なんですよ、うちの家族は・・・」
「そこが、真面目だっていうのよ!
まぁ、仕方がないよね、こ~~んなにカワイイだもんね(ウィンク☆)」
「礼子先輩ってば・・・・」

気が進まない気持ちを誤魔化すように、
そんな話しをしながら待ち合わせ場所まで先輩と歩いて行った。

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あの2人のやりとりを多少気にしつつ、いつもの日常が戻っていた。
私は相変わらず庶務とはいえ、仕事に忙殺される日々で・・・・。

残業も多くて、まともに家族と一緒に食事が出来ていないわ。
そういえば二世帯住宅でも別棟に住んでいる
兄家族の姪っ子達の顔を見ていないな~~。
もうじき誕生日だというのに・・・・・。
スタイリストの姉も同様に多忙極まりなく、
あの人の場合フェニックスの行くところ殆ど付いているしね。
業種上仕方がない事だけれど。



そんなある日、未来堂のフェニックスCM担当の人達が来社された。
担当の方4人揃って、その中にあのアツシもいたわけで、
こちらからも担当者を交えて打ち合わせとなった。
フェニックスからはリーダーのマオさんが同席した。

依頼された企業の要望や未来堂さんからの提案、
こちらからの要望や事細かな事を打ち合わせしていった。
私は記録係で同席した。
彼らの口答での意見交換等を書き留めていった。
彼らのいる席から少し離れているところに座っていたのだが・・・
時折、刺すような視線を感じていた。


暫し休憩をとっている時にマオさんが話し掛けてきてくれた。
未来堂さん達から私自身を隠すように小声で言った。

「山本さん、書き留められる?一応書類などもあるから大丈夫だよ」
「はい、どうにか・・・でも録音もしているので大丈夫です」
「そう?でも無理しないでね」
「はい、ありがとうございます」
「それから・・・美晴ちゃんのことジッと見つめているヤツがいるんだ、
気が付いてる?コレは・・・・俺の勘でしかないんだけれど、ちょっとヤバイかもな!」
「えっ!?そうなんですか?
・・・・やっぱり・・・ちょっと視線は感じていましたが・・・・」
「そっかぁ・・・やっぱ感じてはいたんだね?それにしても大胆なくらい親しげだぞ!」
「えっとぉ・・・・いつかの合コンで合った人なんです」
「あっ!あの時の?そっか~わかった!
でもどっかで見たことがあるんだよな~~~どこだったかな・・・?」
「合コンで会ったからきっと・・・親しみを込めて見てくれているだけかもしれませんよ」
「・・・・・そうかな~~ちょっと気になるんだよ、
とにかく美晴ちゃんはかわいいから気を付けてね!」

どこか腑に落ちない表情でマオさんは、
私のノートの片隅に眠そうなウサギの絵を描いた。
絵の横に『←MIHARU???』と書いて席に戻った。
そのイラストを見て一気に疲れが癒された。

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パソコンを立ち上げて、必要な画面を映し出して
順調に仕事をやり続けて行った。
ふと、目の疲れを感じながら思わず伸びをした。

「疲れたか?さすがに女の子をこんな時間まで働かせちゃいけないよな?
俺もいい加減アイツを迎えに行かなきゃなーーー」
「礼子先輩を・・・ですね?」
「うん、美晴ちゃん、ここで切り上げてお終いにしよう。
それと・・・明日はゆっくりフレックス出勤でOKだからね。」
「ハイ、わかりました。
フレックスですか!?わ~~嬉しいです。ありがとうございます」

そう言いながら私はデータ等を
バックアップしてパソコンの電源を切った。
腕時計を見て、あれからオフィスに戻って来てから
約1時間半ほど経っていたことを知った。

「後片付けは俺がやっておくし、ここでお家に『帰るコール』しなさい。
最寄の駅まで誰かに迎えに来て貰った方が良いんじゃないか?」
「渡辺チーフ、私・・・もう子どもじゃないですよ~~
でもご心配掛けても悪いですので、すぐに家に電話します。」
チーフの前で私は『帰るコール』をした。


その後チーフに挨拶し更衣室のロッカーへは寄らず
このまま通用口のある1階へ降りるためエレベーターホールへ行った。
下向きボタンを押そうとした時、
大きな音を立てて非常用階段の扉が勢いよく開いた。

「リュウ!待てよっ!!」
「うっせぇよっ!お前一人でやってろよっ!!
俺にはっ・・・・俺にはカンケーねぇからっ!!」
「だから、話し合えばわかるって!」
「結局・・・・」

この日2回目のギョッとした出来事だった。
大声で話しているのがリュウさんとヒロさんだとわかるまで少し時間が掛かった。
お互い凄い剣幕で話している・・・・というか怒鳴りあっていたから。
先ほど1階のエレベーターホールで見かけた2人とは全然違う印象だった。

「美晴ちゃん?・・・まだ仕事だったの?驚かせてごめん・・・
ちょっとリュウ!待てって言ってるだろっ!!」
「ヒロ、手を離せっ!!」

その言葉を振り切るようにリュウさんはそれ以上何も言わず立ち去った。
立ち去り際、私の顔を一瞥したようにも見えたけれど。
気のせいかな?と思いつつヒロさんに挨拶してエレベーターに乗り込んだ。

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「どうしてフェニックス達と一緒だったの?」
エレベーターのドアが閉じてすぐに渡辺チーフが
早速聞いてきた。
私は、下の通用口で入れなかった経緯を話した。
渡辺チーフは『美晴ちゃんらしいことだね』と笑った。

やっぱり天然なのかな~私って。
確かに、9歳年上の兄は父親と一緒に弁護士をやっているし、
そのすぐ下の姉はフェニックスの専属スタイリストしているし、
どちらも色々な面で勘が鋭くないと出来ない仕事だもんね。

「渡辺チーフ、まだ仕事・・・残っているんですよね?
サクサクやってしまいましょう!」
「そうなんだよ、明日までに仕上げておかなくちゃいけないのが
数件あってね。悪いね楽しい時間邪魔したようでさ・・・」
「いえいえ、大丈夫です。
それに・・・礼子先輩を迎えに行かないと・・・
だんだん無茶しますよ、飲めないのにもう出来上がった感じでした」
「またか・・・・まったく、アイツは・・・」
そんな風に呆れて礼子先輩に対して話す渡辺チーフの目は優しかった。


途中で切り上げてしまった仕事に直ちに取り掛かった。
渡辺チーフは、書類を1枚見せた。
担当者数人の名前がそこに記されていて・・・・

「次回のフェニックス出演のCMだが、
担当の広告代理店が『未来堂』なんだ。
制作担当者がこの人達だから把握しておいてね。」
「あっ・・・・さっき合コンで会った人の中にこの人の名前あったな~
えっとぉ、『イノウエアツシ』さんだったかな?」
「さっき会ったのか?そうか・・・井上さんに既に会っていたのか・・・」
「はい、お目にかかりました」
「まぁ、美晴ちゃんに限ってないと思うけど」
「・・・・?」
「あちらもこちらも華やかな世界にいるのだから
色々あると・・・メンドーな事になるから気を付けるようにね!」
「私がですか?無い無い!ありえないですよ~」
「山本先輩の大事な妹さんを預かっているんだからね!
こっちは目を光らせているんだよ」
「すみません・・・お世話になっています」

ふと、脳裏に兄の顔が浮かんだ・・・・。
それも腕組している格好で。
兄の高校の後輩の渡辺チーフに迷惑掛けてしまってはいけないと思い
身を引き締めるよう気持ちを切り替えた。

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最上階にいたエレベーターがやっと降りて来て、
メンバー達、足立さん、私の順で乗り込んだ。

「ブーーーッ!!重量オーバーです。降りてください!!
なんちゃってね♪美晴ちゃんだっけ?冗談、冗談!!」

私の真後ろにいたヒロさんが、古典的な?『お約束のジョーク』を言った。
売れっ子アイドル集団を前にして
少々緊張していた私は思わずプッと噴出してしまった。
そのお陰でその場の雰囲気も一気に和らいだ。
彼らは最上階に近い7階のボタンを押し、
私は渡辺チーフがまだ仕事しているであろう5階のボタンを押した。

「美晴ちゃん、まだ仕事?
そういえばさっきどこからか帰ってきた感じだったけど・・・・
どこ行って来たの?」
「ハイ、礼子先輩に頼まれて合コンに顔を出して来ました。
渡辺チーフに『戻って来いメール』が来てしまって・・・
でも、人数合わせ要員だったので・・・・もう良いんです。」
「せっかくの合コンだったのに・・・
それにして礼子クンは相変わらず合コンに勤しんでいるんだね」
「うふふふ・・・そのようですね」
足立さんが話しかけてくれた。

「美晴ちゃん、フリーなの?だから合コン要員にされるんじゃないのかな?
彼氏募集中なら・・・俺が立候補しよう・・・・って、いってぇなーーっ!!」
真後ろにいたヒロさんが、話しかけてきた。
「何だよ!誰だよ!俺の腕つねったのは!? 
おいっ、カイかよ?」
「俺じゃなッいス・・・・」
「何だと?正直に言えよっ!」
「いい加減にしろっ!!!」

足立さんの怒鳴り声がエレベーターの狭い箱の中で轟いた。
耳がワンワンしている状態でエレベーターは5階に着き
扉が開いた時、目の前に渡辺チーフが立っていた。
「すみません、遅くなりました・・・
じゃぁ、皆さん失礼します」
会釈をして私は5階で降りた。
振り向きざま、一番奥にいたリュウさんの口元が笑ったように見えた。

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メンバーが先に歩き、その後ろを私と足立さんは並んで歩いた。
時間が遅いせいもあり2機あるエレベーターは1機しか稼動していなくて。
更に最悪なことに最上階で止まっている状態。


「あ~~最上階にいますね。
あっ!車椅子用のボタン押しちゃったのですか?
そっちで呼ぶと普通より遅いスピードで降りてきますよ」
「えっ!?そうなの?」
車椅子用のボタンを押してしまって
バツ悪そうな顔をしているのは最年少でギターのカイ君。
まだ10代に見えるけれど20代で、私より1学年下らしい。

「カイ!お前はまた余計なことを!なんで普通のボタンを押さないんだよ!」
私達以外いないのにやたら大きな声を出して、
威圧的な態度を取ったのがボーカルのシュウさん。
この人はいつも声が大きくてびっくりする。
シュウさん曰く「俺はボーカルだから常に腹式呼吸なんだよ」と。
それは、否めないのかな?専門的なことはわからいけれど・・・・
とにかく真面目な人でフェニックスの中では中堅どころ。

ホールに響き渡るような大きな欠伸をしているのがドラムのマオさん。
本名が『まさお』だから『マオ』・・・。
安易に付けられた~といつだったか笑っていたっけ。
本当にこの人があのパワフルな演奏をするのか?と思うくらい、
歌舞伎の女形のようにたおやかな身のこなしをしている。

何故か空のペットボトルをパコパコ押しつぶしながら、
鼻歌を歌っているベースのがヒロさん。
実は今のフェニックスの楽曲はこの人が殆ど手がけている。
両親共に俳優で芸能一家らしい。

そして・・・・
エレベーターのボタン脇で座り込んで、
不機嫌そうにムスッとしているのがキーボードのリュウさん。
あちこちのピアノコンクールに出場したらしく・・・・
有名音大を出て一時期はピアニストを目指したこともあるという
異色の経歴の持ち主。
いつも、いつも愛想がなくて・・・私は苦手だな~と感じつつも気になる人。

この人達がウチのプロダクションでは
かなり売れている所謂アイドルグループ。
歌もお芝居もなんでもOK!なマルチなタレント集団である。

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時間外なので自社ビルとはいえ、
正面玄関はさすがにセキュリティの関係で閉まっている。
なので、社員証をまた新たにバッグから出そうとして・・・
「あれっ?無い!?」
私は今夜の合コンに間に合わせるために
急いで上着を着たりしてバッグをロッカーから取り出して
通用口専用のカードキーにもなっている社員証を忘れてきたことに気が付いた。
ケータイで電話して渡辺チーフに降りてきてもらって、ここを開けて貰おうか
それとも警備員さんの所へ行くかどうしようか迷っていた。

「あれっ?そこにいるのは美晴ちゃん?・・・・
やっぱり美晴ちゃんだ!なんでこんな時間にここにいるの?」

薄暗い通用口近くに大柄な男性が大きな声で話しかけてきた。
誰もいないと思っていただけにかなりギョッとした顔で振り向いてしまった。
そこにはフェニックスのマネージャーの足立さんがいた。
・・・・・厳密に言えば、足立さんの後ろにフェニックスのメンバーがいた。

「おっ、お・・・おはようございますっ!」
私は、どこかの兵隊さんよろしく最敬礼してしまった。
この業界、朝だろうが昼だろうが夜だろうが・・・
はたまた深夜だろうが挨拶は『おはようございます』
コレに慣れるまで半年は掛かった覚えがある。
先に業界に入っていた姉から色々伝授してもらっても
なかなかこの習慣だけは慣れなかった。
足立さんが、カードキーを出して入り口を開けた。
それに続いてメンバーもそこを通り抜けた。

「美晴ちゃんは?出たの?入るの?」
「へっ?私・・・・入れなかったんです、ロッカーに忘れちゃって・・・・
入ります!入りたいです!!入らせてください!!!」
「じゃぁ、どうぞ」
「は、はい!失礼します・・・・」
言っていて恥ずかしくなってきて一気に捲くし立てるように話しながら、
足立さんがガラス戸を押えて待ってくれているのを恐縮しながら入った。

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隣に座っているアツシには悪いけれど、
彼の話をなんとなく・・・な気持ちで聞いていた。
専ら話を聞く方側に徹して、暫しアツシを観察した。

趣味は、アウトドア中心。
特に冬はスキーやスノボが好きで、前カノとはスキー場で知り合ったとか。
その彼女とは1年前に別れたらしく、今はフリーだそうだ。
一見イケメン系で本人もそれをかなり意識しているように私には感じられた。
第一印象・・・・
やっぱり軽い人だな、自意識過剰というか・・・・
私には最も苦手なタイプだな・・・・という印象を受けた。


「ちょっと・・・失礼します」
アツシの傍にいるのがしんどくなって私は、化粧室に立った。
それと同時にバッグの中のケータイが鳴った。
化粧室でオフィスで未だ残業している渡辺チーフからのメールだった。


「礼子先輩、すみません・・・・
渡辺チーフから戻ってくるように催促メール来ちゃいました」
「イイわよ~美晴、フェニックスの件でしょう?
ここはイイから戻りなさいね」
「はい・・・少し仕事が残っているので」
「それに・・・・剛クン、えっとぉ
渡辺チーフがブッちぎれても嫌だしね」
「ええ、ブッちぎれるんですか?」
「そうよ~~!!手に負えないくらいね!」
「すみません、これで失礼します」

茶目っ気たっぷりの表情で話す礼子先輩や
他に人達に軽く会釈してその場から離れた。

礼子先輩、相変わらずだな~。
渡辺チーフとは付かず離れずの良い関係でお付き合いしているのね。
私にもそんな人が見つかるかな・・・と思いながら足早にオフィスに戻った。
その後ろからアツシが付いてきているとは知らずに。

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約束の時間から1時間近く遅れて、合コンをしているレストランに着いた。
もう既に礼子先輩は半ば出来上がった状態で・・・・。
お酒が弱いのに、お酒の席が大好きな先輩。

「美晴っ!!おっそーーーーい!!もう始まっちゃってるよ」
「遅れてごめんなさい、STプロモーションの山本です。」
「美晴は遅れたから、もうそこの席しか開いていないよ~~」
「あっ、ハイ、いいです、ここで・・・
(ここなら出やすいしね、先輩ったら出やすい場所ちゃんと用意しておいてくれたんだ)」

そう言いながら、端っこの席に座った。
ここって・・・みんなのこと見渡せる結構イイ席かも。
私は少し残してきた仕事の事を気にしつつ、席に着いた。

すぐ隣にいた男性が話し掛けてきた。
そして後から来た私のためにテキパキと注文をしようとしている。
そうこの人が井上篤(いのうえ あつし)

「山本さんだっけ?・・・・何飲む?適当に頼もうか?」
「実は・・・まだ仕事が終わっていなくて。もう少ししたら
オフィスに戻らなくてはいけないんです。・・・・できれば
ソフトドリンク系・・・えっと、アイス・ティにしてください。」
「仕事熱心なんだね~~。俺、仕事をバリバリやる女性って素敵だと思うよ」
「そうですか?でも仕事を任されていれば当然じゃないですか?」
「格好いいよね!大手プロダクションのキャリアウーマンって感じで・・・」
「そんなことないですよ・・・(なんか違うな~~軽い人だわ)」

合コンという場に慣れていない所為か、
それともすぐ隣にいる男性に対してなのか
私には違和感を感じる雰囲気だった。

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その日は、朝からついていなかった。
目覚まし時計は、夜中に電池が切れ出社時間ギリギリで起床した。
着替えてから部屋から出ようとしたとき、
階段のところで5歳年上の姉と鉢合わせになり
姉の持っているバッグの金具が私の足に当たり見事なデンセンを作った。
即行ストッキングを履き替え、朝食を横目で見ながら母特製の野菜ジュースだけ飲み
そして最寄駅まで猛ダッシュ!!

いつも乗る地下鉄にはどうにか間に合ったのも束の間、
混んだ電車の中で走行中の揺れで私の方に乗客が雪崩込んで
足を踏ん張り損ねて足を捻ってしまった。
それもどうにかやり過ごし、下車駅の改札口でももう一度足を捻って転びそうになった。
挙句お気に入りのパンプスのヒールが折れてしまうという。
とりあえず職場ではサンダルを履いているので
それに履き替え昼休みには近くの百貨店で靴を買いに行くことにした。

でも忙しさは尋常ではなく・・・・昼食を摂るのも儘ならないほどで、
結局スタイリストをしている姉に頼んで私物の靴を借りることにした。



「美晴ちゃん、今夜合コンがあるのだけれど・・・ちょっとメンバーが足りないから
今度デザートバイキング奢るから出てくれない?」

3年先輩の同じ庶務課の礼子先輩からの頼み。
いつも何かとフォローしてもらっているから断りきれなくて・・・・。

「ハイ、わかりました・・・でもちょっと約束時間には間に合いそうにありませんがいいですか?」
「良いわよ!出てくれればOK!OK!1~2時間そこにいてくれればもう『ドロン』していいからね」
「・・・・・・礼子先輩、『ドロン』ってもう死語ですよ~~~」
「あら?そう?・・・ごめんね、もうオヤジ化しているのかもね」
「・・・・礼子先輩・・・それでいいんですか?」
「良いの、良いの♪若ぶっていても所詮私は『昭和』生まれだもの~~」


こんなやりとりがあってかなり気が進まないが合コンに出ることにした。

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「こないだは散々恥を掻かせてくれたな!もういい、別れてやる!
別れてから縋り付いても、もう知らないからな!!」

ケータイの留守電に周りの喧騒と共にアツシからの怒鳴り声の文句が入っていた。
これに気が付いたのは、着信があってから丸2日後のこと。
実は2日前から仕事に忙殺されていてケータイをチェックする暇も無かった。
そして1日前は朝一で打ち合わせがあったので、
すぐにマナーモードにしてそのままチェックする間もなく電池切れになってしまった。
で、帰宅後すぐ充電器に置いた途端着信履歴のメッセージ。


久しぶりに余裕で退社して、上機嫌で大学時代の女友達と食事して
他愛もない話に花が咲いて、近々仲間の結婚式で再会を約束して
家族ともその日中に会えたと言うのに。

そもそも私とアツシは付き合っていたのかな?
ううん、少なくとも私は付き合っていたという自覚は無かった・・・かも。
だって、私は・・・・。


アツシと初めて会ったのは、職場関係の合コン。
それもその日は、私は人数合わせ要員だった。

Page.85

皆様、こんばんは。

明後日より、家族旅行後そのまま夫@実家へ帰省します。
なので、暫くの間ネット落ちします。

16日には帰宅しますが、果たして1台しかないPCの前に座れるかどうか・・・?
新たなる連載は18日からUPし始められたら良いな~~と考えています。
また、お付き合いいただけたら嬉しいです。
宜しくお願いします。


       
            紫苑あかね拝


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※漫画「王家の紋章」に登場するキャラを題材にしました



この世界に迷い込んでしまったわたし
初めて朝陽の中であなたを見たの

あなたの宮に連れて来られて
恐怖に慄き震えているわたしの姿は
あなたの瞳の中にどう映ったの?

復讐のために浚われて行った
わたしのために戦争をおこした
その戦場はあなたの瞳にはどう映ったの?

暗い地下牢の中で再びあなたに逢えた時
喜びで心が震えたわ
仄かな明かりの中であなたはわたしを見つけてくれた

愛に満ちた瞳でわたしを見つめ
力強い腕で暖かい胸に優しく抱き締めてくれた
もうこれ以上何も望まない

あなたの瞳にわたしが映っていられるのなら
ううん、それだけが私の望みなの
今の私は、あなたの瞳にどう映っているのかしら?
あなたへの愛が溢れている私が映っていることを望むわ

愛しているわ・・・・あなたを永久に

Page.83

皆様、こんにちは。

『ハ・ツ・コ・イ!?』の番外編として広子ちゃんの親友
愛子ちゃんの『初恋』を短編を書きました。
楽しんでいただけたでしょうか?

我が家の長女が一部モデルとなっているため
キャラ設定等作りやすかったです。
将来我が子がこんな甘酸っぱい恋をするのか・・・?
それも将来の『心の種』になってくれれば良いわ♪と思う私です。

それから彼らのその後をシリーズ化!?(←するのか?<マジで??)して
今後、単発的お話を書くことも検討しております。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。




            紫苑あかね拝





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ヒロちゃんたちが帰ってしまってから小1時間経ってしまった。
逸る気持ちを抑えながら、両親と共にヴァイオリンの先生に挨拶をし私服に着替えた。
父親が「一緒に帰ろう」と頻りに誘うのを
友達が待っているから」と説き伏せて足早に彼が待つロビーに急いだ。
地下1階にある控え室からロビーまで一気に階段を駆け上がった。
体力測定のシャトルランをしたときよりも速いと感じたくらい。


ロビーにはもう誰もいなくて・・・・
出口近くのベンチ座っていた彼は陽が傾きかけた外を眺めていた。
私の気配を感じたのかサッと振り向いた。

「お・・・・お待たせしまた」
「待たせられたよ・・・・」
「あの、ごめんなさい・・・・」
「いや、いいよ・・・・好きな子を待つのは楽しいものだから」
「えっとぉ・・・・あのぉ・・・・」
「どうして困っているの?ふふふ・・・愛子ちゃんは可愛いな~~~♪」
「彰典先輩ったら!!もう!!」
「膨れた顔も可愛いな♪」
「やだ!もうっ!!」
「ごめん、ごめん!もうからかわないよ」
むくれて後ろを向こうとしたとき素早くベンチから立ち上がった先輩に後ろから抱き締められた。
長身の彰典先輩の顎の下より私の身長は満たなくて・・・胸の中にすっぽり納まるようだった。
心臓が口から飛び出しそうになるくらいドキッとした。

「さっきの演奏、北山さん以上に俺のほうが感動した。
音楽で心を震わされることって今まで無かった』
「それほど・・・・?」
「うん、感動したと同時に俺の好きな子が・・・・
あんなに凄い演奏していると誇らしい気持ちにもなった」
「・・・・ありがとうございます。
あの時、演奏している時、彰典先輩を想いながら弾いていました」
「そうなの?嬉しいよ・・・・」
「私も・・・・嬉しいです」

彼の胸の中でゆっくり向かい合わせになって恥ずかしいけれど顔を上げたとき
夕日に照らされた先輩の顔は見たこともない優しい顔をしていた。
私の髪を何度も梳いて顔をジッと見つめていた。
今なら・・・・今なら、言える・・・・そう思った時、言葉が吐いて出た。
「私、彰典先輩のこと大好きです。私の全部を受け止めてくれている先輩が大好き。
来年卒業されるけれど・・・それでも傍にいたいです・・・・」
あまりの恥ずかしさに顔を見ていられなくなって・・・・・。
でも彼は俯くことを許してくれず、一瞬「信じられない!?」という面持ちになったが
自分が見上げるように私を掬い上げるように抱き上げた。
「ありがとう・・・愛子ちゃん、俺も大好きだ・・・・いや、この気持ちは多分、愛している」
「彰典・・・・せん・・・ぱ・・・」
言い終わらないうちに私は彼の腕の中で力強く抱き締められて優しいキスをされた。



私の初恋・・・・。
大事に大事に育んでいこう。
これからも落ち込んだり、壁にぶつかったり・・・・
色々楽しいことばかりじゃないけれどきっと大丈夫。
彼が傍にいてくれたら、私も彼の傍にいたいから・・・・ずっとずっと手を繋いでいく。



             
               
                 -おわりー

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明けて今日は発表会。
昨日の午後の部活は結局早退する形で、お弁当を食べた後帰宅した。
今日のことは顧問の先生にも話をしていたので、
あれこれ聞かれずにすんなりと下校することが出来た。
午後少し回ってから帰宅したので、母親は少々驚いていた。
それでも発表会の前日ということもあって、特に母からも色々聞かれることはなかった。
夕方まで母にピアノ伴奏を付き合ってもらい仕上げの練習をした。
曲目はリスト作曲『愛の夢』、母が大好きな曲で確か携帯電話の着信もコレだったような・・・・。

夕方、ヒロちゃんから激励の電話を貰った。
「緊張は充分にほぐれたようだね~~」と意味深発言をしていて・・・
結局、私は最大の緊張の原因とその他諸々のことを白状してしまった。
「やっぱりね~~~あれから雄輝とも話していたんだよ、絶対に愛ちゃんは東野先輩が好きだってね」
「ヒロちゃん、気が付いていたの?いつから?」
「えっとぉ・・・・あたしと陸上部の見学によく行くようになってからかな~~?」
「・・・・・・・・・」
「確信したのは、あたしが怪我した後から位からかな~~」
「・・・・ヒロちゃん達、す、鋭い・・・・デス」
「お褒めに預かり光栄です♪」
「でも・・・良かったね。両思いになって!!先輩も想い続けて何年!?だったんだもんね~~」
「そ、そ、そんなことまで知っているの??」
「ええ、こちらには『西雄輝』という優秀な諜報員を抱えていますから~~~」
「完敗です・・・・」
「やった~~~!!!」
その言葉にお互い弾けるように笑った。
ヒロちゃんのお陰で発表会前日の緊張がかなり和らいだ。


そして・・・・演奏は我ながらかなり上手に出来たと思う。
程よい緊張感の中、彼を・・・彰典先輩を想いながら演奏した。
弾き終わった時今までに無い充足感に満たされた。

控え室に色とりどりのバラの花束を持って彰典先輩と
可愛い花かごを持ってヒロちゃんと西君が来てくれた。
「愛ちゃ~~~ん!!あたし感動しちゃって~~~涙が止まらなかったの~~~」
「ヒロちゃんったら~~大袈裟な~~~!!」
「ううん、繊細な音色が心に響いてね~~~愛ちゃん、素敵な演奏を聴かせてくれてありがとうね
そして発表会おめでとう」
私は3人からそれぞれ賞賛の言葉とお花を貰った。
ヒロちゃんの瞳にはまだ感動の名残が煌いていた。
私達のやりとりを彰典先輩と西君は一歩引いたところで、お互い笑いながら眺めていた。
「愛ちゃん、これでもう帰れるの?」
「ううん、これから両親と先生にご挨拶してから着替えてからかな~~~?」
「そっか・・・・じゃぁ、もう少し掛かるね・・・・」
「じゃぁ、俺らは先に帰るよ」
「今日は忙しい中、来て貰ってありがとう。先輩も・・・・ありがとうございます」
ヒロちゃん、西君、彰典先輩の順でドアに向かった。

「ロビーで待っているから・・・・」通り過ぎる一瞬耳元で彼が小声で耳打ちした。
私にだけ聞こえるくらいの小さな声で、少し掠れているようにも聞こえた。

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「愛ちゃん、気分悪いの?保健室行く?って言っても夏休み中だから養護の先生いないよね?
部活、午後は休む?大丈夫?ねぇ、愛ちゃん?」
小学校1年生の時と同じように必死に私を気遣うヒロちゃん。
その場の雰囲気が沈みこんでいくようで。
それに構わず、西君はヒロちゃんの持ち物をさっさと片付けて「北山、あとは先輩に・・・」と言い
状況を把握していないヒロちゃんを半ば強引に教室から連れ出してしまった。


教室には、東野先輩と俯いたままの私だけで・・・・
エアコンの機械的な音が静かに教室に響いているだけだった。
「どうした?明日のことで緊張しているのか?
それと・・・妙なこと考えていたんだろう?」
「・・・・・・・・」
「言い当ててあげようか?」
「・・・・・・明日のことは緊張しています、それだけです・・・・」
「ふうん、それだけかな?愛子ちゃん?」
俯いて髪の毛が顔に掛かっているのを、先輩は私の左耳に掛けるように髪を梳いた。
その仕草にちょっとびっくりして顔を上げたら、目の前に優しく微笑む先輩がいた。
「・・・・・先輩」
「愛子ちゃん、2人でいる時は出来れば名前で呼んで欲しい・・・・」
「彰典・・・・先輩・・・・でイイですか?」
「いいよ、ちょっと待って、また俯かないで、もう一つの理由は?」
「言わなくちゃいけませんか?」
「うん!聞きたいっ!是非聞きたいな~~」
そう答える彰典先輩は明らかに理由をわかっていて、私の口から言わせたい確信犯的な笑顔があった。

「ヒロちゃんが持って来たゼリーを美味しいって言う、彰典先輩が嬉しそうで・・・・
私が作ったものじゃないのになんだか嬉しそうで・・・・おかしな話なんですけれど
またヒロちゃんの嫉妬しちゃって・・・」
「やっぱりね、愛子ちゃんはすぐに顔に出るからわかりやすいよ」
「こんな自分・・・・ダメです」
「ダメじゃないよ、俺のことを想っているから北山さんにそういう気持ちを抱くのもわかるよ」
「そうなんですか?」
「俺だって、こないだ校門のところで・・・・
君が3年のオケ部の男子と話しているだけで殴りかかりそうになったくらいだから」
「あれは・・・違います・・・・部活のことで話していて・・・・
でもあの時、ヒロちゃんと一緒に彰典先輩が西君に羽交い絞めになっているのを
見ていましたが、そんなことになっているとは思いませんでした・・・・」
「お互いを想っていれば・・・・そう感じるものだろう?」
そう言われて恥ずかしくなって私は思わず俯こうとしたが、
そのまえに彰典先輩に顎を下から掬い上げられるように捉えられてしまった。
「自惚れてもイイかな?
愛子ちゃんはあれから俺を『気になる人以上』として見ていてくれていると思っていいのかな?」
「はい・・・・」

彰典先輩の言葉が魔法のように私の心を素直にさせてしまった。
私の返事を聞いた彼は一瞬眼を細めた。
そして眩しいものを見るような顔をして、顎を捉えたまま私の頬にそっと唇を寄せた。
囁くように「好きだ」と言いそのまま顔を少しずらして触れるような口づけをした。


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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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