2008 / 09
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フェニックスのコンサート最終日が明後日と明々後日となった。
私は・・・意識回復してから諸々の検査があったが5日後に退院して自宅へ戻った。
仕事の方は暫く休むことにし、今後のことは身体と相談しながら決めていこうと思っている。
本当のところ、日没後の一人歩きがまだ怖いところがる。
アツシの所為でトラウマになってしまったようである。
でも、嫌なことだけではなくて・・・・・
アツシが強行手段に及んでくれたお陰で、私と隆臣さんとの絆が深まった。
お互いを信じあえる大切な存在になった。


そんなことを思いながら・・・・
朝から庭の花々の手入れに精を出している母をソファに座りながら眺めていた。
ラジオのFM放送からフェニックスの最新情報が流れてきている。
DJの女性はお喋りがとても上手で聞くとはなしに聞いていても思わず笑ってしまう。
「そんな風に笑えるようになったんだね?美晴」
庭先に隆臣さんが立っていた。
リビングに面したウッドデッキまで私はスリッパのまま出て来て、
隆臣さんとほぼ同じ背の高さになった。

「ど、どうして?いつ戻ってきたの?コンサートは?」
「『どうして』というのは美晴に一刻も早く会いたかったら、
『いつ』というのは今戻ってきたばかり、ただいま!
『コンサートは?』というのは今日は移動日だから無いよ」
「そうなんだ!お帰りなさい」
「・・・美晴、それだけ?もっと他に無いの?」
「えっとぉ・・・他にですか?う~~~ん、何だろう・・・」
「まぁ、いいや!こういうことをして欲しかったんだよね♪」

ウッドデッキの柵越しに美晴を抱き締めて、頬に大きな音をたててキスをした。
美晴は顔を赤らめて・・・彼の耳元で「お帰りなさい、凄く会いたかった」と囁いた。
庭で相変わらず母が花の手入れしているのもお構い無しに隆臣さんは私の唇を求めた。
「あなた達、いい加減に部屋に入りなさい。ここの花たちにはちょっと刺激的だわよ~~」
こんな陽気な母の発言に2人顔を見合わせて、同時に噴出し心から笑った。

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「おにいちゃん、ピアノとっても上手なんだね」
「美晴ちゃんだっけ?大悟先輩の妹さんだよね、何年生?」
「みはるは・・・ううん、あたしは1年生」
「美晴ちゃんは、ピアノ習っているの?さっき上手に弾いていたね」
「おにいちゃんの方がず―――っと上手だったよ。ピアノの先生みたいだった。
さっき弾いた曲はなんていう曲なの?すっごくきれいだった・・・あたし、あんな曲好き」
「・・・・あの曲は、自分で作ったんだ」
「すご~~~い!!!あんなきれいな曲作れるなんて・・・・どうしたら作れるの?」
「きれいなことや好きなことを考えて、それにあった音をつなげると曲になるんだよ」
「ふ~~ん、おにいちゃんの『好きなこと』って何?」
「それはね・・・・」
「うふふふ・・・・そうなんだ~~~じゃぁ、いつかあたしのために曲を作ってくれる?」
「うん、いいよ・・・・」
「約束だからね、隆臣おにいちゃん」


フェニックスのコンサートを収録したMDを
常に私の耳元で流していたという。
丸4日間意識不明だったが、私は徐々に覚醒していった。
最初に目に飛び込んできたのは・・・・
心配で倒れる寸前の母の青い顔と憔悴しきっている父の顔。

意識回復する直前まで見ていた夢・・・。
幼い頃、隆臣さんと出会った頃の夢。
以前車中で聞いた彼が作った曲が耳に心地好く流れ込んできて・・・。
そんなことがあったと思い出した。
「たか・・・お・・・み・・・さん・・・は?」喉から搾り出すように彼の安否を聞いた。
彼は無事でコンサートツアーを滞りなくこなしている事を確認し安堵した。


病室から最終コンサート会場が見える。
上体を起し、なるべく小さな音でフェニックスのMDを聞いている。
私の担当の看護士さんも大ファンだという。
ゴシップ誌の件もファンとして少なからずショックだったという。
その後、彼が雑誌の取材に応じあの記事は事実無根ということ。
心に決めた女性がいるということをはっきり話していた。
「そんな潔いリュウの男気に更にファンになった。その想われている女性は幸せね。
ちょっぴり妬けるけど、あのリュウが惚れた女性だから・・・きっと素敵な人よ」
と、私に面向かって・・・もちろんその女性が私だということも知らずに話していた。
照れくさかったけれど・・・嬉しかった。

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朝日が降りそそぐ明るい美晴の病室。アツシに襲われてから早3日目。

「お母さん、美晴の様子は?」
「頭を固いもので殴られているから念のため精密検査したけれど
・・・異常はないみたいよ」
「そうか・・・・まずは安心だね。でもまだ意識が戻らないのか?」
「ええ、外傷は大した事無いらしいのだけれど・・・
メンタル面でそうとうまいっているみたいで・・・」
「やっぱり、例の一件が尾を引いているのか!?」
「それも原因の一つかもしれないけれど、
恐らく彼が傍にいない所為もあるんじゃないかしら」
「そっか・・・でもこればっかりどうしようもないよな」
「そうね、仕方がないわね」
「そういえば、美晴を襲ったヤツだけれど・・・ストーカー紛いのことをしていたらしい。
合コンで知り合った女の子数人に付きまとっていたらしいし、
大手の広告代理店の経営者の後継者なのに残念だよ」
「そう・・・・」
「じゃぁ、俺、事後処理に美晴の会社に行かなくちゃいけないから・・・
あっ!それと・・・美晴はこのまま退職させる?」
「その件は美晴の意識が戻ったら・・・本人に決めさせましょう。じゃぁ、大悟、あと宜しくね」
「わかった、じゃ、行って来ます」


『みはるおばちゃまへ
はやく、あたまのいたいのがなおりますように!
げんきになったらいっしょにあそんでね   みつき・さつき』

姪っ子達からカワイイお見舞いのお手紙を美晴のベッドの近くに貼り付けた母は・・・
「みぃちゃんもさっちゃんも心配しているのよ。
日頃寝不足とはいえ・・・こんなに眠ればもう充分でしょう。
そろそろ目を覚ましてちょうだい。美晴・・・・」
幼い子どもにするように前髪を優しくかき上げながら
母親は、優しい声で意識回復を促すように何度も話しかけた。

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頭が酷く痛い。
風邪のひき始めみたいな痛みとちょっと違う感じ。
どちらかといえば・・・体育の時間にドッジボールをしていて
それが思いっきり後頭部にヒットした感じの痛み。
遠くで隆臣さんの声が聞こえる。
どうして切羽詰った声で私を呼ぶの?
私は・・・ここにいるのに。
あなたの手の温もりを感じながら・・・私はまた意識の底に沈み始めた。


病室で隆臣は美晴の母親に謝罪した。
「こんなことになって・・・申し訳ありません」
「隆臣君の所為じゃないから・・・気にしないで・・・
それより美晴にも隙があったのかもしれないわ」
「いいえっ!それは断じてありませんっ!
お義母さん、最初の時にきちんと処理していれば・・・
こんなおおごとにはならなかったはずです」
「あまり・・・自分を責めないで・・・それにあなたはまだツアー中ででしょう?
美晴のことが気になるのはわかるけれど・・・
あなたを待っているメンバーや多くのファンがいるでしょう。
ここは私達に任せて・・・あなたは・・・戻りなさい」
「でも・・・」
「美晴は『椎名隆臣』さんも『フェニックスのリュウ』さんも
全部ひっくるめて信じているのよ」
「お義母さん・・・」
「そしてあの子なりに一生懸命あなたを愛しているんだと思うの。
今のグズグズとしているあなたを見て・・・がっかりしてしまうわ
あの子のためにも自分のいるべき場所に戻りなさい」
「・・・・・わかりました」

長い時間繋いでいた手を離し、その手で美晴の頬を愛しそうに撫でた。
「美晴、行って来るね。俺は君のために演奏するよ・・・・愛しているから・・・」
美晴の意識回復の願いを込めて、隆臣は眠り姫の如く美晴の唇に優しいキスをおとした。

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「やめろっ!!美晴を放せっ!!一度で懲りていないのか!?」
通りに響き渡る大きな声と共に私はアツシからの拘束から解放された。
「隆臣さんっ!?」
「美晴、大丈夫?また同じようなことやられたの・・?怪我はしていない?」
「どうして・・・ここに?」
アツシから庇うように隆臣さんが、私の前に立ちはだかった。

「この野郎!お前の所為で僕はっ、僕はっ!!」
「自分で蒔いた種だろう・・・?もう大人なんだから自分でどうにかしろっ!!」
「僕のオヤジに言えば、お前なんて潰すのは簡単なことだっ!!」
「そんな脅しは効かない。仮に出来るとしても・・・
そんなことで俺は動じないっ!やれるものならやってみろっ!!」
その言葉がアツシの攻撃力に拍車を掛けてしまった。

「うぉぉぉぉっ!!この野郎っ!!!」
「キャ――――ッ!!危ないッ!!!」

全てがスローモーションに見えた。
アツシがケータイを持っているほうの拳で隆臣さんに殴りかかって来た。
『彼が傷つけられる!』と思ったら衝動的に体が動いた。
彼とアツシの間に入り込むようにアツシの拳から守ろうとした。
驚いたように目を見張る隆臣さんの顔が見えたとき、
鈍い音共に後頭部に鋭い痛みを感じた。
目の前に星が散るって・・・本当にあるのね・・・・って思ったけれど、
私の意識はあっと言う間に暗闇に飲み込まれていった。
「た・・・かお・・・・さぁ・・・・ぶじ・・・?」こう言ったかどうかは定かではないが・・・。

「美晴ッ!!美晴―――――ッ!!」
「リュウッ!?どうした?美晴ちゃん?どうしたんだ?」
「ぼ・・・僕は・・・・そんな・・・・」

退社するため通用口から出てきた渡辺チーフが驚いて近づいて来た。
ことの重大さを瞬時に把握し、直ちに通用口に常駐している警備員を呼びアツシを取り押さえた。
ケータイで殴られた際、ストラップで引っ掛けられたのであろう
美晴のこめかみのところから血が流れていた。

「美晴!?美晴!しっかりしろ・・・・渡辺チーフ救急車お願いしますっ」
「おうっ!警備員室から通報してもらった、じきに到着するはずだから・・・
美晴ちゃん・・・なんでこんなことに・・・」
隆臣は美晴を抱きながら冷たい視線の先にアツシを捉えていた。
「美晴に・・・何かあったら・・・決して俺はお前を許さないっ!!!」

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フェニックスのコンサートツアーが始まって1週間程。
隆臣さん元気かな?・・・きっと元気よね?
昨日お姉ちゃんが同行先から一時期帰宅したし、それにメールは毎日送受信しているし。
ゴシップ誌に例の一件が掲載されてから、ワイドショーでも話題にのぼったりしていた。
「2人がお互いをしっかり信じあっていれば、何が起こっても大丈夫よ!揺らいだらダメ!
ここが美晴の踏んばりどころだと思いなさい」ってお姉ちゃんのアドバイスでかなり落ち着いた。
誰に何言われても・・・私は彼を信じている。
彼を愛しているから・・・・一緒に生きていこうと決めたから・・・もう大丈夫。
そんなことを感じ始めた頃・・・・。


その日も定時には退社できず今夜も
夕食は両親の視線を感じつつ1人ダイニングで済ませるのかな~
などと思いながら通用口を通り、通りに出ようとしたところで会いたくない人と遭遇した。


―――――イノウエアツシ


私にとって『怖い』という感情を、無理矢理植えつけさせた人物。
二つ折れのケータイをパタパタさせながら少し嘲笑うように立っていた。

「久し振りだな?元気か?僕の電話に全然出てくれないんだね?」
「アツシ・・・何か用?」
「用がなかったら話しかけたらいけないのかな?いつかの『王子様』はいないのか?
あぁ・・・そういえばアイツは今こっちにいないんだったね」
「・・・・・・・・」
「僕はアイツのせいでオヤジにこっ酷く叱られて散々な目に遭ったんだ。
将来はオヤジの跡を継いで経営者側になる俺を・・・
『今後一切、そういうチャンスをめぐり合わせることは無い』とまで言われたんだ!!」
「そ、そんなこと・・・・」
「兄貴が顧問弁護士らしいな。こないだのも示談にしたらしいが・・・
僕の気がこれで済むと思っているのかよ!!」
「・・・・(示談にしたって言っていたっけ)」
「君は、アイツと付き合っているようなことも聞いたしね。
ふふふ・・・あのネタでアイツとの関係もダメになったか?」
「えっ!?あの一件はアツシがやったの?・・・なんてことをっ!!
それにお父さんに言われたことに関しては当然じゃないのよ!
彼に逆恨みするなんて・・・勘違いも甚だしいわ」
「うるさいっ!!僕に指図するなっ!
君は僕と大人しく付き合っていればこんなことにならなったのに・・・」

じりじりとビルの壁に押し付けらてきて、いつかの時のように私の脳内に警告が鳴り響き始めた。
「あんなヤツやめて僕とまた付き合ってよ・・・」
「嫌―――ッ!!やめてっ!!放して――――ッ!!」

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【フェニックスのリュウ熱愛発覚!?】
『恋の相手は、先ごろ映画主演デビューした女優Aさん、
この恋の行方は!?~情報提供:業界関係者~』

ゴシップ誌にそんな見出しで掲載された。
ここ1ヶ月近く彼には会っていないから・・・・相手は私じゃない。
じゃぁ、誰?誰なの?
『もう限界・・・・でも頑張る・・・』
それが自分自身への応援のつもりで頭も心もぐちゃぐちゃな状態でも
表面上は普通を保って会社と自宅の往復をどうにか続けた。
自宅に帰れば、フェニックスのCDを子守唄に殆ど毎晩枕を濡らし眠った。
「隆臣さん・・・・会いたいよぉ・・・・」そんな言葉も口に出来ないほど
気持ちは落ち込んでいった。


控え室のテーブルを叩き割る勢いで拳で叩いた。
『ガツンッ!!』

「足立さん!!何だよあの雑誌は!?
ガセなのに、出版まで止められなかったんですか?あれじゃ・・・美晴が誤解するっ!」
「美晴ちゃんとは話したのか?」
「いえ・・・っていうか、電話には出てくれないんです。
メールでは『元気』『大丈夫』『コンサート頑張って』の文字は書き込んでいますけど」
「じゃぁ、大丈夫なんじゃないか?それよりお前はコンサートの事を考えていろっ!
両刀は絶対に無理だからな・・・
彼女のとこは、千晴ちゃんやご両親にもフォローしてもらっている。」
「しかし・・・・っくそ!!」
「リュウ!・・・千晴が定期的に電話を掛けているから・・・大丈夫だと思う。」
「ヒロ・・・すまん、だが・・・・」

俺の気持ちは粉々に砕け散りそうなのを、どうにか理性で保っている状態。
確かにあの女優とは2~3度ドラマやバラエティなどの仕事をしたことがあるが、
そんな噂になるほどの仲でもない。
それにその時は2人っきりというシチュエーションはなくて・・・。
業界関係者という情報提供者って一体誰だ!?
ここは美晴のいる東京ではなく・・・地方都市。
コンサートツアーも始まるというのに俺は全てを投げ出してでも美晴の傍にいたいと思った。

「美晴・・・・ごめん、不安にさせて・・・・会いたいっ」
机の上に乗っていた記事の記載されたゴシップ誌を乱暴に手に取り
グシャリと力任せに握り締めた。

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元々病み上がりというわけではなかったが、
週明け出勤したが相変わらずの忙しさで・・・
あっと言う間に疲労困憊の毎日に逆戻りとなった。
定時以降にしか退社出来ない毎日でも穏やかに数日経った頃、
大学の友人達と食事をして上機嫌で帰宅してみれば~~アツシからの留守電。
怒鳴り声で捲くし立てるようなメッセージに驚いたが、
私はこの事も含めて隆臣さんにメールで報告した。

もうじき全国コンサートツアーが始まるから・・・殆ど会えない。
でも毎日数回はメールをし、電話は彼が時間が空いた時に掛かってくる程度。
こうなると姉の仕事が羨ましいな・・・と純粋に思ってくる。
仕事中は出来ないが休憩中にチェックしていると
渡辺チーフや礼子先輩に含み笑いされている。
「美晴は、顔に出るから気をつけるのよ!」と礼子先輩からアドバイスを貰った。

「美晴ちゃん、悪いんだけれど・・・この書類を7階へ持って行ってくれるか?」
ちょっとした用事でも彼らがいるかもしれない!?
というのを見計らってこんなおつかいを1日に2~3度頼む。
もしかしたら?という願いを抱きつつ・・・・・でもコレが会えなくて。
その日遅くに『○時頃、7階に行ったのよ』とメールしても
『その時間は移動中だった』とか
『△時間にいた』とか・・・すれ違いが多くて。
気持ちは真っすぐに隆臣さんには向いていたけれど、
寂しさは募っていって自分でもわからないうちに心の均整が
少しずつ歪んできていたようだった。


その日も渡辺チーフの計らいで7階へ行った時、
あの麻田もえこに会った。

「アンタ、この前のタレントになりたがっている社員でしょう?」
「・・・・おはようございます」
「ふん!この前フェニックスのリュウさんと足立さんとどこに行ったのよ!?
彼らに取り入ってオーディションを有利に勝ち取ろうとしたのかしら?」
「・・・・・・・・・・」
「でもね~この世界、アンタみたいに何の個性もない100人並の子は
リュウさんの目にも留まらないんだからね!!
どうせ、もてあそばれてポイッと捨てられちゃうんだからっ!!」
麻田もえこの言葉は私の心のバランスを乱れさせるには容易かった。

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その間、両親は一歩下がったところで私達のやりとりを眺めていた。
父が4人をソファへ案内し、母がそれそれの娘に話しかけた
「ここで立ち話もなんだから、こっちに掛けなさい」
「千晴は着替えてきなさい。美晴はコーヒーを淹れるから準備してちょうだい。」
男性3人はソファへ、姉は着替えに自室へ行き、私と母はキッチンへ。

「お母さん、さっきのことこういうことだったの?もうっ!知らないのは私だけだったなんて~~」
「あらっ?あなただけじゃないわよ、隆臣君だって知らなかったでしょう?
それに美晴は末っ子特有の自由なところあるし・・・
興味の無いことに関しては徹底的に我関せずのところがあるじゃないの。」
「そうなんだけれどね~~~でもお姉ちゃんがヒロさんとね・・・・全然気が付かなかったわ」
「そう?一応事務所には報告しているのよ・・・
ただもっと華やかな話題の方が先行してゴシップ誌にも載らないんじゃないかしら。」
「そんなことないと思うけど・・・」
「あの2人、四六時中一緒にいるような仲でしょ?
それでも気が付かれないようにしているということは
余程細心の注意を払っているんだと思うわ。その辺りはあなた達も見習わないと!」
「お母さん、ご心配なく!その辺りはこの優しい姉が秘訣を伝授差し上げましてよ♪」
「お姉ちゃん・・・・お願いします・・・・」
姉のおどけた発言に女性3人はコーヒーを淹れながらドッと笑った。


その後、リビングで和気藹々とお喋りをして
明日は午前中からレッスンとその後収録があるからと、
隆臣さんとヒロさんは車で帰って行った。
来週は会社へ出勤することを彼に約束して・・・。

昨日の夜、怖い思いをしたのにも関らず
自分の気持ちが穏やかでいられることに少々驚いている自分がいた。
入浴を済ませ自室に行き、就寝の仕度をしていると隆臣さんからメールが届いた。

『美晴、今日は楽しかった。ありがとう。
まだヒロの車の中だけれどこのままマンションに帰るよ。
あまり無理するなよ、何かあればちょっとしたことでも良いから遠慮せずに連絡しろ。
約束だからな。愛している・・・  -隆臣-』

お風呂上りからだいぶ時間が経つのに耳まで赤くなるのがわかった。
その後、しつこくアツシから何度も着信はあったがもう怖いとは思わなくなった。

Page.114

「ただいま戻りました~~♪」
陽気な姉の声が玄関に響き渡った。
義姉の描いたトールペイントの壁掛け時計は21時を少し回ったところだった。
声に導かれるように母が玄関に姉を迎えた。

「千晴、おかえりなさい、ご飯は?あぁ、やっぱりいらないのね。
あらっ?ご一緒だったの・・・じゃぁ、上がってもらいなさいね。」
母が玄関で姉の連れを迎えているらしい。
私は心が少し不安になり、隆臣さんの手をギュッと握った。
耳元で「大丈夫だから・・・お姉さんの友人だろう?」囁かれて手を繋いだまま、
もう片方の手で肩を撫でてくれた。
それだけの行為だったが、家族以外の人の来訪に敏感になっている
私の心は穏やかになっていった。


「美晴!ただいま。今日はよく休めた?あぁ、リュウさんいたのね?
せっかくのオフなのに出かけないでここにいたの?・・・でも楽しかったみたいね♪」
「オフだから、ここにいるんですよ。千晴さん。美晴の傍でどんなにか俺が癒されるか・・・
千晴さんにわかりますか?」
「あら~~私だってわかるわよ~~そりゃぁ、好きな人が傍にいれば癒されるわよね。
ましてや多忙極まりない売れっ子タレントなら尚更よね、ねっ?ヒロ?」
「「ヒロ――――――ッ!?」」
「こんばんは、ご両人♪♪」

姉に促されて入ってきたのは・・・・フェニックスのベースのヒロさん。
長身の彼が颯爽とリビングに入ってきた。

「おいっ!2人共なんて顔しているんだよっ!!
そんなに見つめるなよ~~~照れるじゃねぇか。
それとも俺のこの美貌に見惚れたか?リュウ!!」
「なんで・・・ヒロ・・・?」
「リュウを迎えに来ました!・・・というのは付け足しの用事。
本当の理由は俺の婚約者の山本千晴ちゃんとのデートの後、自宅に送り届けたってわけ。
美晴ちゃんには、改めて自己紹介を・・・『城戸宏典(きどひろのり)』です。
こんなカワイイ義妹ができるなんて嬉しいよ♪それと・・・義弟よ、宜しくな!!」
「「婚約者~~~~!?」」

ヒロさんは隆臣さんの肩を「ポンポン」と軽く叩きながら、
私にはウィンクして、姉に腕を突っつかれていた。
私と隆臣さんは事態がよく飲み込めてない状態で
お互い手を繋いだまま呆然と事の成り行きを見守っていた。

Page.113

母が帰宅するまでDVDを観たり、フェニックスの活動の話しをしたり過ごした。
DVDは・・・・アニメ映画。
隆臣さんは無類のアニメファンでコレを語り出したらキリがないくらい。
『アニメは日本の文化だ!』『後世に残すべき文化遺産だ!!』と熱く語っていた。
そういえば・・・昔、動物を題材にしたアニメを見て最終回で号泣してしまったらしい。
未だにそのアニメの最終回はまともに見られないとか・・・。
全然変わらないんだわ~と、嬉しくなった。


姉は夕食がいらないということで、両親と私と彼と4人で夕食となった。
久し振りの家族団らんに隆臣さんがいて、母の手料理がより美味しく感じた。
食後母が買ってきたデパ地下の有名スイーツでお茶を飲み、
私は母と片付けをし、父と彼は話があるとかで父の書斎へ行ってしまった。

「美晴、今日はゆっくり出来たの?」
「うん、ほんとうにのんびりさせてもらっちゃったわ」
「そういえば・・・お掃除してくれたのね?ありがとう・・・・」
「ええ、もう朝のうちのお風呂場とトイレはお母さんが済ませていると思ったけれど・・・
勢いでやっちゃったの、えへへ・・・」
「うふふふ・・・相変わらずね~小さい頃からあなたは気持ちを落ち着かせるために
よく片付けや掃除をする癖があったのよね?お父さんに似ているのかしら?」
「そうなの!?」
「そうよ・・・だからねお父さんが書斎や庭の物置の片付けを
始めたら『何かにイライラしている』と思えば良いのよ」
「ふ~~ん、そうなんだ・・・覚えておくね」
「美晴はそんなお父さんのことは覚えなくて良いのよ。
それより隆臣君の・・・なんていうか・・・
そういう『癖』を覚えた方が良いわ、今後のためにね・・・(ウィンク☆)」
「お、お母さん!!!」
「だって、そうでしょう?今更何を恥ずかしがっているのよ。
お父さんもお母さんもそのつもりよ。昨夜、彼からきちんと挨拶されたもの。
その話も含めて2人で話してるんじゃないかしら?」
「そ・・・そうなんだ。でもさぁ、お姉ちゃんより先に!という訳にはいかないでしょう?」
「そんな古臭い考えしているの?美晴は・・・。
それに千晴は・・・まぁ、あの子も着々と進めているみたいだし
大丈夫よ。そんなこと気にしないで良いからね」
「『着々と・・・』って?何?・・・
お母さんのその顔は、まだ話してくれないって顔だ―――ッ!!」
「美晴は、自分ことと彼のことを大切に思っていれば良いのよ。
ささっ、あとは・・・お母さんがやっておくから。
ほら、お父さんと隆臣君が戻ってきたわよ」

廊下の方へ視線を向ければ彼の肩を「ポンポン」と叩きながら
満面笑みの父親と照れ笑いの彼がリビングの入ってきた。
彼と視線が合った私は、微笑みながら彼に近づき彼が私の手に大きな手を絡ませた。

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「昨日の今日でよく電話なんか掛けられるな!?・・・美晴は出せない
お前の所為で怖い思いをしたのに・・・どれだけ怖がらせれば気が済むんだ!
これ以上お前と話すことは無い!今後一切美晴に近づくな!!」

その場のものを凍りつかせるような冷たい声で話し、
ケータイの通話を一方的に切った。
隆臣さんは何も言わずアツシからの着信履歴を確認して
留守録も聞かずに全て削除した。
その代わり自分のケータイをパンツの後ろポケットから取り出し、
赤外線で私のプロフィールを自分の方へ送信した。

「隆臣さんのは教えてくれないの?」
「俺のは昨夜、ご両親の許可を貰ってから赤外線で送っているから・・・」
「そうなの・・・それで今朝バッグの中になくてサイドテーブルに置いてあったのね」
「うん・・・でも言わなかったらきっと暫くは気が付いて貰えなかったんだろうなぁ」
隆臣さんは大きな溜息を吐いた。

「またアイツが何か言ってきたら、必ず俺に言えよ!いいな?
自分だけで解決しようとするなよ!
まぁ、会社がらみも含めて下手な動きはしないと思うが・・・・
ちょっと気になるからね」
「うん、わかりました」
「約束だよ・・・」
アイスコーヒーのおかわりを淹れるために私は頷きながら立ち上がった。

「そういえば、隆臣さん、暫くタバコ吸っていないけれど・・・お客様用の灰皿を出しましょうか?」
「俺、タバコは止めたんだ。いつだったか・・・美晴が喫煙者が嫌いと小耳に挟んだから」
「私・・・そんなこと言ったっけ?」
「・・・・言ったんだよ!」
「どうしてそんなにムキになっているの?」
頭を抱えて大きな溜息をつく彼に笑いながら、
おかわりのアイスコーヒーをお盆に載せてテーブルに置いた。

「常に付いていてあげられるわけじゃない、だから尚更心配だし、気を付けてくれっ!!
昨夜のことなのに、もう連絡してくるヤツだから・・・・」
「昨夜のこと・・・・男の人って本当に力が強くて怖いって初めて思ったの。
私にとって近くにいる異性は父や兄・・・・それと『隆臣お兄ちゃん』だけだったから」
「美晴、ここにおいで・・・俺が怖いか?」
「ううん・・・怖くない、それよりずっと傍にいたい、傍にいれば安心できるから・・・
いつか隆臣さんの作った曲聴きたい・・・聴かせてね?」
「美晴・・・」
隆臣さんは私を優しく抱き締め、そっと私の額にキスをした。

Page.111

頬を撫でられてビクッとなった私は思わず名前を呼んだ。

「隆臣お兄ちゃん・・・・」
「そういう風に呼んでくれるのか?・・・でももう『お兄ちゃん』は付けないでくれ。
俺にとって美晴は最初から『妹』ではなかったんだから・・・」
「じゃぁ『リュウさん』の方が良いの?」
「いや・・・・美晴の前では『椎名隆臣』でいたい。どんな時もいつまでも・・・・
俺は、美晴と共に生きたいと思っている。
付き合いたい・・・・いやそれだけじゃないその先も考えている」
「・・・そんなの上手くいかないよ。無理だよ・・・
私は隆臣・・・さんの所属している会社の社員だもん
それにこんなことが会社にわかったら・・・ファンにわかったら・・・・
音楽活動も・・・ううん、芸能活動も出来なくなる」
「そんなこと俺にとっては大した事じゃない。
それより『美晴の笑顔が見られない』『美晴が傷つけられる』『美晴が苦しんでる』
そう考えただけで俺の心は粉々になってしまうんだ。
美晴・・・・初めて会った時から好きだった。」
「隆臣さん・・・・私も・・・好きです・・・・でも・・・・」
「美晴・・・もう『でも』の先は聞かない、俺の傍にいてくれるんだね?」

コクンと頷いて私は、ソファに座っている彼の横に座りなおした。
昨夜足立さんの車の中で凭れかかったように私は、隆臣さんの肩に頭を凭れ掛けた。

「そういえば、どうしてフェニックスの中では『リュウ』って言われているの?」
「あぁ・・・それね、ニックネームを付ける時カイが俺の本名を【シイナリュウジン】って読んだんだよ
で、その時マオが『冷たい感じのお前にちょうど良いんじゃないか?』って」
「ふぅん・・・そうだったのね」
「そのまま『リュウ』と付けられたんだ。そのお陰でこんなに近くにいたのに・・・
美晴には気が付いてもらえなくて・・・・」

片手で目を覆い、泣き真似をする彼を見上げて私は微笑んだ。
それから私が幼い頃のアルバムを数冊持って来て、昔話で盛り上がった。


穏やかに楽しく話している時、サイドテーブルに置いてあるケータイがまた震えた。
それを手に取り私は顔をしかめた。
「誰?」
「いいの・・・」
言い終わらないうちにサブディスプレイの着信者名を見てケータイ私の手から取り上げた。

Page.110

お皿やコップを片付けて自分の部屋へ上がろうとした時、インターホンが鳴った。
TV付きインターホンに映し出したのは
黒いニット帽にサングラスという見るからに怪しい出で立ちの
『オレ』と名乗る背の高い男性だった。
新種の『オレオレ詐欺』!?
なんてくだらない考えが頭の中を過ったが・・・・彼よね?

「どちらさまですか?」
「だから・・・・俺だよ!美晴っ!早くこのデカイ門を開けてくれよ!!」
「名乗ってください。我が家は家族の仕事上、
セキュリティがしっかりしているんです・・・ふふふ・・・」
「笑っていないで、開けろよっ!・・・わかったよ、隆臣だよっ!!!」
「ハイ、今開けますね~~~」

インターホン越しに聞いた隆臣お兄ちゃんの声だけで
私は今朝までとは違い明るい声を出せるようになった。
玄関の鍵を開けて隆臣お兄ちゃんを招き入れる。

「もうっ!早く開けてくれよ!!幼稚園帰りの母親達に変な目で見られただろうがっ!!」
「だって、そんな怪しい格好していれば誰だって見るわよ。この辺りは住宅地なんだもん、
それに何だかコソコソしていれば『不審者』扱いされるわよ」
「・・・ったく、まぁ、いいや、こうして美晴に会えるんだし・・・・それも構わないか」
「でもさぁ、『不審者で~す、この人捕まえてください!!』って言って
帽子とサングラス取ったらフェニックスのリュウさんだったら皆びっくりするよね」
「美晴サン!?・・・俺で遊んでるでしょ?」
「それも見てみたいかも♪あははは・・・」
「『あははは』じゃないっ!それじゃシャレにならんぞっ!!美晴笑いすぎっ!!」
「あぁ、面白い・・・何か飲みますか?アイスコーヒーで良いですか?」

私とリュウさんは、リビングで子どもの頃のようにじゃれ合っていた。
彼が帽子を取りながら頷くのを確認して私は2人分のアイスコーヒーを淹れた。
お盆に小皿に載せたチョコレートとビスケット、
コップを載せてリビングの横長の大きなテーブルに置いた。
彼はソファに座り、私はテーブルの端の床に座った。
そこはいつも母の定位置で座り心地の良い低反発の丸い座布団が置いてある。
何を話すこともなく・・・庭の花々が風に揺れるのをただ眺めていた。


「美晴・・・あれから大丈夫だったか?
美晴が寝ちゃってから暫くは部屋にいたんだけれど
階下で少しご両親と大悟(だいご)先輩と話してから帰ったんだ」
「そう・・・?」
「正直言ってずっと傍についていてあげたかったが・・・
千晴さんもお母さんも『大丈夫だから、でも明日もう一度来て欲しい』と言ったんだ」
「・・・・・そうだったの。でも結構立ち直ってきたの。寝ると回復するみたいね。」
「よく寝たのか?顔色は良いな」
そう言いながら私の頬を長い指でそっと撫でた。

Page.109

翌朝遅くに目が覚めた私は体中が痛かった。
部屋着用のロンTとレギンスで裸足のまま階下へ行くと、
母と姉がダイニングで話しをしていた。
いつもと変わらない様子で母が話し掛けてきた。

「おはよう、美晴。あぁ・・・でももう10時過ぎだから『おそよう』だわね。
食欲はある?野菜ジュースあるわよ、飲む?」
「美晴、今日はお休みにしたわ。
渡辺チーフには・・・事情がわかっているからね」
「おはよう・・・」
「他の人には『風邪で発熱』ということにしたからね。
どうせ木曜日だし今週いっぱい休んじゃえば?」
「・・・・ありがとう・・・お姉ちゃん・・・・でも仕事が・・・・」
「大丈夫よ!渡辺チーフから礼子さんへ伝達されているはずだし。
それは・・・・お互い様よ!」
「う・・・ん」
「それにここのところ殆ど自宅には寝に帰ってきているようなものだったし
今日はのんびり過ごしなさいね」
「うん、そうする・・・・ホントにありがとう・・・・」
「そうそう、忘れるところだったわ・・・午後リュウが来るからね、そのつもりでね~~~♪
さぁて、私は美晴の顔も見られたし・・・・仕事行きますか!
お母さん、私・・・・今夜は遅いと思うからご飯はいらないです~~~」
「千晴(ちはる)あまり遅くならないのよ!お父さんが心配するからね・・・・行ってらっしゃい」

脇においてあった新聞をラックへ片付けながら、姉らしい笑顔で部屋から出て行った。
部屋の仕切りから手だけ出してヒラヒラさせて出勤した。

母が野菜ジュースとフレンチトーストとヨーグルトをダイニングテーブルの上に置いた。
「これくらいなら食べられる?何かお腹に入れないとダメよ!
それからお母さんは、これからお友達と出掛けるけれど・・・
夕方には帰るから留守番お願いね
千晴が言っていたけれど、午後に隆臣君が来るからそのつもりでね。」
「・・・うん、わかった」


私はフレンチトーストの甘い香りを吸い込んでからゆっくり食べ始めた。
姪っ子達が食べるくらいの少量の遅い朝食を摂った。
食器を片付けて、リビングのソファの上にクッションを
抱えたまま庭の花々をぼんやり眺めた。
「♪♪♪♪~~~~♪」
ソファのサイドテーブルに置いてあった私のケータイが鳴った。
着信の名前を見て顔をしかめた・・・・アツシだった。
昨日の今日で、どうして電話なんか出来るのか?と気分が悪くなった。

昨夜、廊下で泣いてしまってから自分のバッグはそこに置きっ放しで
姉がバッグをリビングに置いておいてくれたのだろう。
『でも・・・どうしてケータイだけがサイドテーブルに置いてあるの?』
という疑問がふと頭に浮かんだが、色々考える力があるほど精神も元気ではなかった。

クッションを抱えたまま私はそのまま眠ってしまっていたようで・・・・
町内の児童公園から12時を知らせるチャイムが遠くに聞こえた。
ダイニングの方に置いてある小さいテレビのスイッチを入れたところ
未来堂で制作したフェニックス出演のCMが流れた。
更に言葉に出来ないもやもやとした気持ちが湧き上がり即座にスイッチを切った。
サイドテーブルのケータイはマナーモードになっていて
時折テーブルのガラス面をカタカタ震わせている。

喉が渇いたので冷蔵庫から麦茶を取り出し、
ガラスのコップに淹れてキッチンで一気に飲み干した。
少し気持ちがしゃっきりとした。
納戸から掃除機を取って来て、
おもむろにリビングから始まって両親と姉以外の部屋を掃除し始めた。
今朝母が既に済ませているであろうトイレもお風呂も掃除した。
その後、少しお腹が空いたのでクラッカーにチーズやジャムを
乗せて食べ熱い紅茶を2杯飲んだ。
そうして気持ちが徐々に穏やかになっていった。

Page.108

【本棚バトン】なるものを
緋沙子さんより受け取りました。
ではでは、いってみよ~~~!!!おぉぉ~~~!!!




◆あなたの本棚にある恥ずかしい本は?
恥ずかしいっ!?
ここで言うのぉ~~~??(←殴)

①HQコミックや元祖?少女漫画等々。。。
②昔、同人誌やっていた頃の小冊子。
③大学時代に自分で描いた絵本。

②と③は封印したはずなのに・・・・何故か本棚ある。
誰かがこの家に引越ししてきた時に発掘したと思います。
<だ~れ~!?



◆あなたの本棚にある自慢できる本は?
自慢できるのか!?
ジャンル様々かも。。。

①天璋院篤姫
②王家の紋章(コミック)@全巻初版

①は実母より回ってきたもの。
②は小学生の頃から集めています。そしてまだ雑誌連載中なり~~。

実家両親共に本好きで、読まなくなった本を宅配便で送り付けられること度々。
でもね~趣味が合わないとなかなか手を付けられないです。
貴重な本もあったりして・・・。



◆あなたの本棚にある手放したいのにいつまでもある本は?
『たまひよシリーズ』
 育児百科・病気百科・離乳食百科・赤ちゃんの名前付け百科

我が家のお子達はもうたまひよ時期はすっかり卒業して
2人とも小学生なり。
下の子はともかくとして、上の子は来年中学生。
只今反抗期中なり~~~。
彼らの取扱説明書か反抗期百科(!?)でもあれば重宝します!!!



◆あなたの本棚にある、あなたが頻繁に読み返す本は?
HQのヒストリカル系やシークもの

ストーリーを全部わかっていても同じ箇所で萌え~♪
大人系表現からさり気ない感じのものとか
全く挿絵の無い状態なので脳内で妄想が暴走しそうです(爆)
色々な意味で執筆の参考になります。
とにかくラブラブ・ロマンスが疲れた心を癒してくれます。

先日、友人にノーリターン(笑)で沢山譲り受けていただきました。
読み返しすぎて、ちょっと汚れてしまったものもあったりして。
これからも増殖現在進行形です♪♪



◆本棚の中を見てみたい5人にバトンをまわしてください。
こちらのブログでは知り合いがいなかったですが・・・
リンクをお願いしている方々に・・・

レモンさん、ミルキー・ポピンズさん
ウセルアンクさん、竹内ママさん、く~たんママさん(Mikkoの日記@お友達)
是非、宜しくお願いします~~。

 


Page.107

廊下で泣きだしてしまった私に気が付いて、
リビングにいた隆臣お兄ちゃんが私をそっと抱き締めた。
「美晴、もう大丈夫だよ・・・怖かったんだね」
「美晴、動揺しないで・・・
リュウさん、悪いけど・・・美晴をこのまま彼女の部屋へ連れて行ってくれる?
部屋の位置は昔と変わらない一番東側なの」

姉が機転を利かせて私を部屋へ行くように促した。
半ば隆臣お兄ちゃんに支えられるようにL字型の階段を登り、
上がって廊下の突き当たりの自分の部屋へ入った。
部屋のドアは開けっ放しで私はパステルグリーンのラグの上に崩れるように座り込んだ。
私の隣に彼も胡坐をかいて座ったが、肩を抱いたままだった。

「もうあんな思いは絶対にさせないから・・・俺が美晴を守る!」
「隆臣お兄ちゃん・・・ううん、『リュウさん』なのに・・・・
私のためにそんなことまで言わなくて良いのに」
「俺は・・・美晴の前では『椎名隆臣』だ・・・・前から、いやずっとこれからも!」
「そんなこと出来ないよ、だってあなたはフェニックスのリュウさんじゃないっ!」
「違う!『リュウ』である前に俺は・・・・」
「違わない!あんなに素敵な曲を作れる人、ファンの人みんなから応援されている人・・・
私だけのためになんて不可能よ」

私はこれ以上傍にいると冷静さを取り戻せなくなうようで
数センチ程彼から離れようとした。
しかし、彼はそれを許さず・・・・更に強い力で抱き寄せられた。

「素敵な曲・・・・それは美晴を想う気持ちを曲にしたんだ。
ファンに支持されなくても俺は・・・美晴の傍にいることが出来ればそれだけでいい
他は何もいらない・・・」
「そんなこと、ダメだよ・・・」

胸に押さえ込むように抱き締める隆臣お兄ちゃん、
さっきアツシにやられた行為とそうかわらないのに
何故か嫌じゃない・・・・ううん、それよりずっとこのままでいたいと思った。
そして私ははっきりと彼のことが好きなんだと感じた。


お互い何も話さず、暫く彼のぬくもりを感じているうちに私は、
極度の緊張とその後の安堵感で彼に凭れかかるように眠ってしまった。
隆臣お兄ちゃんは、私を抱かかえてベッドにそっと寝かせた。
姉を呼び、洋服を楽にさせて・・・
その後も暫く私の傍にいたという。
そうしてから彼は私の髪に唇を寄せて、意を決したように立ち上がり部屋をあとにした。

Page.106

どれくらい門の内側でボーっとしていたのかしら・・・
「美晴っ!早く入りなさい!」母の声で我に返った。
慌てて玄関までの5~6段ある階段を駆け上がり家に入った。
玄関には、リュウさんの・・・・
違う隆臣お兄ちゃんのお洒落な靴がきちんと揃えてたたきに置いてあった。


既にリビングには隆臣お兄ちゃんは通されていて、
父とも久し振りの再会を喜んでいた。
急激な展開に付いていけていない私は廊下に立ったままで、
それに気が付いた姉が近づいてきた。

「美晴?聞いたよ・・・大丈夫?怖い思いしたって・・・。」
「あぁ、お姉ちゃん・・・・うん、大丈夫だから・・・」
「そう?無理しないでよ」
「うん・・・でもそれよりお姉ちゃんは
リュウさんと隆臣お兄ちゃんが同一人物って知っていたの?」
「へっ?知っていたわよ、だって変わらないじゃないの~♪
彼は結構人見知りするから全く知らない人が近づくともの凄く警戒するからね。
それで幼友達の私がフェニックス専属のスタイリストの1人のなったのよ。
まぁ、グループ担当というか、リュウ担当といった方がいいかな。」
「どうして教えてくれなかったのよ!」
「ええ~~~!?知っていると思ったけれど・・・・でもまぁ、仕方がないか・・・・
美晴のいる部署は殆ど内勤だし、所属タレントさん達との接触はないものね~~。
うんうん、美晴はこのままで良いの♪擦れちゃダメよ~~」
なんか・・・お姉ちゃんまで足立さんと同じこと言う。

「美晴、今日のこと隆臣君にお礼したの?全くあなたはどこかボーっとしているから
そんな危険な目に遭うのよ。もう少し年齢相応になさいね」
姉と話しをしているところに母が近づいてきた。
「お母さん、とりあえず今夜は、怖い思いをしたのは変わりないんだから・・・
このまま美晴を休ませてあげて。多分・・・色々あって頭混乱していると思うから・・・」
「お姉ちゃん・・・・」

私は、姉の優しい言葉と母の声を聞いて
『自宅に帰ってきた』『安全な場所にいる』という安心感から
子どもの様に声を出して泣いてしまった。
両手で顔を覆い泣きじゃくっていた私をがっちりした腕が優しく包み込んだ。

Page.105

夢の中での私は、リュウさんと手を繋いで広い公園を散歩している。
時折立ち止まってお互い優しい眼差しで見つめ合い、微笑んでまた前を向いて歩き出す。
何も話さずいても気持ちは理解しているという。
そう・・・・お互い『大好き、かけがえのない人』と想っている。
私はそんな夢を見ていた・・・・。


小1時間程でやっと自宅近くの高速出口まで来た。
「美晴、起きて・・・・そろそろ家に着くよ。」
「うぅ~~ん・・・お兄ちゃん・・・まだ眠い・・・・」
小さい頃、よく兄の身体に抱き枕のように
抱きついて夢うつつでもっと眠っていたかった。
「・・・・美晴、もうすぐだから・・・それに俺は『お兄ちゃん』じゃないよ
寝ぼけてる美晴もカワイイね。」
「(うん?お兄ちゃんは私にあまり『カワイイ』なんて言わないし・・・・)
あれっ?キャ―――ッ!!ご、ご、ごめんなさいっ!!!
私ったら・・・なんて事をっ!!!!」

自分のおかれている状況に瞬時に判断できず、
更に幼い頃からの癖で機嫌こそ悪くならないけれど
寝起きの悪さは姪っ子達も含めても1番悪い。
思わず焦って飛び起きて窓ガラスに頭がぶつかりそうになった。
肩に手を回していたであろうリュウさんが即座に頭がぶつかるのを
防ぐようにして自分の肩へ凭れさせるように私の頭を支えた。

「危ないよ!」
「きゃっ・・・」
「腕に切り傷だけじゃなくて頭にもコブまで作ったら、俺が美晴の両親に叱られるよ」
「あ、あの・・・」
「おい!リュウ!美晴ちゃんが困っているだろう?
それに俺もいるんだからほどほどにしてくれよな・・・」
「ハイハイ!ほどほどにしておきますよ~~♪」

私といえば車の中とはいえ、
売れっ子アイドルグループの一員に肩を抱かれている状況を受け入れられなくて・・・・。
でも足立さんは非難がましいトーンで話していても
かなり笑いを含んだ言い方だった。
そしてこの状況をかなり楽しんでいるリュウさんの声は明るかった。

暫くしてカーナビが目的地に着いたことを告げた。
私は、リュウさんの前を跨ぐようにして車のドアに手を掛けた。

「美晴ちゃん、一応俺達も降りるから・・・・今日のこと話さなくちゃいけないし・・・・」
「そんな!良いです!送って頂けただけでも恐縮してしまうのに・・・・本当にいいですよ。
それにアツシとの件は、私の問題ですから・・・」
アツシとの事を思い出してちょっと不安に駆られたが、私は彼らの申し出を断った。
「アイツの件があるんだから、尚更俺らは降りて話さなくちゃいけないっ!
美晴は何も心配しなくて良いからね・・・・」
無意識に震えていた私の手を、リュウさんは大きな手で包み込んだ。

門灯下のインターホンで帰宅を告げると、
即座に玄関ドアが開き別棟に住んでいる兄が出てきた。

「こんばんは、STプロモーションの足立です。
遅くなりましたが・・・山本さんをお送りしました。」
「ご苦労様です。経緯は彼から連絡してもらっています」
「そうですか・・・・それでは話が早いですね。
じゃぁ、私はこれで失礼します。
リュウ明日はオフだが明後日は朝からレッスンが入っているから遅れるなよ?」
「了解っ!お疲れ様です。」

そう言って足立さんは車に乗り込んで帰ってしまった。
「美晴、母さんが心配しているぞ、早く顔を見せてやれ、
それにしても隆臣(たかおみ)はすっかり売れっ子だな」
「いやぁ、そんなことないですよ・・・俺なんてまだまだです。皆さん、お元気ですか?」
「あぁ、相変わらずだよ」
「すっかりご無沙汰してしまって・・・」
「それはお互い様だよ。
こちらも正式にお前のところのプロダクションの顧問弁護士になったからこれからも宜しくな!
お袋もお前に会いたがっているから・・・ちょっと寄って行けよ、大丈夫だろ?」
「ええ、大丈夫です・・・というかご両親に話があって・・・・」

私は身長が殆ど変わらない兄とリュウさんを後ろからぼんやり眺めていた。
お兄ちゃんは『隆臣』と言っていたよね?
まさか・・・!?お兄ちゃんの中学校の後輩『椎名隆臣(しいなたかおみ)』さん?
あの頃は私はまだ小学校の低学年だったから、お兄ちゃんやお姉ちゃんの友達を
『○○お兄ちゃん』『△△お姉ちゃん』と呼んでいた。

Page.104

「美晴に寄りかかっていれば、身体に彼女の声が伝わるから・・・
完全に熟睡は出来ないですよ」
そう言いながら、上体を起したが半ば身体を私に寄りかかる形だった。

「あの・・・リュウさん?大したことじゃないのですが、
どうして私の事呼び捨てで『美晴』って呼ぶんですか?
別に嫌じゃないですが・・・・なんか・・・アイドルなのに・・・・
違和感があるんです」
「そう?・・・・そっかぁ、美晴は・・・・覚えていないのかな?
まぁ、いいよ!早々にわかることだから・・・・その時を楽しみにしていてね
それより、腕は痛む?・・・・今度美晴があんな目にあったら・・・俺はっ!」

右手拳を握り締めて強い口調でリュウさんは言い放った。
私は思わず、リュウさんの拳の上に手をそっと置いた。

「リュウさんは、もうあんなことしないでください。
私が悪いんです。アツシに気を持たせるような・・・・
勘違いをさせるような態度をとったのかもしれないから。」
「美晴ちゃんは悪くないよ、
井上ってヤツは噂によればかなりナルシなところもあるらしいし。
今回のことで・・・少しは懲りたんじゃいかな?」
「ええ・・・でも・・・・」
「それより、美晴ちゃん、道路が結構混んでいるんだよね
もう少し、掛かりそうだから・・・楽にしていて良いよ」
と、足立さんがバックミラー越しに話しかけてきた。
「ありがとうございます・・・実は少し疲れが出てきたのかも・・・・」


車の程よい揺れと車内に流れるリュウさんのピアノ演奏が
心身ともに疲れている私を簡単に夢の世界に誘った。
今度は私がリュウさんに寄りかかる形となった。
厳密に言えば、窓ガラスの方に寄りかかっていた私を
リュウさんが自分に凭れるようにしたらしい。

「リュウ、このままで良いのか?
美晴ちゃんに話さなきゃいけないことがあるんじゃないのか?
ヒロとのこともちゃんとしろよ!
アイツだってお前のこと憎くて言っているんじゃないからな」
「わかっていますよ・・・・」
「わかっているならいいが・・・・」
「ヒロとのことは美晴の方がハッキリしないと・・・俺、前に進めないんです」
「あまり考えすぎるなよ・・・お前が何でも同時進行できるほど器用な人間とは思っていない
だが、お前の周辺はもう動き出しているんだからな・・・」
「はい、わかりました・・・・」


私が夢の中で素敵な想いをしている頃、
足立さんとリュウさんがそんな話をしているとは全く気がつかなかった。
それとリュウさんが、私の前髪をそっと上げこめかみに唇を寄せたことも・・・・。

Page.103

私の家までは高速道路を使っても小1時間は掛かる。
乗り換え等があっても電車の方が比較的時間が掛からない。
足立さんは、静かに心地良いイージーリスニングの音楽をかけた。

「この曲、どう思う?」
「こういう曲好きです。素敵ですね。
歌詞はなくても・・・・心に染み渡っていくような感じです。」
「そう・・・そう感じるのか・・・・
美晴ちゃんの心にすっとはいっていく感じなんだね?」
「ええ、穏やかな・・・・感じですね。ピアノだけの演奏なのに・・・・」
「この曲ね、まだデモテープ状態なんだけれど・・・・リュウの作曲なんだよ」
「えっ!?そうなんですか?」

私は驚いてしまった。
自分にもたれかかって眠ってしまっている
リュウさんの温もりを急に意識し始めてしまった。
急に動いてしまって・・・起してしまったかな?
リュウさんの顔を覗き込んでみたが
相変わらず寝息を立てて熟睡状態。
バックミラー越しに足立さんが微笑んでいるのを見て、
更にドギマギしてしまった。

「リュウはフェニックスに入る前は有名音大を卒業後、
プロのピアニストを目指していたのは知っているよね?」
「はい、フェニックスのプロフィールで知っています」
「ははは・・プロフィールで知ったのか?まぁ、いいけど。
音大時代に作曲の勉強もしていたらしくて・・・・
フェニックスの初期の楽曲の一部はリュウが手がけたものもあるんだよ」
「そうなんですか?」
「映画関係もやっていたしね」
「そういえば何年か前の映画の挿入曲がそうだったような?」
「あぁ、あれね・・・あの曲はまだ学生の時に作ったんじゃないかな?
そうそう、あの映画観に行った?」
「ハイ、姉と友人と行きました。エンドロールでピアノ曲が流れて・・・・
ハッピーエンドでもなんだか泣けてしまったのを覚えています。」
「リュウの曲は美晴ちゃんの心の琴線に響くんだね、
そうか、そうか、そういうことか・・・・」

また足立さんの意味不明?な発言に戸惑った私だった。
その時私の肩にもたれ掛っているリュウさんが、もぞもぞ動いた。
「足立さん、それ以上色々言わないでくださいよ・・・・恥ずかしいから」
「「聞いていたの??」」
足立さんと私は同時に同じ発言をした。

Page.102

「お待たせ、美晴ちゃん・・・じゃぁ、行こうか?」
足立さんが声を掛けてきた。

「あっ!足立さぁ~~ん、おはようございますぅ。
この人知り合いなんですかぁ?
もえこぉ、この人とお話していたんですぅ・・・
あっ!リュウさんも一緒なんですかぁ?
リュウさぁん、今度もえこのために曲書いてくださいぁい(くねっ)」
「ハイハイ、もえこちゃんまたね~。
マネージャーさんあっちで待っているよ」
「うんもぉ、もえこぉ、リュウさんとお話したいんですぅ。
今度取り計らってくださいよぉ
ねぇ、いいですよねぇ?リュウさぁん♪」
「触るな!礼儀をわきまえろ!」

先ほどとは全く違う態度の麻田に慣れた動きで、
しな垂れかかってきた身体をサッとかわし
先輩として強い態度で接したリュウさんだった。
私を部屋から出るように促した足立さんは、
エレベーターホールへ連れ出そうとした。

「さぁ、美晴ちゃん、家には連絡したね?
地下駐車場からそのまま出るから、荷物はこれだけ?」
「待ってくださいよぉ、このまま、もえこをここに放置ですかぁ?
リュウさんはぁ、ここにいてくださいよぉ、いいじゃないですかぁ?
もえこぉ、新人なのでぇ、芸能界のことわかんないじゃないですかぁ・・・
リュウさんから手ほどきされたら嬉しいですぅ」
「リュウ!自分で何とかそこは切り抜けろっ!
まぁ、『好いところ』見せてやれよ、ねっ!美晴ちゃん!!」
「えっ!?あっ!まぁ、その・・・・えっとぉ・・・・」
「ちょっと!足立さん!そりゃ無いですよ!」


足立さんの肩越しにかなりうろたえているリュウさんの姿を確認した。
あんな風なリュウさんは見たことがないかも・・・。
リュウさんを放置?したまま、
私は足立さんと地下駐車場へエレベーターで下りて行った。
社員用の駐車場にはまだ数台停まっていて、
その中のシルバーのワゴン車に乗り込んだ。

「あの・・・リュウさんは?」
「あぁ、アイツは大丈夫、大丈夫!!
それにもえこちゃんの猛アピールは今に始まったばかりじゃないしね。」
「そうなんですか!?なんか・・・・驚いちゃって」
「まぁね、多くのタレントを抱えているプロダクションとはいえ美晴ちゃんのいる部署じゃ
あまりこういう類の人間とは接触が無いからね。驚くのは当然かもね。」
「ハイ・・・・私、お仕事をご一緒したのはフェニックスさんと・・・
それとモデルさん数人だけですから」
「そのうち慣れるかも・・・イヤ君はそのままの方が良いかもね。・・・・あぁ、やっと来たな」
サイドミラーで確認して、地下駐車場入り口の扉近くへ車を横付けにした。

「お疲れ様!今日は結構時間が掛かったな?」
「参りましたよ!足立さん、今日は全然助けてくれないから・・・・
社交辞令で言ったことを真に受けて・・・・ったく。
「あははは・・・」
「笑い事じゃないですよ~麻田のマネージャーにもう1度言ってくださいよ!」
「まぁ、そう言うなって!フェニックスの長年のファンを大事にしなきゃダメじゃないか」
「長年のファンって・・・でも『度』が過ぎるのも困りますよ」
「色々な理由でこの業界に入ってきているからな・・・
まぁ、あの子の場合は全てはフェニックス・・・
いやいやお前に会いたくて入ってきたようなものだからな」
「だから、勘違いが多すぎるんですよ!
美晴、ちょっと詰めて、あぁ、疲れた~~」

ワゴン車の後方に座っていた私の隣にストンと座ってきたのはリュウさんだった。
私を少し奥に詰めさせて自分はゆったり座るかと思いきや、
私にもたれかかる様に座った。

「おいおい、リュウ!美晴ちゃんがびっくりしているだろう?離れろよ」
「良いんです、俺は・・・・やっとこうすることが出来たんですから・・・・・
こうしたくて・・・したく・・・て、隣・・・にいたく・・・・て」
「寝ちゃったか・・・?まぁ、無理も無いよな・・・徹夜でロケだったもんな~~」
「えっと・・・・あの話がよく見えないんですけれど・・・・」


私の肩にリュウさんの頭がもたれかかり、
「スースー」と寝息を立てている彼の重みを感じながら
バックミラー越しに足立さんに話しかけた。

Page.101

腕の手当てをしてからリュウさんは救急箱を持ってそこから離れた。
離れ際、私の顔をジッと見つめて何も言わずに立ち去った。
入れ替わるように足立さんが自販機のホットココアを持って来てくれた。

「美晴ちゃん、もう大丈夫だよね?」
「はい・・」
「とんだ災難だったね~。このまま電車で帰るのはちょっと怖いでしょう?
僕の車で送ってあげるから、とりあえず家には少し遅くなることを連絡してね」
「えっ!?でも・・・いいんですか?」
「そうして欲しいんだ、これを飲んでいてね。
ちょっとこっちの用事済ませちゃうからね」
「ハイ、ありがとうございます。でもメンバーさん達に悪いから・・・」
「いいの、いいの、あいつらは男だし、それぞれタクシーや電車で帰れば済むからね。
イヤ、1人だけ同行すると思うけど了承してね」
「それは・・・こちらとしては構わないですが・・・」
「じゃぁ、そういうことで!
それに、渡辺チーフに話したら絶対に送るように言われたよ。
俺もあいつには世話になっているからね・・・」
「そうなんですか?で
も足立さんと渡辺チーフって確か同期では無かったですよね?」
「そうなんだけどね・・・・ここだけの話だけれど俺のかみさんが渡辺チーフの妹なんだよ。
義理のお兄さんには逆らえないからね~~~」
「え~~~~~っ!?そ、そうだったんですか!?」

あまりの驚きに私は思わず素っ頓狂な声をだしてしまった。
私の反応に笑いながら足立さんはメンバーの待つブースへ行ってしまった。

私は日頃7階へは滅多に上がってこないので
物珍しいのも手伝ってキョロキョロ見回していた。
掲示板には所属している女優さんや歌手、
お笑い芸人さんの出演されている宣伝用のポスターが
所狭しと貼ってあったりする。
改めて自分が勤めている会社が芸能人がたくさん出入りしている
華やかな世界の一部なのだと感じる。
まぁ、少なくとも裏方専門の自分の部署とは縁遠いけれど・・・・。
そんなことをぼんやりと考えながら椅子に座っていた。


「あなた誰?一般人はここにいられないのよ?
それとも新人さん?だったらちゃんと先輩に挨拶しなさいよっ!」
少々高圧的な声が頭上から聞こえてきた。
ふと、顔を上げればそこには話題に事欠かない新人歌手の麻田もえこがいた。
「えっと、一応社員です。」社員証をバッグから出して見せた。
「ふ~~ん、そうなの・・・でもね、一般人じゃないの、ここの部署じゃないんだから・・・
それとも芸能人に会えるんじゃいかな?って軽く考えているんでしょう?
全くこういう動機が不純でプロダクションに入ってくるのよね?
それともタレントにでもなりたくてチャンスがあったら?
なんて考えているんでしょう?黙っているということはそういうことね」
「ち・・・違います・・・・」

私はアツシの事といい、『The芸能人』というような麻田にまで
どうして今夜はこんな風に言われなくちゃいけないのだろうと感じていた。

Page.100

聞くに堪えないような捨て台詞をはいてアツシは立ち去った。
いまいち状況が掴み切れない私はアツシがいなくなった途端、
急激な安堵感に見舞われ手足がガクガクと震え始め
ずるずるとしゃがみ込んでしまった。


「美晴ちゃん!大丈夫!?」
すぐに飛んで来てくれたのはヒロさんで助け起そうとして手を伸ばしかけた。

「美晴に触るなっ!!」
背中を向けていたリュウさんが即座に振り向き、
ヒロさんの手を払い除けるように遮り私の手を取り
立ち上がらせてくれた。

「大丈夫?立てる?」
リュウさんの顔はどことなく引きつった感じ。
でも目はとても優しかった。

「リュウ!なんだよっ!何も払い除けることないだろう?
おいおい、俺でも嫌なのかよ?」
「っせぇなぁ、あぁ、そうだよ、嫌だよっ!悪いかよっ!!」
「おっ!開き直ったね、
フェニックスの無敵のリュウ君がこんな顔して開き直ったよ、あっはははっ・・・・」
「やめろよ!ヒロ!またお前らケンかになるぞ?」
マオさんが仲裁に入ってくれたが、
なんだかメンバーだけでじゃれ合っているようにしか見えなかった。

マネージャーの足立さんが、通用口を開けて手招きしてくれた。
「あいつらは放っといて、美晴ちゃん腕から血が出ているよ。
手当てしよう。このまま1度オフィスへ戻ろう
「あっ!置いて行かないでくださいよ―――!!
さぁ、行きましょう!美晴サン!!」
「えっ!?あっ!ハ、ハイッ!!」
半ば強引にカイ君に促されて建物の中に皆で入って行った。


7階に着いてから私は足立さんに案内された椅子に座り、
救急箱を持ってくるリュウさんを見上げた。

「消毒するよ、痛い?・・・・・よね。
この大きな絆創膏貼っておけば大丈夫だよね?」
「ここなら自分で出来ますから・・・・」
「そう?でも利き腕の方だからやりにくいかもよ?
いいよ俺がやるからジッとしていて。」
「えっと、でも・・・・」
「・・・・もう、そういうところは頑固で相変わらずだね、
美晴は・・・口は閉じていなさい!」
「ハイ・・・・(あれっ?なんかお兄ちゃんみたいな言い方だわ)」

真剣な眼差しで、でもそっと労るように切り傷の手当てをしてくれている
リュウさんの半ば伏せた顔をそんなことを思いながら少し長い茶色く染めた髪を見ていた。

Page.99

「イヤ―――――ッ!!!」

力の限りアツシの胸を押したが・・・・。
所詮女性の力では敵わない。
壁とアツシとの間でもがくだけで、
タイル張りの壁に腕が擦れて痛かった。
アツシの肩越しに見えた街灯の光が歪んできて・・・・
力もこれで限界って感じた時・・・・。


目の前にいたアツシがいなくなり、
その代わりにベージュのジャケットを着た男性がいた。

「何してるんだよっ!」
「ってぇなぁ!・・・お前誰だよ!」
「いやがってるだろっ!やめろよ!!」
「お前には、関係ないだろっ!
・・・・あれっ?お前・・・もしかして・・・・・?」
「何だよ・・・・気が付いたなら、それでも良いさ、
ウチの大事なスタッフに手を出すなっ!」
「おいおい、良いのかよ!天下の芸能人、
フェニックスのメンバーが暴力沙汰か?
一般人の痴話喧嘩に口出しか?」
「くそっ!なんだよっ!そんなこと関係ないっ!
一発殴ってやろうかっ!!」

私はただ呆然と2人のやりとりを壁に寄りかかったまま見ていた。
その間、フェニックスのメンバーと言われている人は
私をアツシからの視線を遮るように
自分の大きな背中で庇うようにアツシと対峙していた。

「リュウ!やめろっ!!お前が殴るまでのヤツじゃないよ」
良く通るシュウさんの声?
それとマオさんの声も聞こえてきた。
「そうだ・・・殴ったところでこいつは昔からこういうヤツだからダメだ!
CM打ち合わせか気になっていたが、
高校のときの後輩で・・・その時からタラシだったよ」

2人に振り向きたじろぎながら答えた。
「お前・・・誰だ・・?お前なんか知らねぇよっ!!」
「だが、お前の噂は誰でも知ってるぜ!」
「・・・・・・・」
「お前、あの時も部活の女の子に親父さんの仕事関係で釣っていただろう?」
「・・・・・っくそ!そんなこと・・・」
「男子なりの不始末もやりやがって」
「そんなこと・・・知らねぇよっ!」
「知らないか?そんなこともすぐに忘れちまうか?」
「・・・・・・・」
「覚えていないなら教えてやるよ。
後始末・・・っていうか
尻拭いを親父さんの財力でどうにか丸く治めたって専らの噂だよ」
「あんときは・・・・ッ!!」
「あれから改心していないんだな?
将来お前に任せるような広告代理店じゃこの先不安だよ」

歌舞伎役者の女形顔負けの長身のマオさんが上から凄んで、
でも静かに話す様はとても怖かった。

「未来堂の井上さんでしたね?
一部始終、こちらで撮られていると思いますよ。
一応、ここも大手の芸能プロダクションですからね、
セキュリティの関係で防犯ビデオを設置してありますから
あなたどう釈明しようと・・・・証拠はここにありますからね。
私も彼らマネージャーとして守るという使命もありますし・・・よろしいですか?」
「脅迫する気なのか?」
「いいえ、そんな気は毛頭ありませんよ」

アツシとは真反対の穏やかな顔の足立さんの顔が
冷たく感じたのはここにいる全員だったかもしれない。


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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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