2008 / 11
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個展も終わり徐々に日常が戻ってきた。
今日はカルチャーセンターでの講習の日だが、
センターの入っているテナントビルの事情で急遽お休みとなった。
なんとなく工房には行きたくなくって朝食を摂ってから、
やよいお母さんには海に行くと言付けて小さなショルダーバッグを斜めがけにして出かけた。
バッグには、携帯電話・小銭入れ・ハンドタオル・ティッシュ・ビニール袋@数枚・デジカメ。
これが必要最小限度の持ち物。
このバッグも雅お姉ちゃんが妊娠中に麻紐でせっせと編んでくれたもので、
網目から小物が零れないようにイチゴ柄の内布袋が付いている。
厚手のカーディガンとストールを羽織って出掛けた。

海は風が吹いていたが波は穏やかだった。
海水浴シーズンはとっくに終わり、波を求めてサーファーが数人浜辺にいた。
波間をお日様がキラキラしてとても綺麗だった。
私は個展の最終日の事を思い出していた。
紀ちゃんの離婚原因は私にあると言っていてけれど・・・・。
何をどう考えても決定的な原因は見つからなかった。
彼女達が結婚する前、そう高田君と出会ってから私はずっと苦しかった。
そして彼女達が結婚してから、徐々に立ち直ってきたし自分の進めべき道も見つけたと思っていた。
だから先日の彼女の言葉は青天の霹靂というか、爆弾宣言だった。
周りの皆は「気にすることない!」と言っていたが・・・そうは言っても正直気になってはいた。

それと啓お父さんと一緒にいた男性(ひと)、藤堂謙杜さんっていったかしら?
どこかで以前お会いしたことがあるのかな・・・?
引き込まれそうなはしばみ色の瞳だけに、
思考だけの記憶だけでなく自分の身体全体で記憶しているような
妙な気分となった。

考え事をしながら砂浜を歩いていたら、教会からだいぶ離れたところまで来てしまった。
ここは養護施設の子達ともよく遊びに来た通称『千鳥岬(ちどりみさき)』。
引き潮の時は潮溜まりが出来て、小さな魚やカニ、貝殻など拾った。
子どもにとっては恰好の遊び場だった。
あの頃、紀ちゃんもまだ三崎夫妻に引き取られる前で一緒にここで遊んだ。
やよいお母さんや当時働いていた保育士さんと一緒にお弁当を持って1日中ここで過ごした。
とても穏やかで懐かしい思い出で、「ふふふ・・・」と独り思い出して笑う。

岬から見える遙か彼方地平線や色々な雲が浮かぶ空をデジカメで写した。
これらの画像が制作のインスピレーションとなっている。
でも私が赤ん坊の時一緒に包まれていた万華鏡以上の満足のいく作品は作ることが出来なかった。
何が足りないのだろう?いつもここで行き詰まってしまう。

腕時計をふと見たところ午前もそろそろ終わる時刻となり、
十数個の貝殻を拾いビニール袋に入れて、来た道を引き返そうと振り返った。
自分の方に向かって一人の男性が歩いてくるのが見えた。

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紀ちゃん騒ぎでやっと落ち着いた頃、
啓お父さんと長身の男性が熱心に作品を見ているのを思い出した。
機転を利かせて薫お姉ちゃんが、一緒に説明に加わるようにと促してくれた。

「啓お父さん、ごめんなさい・・・お相手できなくて」
「良いんだよ。それより私はお前の気持ちが心配なんだが・・・・」
「ううん、私は大丈夫よ」
「そうだ、紹介しようね。こちらは藤堂謙杜(とうどうけんと)さんだ。
お父上は指揮者の藤堂全功(まさのり)氏だよ。以前、うちに教会にも毎週来ていたんだよ。
でも・・・真凛は小さかったから覚えていないかな?」
「藤堂さん・・・?」
どちらかといえば小柄な私は長身の藤堂さんを見上げるように笑顔で会釈した。
はしばみ色をした彼の瞳に吸い込まれそうになった。

「どうしたの?」
「す、すみません・・・あまりにも藤堂さんの瞳が綺麗で・・・
星が煌いているように見えたみたいで」
「星?・・・・君のこれらの作品のメインテーマと同じだね。
そんな風に見えたのなら光栄だよ。それに・・・・」
「それに・・・?」
「いや・・・・なんでもない」
藤堂さんは何か言いたげな余韻を残して啓お父さんの方へ行ってしまった。
彼と2~3言交わしただけなのに、何故か懐かしい気持ちになった。
言葉では言い表せない想いが体中を駆け巡った。


「真凛は本当に覚えていないようで、申し訳ございません」
「いえ、小山牧師、いいんですよ」
「なにぶんあまりにも小さかったですし、あの頃あの子は・・・色々ありましたので」
「ええ、存じております。三崎夫妻に引き取られるはずだった彼女がここに残り・・・
それらの経緯も後々父から聞きました」
「そうですか・・・生まれたときの事情もありますので。
拒絶されたり、置いてかれるというのに関して、異常な防衛本能が働くのだと思います」
「それも承知の上です」
「では・・・・真凛を?」
「はい、あの頃、私も自分自身で生きていく力は備わっていませんでしたが、
彼女のことを一瞬たりとも忘れることはありませんでした」
「そうですか・・・本当にありがたいことです。
ですが真凛には苦しみも一緒に思い出さなければなりませんが、
思い出してもらわなければなりませんね」
「出来れば・・・これ以上苦しませたくありませんが、やはりそうすべきなのでしょう」
そう言いながら小山牧師は謙杜の肩を軽く叩いた。

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「紀江、子どもじゃないんだから・・・いい加減にしなさい。
お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした。
これはこれは真凛さん、初個展おめでとうございます。」
紀江の義父が戒めて、ここにいる全員に詫びた。
「だって・・・パパ・・・、ママからも言ってよ!!
高田に2年も酷い扱いされて、挙句離婚の理由が真凛だなんて!!
私、なんのために結婚したのかわからないじゃない!!」
「紀ちゃん、今皆さんにお話しすることじゃないでしょう?
もう少し大人になりなさいね。さぁ、今日はこれで失礼しましょう。
小山牧師、こんなことになってしまって・・・改めてご挨拶にあがります」
『紀江』という台風は三崎夫妻に連れられて画廊から立ち去った。

一瞬時が止まったかのようにそこにいた全員の動きが止まってしまった。
その静止を元に戻したのは匡お兄ちゃんだった。
かなり呆れた声で開口一番こう言った。

「いったい・・・なんだったんだ?」
「ホント、なんだったのかしらね?真凛、大丈夫?・・・大丈夫っぽくないみたいね」
「ううん、大丈夫。ここには私の味方・・・こんな風に言ったらまた紀ちゃんが怒りそうだけれど
家族がいてくれるから・・・大丈夫。2年前までと違うから・・・」
「そうね。真凛は強くなったのよね。いい子ね、真凛は」
「やよいお母さん・・・」
子どものように褒めてくれるやよいお母さんの言葉が私の気持ちを穏やかにさせていった。

「全く・・・とんだ個展の最終日になったわね。昔からあの子はあんな感じだったし・・・
それに当初は三崎夫妻の養女になるのは真凛だったのに・・・
挙句に真凛が好きだった高田君まで横取りしておいて
あの言い草は何!?もう!!私のカワイイ真凛をいじめるヤツは絶対に許さないんだからねっ!!」
「雅・・・あなたもイイ年してその言い草はないでしょう?」
「お母さん、あの子2年前の結婚式にもダメ出しで真凛に!!」
「あの時のお姉ちゃんは怖かったよね、ねっ?真凛」
「・・・・そうだったっけ?」
「「もう!真凛ったら~~」」
雅お姉ちゃんと薫お姉ちゃんは呆れたような声でその場の雰囲気に笑いを引き出した。

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紀ちゃんの爆弾発言とも取れる言葉に地面がグラグラと
地震の様に揺れているような錯覚に陥った。
近くにあったソファの背もたれに片手でやっと身体を支えている感じ。
「どうして・・・?」
この言葉だけがやっと口に出来た。
私の様子がおかしいとすぐに判断した雅お姉ちゃんが近づいてきた。

「紀ちゃん、真凛に何を言ったの?」
「もう一度言うわね。私、彼と・・・高田と別れたの。
離婚原因は真凛なのよ!高田はまだ真凛のことが好きで
一緒になったけれど、常に真凛と私を比較していたの。
彼が私と結婚した理由は義父の会社経営に興味があっただけ!
私より『三崎物産』に強い興味を抱いただけなの!!」
「夫婦の離婚原因になんで真凛が絡んでくるのよ!
どこまで紀江は人の気持ちがわからないのよ!
2年前、ううん、それより前からずっと真凛を悩ませ続けてきたのに!!」
「真凛、相変わらずね・・・小山家族に守られて、ぬくぬくと・・・・」
「なんですって?もう一度言ってみなさいよ!!どうして真凛も言い返さないの?」
「雅お姉ちゃん・・・・いいよ、大丈夫だから・・・
紀ちゃん、離婚原因が私にあったなんて・・・ごめんね」
「なんで、真凛が謝るんだよ!!紀江が勝手に逆恨みしているだけだろう!?」
「でも、匡お兄ちゃん・・・」
「ほらね!そうやって血が繋がっていなくても姉弟ヅラして仲良しこよしなのね~~
私だって一時期は一緒に住んでいたのに!そんな風に接してくれなかったじゃないのよ!!」
「紀江、いい加減にしなさい!!」

低い声で紀江を戒める声が聞こえた。
画廊の出入り口にやよいお母さんと啓(ひらく)お父さんが立っていた。
厳密に言えば、小山夫妻と三崎夫妻ともう1人。
恐らくハーフなのだろう長身の男性が立っていた。

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4日間に亘る初個展は盛況だった。
教会関係の方や地元の友人や美術専門学校の友人も来てくれた。
また遠方に住んでいる匡お兄ちゃんも来てくれて、
個展開催中は実家にいてやよいお母さんを喜ばせていた。
カルチャーセンターで教えている受講生の作品も何点か展示した。
そのお陰でその家族も加わり連日、画廊は賑わった。


個展最終日は日曜日で、朝から小春日和の様な陽気だった。
ありがたいことにこの初個展で
十数点の作品は収集家や知り合いに買って頂けることとなった。
その後処理などもあるのでいつもより早めに家を出た。
個展の期間中の送迎は匡お兄ちゃんがやってくれて、
ミニバンの助手席に私を乗せ道中は匡お兄ちゃんの
牧師の修行話をたくさん話してくれた。
自宅を出たとき、バックミラーでしか確認できなかったが
1台の車が教会の敷地へ入っていった。
「今日は来客の予定があったのかな?」と思ったが
個展の方が気になったのでそれ以上は考えなかった。


画廊の閉店時間近くなって・・・。
雅お姉ちゃんの旦那様の知り合いに紹介されて談笑している時、
後ろから聞き覚えのある女性の声がした。
サーモンピンク色のスーツを着ている紀ちゃんが笑顔で立っていた。

「真凛、お久し振りね」
「紀ちゃん!!」
「久にぶりね~~凄いじゃない!!
真凛、親友がこんな凄い工芸家になっちゃったなんて私も鼻が高いわ~~!」
「いつ、こっちに?1人?旦那様は?」
「真凛、落ち着いてよ。矢継ぎ早に聞かれても一度に答えられないじゃないの」
「だって・・・驚いちゃったから、あっ!薫お姉ちゃん!!ほらっ、あの紀ちゃんだよ」
画廊の奥まったところにいた薫お姉ちゃんに紀ちゃんが来たことを知らせた。
「紀ちゃんって・・・・なんでここにいるのよ?よく真凛の前に出られたものね」
「お姉ちゃんってば・・・・私、あの時のこともう大丈夫になってきたから・・・・
紀ちゃん、どうぞ作品見て行ってね。ちょっと私は相手してあげられないけれど、楽しんでね!」

心配げに受付近くで雅お姉ちゃんと匡お兄ちゃんが見える。
2人を気遣うようにニッコリと笑って見せた。
その私の笑顔を確認してから紀ちゃんは言った。

「私、彼と離婚したの。やっぱり彼、真凛が好きなんだって!!」

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あれから・・・2年。
そう紀ちゃんが結婚してから2度目の秋が来た。
私は山の里教会の礼拝堂を真ん中にして
母屋と真反対の位置にある工房で万華鏡を制作している。
この頃は、カルチャーセンターにも呼ばれて主婦を中心に教えている。
週に2回の講師と自分の万華鏡制作で日々忙しく、
紀ちゃん夫妻のことでささくれ立っていた心は徐々に癒されていった。
近くに住む雅お姉ちゃんが3人目の子どもを出産するなどあり、
喜びもあり平凡だが穏やかに過ぎていった。


この秋にはお姉ちゃんの旦那様の画廊にて初の個展を開くこととなった。
以前からこの企画はあったのだが、
私の気持ちがうわべだけ浮上していても良い作品は出来ないと、
やよいお母さんからのアドバイスもあり、やっと今年実現する運びとなった。

工房には細かい雑用係として雅お姉ちゃんの妹の薫(かおり)お姉ちゃんが
ほぼ毎日来てくれている。
既に結婚していて旦那様は貿易商を営んでいる。
お姉ちゃん曰く「真凛の工房を理由に毎日実家に入り浸れるから嬉しい」という。
薫お姉ちゃんは私より7歳年上、その下に私より3歳年上の匡(きょう)お兄ちゃんがいる。
匡お兄ちゃんは、牧師の勉強のために今は遠いところに住んでいる。

「真凛、これらは出展するもの?」
「ええ、薫お姉ちゃん、そこの青い箱に入っているもの全部ね。」
「わかったわ、でも・・・これあなたのママの万華鏡も入っているんじゃないの?」
「ううん、これね。実は同じ大きさのレプリカなの。本物は・・・しまってあるから」
「え~~!?レプリカ?全然わからなかったわ。
この古い感じもそっくりよ!さすが工芸作家様だわね~~きちんと『良い仕事』しているわ♪」
「やだ~もう、薫お姉ちゃん、からかわないでよ~~私はまだまだなんだからさ~~」
「そう?うちの旦那さんも『是非とも輸出商品に加えたい』って言っていたわよ。
手先の器用な日本人が制作したものはマニアの中では重宝されるらしいわ。
個展が終わったらその分も考えておいてね?」
「は~い、わかりました。
でもお義兄さんも目が肥えているから中途半端なものを出せないから大変だわ!!」
「真凛先生!期待していますよ!!」
「了解でありますっ!!」
お互い顔を見合わせてプッと噴出して笑った。

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「真凛、今日は疲れているから工房には行かないのよ、いい?」
「やよいお母さん、でも・・・・はい、わかりました」
「いい子ね、今日だけは細かいことしないでね?」
「はい、心配掛けてごめんなさい」
「いいのよ、真凛は家族なんだから・・・そんなこと気にしないでね」

やよいお母さんがリビング横の4畳半ほどの和室に
簡単に布団を敷いてくれたのでそこに横になった。
この日が来るまで色々な事がありすぎて心身ともに疲弊していたのだろう。
私はあっと言う間に寝息を立てて眠ってしまった。

私が眠っている間に紀ちゃん達やそれぞれの両親が挨拶に来た。
彼らはこれから披露宴のために近くのホテルへ行くという。
小山牧師夫妻に出席するよう強く薦められていたが、丁重にお断りしたようだ。


特に紀ちゃんの養父母の三崎夫妻は、幼かった私を引き取るつもりだったのだが当時色々あって・・・・
結局夫妻は紀ちゃんを引き取り正式に養女とした。
実子がいなく事業を大きく展開していた夫妻は後継者として身寄りの無い子を引き取りたかったという。
私が幼い頃は山の里教会は乳児院と養護施設を併設されていたため、
紀ちゃんは4歳から7歳までここで過ごした。

私の場合、教会前に生まれてすぐ捨てられた形だったらしい。
姓もない赤ん坊に同情した当時小山牧師が引き取る形で私は家族同様に育った。
私がこの教会へ来た日は・・・・置き去りされた日は・・・・
小雨降る4月の朝だったという。
ピンクのおくるみに包まれて・・・その中にメモ書きで
『真凛と名づけました。私には育てられません。どうかこの子をよろしくお願いします』
小さな万華鏡にメモが留められて入っていたらしい。
姓は『山の里教会』に因んで『山里真凛』と名付けられた。
その万華鏡は、今も私の宝物であり、産みの母であり・・・・
そして『大好きなお兄ちゃん』を思い出させる。
私もこれを制作する工芸家となれば、
きっと母にも、お兄ちゃんにも会えるような気がして
・・・そして『星』が見つかるような気がする。

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「真凛、ごめんなさいそれと・・・ありがとう。あなたのお陰で幸せになれる。」
「・・・紀ちゃん、高田君おめでとう。」
「山里・・・ごめん・・・ありがとう」
「もうこれ以上、真凛に謝らないで!」
「・・・・雅さん・・・」
「あなた達、いいえ、紀江ちゃん、こうなることをあなたは最初から望んでそれを突き通したのよ。
2人で詫びる気持ちがあるのなら言葉に出さず、あなた達の幸せの下には真凛の犠牲があったと
その十字架を背負ってこれから生きていって。私が言いたいのはこれだけよ・・・」
「雅お姉ちゃん、もういいから・・・」

列席者の席の最後列に来た時、
彼らの姿を見た雅お姉ちゃんが私の気持ちを代弁してくれたようだった。
私が制しなかったら恐らくお姉ちゃんは、溜まっていた気持ちをぶちまけていたと思う。

突き刺すような紀ちゃんの視線から逃れて私は、雅お姉ちゃんの影に隠れようとした。
でもそれは許されず、高田君が紀ちゃんにも聞こえるように一言言った。

「俺、やっぱり・・・以前は山里のことを・・・・これだけはわかって欲しい」
「何を今更っ!御前で懺悔するの?ここで全てを、それぞれの言い訳を聞いてどうなるの?
真凛の気持ちをそれぞれが踏み躙っているのよ!!
私はあなた達が私の大事な妹・真凛にしたことを決して忘れないから」
ほんの1~2分も満たない言葉のやりとりだったが、一世紀も過ぎたような長い時間に思えた。
次の瞬間、振り向いた時には彼らは礼拝堂の外に出ていた。
私は崩れるように座席に座り込んだ。

「真凛、大丈夫?このままお母さんと母屋へ行った方が良いわ、
ほら、お母さんがこっちに来るから連れて行ってもらいなさい。
お母さん、真凛、もう限界みたい。あっちに連れて行ってあげてくれる?」
「そうなの?あぁ、真凛、顔色が悪いわ。すぐ休んだ方が良いわね。歩ける?」
「やよいお母さん、大丈夫・・・これで前に進める・・・」
「わかったから、真凛、母屋へ行きましょうね」

私はやよいお母さんに抱えられるように礼拝堂から出た。
渡り廊下の窓から2人を祝福する歓声が聞こえた。

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小山牧師の前で2人誓いの言葉を述べる。
私は、紀ちゃん側の椅子の一番後ろに座っている。
彼らの姿が涙でかすむ。
本当に心から祝福したいのに、紀ちゃんの幸せそうな姿を覚えていたいのに、
涙が邪魔をしてよく見えない。

「真凛、感動しているの?」
「・・・・うん、そうみたい」
「色々あったけれど、祝福してあげようね・・・
でも苦しかったら、無理しないでね」
「ありがとう、雅(みやび)お姉ちゃん」

私の隣にスッと座ってきたのは、
小山牧師の娘の10歳年上の尾島雅(おじまみやび)さん。
今は結婚して姓は変わってしまったが、
ここの教会近くに居を構えているのでこうして結婚式があるときや
礼拝があるときは手伝いに来る。
私のよき理解者であり、相談相手である。
両親の愛情を知らないまま、
ここで育った私にとって雅お姉ちゃんは本当の姉のような存在である。
旦那様は地元では有名な画廊を経営されている方で、
この人は人生の中で怒った事がないのであろう・・・と思うくらい温和な人である。
この私を妹のように接してくれる、大事な家族である。


式の間中、膝に置いていた私の拳は関節が白くなるくらいギュッと握っていた。
小刻みに震えていたらしく・・・。

「真凛、無理しないで・・・苦しいのね、控え室にいる?」
「ううん、大丈夫・・・ここにいる。
ここで・・・紀ちゃん達を祝福しないと多分、彼らから卒業できないんだと思うから」
「そう・・・わかったわ・・・真凛は強くなったね。お姉ちゃんは嬉しいよ」
「お姉ちゃん・・・」

両の目から涙が溢れた。
そうなったきっかけは・・・・。
紀ちゃん達がこちらを向いて列席者から祝福の拍手を受け始めたから。
こちらに近づいてくる2人にちゃんと「おめでとう」と言えるかな?
ううん、頑張って言わなくちゃ。独りで前に進むために・・・・。

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「真凛、ここにいたの・・・・」
「ええ、紀(のり)ちゃん、もう行くんでしょう?」
「真凛も一緒に・・・・。ずっと私達一緒だったじゃない」
「ううん、私はここにいる。ここで『星』を探したいから・・・・」
「一緒に行って!彼も同じに・・・
工房を持たせてあげるって考えているわ、ねっ!!だから・・・真凛」
「ありがとう、でも・・・これ以上紀ちゃんをキライになりたくないの、
これ以上みじめな気持ちさせないで・・・お願い・・・」
「真凛・・・・まだ・・・・」
「違う、そうじゃないって・・・わかったから、
だからここにいるの・・・紀ちゃん幸せになってね」
「真凛、わかった・・・ごめんね」
「紀ちゃん、謝らないで・・・」

無二の親友、いえ、一緒に育った時期もあったから姉妹かな。
三崎紀江(みさきのりえ)ちゃんは今日結婚する。
私達2人のお父さん代わりだった
小山牧師の立会いのもと愛する人と人生を歩んでいく。

彼は、私の高校の同級生だった。
高1の二学期のときに転校して来た、物静かな人だった。
部活も同じ美術部に入り、彼の一挙一動が気になり
それは・・・初恋だったのかもしれない。
その年のクリスマス礼拝に彼を連れて行った。
とても楽しく過ごせると思っていた・・・。
でも、彼は私とは単なるクラスメートとして付き合っているだけで
既に養女になっていた紀ちゃんと仲良くなっていった。
イエス様の生誕を祝う厳かな礼拝は、悲しみの礼拝となった。


あれから・・・7年。
2人の門出のために心を込めて作った、
星が煌く万華鏡を気に入ってくれるだろうか。
制作中は無になれた。
心の整理がつくと思った。
諦められると思った。
でも、でも・・・・羨望と嫉妬と・・・・
心の風が吹き荒れて自分自身が嫌いになった。
「どうして?私じゃ、ダメなの?」
そんな時、山の里教会で静かに佇んでいれば私の心の風は凪いでいった。


ここは私が好きな場所。
ここにいれば安心できる場所。
ここしか居場所がなかったのかもしれない。
ここで『星』を見つけよう・・・・そう思った。

いつかここで一緒に『星』を見たお兄ちゃんに今凄く会いたい。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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