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2008 / 11
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紀ちゃん騒ぎでやっと落ち着いた頃、
啓お父さんと長身の男性が熱心に作品を見ているのを思い出した。
機転を利かせて薫お姉ちゃんが、一緒に説明に加わるようにと促してくれた。

「啓お父さん、ごめんなさい・・・お相手できなくて」
「良いんだよ。それより私はお前の気持ちが心配なんだが・・・・」
「ううん、私は大丈夫よ」
「そうだ、紹介しようね。こちらは藤堂謙杜(とうどうけんと)さんだ。
お父上は指揮者の藤堂全功(まさのり)氏だよ。以前、うちに教会にも毎週来ていたんだよ。
でも・・・真凛は小さかったから覚えていないかな?」
「藤堂さん・・・?」
どちらかといえば小柄な私は長身の藤堂さんを見上げるように笑顔で会釈した。
はしばみ色をした彼の瞳に吸い込まれそうになった。

「どうしたの?」
「す、すみません・・・あまりにも藤堂さんの瞳が綺麗で・・・
星が煌いているように見えたみたいで」
「星?・・・・君のこれらの作品のメインテーマと同じだね。
そんな風に見えたのなら光栄だよ。それに・・・・」
「それに・・・?」
「いや・・・・なんでもない」
藤堂さんは何か言いたげな余韻を残して啓お父さんの方へ行ってしまった。
彼と2~3言交わしただけなのに、何故か懐かしい気持ちになった。
言葉では言い表せない想いが体中を駆け巡った。


「真凛は本当に覚えていないようで、申し訳ございません」
「いえ、小山牧師、いいんですよ」
「なにぶんあまりにも小さかったですし、あの頃あの子は・・・色々ありましたので」
「ええ、存じております。三崎夫妻に引き取られるはずだった彼女がここに残り・・・
それらの経緯も後々父から聞きました」
「そうですか・・・生まれたときの事情もありますので。
拒絶されたり、置いてかれるというのに関して、異常な防衛本能が働くのだと思います」
「それも承知の上です」
「では・・・・真凛を?」
「はい、あの頃、私も自分自身で生きていく力は備わっていませんでしたが、
彼女のことを一瞬たりとも忘れることはありませんでした」
「そうですか・・・本当にありがたいことです。
ですが真凛には苦しみも一緒に思い出さなければなりませんが、
思い出してもらわなければなりませんね」
「出来れば・・・これ以上苦しませたくありませんが、やはりそうすべきなのでしょう」
そう言いながら小山牧師は謙杜の肩を軽く叩いた。

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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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