2008 / 12
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皆様、こんばんは。

Favorite smell 1,2,おまけ~『ハ・ツ・コ・イ!?』番外編~を連続更新しました。
ヒロちゃんサイドもおまけ付です(笑)

明日から3日まで夫実家@帰省します。
なので必然的にネット落ちします。
帰宅して翌々日から夫が、その次の日からお子達がそれぞれ仕事と学校が始まります。
そして私も。。。1月7日からPTA本部の作業が~~~~。

連載は少し落ち着いてからとなります。
単発的な番外編(ヒロちゃんシリーズ)はUP出来たら良いな~と一人希望的観測をしています。
また、お付き合い頂けたら嬉しいです。

では皆様、良いお年をお迎えください。




             紫苑あかね拝


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いつもの習慣でお風呂上りにカサカサ箇所にボディバターをなるべく薄く塗っていく。
全身に使えるらしいけれど、後方の半身は手が届かないから殆ど使っていない。
必要箇所に塗り終わって最後に顔全体に塗り、手についた香りを思いっきり吸い込む。

そういえば・・・この香りがユウキにはリラックスできる香りだったんだ。
それで華絵先輩は、これをあたしに強く薦めたんだね。
薦められた時は「他に色々な香りがあるのに何故これなの?」と疑問に思ったけど
姉としての思惑もあったのね。
ある種アロマセラピーね♪

大きな総合病院の跡取り息子っていえば聞こえはいいけど
『それなりに暗黙の重圧がある』って華絵先輩が言っていたっけ。
今はまだ受験時期じゃないから両親からの具体的なプレッシャーもなりも潜めているらしいけれど
女性である華絵先輩でさえ高校受験時はご両親の意見が大きく反映された・・・と。
そうなってくると今まである程度自由にやってきた分
窮屈に感じたり、自分の意見を突き通すことも出来なくなってくるのかな。
だから高校受験はまだ先のことでも、それがあたし自身が絡んでくることでも
決定的な『確約』みたいなものが欲しいのかな。
『同じ高校を受験する!』ってムキになってまで言うのかもしれない。
無条件に自分を受け入れてくれる人がいないと自分を保てないほど
大変なのかな・・・?ユウキは。

ユウキにとってリラックスできる香りはこれ・・・。
じゃぁ、あたしは?
このボディバターの香りもリラックスできる香りの一つかもしれない。
これを塗った後、香りに包まれて安眠できるものね。
ユウキから発せられる香り・・・。
恐らくは今の時期はヘアーワックスとかの香りかな?
それと制汗剤のシトラス系の香り。
これってあたしにとって安心できると共にドキドキする香りなんだよね。

不安に思ったり、寂しい時にユウキが傍にいてくれているとこの香りがするし。
今日みたいに映画館で寄り掛かった時もふわっと香ったものね。
待てよ・・・でも必要以上に香りが鼻についた感じは何?
かなり至近距離で嗅いだってこと!?
でもその後の公衆の面前で抱き付かれたりしたらユウキの心地好い香りは
ドキドキする香りに変わっちゃうのよね。
結局あたしの場合は、香りとその時のシチュエーションに依るものみたいね。
これからあたしも彼もリラックスできる共通の香りを2人で探すのも良いかも♪


洗面所で鏡を見ながらブツブツ言っていたようで・・・。
扉の隙間から母親が怪訝な顔を覗かせていた。
そうそう、英語の参考資料のお礼もしなくちゃいけないし
ボディバターのお礼もしなくちゃいけないし
そろそろ部屋に戻って華絵先輩とユウキにメールしなくちゃね。
・・・・でもその前にこの香りでリラックスしすぎて睡魔が襲ってきそう!?


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翌日の日曜日は気温が低かったが風も吹いていなかったので陽射しは暖かかった。
小学生の遠足ヨロシクかなり早い時間に起床してしまった。
シャワーを浴び、朝食を軽く摂った。
両親には前日、北山と出掛ける旨を伝えていたので特に何も言わなかった。
昨夜姉貴から借りた辞書を返すために姉の部屋に入ってみれば姉も既に起きていて
今朝から友人と出掛けると言う。

「姉貴、辞書サンキュ!」
「どういたしまして、あらっ?雄輝も出掛けるの?」
「あぁ、10時半に北山が来る」
「へぇ~~~おうちデート?両親在宅なのに勇気ある行動ねvv」
「違うよっ!!映画観に行くだけだよっ!!」
「またまたムキになってぇぇ~~ところで映画『だけ』かしら!?」
「・・・・おいっ!他に何かあるのかよ?」
「『他に』の方にウェイトが掛かっていたりして・・・あれ~雄輝クン、目がすわっているよ~~
お姉さん、都合の悪いこと言ったかな?」
「いいえ、特に言っていません」
「そうでしょう?私は姉として雄輝の味方だからね。ヒロちゃんのこと大切に想いなさいよ
自分の気持ちも大事だけれど、アンタは男なんだからちゃんと抑えなくちゃいけないわよ」
「わかっているよ・・・いつも姉貴サンキュ!」
「カワイイ弟とヒロちゃんのためよ!まぁ、大部分がカワイイカワイイ義妹になる予定のヒロちゃんを
いつでも狼に豹変しかねない弟から守るためよ!」
「おいっ!!姉貴っ!!」

笑いながら姉貴はストールを首に巻いてバッグを持って
俺に手をヒラヒラさせて部屋から出て行った。
やはりこの部屋は不思議だ。
俺の心の内を素直に言葉にさせることが出来る。
姉貴の前だからか?それとも・・・・?


階下で玄関の扉が閉まる音が響いた。
姉貴の部屋の音符を模った壁掛け時計を見て
俺もそろそろ出掛ける準備をしなければ思い自室に戻った。
ブラックジーンズ、長袖カットソー、パーカーに着替え、
クローゼットの中からボアジャケットとアフガンストールを取り出した。
シザーバッグに財布と携帯電話を入れてから
本棚に置いてある鏡を覗きヘアワックスを取り手櫛で髪の毛にささっと馴染ませた。
もう一度鏡の中の自分を確認して、机の上の時計で時間確認をしたことろで家の呼び鈴が鳴った。
昨夜、北山のためにまとめた数枚の紙を徐に掴み階段を駆け下り、
リビングにいるであろう両親に出掛ける旨だけを伝え玄関の扉を勢いよく開けた。


観たかった映画は特殊眼鏡を着用し臨場感溢れるアドベンチャーの映画だった。
映画館の椅子はゆったりと座れたが、映画が始まり次回予告など流れる頃辺りが徐々に暗くなって
北山が日頃の疲れなのか・・・?
「本編始まるまでユウキに寄り掛かってもいい?始まったら教えてね」と言ってきた。
そう言うと俺の左の上腕に頭をくっ付けるように目を閉じた。
そして・・・ふわっといい香りがした。そう、俺がリラックスできるあの香りが・・・・。
自分達の周囲に観客がいないことを好いことに俺は北山の肩に腕を回し
眠っている彼女の目元に額に唇を寄せた。
髪にもキスをして彼女の香りを満喫した。
脳裏に姉貴の言葉の『狼に豹変する』という言葉駆け巡ったが・・・。

本編が始まって北山は起きた。
「あたしが寝ている間にヘンなことしていない?」と疑いの目で見ていたが
その辺りは含み笑いをしてスルーした。
話の進行でときたま「ドキッ!」とする場面で北山が無意識の行動なのか
俺の腕に縋ってくるのを嬉しく感じた。
その度にあの香りが鼻孔をくすぐったが自分なりに?どうにか闘った。

映画が終わり、映画館が入っているショッピングモールを2人で歩いている時
ふと香りに誘われてあるショップに足を踏み入れた。

「ユウキ、こんなお店に興味あるの?」
「いや・・・特にはないけれど、この香り・・・」
「あぁ、これね・・・ユウキこの香り好きなの?」
「うん・・・まぁね、好きかな」
「そうなんだ、これあたしも使っているボディバターの香りなんだよ」
「ボディバター?」
「そう、ボディバター、全身に使える保湿クリームみたいなもので
ユウキのお姉さん、華絵先輩に薦められてこの冬から使い始めたんだ、良い匂いでしょう?」
「あぁ・・・そうなんだ」
「『香り』って大事だよね。アロマセラピーというのもあるくらいだし
それによってリラックスも出来るし、イライラも解消できるし、時には集中もできるしね」
「でもなんで・・・姉貴にそれ薦められたの?」
「たまたまね、こないだ駅近くで華絵先輩に会って凄く良い香りがするから聞いてみたの
長年使っているボディバターだって。自分の部屋はこの香りが染み付いてしまって
弟が自分の部屋に来るとリラックスして色々な相談や話をしてくれるって・・・」
「そうか・・・」
「それでね、きっと弟はこの香りが好きなんだわ!って。それにあたし自身この時期になると
お肌がカサカサしてきちゃうことも相談して・・・それで薦められたってわけ」
「カサカサと俺が好きな香りの関係は?」
「華絵先輩曰く『ユウキはあれでも両親からのプレッシャーとか性格的なこともあって
気難しいところがあるからね』って。
まぁ、同じにボディバター使うならあたしもユウキも好きな香りが良いっていう結論よ!」

姉貴と北山の心配りに何故か嬉しくなってしまい人目も憚らずに彼女を店内で抱き寄せた。
盛大な奇声と共に彼女は力技で離れようとしたが、手放す一歩前でこめかみにそっとキスをした。
顔を真っ赤にさせてショートブーツの低めのヒールを「カツカツ」と派手に音を立てて
店内から出て行ってしまった。
モール内の休憩所の椅子にちょこんと座る北山は未だ真っ赤な顔して怒っている風。
さすがの自分も見境がなかったなと暫し反省して隣の椅子に座る。

「なぁ、怒るなよ・・・」
「・・・もうっ!ユウキ!恥ずかしいでしょっ、お店でやんないでよっ!」
「お店じゃなかったらいいの?」
「そういうことじゃないでしょっ!!」
「・・・ごめん、あの香り確かに好きだし、姉貴の言うとおりリラックスできる香りなんだ
だから・・・思わずさぁ・・・・」
「だからって!!ダメでしょっ!!もうこんなことするユウキなんかキライだからねっ!」
「ホントにごめん・・・もうしないよ」
「本当に?」

俯いてしまっている俺の顔を下から覗き込むように近づいてきた。
あぁ・・・そういうことをすることによって香りが俺を悩ませるんだよ~~
俺は豹変する前にスッと立ち上がり、彼女の手を強く握り一緒に立ち上がらせた。
それと同時に彼女が勢い余ってよろめいた。

「今度はどこへ行く?」と明るい声で言い、彼女の香りが放つ身体を強く抱きとめた。
花の蕾が綻ぶように彼女が笑い「次はあっちのお店ね」という言葉に頷き
彼女の香りに大いに満足すると共に姉貴にも感謝した。




                -おわり-

Page.169

学校の宿題をするために辞書を取ろうと学生かばんの中を探った。
「チッ!」と舌打ちして学校に置いてきてしまったことを思い出し
仕方なく隣室の姉に借りに行くことにした。
姉弟とはいえプライバシーもあり、その上年頃の女性の部屋に入るため・・・
それ以上に自分の姉だというだけで何かとちょっかいを出してくる
最も身近で良い相談相手であり、それでいて自分にとって苦手な存在。
自室を出て姉の部屋の扉の前に立ち深呼吸を一つ、軽くノックをする。
・・・・小さい声で返事あり、確認してから静かに扉を開ける。


「ごめん、姉貴」
「何、どうしたの?」
「英語の辞書、学校に忘れてきたから貸して欲しいんだ」
「英和の方?コレで良い?」
「あぁ、助かったよ。明日までに宿題が膨大な量でさ・・・」
「あの英語の教師、まだ雄輝の学校にいたのよね?
でもまぁ、あの先生は厳しいけれど特に受験の時には『やっておいて良かった!』と思うから」
「まぁね、英語は好きだし・・・特に問題はないんだけどさ。
それに辞書も親父の借りても良いけれど細かすぎるんだよね、あの人の辞書は・・・」
「そうそう!昔のだし、結構アンダーラインが引っ張っていて読みにくいわよ?」
「へぇ~もう使った事あるのか?」
「ええ、何度もよ!それにしても英語もそれなりの成績をとっているのに
膨大な宿題ってどういうこと?」
「いや・・・まぁ、あの・・・うぅん・・・ちょっとさ・・・」
飾り棚に置いてある小さなぬいぐるみを神経質に触り2個ほど下に落としてしまった。

「なにシドロモドロになってんのよ。はは~~~ん、お姉さんわかっちゃったかも♪
ヒロちゃんに関してでしょ?」
「ち、違うよ!!」
「あ~や~し~い~な~??」
「俺の宿題の他に今度のテストの参考にって、参考資料を作っているだけだよ
同じ高校に行きたいから・・・・だよ」
「あ~~~なんて純愛なのかしら~~~
お姉さん、ヒロちゃんが義妹になるんなる諸手を挙げて大歓迎よ!!」
「なんだよ・・・大歓迎って」
「だって、そうでしょう?アンタの周りに纏わり付いてくる女子ってヴジュアルはまぁまぁでも
中身がね~~~伴っていないというか、皆無に等しいというか・・・」
「周りの女子は関係ないからっ!!」
「ハイハイ!いーわよー♪お姉さんは見守っていてあげるから~~
どんどん愛を育んでいきなさいねvv」
「おいっ!どういう意味だよ!?」
「あははは~~おかしい!!
雄輝は特にヒロちゃんのこととなると昔っからムキになっちゃって可愛い~~!!」
「・・・・ったく、辞書借りるから」


そう、言い放つと俺は姉貴の部屋を勢いよく飛び出し自室に入り、
思いっきり自分の部屋の扉を閉めた。
机の上に借りてきた英和辞書を放り投げ、自分はベッドの上に乱暴に寝転んだ。
未だ隣室からはきゃらきゃらと楽しそうな笑い声が聞こえていた。
「そうだよ、悪いかよ!北山のことでムキになって・・・」
俺は独り言を呟き、彼女の事を想うだけで身体の中から疼くものを押し殺すように
自身の身体を丸めるようにした。

寝転びながらふと姉貴の部屋の香りを思い出した。
女子高校生の部屋だけに俺の部屋の雰囲気とは全く違い、
壁紙の色事態違う。
以前、家をリフォームする際に姉のたっての希望でアメリカのインテリアブランドのものらしく
色は穏やかな薄い色であるが細かい花柄である。
俺の部屋壁紙は特になく珪藻土の上に漆喰を塗った形になっている。
コレに関してはお袋が「年頃の男の子は臭うから・・・」という失礼な?理由でこうなった。
姉貴の部屋には女性らしい小物やたんすやドレッサー等がある。
入った瞬間、所謂『イイ香り』もする。
その香りの根源は何なのか・・・?
それは不思議と俺をリラックスさせる効力がある。

小学生低学年まではこれでも結構家族の中でお喋りをしていたが、
高学年になるにつれて特に両親の前では無口となっていった。
よくお袋が嘆いている「用の口もきかない」って。
そりゃ、思春期真っ只中の男子が母親の前で一日の出来事を逐一報告するのもどうかと・・・。
でも姉貴の前だと・・・というかあの部屋だと何故かリラックスできて
不思議と自分の心の内を素直に話すことが出来る。

友達関係のこと、勉強のこと、部活のこと・・・そして告白前の北山に対する想い
その後のことも・・・全て姉貴は俺をさっきのようにからかいながらも
でも真剣に聞いていてくれた。
暫くそんなことを考えていたが、宿題を思い出し改めて机に向かった。
小一時間机に向かっているとベッドサイドテーブルの上の携帯電話が鳴った。
着信を確認して俺は口元を綻ばせた。

「もしもし、ユウキ?あたし・・・」
「あぁ、北山?部活終わったのか?」
「うん、もうじき定期演奏会だからね、練習きつくってさ~帰ってから勉強するの眠くって大変だよ」
「そっか・・・大変だな。あぁ、でも英語はいつもどおり【まとめ】作っといてやるからな!」
「えっ!?本当?わ~~助かる~~♪ユウキのそれのお陰で英語の成績が上がったんだよね
それに文法の授業がわかりやすいっていうか・・・いつもありがとう」
「まぁ、同じ高校に行きたいからこれくらいの点数は取っておかないと内申書に影響があるからね」
「また~~~そんなことを・・・あたしは愛ちゃんと同じ女子校に行くの!!」
「ダメだ!俺と同じ高校に行くんだ!!」
「イヤだって言っているのに~~ユウキは我が儘だよ?」
「ここは絶対に譲れないからなっ!それに南はもしかしたら東野先輩の高校に行くかもしれないぞ?」
「えっ!?そうなの・・?」
「南なら可能性はあると思うけれど。東野先輩に夢中だしな~~」
「そうだよね・・・その可能性もあるよね・・・その上、こないだ音大も行きたいようなこと言っていたし
あたしだけ『愛ちゃんと一緒に』と思っているだけかも」
電話の向こうでしょんぼりしているであろう広子のことを想った途端
雄輝の胸がチクリと鈍い痛みが走った。

その場の雰囲気を打ち消すように努めて明るい声で話した。
「それで明日、空けているぞ?」
「あぁ・・・うん・・・本当?じゃぁ、映画観に行けそうだね」
「うん、じゃぁ、後でネットで座席を取っておくよ」
「そんなこと出来るんだ~じゃぁ、お願いします」
「前から観たいって言っていた作品で良いんだな?時間は・・・10時半に北山の家に行くよ」
「ううん、いいよ。ウチに来ると戻る感じになるからその時間にあたしがユウキの家に行くから
それでイイでしょう?家を出るときメールするから」
「わかった・・・玄関で待っているよ。
それと・・・さっき高校のこと、ごめん、でも本当に俺は北山とっ!!」
「うん、わかっている。ユウキはそこまで考えてくれているってわかっているから
でも志望校決定までまだ時間があるよね?
あたしも自分のことだから真剣に考えているよ将来のことも含めてね」
「将来・・・?」
「うん、将来のこと、ユウキだってそうでしょう?」
「まぁな・・・じゃぁ、明日」
「うん!また明日ね~~バイバイ♪」
二つ折れの携帯を「パタン」と閉じ雄輝は最後に広子が話した『将来』という言葉を頭の中で反芻しながら呟いた。

Page.167

※漫画「王家の紋章」に登場するキャラを題材にしました。




そなたを自分の胸の中に抱え込むように眠る。
それがどんなに心休まることか・・・・


毎晩、そなたのほうが先に床につく。
私の事を思うてか、寝台の奥の方にまるで猫が丸くなるように小さく横を向いて眠る。
部屋の灯火はごく小さく抑えられている。
扉を開け、足音をしのばせ寝台へ近づき極力揺らさぬようそなたの横に滑り込む。
この国のファラオたる者が、自分の寝台へ上がるのに何の遠慮がいるのか!?
と、以前は思っていたが・・・・。
我ながら劇的な変化だなと・・・思う。

そなたの首の下に己の腕をそっと差込み、肩を抱くようにふんわりとそなたを抱く。
私の胸とそなたの背中がくっ付くように抱き締めている・・・・
暫くするとそなたは決まって私のほうを向くようにね寝返りをうつ。
「メンフィス・・・?」そなたの吐息が我が胸にかかり、更にぬくもりが伝わる。
我が名を囁き、私の寝衣を無意識に探り離れぬようにぴったりと寄り添ってくる
そしてまた夢の中へ引き込まれていく。
その仕草がなんと愛しいことか。

そなたの全身から、吐息から感じるぬくもりが
それがどんなに明日への力になっていることか・・・・。
そのぬくもりを守るためならば私は神と戦ってもよいとまでも思う。

何度も我が手からそのぬくもりが失われそうになったとき
何故守れなかったのか?何故手放してしまったのか?
どんなに我が身を責めたことか!!

今、この時我が腕の中に何者にも代え難い愛しい者がいる。
ぬくもりを感じ、喜びも感じつつ・・・我が宝を抱き締めて今夜も眠ろう。


Page.166

皆様、こんにちは。
いつも私の拙いオリジナル恋愛小説にお付き合いくださいましてありがとうございます。

早速ですが、私・・・エライ間違い?を今頃気が付きました。。。
以前『ハ・ツ・コ・イ!?』番外編で連載しまして『手のひら』におきまして
約1話分欠落していることが判明しました。
<驚きましたよ~~本人が一番(大汗)

きっとワードのファイルからこちらへ書き写す際に忘れたのかと。
『手のひら 4』と『手のひら 5』の方に書き足す形で修正しております。
ご興味のある方は、どうぞよろしくお願いします。
尚、カテゴリー『ハ・ツ・コ・イ!?』番外編からでも古い順に読むことは出来ますが、
念のために下記からも飛べるようにリンクを貼っておきますね。
この場をお借りして、お詫び申し上げます。

★ 手のひら~『ハ・ツ・コ・イ!?』番外編

Page.165

☆相談という名の『悩み?』~広子と愛子の場合☆

――部活終了後、楽器を片付けながら2人の会話――



ねぇねぇ、愛ちゃん、今年のクリスマスプレゼントは東野先輩にあげるの?

うん、そのつもりだけど・・・ヒロちゃんは?

あたしもユウキにあげるつもりなんだけれど、何がいいと思う?

そうだね~お小遣いの中から何か買うの?

う~~ん、そんなに沢山は貰っていないから買うほどないんだよね
それに女の子なら色々考えられるけれど・・・男子は何が欲しいのかな?

私は一人っ子だからわからないな~~
あっ!ヒロちゃんには弟クンがいるから聞いてみたら?

そうね・・・でももの凄くガキンチョだからユウキの趣味とは程遠いかも。
未だに遊戯王のカードを大事に持っているヤツだもん。

・・・・そ、そうなの?

そうなの・・・・はぁ~~どうしよう
もう日にちもないのにね・・・やっぱり手作りの何か?

そうなると、マフラーとか手袋とか・・・あとセーターとか?

あたしには絶対無理な芸当だわ・・・・
もしかして愛ちゃん編むつもり?

うん、マフラーくらいだったら太い毛糸でザクザク編めちゃうよ?
一緒に編む?棒編みだったら早いよ、ヒロちゃんもこれを機にやってみる?

ダメダメ、無理無理~~~
それにオケ部の定期演奏会の練習もあるのに、その上細かい仕事は絶対無理でござる

ヒロちゃん・・・おばあさんみたいなことを・・・・

目がしょぼしょぼしないものがいいな~~

じゃぁ、お菓子でも作る?

おっ!それなら出来るかも!!
チョコレートだとバレンタインになっちゃうからクッキーとか?

そうそう!こないだ私のお母さんがパン教室で菓子パンを作ってきたからそれを教えてもらう?

そうなの?それ、いいかもね~~
でも甘い系のパン、好きかな?

そうだねぇ、先輩が甘い系のパンを食べているの見たことないな
西君は?

ユウキも・・・あんぱんとか食べないな・・・・

はぁ~~~~~~(深く溜息)
どうする?とりあえず、それぞれ本人に聞いてどんなパンが好みか聞いてみて
お母さんに教えてもらおうか?

そうだね・・・まず、リサーチからだね・・・。


――かくして、恋する乙女達は無事にリサーチ出来たのでしょうか!?――


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



☆相談という名の『画策?』~東野先輩と雄輝の場合☆

――部活終了後、更衣室にて着替え中の会話――


おい、西、今年のクリスマスは北山からプレゼントを貰えるのか?

えっと、そのつもりですけど・・・先輩は?

俺もそのつもりだよ

やっぱ、そうですよね?一応、彼女がいるんだし

何が欲しいって言ってあるのか?

いいえ、特には・・・伝えていませんが・・・・

そっか・・・俺と同じなんだな

先輩のことだからとっくに伝えていると思っていました

そんなことあからさまに言えないだろう?

あからさまって・・・・?

(/////)あからさまは、あからさまだよっ!

あぁ・・・あからさまにね・・・(/////)

(ごほん!)なにげに欲しいものをアピールしてみるか?

もう、日にちがないからあまり難しいこと言って・・・
西の場合は恐らくパニック起こしそうだ

そうなのか?

はい、アイツはパニック起こすとろくな事になりませんから
まぁ、元々落ち着きないヤツですけど

そういえば・・・怪我が絶えなかったよな?

うぅぅ・・・そうなんですよ~~指先とか、後頭部、胸部強打
先日は自宅調理中にやけどですから・・・・俺の心配の種はこの寒いのにメキメキ発芽中ですよ

はははっ・・・おもしれ~~!!

笑い事じゃないですよ・・・・

それでも一緒にいたいと思うんだろう?

まぁ、そうですけれど・・・そうだから一緒にいるのは俺じゃないといけないと思うんです

じゃぁ、プレゼントは一緒にいてもらうで良いんじゃね?

おおっ!それなら日にちもいらないですし、安上がりですね!
それで先輩は?

俺か?・・・う~~~ん、俺も一緒いて欲しいかな?
それも甘い雰囲気でね

そうそう!『甘い雰囲気』は必須ですよね?

――かくして、恋する少年達の画策は成功するのでしょうか?――


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆



☆相談という名の『打診?』☆

~雄輝&広子の場合~

ユウキ、クリスマスプレゼント何がいい?

おっ!俺にくれるのか?

うん、一応ね!

一応か・・・・まぁ、一応お前、彼女だしな!!

一応って何よ!じゃぁ、あげなくてもいいの?

いやいや、そうじゃなくて・・・・

何を困っているのよ

(ゴホン!)困ってねぇよ!

何を怒ってるの?

怒ってねぇよ!

怒っているじゃん・・・・

クリスマスプレゼントの要望を聞いていてなんでケンかになるんだよ

あっ!そうだった、それで何が欲しい?

心のこもった物だったら何でも嬉しいよ♪

そう?じゃぁ、手作りのパンなんかどう?

パン!?どーーしてまたそうなる?

だって、手編みモノは間に合わないよ、来年のクリスマスだったらOKかも
だから・・・ね♪

だから?

だから手作りパン!!

(広子の思考に少々眩暈を覚える)そ、それでパン??

そうそう!それも甘い系のパン!

『甘い』部分は受け入れるけれど・・・パンはまたの機会でいいよ

え~~~なんでぇぇぇ!?!?

だ・か・ら・俺と『甘い』時間を過ごす・・・が欲しい!

ユウキ!!もう!!(広子の拳が雄輝の胸にHIT!)


☆彡  ★彡  ☆彡  ★彡


~東野&愛子の場合~

先輩、クリスマスプレゼント何が良いですか?

愛ちゃんから貰えるの?

ええ、参考までに先輩の希望を聞こうかと思って・・・

そっか~~嬉しいな♪

それで何が良いですか?

う~~ん、愛ちゃんからプレゼントだったらなんでも嬉しいな

何でもって言われても困ります・・・・
具体的に言ってくれませんか?

具体的ね・・・・(むふっ♪)

あれ?先輩、今、意味深笑いしませんでしたか?

いやいや、していないよ~~~

そうですか?(気のせいかな?)
それでどんなものが良いですか?

そうだな~~~思いつかないな~~~

じゃぁ、手作りのものなんかどうですか?
例えばマフラーとか、手作りパンとか・・・?

手作りのもの!?大歓迎だよ!!
でもマフラーなんて編む時間あるの?

ええ、ありますよ♪
それともパンにしませんか?

愛ちゃん、それって・・・『パンにしろっ!』って言ってない?

いえいえ、言ってません
先輩、私、そんなに強く押し付けているように思えるのですか?
酷い・・・・(くすん)

ごめんごめん、そんなつもりじゃなくて・・・
泣かないで・・・パンが良いかな~~~!?あははは・・・

ハイ!手作りパンですね!!
甘い系にしようと思いますが、どんなのがお好みですか?

甘い系か・・・それより『甘い』だけの方が好みだけど(思わず愛子をHUG♪)

あ~~ん、先輩~~~!!!


―――かくして恋する乙女達と少年達はそれぞれ希望通りのものを贈り
                貰うことが出来たのでしょうか!?―――


Page.164

皆様、こんばんは。

『万華鏡』最終話UPしました。
長編ではありませんが、思いのほか時間が掛かってしまいました。
詳しい事情は☆『想いは言の葉にのせて』執筆打ち明け話☆に書いてあります。
<リンクからでも飛べます

この作品も、もう少し深く掘り下げて書きたかったです。
2人の最後の会話が気になりませんか?(←別に~ってスルーしないでぇぇ)
続編も書けたらいいな・・・と思っています。

最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。
また次回作も宜しくお願いします。


           紫苑あかね拝

Page.163

きらきら、きらきら―――――――
  ぴかぴか、ぴかぴか―――――――
    くるくる、くるくる―――――――

光を取り込んで、小さな小さな銀河は綺麗な世界を見せてくれる。
星のカケラは小さくとも・・・・・その中に見える大きな星になる。
悲しいことも、寂しいことも、嫌なことも、忘れさせてくれる。

ほら、お兄ちゃん・・・・
見えるよね?
一度として同じ星には見えないね。

うん、真凛(まりん)・・・・
見えるよ。
一度として同じには見えないね・・・・・
大好きだよ、僕の真凛。

きらきら、きらきら―――――――
  ぴかぴか、ぴかぴか―――――――
    くるくる、くるくる―――――――

お兄ちゃん、あたしも・・・・大好き。


今年の冬はとても寒い。
そのせいかここからの夜景も星が瞬いてよく見える。
彼からの告白、私からの告白から・・・・1ヶ月ほど経った。

工房にいた私を後ろからそっと抱き締めてくれる彼。
「真凛・・・」
「いらしていたの?」
「うん、小山牧師に挨拶してきたよ」
「そう、何て言っていた?」
「承諾してくださったよ」
「そうだったのね・・・嬉しい?」
「ああ、もちろん嬉しいよ、真凛は?」
「ええ、もちろん嬉しいわ」
私の答えを聞き、彼は自分の胸にすっぽりと抱き締めこめかみに何度もキスをしてくれた。


色々な事がありすぎて私は幼い頃の記憶を自分で封印させていた。
それは全て幼いながらも自分自身を保つための一種自己防衛みたいなもので。
でもそれも安心できる『星』をもう一度見つけたから
その封印を自ら解き放つことが出来たのだと思う。

ずっと・・・出逢った時から待ってくれていた彼がいるから。
万華鏡の中でくるくると廻る小さな星は一つとして同じとならないけれど
そこに『星』がある限り・・・傍にいてくれる限り・・・私は生きていける。



           
              -おわり-

Page.162

「さて、おなかもいっぱいになったしそろそろMDを渡さなくちゃいけないないね」
「でも・・・食器の片づけをしなければ・・・」
「いや、いいよ、仕度の手伝いをしてくれたから、片付けは僕がやるよ」
「そうでうすか?」
「うん、それにね、片付けの方が簡単なんだ。食洗機に放り込んでスイッチオン!だけだからね」
「あ~~ぞうですね・・・それで私に仕度を手伝わせたんですか?」
「そう!その通り!!」
「なるほど、藤堂さんはそういうやり方なんですね。覚えておきます、うふふふ・・・」
「あっ!何か企んでるな?」
「いいえ♪」

食事をしながら更に気さくに話が出来る仲になったようで、
こうしてふざけてでも話せるようになったことに2人とも嬉しくなった。

「階段を上がって右側に『Office』と書いてあるドアの向こう側が僕の仕事場なんだ。
すぐにここを片付けてしまうから先に行っててくれ」
「ハイ、わかりました、右側ですね?」
「うん、まぁ、間違って他のドアを開けてしまっても寝室と・・・客間くらいだから」
「・・・・・開けませんよ~~~」
「わかっているよ・・・ソファにでも掛けて待っていてくれ」

謙杜に言われたとおり階段を上がり『Office』と書いてあるドアをそっと開けた。
先ほど車の中で彼から香った香りがふわっと真凛の鼻孔をくすぐった。
天井の灯りは点いていなかった。
かなり薄暗いフットライトと外からの街灯と廊下からの灯りで仄かな明るさだ。
部屋の中のはもう一つドアがあり、その向こう側は音楽プロデューサーとしての仕事場であろうか。
真凛のいる部屋は8畳ほどの広さで、大きな窓の反対側には作り付けの書棚があった。
資料や雑誌、書籍、CDやDVDが所狭しと保管されている。
真凛は細い指先でそれらをなぞるように薄暗い部屋の中でなぞりながら眺めた。
真凛の目の高さにあった棚に置いてある写真立てがふと目に留まった。
「これ・・・私・・・!?」
そう呟き、思わずその写真立てを手に取った。
その時、どこからか風が吹いたのか真凛のいる部屋のドアが閉まった。
途端に仄かに明るさを保っていた部屋は暗闇に近い状態となってしまった。


階下では謙杜が食器を片付けてリビングに面している大きな窓を開けて
デッキに置いてある植木を部屋にしまう作業をしていた。
階下にいた謙杜は、微かな泣き声を聞いた。
それは胸が締め付けられるような声を殺したような泣き声。
「真凛?」
そう口にしたが早いかリビングを飛び出し、階段を駆け上がり真凛のいる部屋に飛び込んだ。
床にうずくまっている彼女を抱き起こし自分の胸元に抱き寄せた。
「真凛・・・?どうしたの?」
「やだ・・・暗い・・・怖い・・・・怖いよぉ
のりちゃん、ごめんなさい・・・・意地悪しないで・・・真凛をココから出してよぉ
置いていかないで・・・お兄ちゃん・・・真凛の傍にいて・・・いい子にするから・・・
うっ・・・ごめんなさい・・・いい子にするから・・・お願い・・・・」
真凛は、暗闇の中で写真立てを抱き締めながら子どものように泣き出していた。

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・真凛、いい子にするからココは怖いから・・・・
置いていかないで、お兄ちゃん、真凛をまた一人ぼっちにしないで・・・・いい子にするから」
「真凛・・・・」
「おに・・・い・・・ちゃん・・・、真凛・・・いい子に・・・」
「誰も真凛をもう置いていかないから・・・真凛、泣かないで、もう一人させないから
僕が傍にずっといるから、だからもう泣かないで」
「・・・・お兄ちゃ・・・ん?」
「・・・・そうだよ、僕だよ、真凛、僕の真凛・・・」

真凛は謙杜の優しい声を聴き、涙に濡れた顔を上げた。
彼の優しいはしばみ色の瞳を見て「あっ!」と小さい声を出した。
謙杜は彼女の涙を優しく拭い、両頬を挟み額にキスをした。
そして宝物を大切に抱き寄せるように優しく真凛を抱き締め
深く溜息を吐き彼女の髪にも数回キスをした。
抱き上げるように近くのソファに座り直し、リモコンで照明を点け、彼女を安心させた。

「真凛、大丈夫か?」
「ハイ、大丈夫です・・・ごめんなさい、動揺してしまって
暗所恐怖症で・・・小さいときに・・・納屋に閉じ込められたことがあって
それから暗闇がダメでそれでも夜空に瞬く星は怖くないんです」
「あぁ・・・知っている。三崎夫妻に引き取られる一件時だろう?
経緯は父や小山牧師から聞いているよ」
「そう・・・だったんですか。パニックを起こしてあまりにも酷くて
三崎夫妻が不安に思ったのも無理もないですね。」
「本来、真凛が引き取られるはずだったのに・・・代わりにあの子が・・・」
「紀ちゃんですね?でも私はそれでも良いと思っています。
でも、その後お兄ちゃんとの別れは辛かったですが・・・」
「ごめん・・・あの頃は僕も子ども過ぎたから」
「謝らないで・・・仕方がなかったんです」
「それでも、僕は離れたくなかった。傍にいたかった・・・
でももう決して一人にさせない!ずっと僕が傍にいる。
愛しているよ、真凛、僕の大切な・・・女性(ひと)」
「藤堂さん?」
「クスッ・・・真凛、『謙杜』だよ」

謙杜はそう囁き、真凛のまた潤み始めた瞳にそっと唇を寄せた。
自分の肩に彼女を凭れさせ髪に指を絡ませて優しく何度も梳いた。
「真凛、愛している」と何度も囁きながら髪に、額に、瞼に、頬に・・・・
順に全てを愛でるようにキスした。
「お兄ちゃん、ううん、謙杜さん・・・私が思い出すまで待っていてくれたのね?
私も・・・多分あの頃から、好きだったんだと思う。ううん、きっと愛していた・・・」
「真凛!」
2人、そっと唇を寄せ合い啄ばむようなキスをした。
彼女への愛情が溢れ出すかのように堰を切って彼は強く抱き締めながらもっと深く何度も口付けて
お互いもう傍を離れないと誓い合った。

Page.161

見るからに古い建物であろうと思わせるような洋館風の家の前で車が止まった。
門扉からエントランスまで所々にガーデンライトで明るく照らされており
とてもロマンチックでありながら落ち着いた感じだった。
謙杜がリモコンで門扉を開け、車庫に車を止めた。

「ここだよ・・・」
「わぁ~~素敵なお家ですね!!」
「古いんだよ・・・でも中はだいぶリフォームしているから・・・さぁ、どうぞ」
「お邪魔します・・・」


玄関に入った途端感嘆の声を上げた真凛だった。
ブーツを脱ぐのを忘れて大きな吹き抜けとなっている
玄関ホールをぐるりと見渡した。
ゆるく弧を描いている階段の上がりきった正面に
銀河を思わせるような大きなステンドグラスが目に入った。
真凛は、職人技が光るそのガラス工芸品に見惚れてしまった。

「真凛、いつまで玄関にいるの?屋内とはいえ・・・ここは冷えるよ
こっちへおいで・・・お茶を淹れよう」
「あっ!すみません・・・あまりにもここが素敵だったから・・・
ここがこんなに素敵なんですもの・・・きっとここのお家全部素敵なのでしょうね~♪」
「いや・・・ここだけかもよ・・・?」
「えっ!?豪華一点張りですか?」
「そう!」
「えぇ~~~そうなんですか~~~?」
「まぁ、興味あれば・・・案内するよ」
「ハイ、あっ!いえ、そんなつもりで言ったんじゃないです!
でも音楽家の感性って興味あります・・・」
「そう?じゃぁ、音楽プロデューサーのプライドを掛けて一生懸命披露しなくちゃね」
「いや、そこまで一生懸命にならなくても・・・・」
「ははは・・・真凛は本当に面白いね。君の感性の方が僕は興味があるな」
「そうなんですか?」


真凛は大きな鉄製の暖炉のある広いリビングに通された。
居心地の良さそうなソファに座るよう促された。
「ところで・・・食事は済ませた?」
「今日は19時過ぎまでレッスンがある日なので、夕方早い時間に軽く済ませているんです」
「そうか・・・でも少し何か食べる?小腹が空いていないか?」
「・・・・実は少し・・・・」
「じゃぁ、家政婦さんは作ってくれたクラムチャウダーで良いかな?」
「ええ、そんな・・・お構いなく・・・じゃぁ、私お手伝いします」

そう言いながら手早くコートを脱ぎ、黒いセーターの袖を捲くり手早くキッチンに立った。
謙杜の許可を得て冷蔵庫を開け中身を確認し、
タッパーに入れてあるクラムチャウダーを鍋に移し弱火で温め
その間にリーフレタス、プチトマト、ブロッコリースプラウトを洗いガラスの小鉢に盛り
軽くクレイジーソルトを振りかけた。
カフェオレボールのようなスープボールに温まったクラムチャウダーを入れ
クラッカーを数枚添えて一枚板でできたダイニングテーブルの上に置いた。
5~6人はゆうに座れるであろうそのテーブルに真凛と謙杜は向かい合わせに座った。
2人両手を合わせて「いただきます」と言い
そして顔を見合わせてにっこりと微笑みあった。

Page.160

バッグとケーキを持って助手席に乗り込んだ真凛だったが
シートベルトに手こずってしまった。
荷物を片手に悪戦苦闘していると、
謙杜が半ば覆い被さるように真凛のシートベルトを掴み手早く装着した。
一瞬、彼の前髪が彼女の頬を掠めた。
真凛は心臓が跳ね上がるような感覚に陥り「ヒュッ」と息を吸い込んだ。
彼から発せられる香りなのだろうか・・・心地好いと思った。

「大丈夫?ベルト、きつくないかな?」
「ハ、ハイ!大丈夫です」
「荷物、いっぱいだね?その箱は後ろの席に置く?」
「いいえ、中身はケーキなのでバッグ方が良いかも」
「そう?じゃぁ、バッグを後ろに置いて・・・本当にそれもイイの?」
「ええ、だって・・・もし落ちてしまってプチケーキが皆くっ付いてしまって
1個のケーキになってしまったら悲しいです」
「ははは・・・面白いこと言うね」
「一応・・・手土産に!と思っていたんですよ」
「ありがとう・・・でもそんな気を遣わなくても良いのに」
「初めてお邪魔するのに、手ぶらってわけにいきませんから」
「そう・・・中身がとても楽しみになったよ。
じゃぁ、ケーキのためにも安全運転で行きます!」
「ハイ、よろしくお願いします」

謙杜は車のギアを入れ静かに発進させた。
住宅地へ向かう道は少々混み始めていたが、
少しでも長く彼女と同じ空間に過ごせることを素直に喜んだ。
大切そうにケーキの箱を抱えている彼女を目の端にとらえながら
自分の家に招待することが予想以上に楽しみにしている自分に改めて驚いた。
そしていつか・・・近い将来・・・
いつも彼女が自分の横にいてくれることを強く心の中で願ったのだった。

Page.159

謙杜は駅の一時的に止められる駐車場に車を止めて
彼女と約束したコーヒーショップにて待つことにした。
何も頼まずに店内で待つのも少々気が引けたのでホットコーヒーを頼んだが
殆ど口にせずホームに電車が入ってくるたびに目を凝らしながら改札口のほうを見ていた。
遠目で容姿が真凛に似ている女性を見かけるだけで
少年のように胸が高鳴ってしまう自分に苦笑してしまった。


コーヒーショップに入ってから数本の電車を見送って
もう一度彼女の携帯電話に電話を掛けようとした時、
自分が座る席の前のガラスを軽く叩く音がした。
ダークグリーンのファー付きのコートにキャメル色のスカート、
黒のロングブーツを身にまとった真凛がにこやかに笑っていた。
『お待たせしました』と口の形だけではっきりとわかるように模り、
セミロングの髪をふわりと靡かせてぺこりと会釈した。
一口か二口しか飲んでいない、すっかり冷めてしまったコーヒーをカウンターに返し
足早にお店を出て真凛の傍へ行った。

「こんばんは、結構お待たせてしまいましたか?」
「いいや、そんなことないよ」
「そうですか?それなら良いんですが・・・
お電話してからちょっと時間が掛かってしまったかな?と思ってしまったので」
「いや・・・ここまで来るのに道も空いていたし、コーヒーも飲めたしね」
「あぁ~~やっぱりお待たせしまったのですね、すみませんでした・・・」
「いや・・・うぅん・・・僕が・・・早く・・・真凛に会いたくて・・・
早めに家を出ただけだから気にしないで」
「私に早く会いたかったのですか?実は私もなんですよ・・・うふふふ」

お互い同じ気持ちだったことに照れくさくなってしまった。
その雰囲気を打ち破るかのように謙杜が務めて平常心の声を出して駐車場へ行くように促した。
彼の言葉に答えるように真凛も返事をしたが、
声が上ずってしまっていることに彼女は気が付かなかった。
謙杜の車までは何故か終始無言となってしまった。


帰宅ラッシュもあり一時駐車場は満車でどれが謙杜の車なのだろう?と真凛は思った。
チェッカーに精算料金を入れる彼の後ろ姿を見ていた。
暗がりの所為か彼の車がどんな形なのか良く見えなかったが、
暫くして自分の前に濃紺のワンボックスカーが静かに止まった。

Page.158

謙杜に仕事の終了を告げるべく連絡をした真凛は
テナントビルから少し距離のある駅まで歩いて行った。
彼に会えると思うと自然と早歩きになってしまう自分に対して思わず微笑んでしまう。
啓お父さんのお遣いといえ、初めて彼のお家にお邪魔するのだから手ぶらというわけにもいかず
カルチャーセンターの帰りなどに寄るお気に入りのケーキ屋さんで手土産を買うことにした。

19時過ぎてもやっているかしら・・・と思いながら店の前まで来てみれば
店舗全体がクリスマス調にデコレーションされており、
イルミネーションも綺麗に施されて真凛は思わず見惚れてしまった。
お店の中から顔なじみになっている店主の奥さんが「いらっしゃいませ」と声を掛けて来てくれた。

「この時間ですが、まだありますか?」
「いらっしゃいませ、今日は遅いのですね。
ええ、売切れてしまった物もありますが定番のプチケーキはあります」
「今日はちょっと・・・手土産用でお願いしたいのですが」
「そうですか・・・?それならプチケーキの詰め合わせがよろしいですね」
「ハイ、お一人でいらっしゃるのでそんなに数はいらないのですが・・・」
「かしこまりました」

男性って・・・ケーキはお好きかしら?
啓お父さんや匡お兄ちゃんのように甘党ならそうかもしれないけれど
当たり障りのないものを選びながらも彼の好みを想像しながらケーキを選んだ。
フルーツタルト、チョコレートケーキ、チーズケーキ、
イチゴショート、コーヒーロール、サバラン・・・・
定番のものが残っていて良かった。やっぱりここのサバランは外せないしね。


誰かのために好みを想像しながら何かを選ぶことは、真凛にとって殆ど初めてのことで
とても楽しい時間なのだと気が付いた。
箱に詰めてリボンも掛けてもらい、謙杜に会える喜びが歩調に表れたようで
ケーキ屋を出た真凛は足早に駅に向かった。

Page.157

カルチャーセンターにて次のレッスンの準備をしている時、啓お父さんから連絡があった。
仕事が終わってからで良いから、子どものためのクリスマス会のMDを
藤堂さんに頼んでおいたから取りに行って欲しいとのことだった。
啓お父さん自身が取りに行くのが良いのだが、今週いっぱい都合がつかないという。
またやよいお母さんは風邪を拗らせてしまって外出は極力避けたい状態。
2人のお姉ちゃん達も都合がつかない・・・。
ということで、一番身動きが取りやすい私に白羽の矢が当たってわけ。


この日のレッスンは会社帰りのOLさん対象の時間も設けていたので
終わったのは19時過ぎてしまった。
啓お父さんの計らいで藤堂さんには、私の仕事の終わる時間は伝えているはずだったので
彼の携帯電話に仕事の終了を伝えるために電話をした。

「もしもし、山里です」
「あぁ、真凛?終わったんだね・・・今どこ?」
「ハイ、これからテナントビルを出ます」
「じゃぁ、そこまで迎えに行くよ」
「そんな、イイですイイです!!最寄の駅まで帰りますから」
「そう・・・?じゃぁ、今から電車に乗れば3~40でこっちの駅に着くよね?」
「ハイ、急行に乗ればもっと早く着くと思います・・・」
「そんなに慌てなくて良いよ。それにMDはもう編集済みだし、僕の家で視聴してもらえば良いだろう?」
「えっ!?お家にですか?」
「ダメかな?」
「いえいえ、ダメだなんて・・・でも図々しいですよね」
「いや、真凛ならいつでも大歓迎だから・・・」
「そうなんですか・・・?じゃぁ、後ほど・・・」

お互いの携帯電話を切った。
真凛は、謙杜が自分の事を『真凛』と呼ぶことに対して僅かな違和感を感じつつも
それでも再び彼に会える嬉しさの方が勝っている自分に改めて驚いた。
そして謙杜もまた真凛に会える喜びをかみ締めていた。
礼拝のために何度か山の里教会へは赴いたが、
真凛とは挨拶程度にしか言葉を交わしていなかったから。
そのため今日小山牧師のお遣いで真凛がここへ来るという連絡が入ったときは本当に嬉しかった。

彼女を駅まで迎えに行くために、ガレージに止めてある車のエンジンを温めるので
手際よく身支度を整えた。
リビングのサイドボードの脇に壁沿いに掛かっているキーボックスの中から
愛車のキーを素早く取り出した。

Page.156

自分が幼少の頃に住んでいたこの家をリフォームして居住部分と作業場を併設した。
それと・・・いつか一緒に住めることを望み彼女の工房スペースも確保してある。
今いる部屋は元々自分の子ども部屋だった。
大きな天窓を新たに付けた。
仄かな灯りにし、天窓からまるでプラネタリウムのように天空の星星が見える。
この家の立地の所為か、都会と違い夜でも晴れていれば星がよく見える。

今、手がけているグループのプロデュース作業をしていたのだが、
ふと目の疲れを感じ、椅子の背もたれに伸びるように上を仰いだ。
謙杜は無意識に右手を星を掴むように天窓に向かってあげた。
「掴めないのか?」
無意識に発せられた自分の言葉に心が震えた。
目じりに涙が沁みた。
満天の星が掴めないように真凛の心も、愛も自分の手に掴めないのだろうか・・・。
もう時が経ちすぎてしまったのだろうか。

机には先日、彼女の工房へ行った時に貰った万華鏡がパソコンの横に飾ってある。
そこにはいつもきらきらと星が瞬いているに・・・
大きな事を望んでいるわけではない。
ただ彼女に自分の存在を気付いて欲しいだけ。
彼女の愛を欲しているだけ。
彼女と一緒に生きていたいだけ・・・・。
たったそれだけなのに、それはもう望んではいけないのだろうか・・・・。
僕の『星』は天空の彼方へ逝ってしまったのだろうか。

手がけている音楽グループは先ごろメンバー2人がかけがえのない『星』を見つけたと聞いた。
・・・・・心底羨ましいと思った。
そう思い、もう一度謙杜は天窓に向かって両手を掲げるようにした。

Page.155

2年前の結婚式からとこないだの個展最終日の件で、
自分の心に小さなトゲが引っ掛っていたようで・・・。
でもそれも高田君と話したことによって
不思議とスッと取れていった。
あとは・・・彼らが本当の意味で幸せになってくれれば良いと心から願った。


陽も落ち夕闇が広がってきてかなり肌寒くなってきた。
隣駅のデパートは今度の休みにでも薫お姉ちゃんを誘って行こうと思い、帰宅の途についた。
帰宅してみれば、家にはやよいお母さんしかいなかった。
今日、高田君に会った事を話した。

「真凛が出掛けてすぐ、電話があったのよ・・・」
「そうだったの?」
「2年前のことはともかく、個展の時のことも気にしていてね
私としてはもう色々蒸し返しても・・・と思ったんだけれど・・・
お父さんが真凛のためだから・・・ってね」
「うん、彼と話して良かったの、気持ちの中で引っ掛っていたのが
取れた感じでね・・・やよいお母さんありがとう
それとお姉ちゃん達には・・・?」
「そっちは私の方からちゃんと話しておくから心配しないで」
「ありがとう・・・」

私は安堵したせいかやよいお母さんの前で少し涙ぐんでしまった。
やよいお母さんはいつもと変わらず優しい微笑を浮かべながら
「真凛はいい子ね」と言いながら頭を撫でてくれた。
そして私と高田君夫妻とのことは決着がついたように思えた。

Page.154

カルチャーセンターにてレッスン後、後片付けをしていた。
今日は手伝いに来る薫お姉ちゃんはお休み。
少し体調が良くないとかで・・・今朝携帯電話にメールがあった。
教室を出て、受付に鍵を返したところ懐かしい声で呼び止められた。


「山里?久し振り・・・」
「高田君?わぁ~久し振りだね・・・あの結婚式以来だね、元気?」
「う・・・ん、まぁな、ぼちぼちだよ・・・」
「そっかぁ、あれっ?今日お仕事は?」
「一応、重役だからさ・・・時間はどうにでも出来るんだよ
それより、少し時間取れないかな?」
「・・・少しなら大丈夫だけど」
「じゃぁ、このビルの喫茶店でいい?」
「ええ、そこへ行きましょう」

私と高田君は少し離れ気味で一緒にエレベーターに乗り込んだ。
こんなに彼の近くにいるのは高校生以来かもしれない。
他に誰かに見られてしまう心配も無いのに・・・
やっぱり自分の中では彼は『過去に好きだった人』となってしまったんだな、と感じた。
喫茶店は落ち着いた雰囲気であったが明るい印象だった。
BGMは静かにジャズ系の音楽が流れている。
こないだ海岸沿いで藤堂さんと入った喫茶店とは全く違った。
当然と言えば当然なのだが、
他のお客さんはスーツやお洒落な服を着ている人ばかりだった。
窓辺のテーブルに通されて私たちは共にコーヒーを頼んだ。

「ごめん、忙しいのに悪かったね」
「ううん、いいの。今日はカルチャーセンターの仕事が早めに終わって
時間があるから少し隣駅にでも行ってデパートでもぶらぶらしようと思っていたから・・・」
「そっか、実は白状すると・・・教会に電話して今日のスケジュール聞いていたんだ」
「そうだったの?じゃぁ、偶然あそこにいたわけじゃないんだね?」
「ごめんごめん、それから・・・ちゃんと謝らなくちゃいけないことがあるんだ」
「・・・・紀江ちゃんとのこと?」
「うん・・・そう」
「離婚したって・・・聞いたけれど」
「厳密に言えば、別居中だよ」
「そうなの?だって・・・こないだ紀江ちゃんが『私が原因で離婚した』と言っていたけど」
「離婚届はまだ出していないんだ」
「でもどうして・・・?」
「俺、高校のとき山里のこと好きだった。
でも紀江と・・・そういう仲になって結果的に紀江を選んだ。
打算的なことも含めば彼女の言うとおり『三崎物産』も魅力的だったよ」
「そんな~~~そうなの??」
「そんな顔するなよ・・・でも俺だってそんなことだけのために生涯の伴侶を選ばないよ
そこまで冷酷人間じゃないよ」
「そうだよね・・・だって高校生の頃の高田君は本当に優しかったものね」
「結婚当初から何かにつけ紀江は『真凛と違う』『私だけを見て』と常に不安がっていた。
色々な意味で真凛をライバル視していたんだと思う」
「紀江ちゃんとは、一緒に育ったのに・・・」
「彼女の場合、山の里教会へ来る前は環境は劣悪だったとしても実の親のもとにいたから・・・
自分が愛して止まない人から拒絶されることが最も許されないとだと思ったのだろう」
「そうね・・・紀江ちゃんには実の親の記憶はあるって聞いたことがある」
「真凛にはそういう記憶がないから、イイという訳じゃないけれど」
「うん、わかっているよ」
「仕事の方も経営の勉強も始めていたから、紀江を構ってやれなくて
些細なことで喧嘩が絶えなくなって・・・義父の進言で別居することになった」
「そうだったの・・・大変だったね」
「いや・・・こんなこと大変なんて思っていないよ
それより紀江を不安に陥らせた自分が嫌になったよ」
「良かった・・・高田君はちゃんと自分の星を見つけたんだね」

2年前、雅お姉ちゃんに言われたことを、約束を果たすために
この別居期間が必要だと言うことを話した。
いつか紀江と一緒に笑って私に会いに来てくれる事を約束して
高田君とは喫茶店の入り口で別れた。

Page.153

あの岬で偶然真凛を見かけたとき、全てを話してしまおうかと思った。
でも小山牧師との約束していたから、敢えてそのことには触れないように心掛けたつもりだった。
子どもの頃、真凛と過ごした時間を思い出すかのよう喫茶店で過ごしたあの貴重な時間。
僕は・・・・一瞬でも彼女を忘れることなんか出来なかったんだと改めて感じた。


子どもの頃、僕もあの岬によく行った。
多忙な父が時間を見つけては遊びに連れて行ってくれた。
そこで山の里教会の子ども達とも交流があった。
僕は両親に連れられて日曜礼拝で、まだ小さな真凛に会った。
賛美歌を歌っているクワイアを前に手を振りながら、礼拝椅子に大人しく座っているのを
今でも覚えている。
幼かった自分でもこの子は『祝福されて生まれて来たんだ・・・僕に会うために』
そう確信した。
大きくなった必ず自らの手で彼女を幸せにすると誓った。


真凛が7歳になったとき、ある夫婦が養女として引き取りたいと願っていることを聞いた。
彼女の将来のためにその方がより良いと考えた周りは話を進めていったという。
しかし、いつの間にか三崎紀江が養女となるようになっていったらしい。
真意は定かではないが・・・真凛の将来を羨ましがり真凛ともめたらしい。
家族同様に育った真凛には小山牧師夫妻の子ども達が常に味方になっていることも
面白くなかった紀江は、自分の方がこれから幸せになるべきだと主張したらしい。
たった7歳でこんなことを主張できるのか?と周囲の大人は驚くばかりだったが
彼女も本当の愛に飢えていたから仕方がなかったのかもしれない。
自分を保つために、自分の幸せのためのある意味自己防衛反応だったのだろう。

紀江が引き取られてから・・・
僕も父の仕事の都合でヨーロッパへ付いて行かなければならなくなった。
当時父方の祖父母の下で暮らしていたので、僕は出来れば彼女いるここに残りたかったが
特に母が方々の外国での暮らしを薦めた。
最初は「嫌だ!!」と断固拒否していたが、やはり両親から離れて暮らしていけるほど
自分自身は大人ではなかった。
真凛との別れの日まで僕は時間を惜しむように毎日彼女に会いに行った。
『大切な真凛』『大好きな・・・いや、愛しい真凛』
一度として忘れたことがなかった。
そして彼女と一緒に見た万華鏡の星たちを決して忘れることは出来なかった。

喫茶店で別れた時、いつまでも彼女の後ろ姿を見つめていた自分。
彼女への愛しさが全身から吹き上げてくるのを感じた。
子どのもの頃、あの礼拝堂で誓ったように改めて自分に誓った。
もう決して彼女を離さないと・・・・。

Page.152

一瞬何が起こったかわからない感じ。
でも・・・
でも・・・私の中の自分が覚えているそんな感じだった。
背後から支えられて同じ方向を見ている。
そして心に染み入るような藤堂さんの声。
いつ聞いたのか?
何か大切なことを忘れてしまっているのか?
そんな疑問が私の中からふつふつと湧き出る感じがした。

「すみません、ドジですね、私。こんな段差に転びそうになるなんて・・・」
「大丈夫?どこかぶつけたかな?」
「いえいえ、大丈夫です」
「そう・・・?」
「ありがとうございます」
「じゃぁ、また改めて工房へ寄らせてもらいますね」
「ハイ!是非!!・・・では失礼します」
そう言って藤堂さんに会釈をして別れた。
私の後姿を彼は見えなくなるまで見つめていたとは知らずに・・・・。


私は帰宅後、母屋へはインターホンで帰宅を告げそのまま工房にいた。
海岸で拾ってきたものを冷たい水道水で洗い流し
窓辺のタオルの上に並べた。
デジカメで撮った風景はパソコンのファイルに保管した。
机の前に座り、次の作品の構想を練ろうとスケッチブックを広げ鉛筆を持ったまま
私は作品の事ではなく全く違うことを考えていた。
藤堂さんと別れ際、私の中で何かが弾けた感覚。
とても大切なことを忘れているような、そしてどこか懐かしい感じがする。
胸の鼓動が耳に響いているようで落ち着かなくなってしまった。

広げていたスケッチブックを閉じ、鉛筆もしまい
その代わり母の万華鏡を箱から出し、表面を何度も撫でた。
こうすることによって自分の心のざわめきが凪いでいくように思えたから。

Page.151

心地好くオルゴール調のBGMが静かに流れている。
天井から吊るされたガラスのモビールが空調の風に揺れてキラキラして、
奥まった位置にいる私達のテーブルまで光を届けてくれる。
私達以外のお客さんは波待ちのサーファー2人とご近所の主婦らしき2~3人。
注文の品が来るまで藤堂さんは店内を眺め、
とても良い雰囲気のお店だと満足そうに微笑んだ。
私にとって家族、知り合い以外・・・
あまり知らない人と食事をするのは慣れていないので
初めはドキドキしていたが、彼の笑顔を見ているだけで何故か懐かしい気持ちに包まれた。

「あの岬へは何しに行ったの?」
「特に用事というわけではなくて・・・・
本当は今日、カルチャーセンターでの仕事があったのですが、
テナントビルの都合でお休みになってしまって・・・」
「そうだったのか・・・」
「藤堂さんは?こちらの方に住んでいるのですか?それとも・・・お仕事か何か?」
「小山牧師から聞いたと思うけれど、子どもの頃はこの辺りに住んでいた。
でも父の仕事の都合で海外へ移住してしまったんだ」
「そうだったんですか・・・・それで啓お父さんが、昔礼拝にいらしていたと言っていたのですね」
「そのことは・・・・覚えている?」
「いいえ・・・・でも先日お会いした時、初めてお会いした気がしなかったので・・・・
きっと子どもの頃にどこかでお目にかかっているのですね」
「・・・・そうだね」
そう言った藤堂さんはどこか残念そうな面持ちとなった。

藤堂さんは、ここを住まいと仕事の拠点として私の個展開催2ヶ月ほど前に引っ越してきたという。
指揮者であるお父様は、お母様とご一緒に未だ外国に住んでいらっしゃるそうだ。
彼は作曲と音楽プロデューサーの仕事をこの地で始めたという。
元々、クリスチャンだったのでこれからは出来る限り山の里教会の礼拝に出席すると話していた。
彼との語らいは時間を忘れてしまうほどだった。
気が付けばお日様は中天を過ぎ、やわらかな陽射しとなっていた。

「私、そろそろ帰ります」
「そう?じゃぁ、僕も・・・・」
「とても楽しかったです、ありがとうございました」
「引き止めた感じですまなかったね。また今度・・・作品を見せてくれるかな?」
「ハイ、是非!良かったら今度工房にもいらして下さい」
「うん、ありがとう」

喫茶店を出た後、ほんの数センチの段差に足を引っ掛けてしまった私はゆらりとよろめいてしまった。
すぐ後ろにいた藤堂さんが肩を抱くように支えてくれた。
「大丈夫?真凛・・・?」
本当に囁くような声だったのでよく聞き取れなかったが
私の中で何かが弾けたような感覚に陥った。

Page.149

こんな岬の突端まで来る大人もいるのかしら?
そう思いながら私は岩場に気を付けながら歩いた。

「こんにちは」
「・・・・・こんにちは、あっ!藤堂さんですか?」
「ええ、個展の時以来ですね?」
「先日は・・・・ありがとうございました。少々お見苦しいところを・・・・」
「いえいえ、あれは・・・・別に気にしていません」
「そうですか・・・・あの、今日は何故ここに?」
「あぁ、ここは昔、よく遊んだ場所なので・・・
懐かしくなって足が向いてしまったんですよ」
「そうなんですか!?・・・実は私もここは小さいときからの遊び場でした。
といってもこの辺りの子は皆そうなんでしょうが・・・・」
「そうですね・・・・」
「では、これで失礼します」
「これから予定があるのですか?・・・
もし少しお時間があればお話をしたいのですが・・・・」
「・・・・特に予定はないのですが・・・・
家の者が心配するといけないので連絡だけはしておきます」
「ええ、いいですよ」
私は岬で藤堂さんに会った旨を実家に来ていた薫お姉ちゃんに伝えた。


立ち話という訳にもいかず、海岸沿いの喫茶店に入った。
ここは雑貨店も併設されていて、私の作品も数点商品として置いて貰っている。
私と藤堂さんが入って行ったら少し驚いた顔のマスター夫妻。
お子さん達は、私と同級生もいるので私が男性と一緒だということに驚いた様子だった。
まぁ、今の今までそういう話は殆どなかった私だから
仕方がないリアクションなんだろうけれど・・・・。
でもそういうところは職業柄心得ていて
私達をあまり目立たない一角へ通してくれた。
お昼時に近いので、私達はそれぞれコーヒーとサンドイッチを頼んだ。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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