2009 / 01
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身体を温めるというより、多少の汗を流すつもりで
手早く入浴を済ませた修二はリビングにいる幸乃のところへ戻った。
ロング丈の部屋着の裾に膝を抱え込むようにしていつもの位置ではなく
彼の定位置の隣に座椅子を引っ張ってきたのだろうか・・・その上に座っている。
彼女の前に置かれているマグカップのココアは少しも減っていない。
それをもう一度小鍋に戻して温め直し、自分と彼女の分に分けて持って行った。

「幸乃ちゃん、飲んで・・・」
「うん、なんかね、考えごとしていたらぬるくなっちゃった」
「考え込むなよ、実家のことは気にするなって!」
「うん、大丈夫だから・・・あのね、修君に話があるの・・・」
「何?改まって・・・・」
「う・・・ん、あのねコレ見てくれる?」

そう言いながら自分の脇に置いてあるトートバッグの中から手帳に挟んでいるものを見せた。
感熱紙に印刷されているモノクロの写真の様な物を修二の前に差し出した。
長い指でそれをなぞりながら見入る修二の顔を伺いながらおもむろに幸乃は口を開いた。

「それね・・・修君と私の赤ちゃん」
「えっ!?あ、赤ちゃん!?」
「うん、赤ちゃん、ちっちゃいよね?今は・・・8週目に入ったところかな」
「それって・・・何ヶ月?」
「う~~ん、今は『週』で表すらしいけれど3ヶ月目に入ったところなのかな?」
「やった~~~」
「あの・・・あのね、それって・・・・」
「凄いよっ!俺も父親か!!嬉しいよ!!幸乃ちゃん、ありがとう!!」

隣に座る彼女を抱き締めた。
修二は震える手でもう一度手の中の写真を見た。
そして幸乃のお腹にそっと手を添えて「ありがとう」と何度も囁き彼女の髪にキスをした。
暫くそのまま2人で写真を見ながら静かに座っていた。

そうしているうちに幸乃が小さな声で話し始めた。
「本当に嬉しい?だって修君の仕事のイメージに影響が無いか、
特に子どもが欲しいことも言っていなかったし・・・悪阻もあって悩んでいたの」
「ごめん、気付いてやれなくて、俺、自分の事ばかりでごめんね」
「ううん、修君もお義父さんも私を凄く大切にしてくれているのがわかったから・・・」
「そうしたら、俺、映画の話は断るよ!」
「どうして・・・?」
「そんな大事な時に幸乃ちゃんを1人に出来ないじゃないか!!」
「そんなことダメだよ!そんなことで修君の世界が、輝きが失うなんて私には耐えられない!」
「映画だけじゃなくて、音楽活動だってもっと多忙になるんだよ。
そんな時に幸乃ちゃんの傍にいられないなんて、そんな非情なこと出来ない!」
「イヤイヤ!私のせいでそんな選択しないで!!」
「幸乃っ!2人の子どもなのに幸乃ちゃんだけ寂しい思いさせるなんて出来ない・・・」
「修君・・・・・」
「ダメだ・・・幸乃ちゃんには悪いけれど、その選択肢もありうるよ・・・
このまま話していたら堂々巡りになるだけだ・・・俺、頭冷やしてくる・・・」


そう言い修二は部屋着からジーンズと厚手のニットに着替えて
ダウンジャケット着て出て行ってしまった。
勢いで出てきてしまったが、マンションのエントランスであるところに電話をした。
時間が時間だけに気が引けたが、ここは悶々としていても解決策が見つからないと思った。

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父親自ら幸乃にコーヒーを淹れて先ほどの妻の無礼を詫びた。
幸乃は修二の隣に腰を抱かれるように座った。
未だ震えている彼女を心配そうに覗き込んだ。

「細君の非礼を許して欲しい・・・前妻に負い目があるのか、
特に血は繋がっていなくても皓一や修二に期待をしてしまっていたんだ。
しかし、子は親の思い通りにはいかんのだよ」
「・・・・・」
「皓一はどちらといえば大人しい方で職業などは細君の思い通りになったが
結婚の経緯までは思い通りにならなった。救いは・・・『どこの出だ』ということだろう
それより私はね、幸乃さんのご両親の方がずっと立派だと思うよ
町工場を経営されて三姉弟をそれぞれ夢を叶えるためにきちんと教育を受けさせたのだから」
「そう言って頂けると嬉しいです。ありがとうございます」

幸乃はぺこりと頭を下げた。
それを見た修二は父親を誇らしく思い、そして幸乃を抱いている手に力を込めた。

「それとね、さっき修二から映画の件を聞いたよ。
息子が留守中は不安だろうからここへ来なさいと言いたいが
そうなるとまたひと悶着じゃ済まされそうにないからね。
私たちは見守らせてもらうで止まっておくよ
でも、もし困ったことがあれば遠慮せず言いなさい。
幸乃さんも私達とって大切な嫁なんだから」
「お義父さま・・・・」
「ありがとう、親父・・・・」

父親の言葉にやっと今までの緊張を解いた修二と幸乃だった。
そして優しい面持ちで見つめ満足そうに一人で何度か頷いた。
それから別室にいた皓一が混じり、小一時間談笑した。


結局手土産に持って行ったワインも飲まなかったので帰りも修二が運転して帰ることにした。
カーステレオからは洋楽が流れ、
小雨が降り始めて窓に雫が垂れているのを幸乃は指でなぞっている。
2人は始終無言で帰宅の途についた。
玄関に入ってすぐフットライトの仄かな明るさの中で幸乃は修二の後ろから抱きついた。

「幸乃ちゃん!?」
「何も言わないで、このままでいて!」
「幸乃・・・・」

彼女が声を殺して泣いているのが厚手のジャケットを通してでもわかる。
くぐもった声で自分の名前を呼びながら震えていた。
両手を前に組んでいるのも震えている・・・・
仄かな灯りの中でもそれがわかる。
彼女の心情が手に取るようにわかり、修二はその両手に手を添えた。
そして強めに彼女の手を引っ張り自分の前に向かい合うようにした。

「幸乃ちゃん、ごめん・・・あんなことになるなら連れて行かなかったのに」
「ううん、修君のせいじゃないもん、だから謝らないで・・・」
「でも、それでも、俺は幸乃ちゃんに悪いことをした。
俺が君を守らなければいけない立場なのに・・・」
「ううん、ちゃんと守ってくれたよ?それにお義父さまにだって、あそこまで言ってくださって
私は本当に幸せなお嫁さんだよ」
「幸乃ちゃん・・・・」

修二は彼女の優しい心遣いに救われた思いだった。
そう思った途端、溢れる想いを抑えきれなくなり、彼女の涙を唇で吸うように拭った。
柔らかな彼女の唇に自分のそれを寄せた。
「しょっぱい・・・」と幸乃が笑った。
修二は幸乃を横抱きにし、そのまま寝室へ連れて行った。
彼の首に抱きつくように幸乃は抱かれ幸せだと・・・思った。
幸乃をベッドの端に座らせ、自分はジャケットを脱ぎパネルヒーターのスイッチを入れた。
自分と幸乃のジャケットをクローゼットにしまいお風呂を沸かした。

「幸乃ちゃん、先にお風呂入って、体が冷えているよ」
「ううん、修君が先に入って。疲れたでしょう?
それにお風呂掃除しなくちゃいけないから私が後の方が良いんだよ」
「そんなことは明日俺が掃除してやるから」
「そう?じゃぁ、入ってこようかな・・・お先にね」

幸乃は着替えを持ってバスルームの方へ行った。
その間、修二は小鍋にココアを作った。幸乃好みの少し甘めのものを。
携帯電話の着信とメールをチェックした。
メールはメンバーから何件かと実家から、父親からの幸乃へのフォローのメールだった。
メールの画面に向かって修二は「親父、サンキュ」と呟いた。

キッチンの小さな黄色の時計を見て幸乃の長湯を心配してバスルームの扉を叩いた。
中から鼻をすするのと微かなしゃくり声が聞こえ、
更に心配になった修二は濡れるのを構わずバスルームに入った。
彼女の小さな悲鳴も構わずバスタブから強引に引き上げた。
無言のままバスタオルで身体を拭いすぐに暖かい格好にさせた。
右手首を掴みこたつに入れさせココアを前に置いた。

「俺、風呂入ってくるから、眠かったら、飲み終わったらベッドに入れ」
「うん、わかった・・・ありがとう修君」
「幸乃ちゃん、こたつの電気熱かったら弱めておいて」
「うん、わかった」

寝室のチェストから着替えを出し、もう一度幸乃の顔を覗き込み
彼女のこめかみにキスをした。
幸乃は修二の優しさにまた涙が溢れそうになった。
そして彼にきちんと話さなければ・・・と思った。

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手土産にワインを持って修二との実家へは車で出掛けた。
幸乃の職場近くに実家がある。
あと2台くらいは駐車出来るであろう広い駐車場に車を止めた。
エンジンを切ったと同時に玄関横の小窓の灯りが点いた。
そして修二の父親が玄関扉を開けて2人をにこやかに向かい入れた。

「よく来たね、幸乃さんも久し振りだね」
「こんばんは、すっかりご無沙汰しています。夏休み以来ですね」
「いやいや、それは構わんよ!尤もかあさんはよく幸乃さんを見かけているようだぞ
元気に走り回っているようだね」
「あっ!そうなんですか?なんか・・・恥ずかしいな~~」
「そんなことないだろう、俺だって仕事している幸乃ちゃんは素敵だと思うよ」
「まぁ、こんなところで立ち話もなんだし、暖かい部屋へ行こう
皓一(こういち)家族も呼んだんだ」
「兄さん達も来ているのか?」

コートをハンガーに掛け、玄関脇のクローゼットにしまった。
廊下の突き当たりのガラス戸を開け、リビングダイニングに3人は入った。

「まぁ、修ちゃん、いらっしゃい、ここへは久し振りね、さぁ、皆揃ったから頂きましょうね」
「お袋、コレお土産のワイン・・・幸乃が選んだんだ」
「あら、ありがとう、でも、お父さんもこの頃はワインより日本酒の方がいいみたいよ」
「そんな言い方するなよ!」
「いいよ、修君、リサーチ不足だったから・・・・」
「でも、幸乃ちゃん、ごめんな」
「ううん、気にしてないから・・・」
「修二、久し振りだな!すっかり売れっ子だな」
「兄さんも義姉さんも久し振りだね。あれ?ちびっ子達は?」
「あいつらは、先に食事を済ませてそうとうはしゃぎ過ぎて今はあっちで夢の中だよ」
「じゃぁ、義姉さんもゆっくり食事が出来ますね」
「ええ、下は最近伝い歩きが出来るようになったから落ち着いて食事が出来ないのよ」
「さぁさぁ、沢山食べて頂戴ね、今日は結構、頑張ったのよ」
「「「「いただきます!!」」」」



食事は表向きは和やかにすすんでいった。
しかし修二と修二の父親以外幸乃に話し掛けることもなく・・・
その場の雰囲気に修二は徐々に苛立っていった。
食事が一通り終わり、子どもの様子を見てくるという理由で義姉が席を立った。
後片付けは幸乃と母親がすることにした。
男性達は、ソファでコーヒーを飲んでいる。


「幸乃さん、お茶やお花のお稽古はなさっているの?」
「仕事が忙しくて、全然出来ないんです」
「あら、そうなの?そんなことでは湊家の嫁は務まらないわよ
鞠子(まりこ)さんはちゃんと嫁入り前に出来ていたのにねぇ」
「すみません・・・」
「コレだから困るのよね。それなりのご家庭のお嬢さんを修二の嫁に来て貰おうと思っていたのに
勝手に籍を入れちゃって・・・それに親戚やお付き合いしている方々にお披露目もしないまま
修二の仕事仲間だけで結婚式と披露宴を済ませちゃうんだから」
「すみません・・・」
「あなたのお家じゃ、それなりに躾をしていたとは思えないんだけど・・・
そこのところどうなの?それに、あなた職業とはいえいつも大きな声出していて
全然、品がないように見えるのよ」
「すみません・・・」
「10日くらい前に幼稚園近くを通ったら大きな声で走り回っていたでしょう?
もううちの嫁だってご近所さまに知れたら、私、もう外を歩けないわ・・・
あそこの幼稚園を辞めてどこか違うところにいけないの?」
「すみません・・・」
「せめてどこかの大学の付属幼稚園だったら体裁も付くのに、まったく幸乃さんときたら・・・」
「すみま・・・・」
「幸乃っ!謝るな!!」

修二の大声に驚き、幸乃が振り返った。
彼女の目には悲しそうな色があり、目じりに涙が滲んでいた。
幸乃の手を取った修二は彼女の手が小刻みに震えているのがわかり
母親に鋭い目つきで睨み付けた。

「あら、修ちゃん、なぁに?」
「お袋っ!いつもいつもそんなことで幸乃を煩わせるなよ!
それに幸乃の勤めは公立幼稚園なんだから勝手に勤務先を変えることは出来ないよ!」
「修ちゃん、当たり前のことでしょう?湊家は大きく事業を展開しているのよ
外国の方も含めて色々な方々とお付き合いするのよ」
「俺達には関係ない!」
強く母親に言い放った修二は幸乃を連れてキッチンから出ようとした。

「そんなことないわ、いずれあなたも芸能界を辞めてお父さんの跡を継いで欲しいのよ
皓一と仲良くやっていって、それがお母さんの切なる希望よ」
「そのことは・・・再三話し合ってお互い合意していると思っている
今は親父だって俺のやっていることを見守っていてくれているじゃないか」
「それにこれから先、子どもが生まれるようなことがあっても
きちんと躾けられていない幸乃さんでは子育てできるかしら?
鞠子さんみたいにそれなりのお嬢様だったらねぇ、子ども達も『良い子』育つと思うのよ」
「お袋、幸乃の職業は知っているよね?幼稚園の先生だよ!?
きちんと大学で勉強してきているんだよ」
「大学出たからって・・・今更育った環境は変えられないじゃないの
幸乃さん、悪いことは言わないわ、今のうちに修ちゃんと離婚して頂戴ね
戸籍に傷が付いても子どもが出来たの生まれたのじゃ、あなた1人で育てられるの?
ご両親だってもうお仕事も・・・」

堪らなくなった修二は幸乃を背に庇い、母親を上から睨み付けるように怒鳴った。
「お袋っ!!!言って良い事と悪いことがあるだろうがっ!!」
「悪いことは言わないわ~幸乃さん、今のうちに離婚してちょうだいな。
子どもが出来てからじゃ、心身ともに傷つけられるのは火を見るより明らかよ」
「私・・・それだけは出来ません」
「まぁ、なんてこと言うのっ!あなたじゃ、湊家の嫁は務まらないって何度も言っているのに
本当にわからずやなのねっ!同じ嫁同士でも釣り合いが取れないに・・・」
「いい加減にしろよっ!!兄貴にには悪いけど言わせて貰うよ!」
「修君、いいよ・・・やめてよぉ」

自分の背中で涙ぐんでおろおろしている彼女を思ったらここで止めるべきなのだろう。
しかし、幸乃と出逢い、付き合い、結婚してからも母親からのいじめと言える言動は
いい加減うんざりしていたのでここで釘を刺すことにした。
父親の仕事を通しての地位や修二自身が世間から注目される立場を
自分と擦りかえている憐れな母親の気持ちに喝を入れるために
父親からもこの件に関して既にお許しは出ていたから。

「義姉さんがそんなに偉いのかよ!?先祖が元華族かなんか知らないけど
本人はどうなんだよ!?」
「黙りなさい!」
「言わせて貰うよ!兄貴の会社に秘書で入った途端兄貴と『出来ちゃった結婚』するようなヤツを
素晴らしく出来た嫁なのかよ?育児はベビーシッター任せ、家事もお手伝いさん任せ、
こういう時に片付けるときもさっさと逃げる術は心得ているんだもんな!」
「なんてこと言うの!?鞠子さんに謝りなさよっ!!」
「謝らねぇよっ!兄貴も義姉さんも幸乃を無視しやがって!!」

まさに修二の頭から湯気が出ているところに仲裁するように父親が割って入ってきた。
母親と修二をその場から離すように2人をリビングの方に導いた。
「もうその辺でいいだろう?修二も言いたいこと言えただろうし・・・・
幸乃さん、気を悪くさせたら私からお詫びするよ」
「いいえ、お義父さま・・・大丈夫です。修君がいますから・・・」
義父に向かって泣き笑いの様な笑顔を向けた幸乃だった。

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出産祝いを配送してもらうよう手続きをし、
話題の老舗店の和菓子を買ってから駐車場へ向かった。
お洒落な喫茶店でお茶でも飲もうかと思ったが、
先ほどの騒ぎもあったので自宅に帰ってからゆっくり過ごすことにした。

帰り際、いつものスーパーに寄り、お米や牛乳、ペットボトル飲料を半ダースと根菜類、
パンやお菓子等幸乃1人では持って帰れない物を選んで買った。
もちろん荷物担当は修二の役目で、エコバッグに手際よく商品を詰めて行った。
車の後部座席に荷物を置き、真っすぐマンションの駐車場へ向かった。
地下駐車場になっているのでマンション内に入ってしまえば入居者以外とは接触する確率が低い。
色々な面でセキュリティがしっかりしているのだ。
自宅に着いて食材をそれぞれの箇所にしまい、お互い部屋着に着替えて日本茶を淹れて
こたつに入りホッと一息を吐いた。


「久し振りの外出で疲れていない?」
「ううん、楽しかったよ!だってデートだったもんね♪
それにあのお皿セットも買ってもらっちゃったし、早く届かないかな~~」
「ずっと一緒にいられなかったのに?幸乃ちゃんは結構ゲンキンだな?」
「えへへ・・・」
「そうだ、このお菓子食べてみようよ!結構有名らしいよ」
「へぇ~そうなんだ~~なんでも知っているのね」
「そうかな、まぁ、殆どはリュウのお嫁さんの美晴ちゃん情報だよ
もちろんリュウを通してだけどね」
「ふぅ~~ん、そうなんだ・・・
あっ!この求肥で包んだコレ美味しい♪修君も食べたら?」
「俺は幸乃ちゃんの嬉しそうな顔を見ているだけでイイよ」
「・・・・そうなの?」
「そうなの!」

和菓子を頂く時の作法からかなりかけ離れた感じで食べる幸乃の口周りに付いた
餅粉を修二は手の甲で拭ってやりながらクスクス笑った。
それからもう一杯熱いお茶をお揃いの湯飲みに淹れた。

「今夜夕食を一緒にしないかって実家からメールがあったんだけど、どうする?」
「お義母さまから?」
「うん、幸乃ちゃんが・・・その・・・気が進まないなら断るけれど」
「ううん、いいよ・・・職場の近くに住んでいるのに暫くお会いしていないから」
「本当に良いのか?」
「うん、いいよ!お義父さまもいらっしゃるわよね?」
「あぁ、たぶんな・・・・」
「また~修君が嫌そうな顔になっているよ~~」
「そんなことないと・・・思います・・・」
「修君の困った顔って可愛い♪」
「むぅ~~幸乃ちゃんっ!!」
「きゃははは・・・・あぁ、おかしい~~
そういえば、修君、話があるって言っていたよね、どんなこと?」
「あぁ、それか・・・・まぁ、親父達にも話さなければならないし・・・
先に幸乃ちゃんに相談という形で話さなきゃね」

改まったように修二は姿勢を正して座りなおした。
真っ直ぐ幸乃の顔を見つめておもむろに口を開いた。

「実はさ、フェニックスメンバーがグループは解散せず、
各々単独活動しているのは知っているよね?」
「うん、知っているよ。映画やドラマに出たり、
他のアーチストさんに楽曲提供したりしていることとか・・・?」
「そう、そんな感じで、俺もここ1年は連ドラにも数本出させてもらったりしているし」
「うん!あのドラマ好き♪職場でも同僚の間でも話題になっているよ」
「そっか・・・そうなんだ、その連ドラの続編で・・・映画化されることになったんだ」
「ホント!?すっごい~~~!!」
「更に、メインテーマや挿入曲もフェニックスがメインでやるらしい」
「ふ~~~ん」
「でも、舞台設定が今度は日本じゃなくて外国になるらしくて
撮影が始まれば暫く日本を離れて暮らすこととなるんだ」
「・・・・どのくらい?」
「1カ国だけじゃないらしくて・・・・
合作になるから日本を含めて最低でも3カ国は渡り歩くようなことを聞いたよ」
「ず~~っと行きっ放しなの?」

幸乃は不安げに修二の顔を見つめた。
修二は立ち上がり幸乃の隣に座り、自分に寄り掛かるように彼女の肩を抱いた。

「いや、国によってビザの関係もあるから日本に帰って来て、
音楽活動して・・・また撮影に行って・・・の単身赴任みたいな生活になると思う」
「・・・・・」
「幸乃ちゃんが傍にいて欲しいって言えば行かないよ・・・」
「そんなのダメだよっ!」
「どうして?俺は幸乃ちゃんの悲しい顔を見たくないんだよ」
「だってそのお話は修君に来たんでしょう?だったら尚更お受けした方がイイよ
それにそんな大事なこと私の我が儘でお断りするべきじゃないよ。
お仕事はいつだって真剣勝負でしょう?」
「幸乃ちゃん、じゃぁ・・・・真剣に考えてみてみるよ」
「うん、そうしてね!また修二君の世界が広がるね~~」
「ありがとう幸乃ちゃん、話して良かったよ」

幸乃の言葉に勇気付けられて修二はどんよりとした雲の中にいた
自分が輝いている光を頼りに目の前がパァッと明るくなったような気がした。
彼女の耳元で「やっぱり幸乃ちゃんじゃなきゃな・・・」と囁き
肩に回している手にグッと力を入れた。

小首を傾げて修二の顔を見つめる幸乃に溢れる愛を感じ、
顎に手を添え親指で彼女の唇をなぞった。
下唇を何度か親指で撫ぜ、彼女が口を開きかけた時、そっと自分のそれを重ねた。
感謝の気持ちと愛する気持ちを込めて、
幸乃の息が苦しくなっても修二は何度も深く深く口付けをした。

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お目当ての家具屋さんで思い通りのチェストを見つけた。
メジャーを持参して来たのですぐに購入するものも決まった。
2人が立っていた所に3人掛けタイプのソファがあり、
それに修二が一目惚れしてしまいそれも併せて購入することにした。
リネン系の商品もとても安かったので数点一緒に配送してもらうことにした。
家具屋さんを出て、なんとなくウィンドショッピングしながらぶらぶらと歩いた。
お洒落な食器類が陳列されているお店に入った。
こういうものに関して強く興味を示すのは幸乃の方で
修二は彼女が一つ一つを指差しながら見せる笑顔に眩しそうに見つめていた。
楽しい時間もそこまででその場にいた1人の店員が修二の存在に気が付いた。

「あの・・・間違っていたらすみません、あのぉ、フェニックスのシュウさんですか?」
「えっと・・・・俺のこと?」
「ハイ!そうですよね?人違いじゃありませんよね~あたしファンなんです。
わぁ~ここにはお買い物なんですね♪♪モチロン、サービスさせていただきますね♪」

かなり興奮気味の店員の声にその場にいた数人が徐々に集まり
決して広くない店内はあっと言う間に人だかりとなってしまった。
モール内の回廊からも人が流れ込んでくるようになり
さすがにこの場を収めなければと思い、修二は店員が言う要望を聞くことにした。
数点の商品の購入とサインを要求された。
店員に話しかけられた時たまたま幸乃とは陳列棚の反対側にいたので
そのまま彼女は外に出て行ってしまった。
目をそらす一瞬彼女の瞳はとても悲しげで自分の胸の中心がズキッと痛んだ。

商品を選んでいる間、自分に付きまとっている店員は何かと根掘り葉掘り聞いてくる。
終いには『運命の出逢い』だとまで言って来た。
結構な量になってしまったので配送してもらうことにしたが、
もちろん届け先はプロダクション宛てにした。
理由は『昼夜問わず、在宅時間が不定期だから』ということで・・・・。
まさか幸乃と一緒に住んでいるマンションの住所は提示したくなかったからだ。

約レベル3くらいの営業スマイルを振りまいてその店を出た。
店外へ出てみればやじ馬が沢山いた。
プライベートだから・・・とやんわり断りながらその場所をあとにした。
幸乃の居場所を確認するために携帯電話を取り出した。


幸乃は修二からだいぶ離れたキッズショップ・ゾーンにいた。
先ほどあっと言う間に人だかりになってしまったのを見てとても胸が痛んだ。
車中では「しょうがない」と聞き分けの良いことを言ったが・・・
本当はもう自分自身、我が儘に叫びたいくらいのところまで来ている。
でもそれを自分から口火を切って良いものだろうか?
きっとそうしたら彼を困らせてしまうだろう。
どうすることも出来ないジレンマに陥ってまた自己嫌悪になる幸乃だった。

目につく物はベビー用品が多い。
まぁ、ここが子ども用品関連のショップが並んでいるから当たり前なのだが
今の幸乃にとってそれは心躍る嬉しいことと同時に
彼を失ってしまうのではないか・・・という喪失感が交互に襲ってくる。
可愛らしい大人顔負けの小さな洋服を
なんとなく眺めていると携帯電話が着信を告げた。

『幸乃ちゃん、ごめん。今どこ?』
「修君、大丈夫?やっぱり予想通りだったね」
『ほんとにごめん・・・』
「いいよ、私は平気だよ。それより、あのお店で欲しかったのものがあったんだけれど
もうお店に行けないよね~~」
『あぁ、さっき幸乃ちゃんが見ていた白っぽいお皿のセット買ったよ』
「本当?わ~~嬉しい、よくわかったね~~じゃぁ、それで今日のことは帳消しです!」
『そうか・・・それでいいのか?』
「うん、それで良いです♪」
『わかった・・・ところで今どこだよ』
「えぇ~~っとココはね・・・・・・
コーヒーショップの角を右に入ったキッズショップ・ゾーンの噴水の前にいます」
『わかった!すぐ行く!絶対にそこから一歩も動くなよ!!』
「ハ~~~イ」

修二はモール街の案内板で幸乃がいる場所を確認し足早にそこへ向かった。
彼女が言うコーヒーショップの角を曲がってすぐに噴水が見えた。
その傍にあるベンチに俯き加減で座る彼女を確認した。
静かに近寄り彼女の隣に座った。

「ごめん、待たせたね・・・それに、まただよね」
「いいよ・・・・もう」
「やっぱりよくない、俺は今のままじゃ嫌だ」
「でも、修君1人じゃ決められないよ?」
「そうだけど・・・・」
「それより、ありがとうね♪お皿のセット嬉しいよ」
「あぁ・・・幸乃ちゃんの好みもわかっているから」
「そうみたいね~~~!そうそう、ヒロさんところの出産祝いここで用意しない?
すっごく可愛いのがいっぱいなんだよ~~~」
「あぁ、そうだな。でも着る物とかはお義兄さんのところのお下がりがあるらしいよ」
「そうなんだ~じゃぁ、お食い初め用にベビー食器なんかどう?」
「食器!?またあっちのゾーンに戻るのかよ?」
「違うよ~あそこのお店にイチゴ模様の可愛いのを見つけたんだよ」

修二の焦り顔の頬を突っつきながら幸乃がころころと笑った。
それに釣られて彼女の前でしか見せない笑顔を浮かべた。

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冬の空特有で風が吹くと耳が痛く感じる。
でも今日の2人でのお出掛けは修二の運転で
郊外に新しく出来たアウトレットモールに行く。
そこに出来た輸入家具店に前々から行きたかったのですぐに出発した。

「休日だから混んでいるかな?」
「そうね、もし入れなかったらまたの機会にしようね」
「そうか?でもそうしたらなかなか時間が取れないぞ!?」
「うん、でも仕方がないじゃない」
「いや、幸乃ちゃん今日は一日掛かりでも絶対に行くぞ!オ――ッ!!」
「きゃははは、修君、そんなことで拳揚げないでよ~~」
「だって楽しみにいたんだよ?」
「それって・・・家具屋さんに行くこと?それとも私とのお出掛け?」
「両方だよ!!」
「よろしいっ!それでOKです♪」
「は~~~、幸乃先生は厳しいからな~~~」
「そんなこと無いですっ!!」

目的地までの車中、久し振りにデート気分を味わえることがなんだかお互い嬉しくて、
妙に胸の辺りがくすぐったくて2人は沢山笑った。

修二の職業柄、本人とわからないような服装が多い。
この日も薄い色の付いたサングラスにニット帽、
ダウンジャケットにデニムのパンツという出で立ち。
身に付けているものは一目見て有名ブランドのものではなく
購入したところは大手アパレル会社の量販されている洋服ばかりだ。
それでも滲み出るオーラは隠し通されるわけでもなく
人込みなどで誰か一人が気が付けばあっと言う間に人だかりになることはしばしばあった。
週末のアウトレットモール、どれだけの人が集まるのか?
皆目検討がつかない・・・・。
もしそうなった場合、いつも通りに別行動を取れば良いことだと
助手席に座っていた幸乃は思った。

「修君、確認ね・・・また人が集まったらいつも通りね。
携帯に電話してね、いい?」
「あぁ、またかよ・・・」
「だってしょうがないでしょ?」
「なぁ、もういいじゃねぇか?」
「でも・・・修君のイメージもあるし」
「イメージなんか勝手に周りが作り上げたものだし、
俺自身のことは見てくれてないだろう?」
「そんなこと言ったら元も子もないじゃないの・・・」
「いいんだよ!」
「修君・・・怒ったの?」
「怒ってない!!」
「怒ってるよ・・・だって鼻の穴が膨らんでるもん」
「・・・・クッククク、幸乃ちゃんには参った~そうだよ怒ったよ、
でもそろそろ俺達の事をきちんとした形で発表しなきゃ、俺はそのつもりだよ・・・」
「そう・・・なの?じゃぁ、私も心づもりしなくちゃいけないよね?」
「あんまり深く考えなくて良いよ。俺達の中がどうかなるわけじゃないし
それと・・・ちょっと幸乃ちゃんに相談があるんだ」
「何?」
「う・・・ん、まぁ、今じゃなくて良いよ。とりあえず帰宅してから話すから」
「うん、わかった」

程なくしてアウトレットモールの大型駐車場に入るための列の最後尾に車を停車させた。
思ったほど行列は並んでいなく、このままだったら間もなく敷地内に入れるだろうと思った。
彼らの前に並ぶワゴンタイプの車に『赤ちゃんがのっています』という
ステッカーが貼ってあるのが見えた。
幸乃はそれを凝視するように前を向いたまま思い詰めたような面持ちだった。
少しそれが気になる修二だった。

「前の車に赤ちゃんが乗っているのかな~?」
「・・・・・・」
「幸乃ちゃん?どうしたの?この頃、ぼんやりすることが多いよね」
「あっ、ううん、何だっけ?」
「いや・・・いいよ、なんでもないから」
「そう?」

やはり様子が気になる修二は買い物が終わったらゆっくり幸乃の話を聞こうと思った。
きっと何か・・・・悩み事があるのだろうと愛しているが故の本能で感じ取った。

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修二は寝室から出てこたつテーブルの上に置いてある自分の携帯電話を手に取った。
携帯電話の電源を入れ着信やメールを順に確認していく。
身内からもメールが入っていて文面を見ながら眉間に皺を寄せた。
その間、リビングには幸乃はいなく洗面所の方で激しく水を流す音がした。
きっと洗濯をし始めているのだろう・・・と特に気に掛けず彼女に話し掛けた。

「幸乃ちゃん!お鍋火にかけても良い?」
「お風呂済ませたらコレ食べたいんだけど・・・」

かなり大きな声で話しかけたが、幸乃からの答えがなかったので
少し不審に思った修二は洗面所の方へ行った。
洗面所の扉が閉まっていたので勢いよく開けた。
そこには手も顔も泡だらけの顔を洗う幸乃がいた。

「修君、なぁに?」
「あぁ、顔洗っていたのか・・・」
「うん、ごめんね、聞こえなかったから・・・どうしたの?お風呂入るでしょ?」
「うん、入るよ。あっ!そうだ!!
ロールキャベツを風呂から上がったら食べたいから火にかけておいたよ」
「ありがとう、でも弱火にしてくれた?ホワイトソースだから・・・」
「えっ!?弱火?してねぇよっ!こげちゃうね」

そう言うや否や修二は洗面所を飛び出しキッチンへ走りこんだ。
その光景を見た幸乃はクスクス笑った。
修二の入浴準備をし、自分の口をよくすすぎ先ほどの気分の悪さを一新させるために
頬を数回軽く打ち自分自身に気合を入れた。
そして洗濯機を回したいため、修二に洗濯物を入れてくれるように大きな声で入浴を促した。


「朝風呂は、気持ち良いね~~♪」
「そうよね~~贅沢だよね」
「やっぱりここの家で良かったってこの頃富に思うよ」
「そう?角部屋だから水周りにも窓が付いているしね。
それに廊下にもちゃんとした窓が付いているから明るいよね?本当にここで良かったよね」
「そうだな・・・俺の稼ぎでちょっと高望みかなって思ったけど買って良かったな!
以前住んでいた賃貸は社宅みたいな物でそれこそ身分相応じゃなかったしな~」
「うん、そうね。環境も良いしね~」
「まぁ、俺は良いとして幸乃ちゃんは通勤するのに
駅が遠いのだけは悪かったな~って思うんだよ」
「いいの、いいの、バスに乗れば良いし」
「ところで、さっき俺の実家からメールあったけれど・・・
今日夕方ご飯でも食べに来ないかって」
「そう・・・・」
「どうした?」
「ううん、なんでもない・・・・」
「まだ気にしているのか?」

幸乃は否定するようにふるふると首を横に振った。
修二は途端に元気がなくなってしまった向かい側に座る幸乃の手を握った。
お喋りをしながら食事をしていたが、ふと彼女の食事があまりすすんでいない事に気が付いた。
目の前にあるスープ皿に入っているロールキャベツは1個しか入っていないが手付かず状態。
野菜サラダもプチトマトに珍しくマヨネーズを付けている。
朝はコーヒーを欠かさなかった彼女が珍しくミルクティを飲んでいる。
心なしか顔色が優れないような・・・。
特に愛し合った後の翌朝は寝不足になると以前話していたことを思い出した。
もう一度幸乃の手を握りながら親指で手の甲を擦りながら「大丈夫?」と訊き
彼女がコクンと頷いたのを見てから修二もニコッと笑った。


食事も終わり、修二は休みの日には必ずやることで
食器の後片付けとガステーブルの掃除を率先してやった。
その間、幸乃はベランダ横にある室内干し用のサンルームに洗濯物を広げた。
大人2人の生活なのであまり量が無いのでそれもすぐに終わり掃除機をかけ始めた。

各々が休日の午前中の役割分担をこなしている間、CDコンポのスピーカーからは
耳に心地好い音楽が流れていた。
時折、お気に入りの音楽を口ずさみながら・・・・。

Page.178

スウェット上下に着替え、濡れた髪をバスタオルで乾かしながら寝室に入った。
キングサイズのベッド横のサイドテーブル上のスタンドは数個のLEDライトが
蝋燭のような光をたたえている。

自分の立っている位置より反対側に人型にこんもりと盛り上がっている。
横を向いて寝ているのだろうか・・・寝顔は見えないが安らかな息遣いだけが聞こえる。
そっと掛け布団を捲りそのこんもりとした膨らみに寄り添うように横になった。
自分に背を向けて眠っていてうねるような黒髪が自分の顔に掛かった。
シャンプーの香りであろう、自分の鼻孔をくすぐり無意識にもっと香りたくて
腰に手を回しやや強めに力を入れて自分に引き寄せた。
うなじに唇を寄せて安眠を妨害するつもりはないが数回キスを落とした。

「うぅ・・ん、誰?・・・修君?」
「ごめん・・・起こしたか?」
「う・・・・んん、起きちゃったかも・・・」
「誰って言ったよな?俺以外ここに入ってくるのは誰だよ?」
「う~~ん、わかんない・・・よ、修君、お風呂入ったの?」
「うん、入った。温めておいてくれてありがとう」
「ううん、お酒飲んで来ると思っていたからぬるめにしておいたの」
「あぁ、ゆっくり入れたよ・・・でも朝にもう1回入るよ」
「そうしてね・・・今週末は・・・予定通りなの?」
「うん、予定通りだよ。こっち向いて・・・幸乃(ゆきの)ちゃん、顔見て話したい」
「こっち?あぁ、修君の方ね。今何時?」
「・・・時間は幸乃のキライなお化けが出やすい時間」
「イヤだっ!もうっ」

そう言いながら幸乃は修二にしがみ付いた。
それを切欠に修二は自分の腕の中に幸乃を閉じ込めた。
髪を梳きながら額にキスをして彼女を仰向けにして真上からジッと見つめた。
そしてもう一度彼女の額に優しいキスを落とした。

「修君、どうしたの?」
「ううん、幸乃ちゃん、いつもごめん。寂しい思いさせて・・・」
「そんなことないよ・・・お休みの日はなるべく一緒にいてくれているでしょう?」
「それでも・・・」
「イイのよ。修君、私だって仕事が入ってしまえば一緒にいられないもの」
「・・・・・」
「全部承知で一緒にいることを決めたんじゃないの?それとも・・・もう後悔しているの?」
「そんなことないっ!!」
「ふふふ・・・ムキにならないで・・・寂しく思うときもあるけれど、全部自分達で決めたんだもんね」
「幸乃ちゃんは強いな・・・」
「ううん、そうじゃないよ・・・修君の傍にいられるからこんな風に考えられるんだよ」
「幸乃・・・・愛しているよ」
「私も・・・大好き・・・愛しているわ、修君」


修二は幸乃の瞳の中に自分がいることを確認して彼女の唇にキスを何度も落とした。
キスは徐々に深くなり何度も角度を変え
彼女のパジャマの上から右手でやわらかな胸を掬うように触り
胸の頂が徐々に固くなるのを布越しにもわかった。
パジャマの裾をたくし上げ、利き手を忍び込ませ直接彼女の肌に手を這わせた。
キスの合間に幸乃から微かな甘い声を聞きながら、修二は何度も「愛している」と囁いた。

パジャマのボタンを器用に外し、丸い柔らかなピンクの頂に唇を寄せた。
もう一方へは親指と人差し指でコリコリと愛撫した。
胸を甘噛みされるたびに幸乃は背を反り、
自分の身体の中心から彼を欲する想いが溢れ出てきた。

幸乃は修二の首に自分の腕を絡ませていった。
修二は彼女の中心から溢れ出てくるものに指を絡ませた。
もっと自分を欲する想いを強くするために
何度もそこを優しく指で、唇で、お互いが満足するまで味わった。

「修くぅ・・・ん」
「幸乃!」

そして彼女の全てを開き、彼と共に恍惚の世界へとけていった。


翌朝は、お互いの目覚まし時計もセットしていないのに
幸乃はいつも起きる時間に目が覚めた。
起き抜けの気分の悪さは多少あったが、
我慢できるほどだったのでそのままベッド中で
修二の顔をジッと見つめたままでいた。

彼に抱かかえられるように眠っていたせいか
身動ぎするのも彼の脱力した腕をそっと退かしながらした。
出逢ったばかりの頃、なんて睫毛の長い人なんだろうと思ったものだった。
今穏やかな寝息を立てている彼はその長い睫毛に縁取られた瞼を閉じ
決して自分を逃さないとでも言うようにしっかり私を抱き締めていた。

暫くジッとしているうちにいつも気分の悪さが襲ってきて
素早く彼の腕から逃れベッドサイドの収納ボックスに引っ掛けていた
ローブを羽織り寝室を飛び出した。

「・・・・幸乃ちゃん?」
腕の中にあるはずのやわらかい感触がなくなり、
目が覚め寝室の入り口に向かって修二は寝返りを打った。
サイドテーブルの時計で時間を確認してから自分も起きた。

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「お疲れ様です!来週もよろしくお願いします!!」
「おうっ!シュウ!さっきの件、真剣に考えておいてくれよ?
いいな、イイ返事を待っているよ」
「ハイ、ありがとうございます、じゃぁ、失礼します」

タクシーから恰幅の良い男性と助手席に座る若い男性が手を振り、
立ち去るタクシーを見送る2人の男性が街灯下に立っていた。
「やれやれ、シュウ、遅くまでご苦労だったな」
「いえ、大丈夫ですよ。これも仕事のうちですからね」
「まぁな・・・ある種サービス業の俺らだからな」
「そうですよ、でもなんで俺なんですか?」
「まぁ、他の奴らでも良いんだがあちらがお前が良いって言ってるんだよ」
「そうですか、嬉しいことですね」
「そうだな・・・それに、まぁ、お前の活動範囲も広がって良いんじゃないか?」
「ええ、まぁ・・・」
「まぁ、お前自身の考えも大事だから、会社のことは気にするな、いいな?」
「ハイ、ありがとうございます、でもやっぱり色々考えてしまいますよ」
「ゆっくり考えろ、じゃぁ、今週末はオフだからよく休めよ」
「ハイ、お疲れ様でした、失礼します」

2人は笑顔で別れ、1人は携帯電話を片手に立ち去り、
もう1人はタクシーを降りたところから最寄の駅へ戻るように大通りを歩き始めた。
携帯電話は数回コールし、目当ての人からの応答はなく・・・
「当たり前だよな、こんな時間に起きている筈ないか・・・」と呟いた。
ジャケットの内ポケットから薄い色の付いたサングラスを出した。
流しのタクシーを拾おうかと周りを見たが
週末のこの時間では掴まえる間に自宅に着きそうだったので
首に巻いているアフガンストールを更にきつく巻き、
吐く息を白くさせながら足早に自宅の方向へ歩き始めた。
冷たい空気が喉に沁みる・・・ジャケットのポケットからマスクを出し身に付けた。


もう日付が変わっている時間帯では住宅地の歩道には歩いて帰る人もいなく
自分の横を数台のタクシーや乗用車がスピードを上げて走り去っていく。
帰宅途中の道すがらコンビニに寄り、ホットの缶コーヒーとフルーツゼリーを2個買った。
店を出てすぐ缶コーヒーを開け、冷えた身体に染渡るようにゆっくり飲み始めた。
歩きながら飲んでも良いのだがこれをやって、
いつだったか失敗してしまい服を汚したことがあったことを思い出した。
一緒に連れ立っていた人が「子どもみたい」と笑っていたっけ。
店前でコーヒーを飲み干した。
ごみ箱に大きな音をたてて缶を捨てまた自宅に向けて歩き始めた。
自宅までの道のりは一戸建てやマンションが何棟も立ち並び、
新興住宅地なので創立されて間が無しの幼稚園や小学校も建っている。
1年前ほど前にこの土地へ引っ越してきて環境の良いところだと一目見て気に入った。

暫く歩いていくうちに自宅マンションが見えてきた。
自宅のある階を見上げ仄かに灯りが点いているのを確認して
マンションのエントランスに入った。
オートロックを鍵で開けエレベーターに乗り、自宅に向かった。
門扉を開けふと横に置いてあるはずの植木を探した。
日中風が強かったのでどこかに転がってしまったのか?と思った。

夜が明け太陽が昇ったらもう一度探そうと思い玄関扉を開けた。
内玄関のフットライトが点きシューズボックスの棚に
植木が置いてあるのを確認してホッとした面持ちになった。
赤い実をつけた植木を見ながら靴を脱ぎ静かに長い廊下を歩く。
微かに野菜を煮込んだ香りがする。
香りを辿りながらキッチンへ足を運び最近購入した
外国製の鍋に大好物のロールキャベツが入っているのを確認した。
リビングのテレビの脇に置いてあるフロアスタンドがやわらかい光を放っている。
いつも自分が帰ってくるとき真っ暗だと寂しくなってしまうから・・・
という理由でこれだけは点灯しておいてくれる心配りに自分も優しい気持ちになる。


リビングのシーリングライト点け、ストールとジャケットを脱ぎキッチンで手を洗った。
少しぬるくなってしまったロールキャベツのスープだけを
マグカップに注ぎラップをかけ電子レンジで温めた。
今夜は付き合い程度のアルコールを摂取していた。
一応食事もしていたがさすがにこの時間で
小腹が空いていた自分にはちょうど良かった。

こたつの上に持ち帰り残業だろうか・・・。
折り紙の束と数個のメダル型の完成品があった。
それを指先でいじりながら、これを作ったであろう人のことを思い出していた。
携帯電話の電源を切りおもむろに立ち上がり、
マグカップを片付けて入浴するために浴室へ向かった。

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※こちらのお話は一部に多少大人的表現をしています。苦手な方、嫌悪される方、18歳未満の方はご遠慮下さい。




通勤の帰宅ラッシュで駅前はごった返ししている。
なるべく人込みを避け、改札口へはエレベーターを利用し始めて早1ヶ月。
大きな駅ターミナルとなっている改札口も人、人、人・・・。
駅ビルの地下で買い物をしたかったが、
仕事の疲れもありバスに乗って自宅近くのスーパーに寄ることにした。
バスはちょうど行ってしまったばかりのようで並んでいる人あまりいなかった。
独り言で「今夜は座れそうね」と呟き、サラリーマン風の男性の後ろに並んだ。
始発なので程なくして空のバスがロータリーに滑り込んできた。
料金後払いなのでバスカードをリーダーに通し、出口近くの座席に座りホッと一息を吐く。

ロータリーには何台ものバスが停留所にて乗客を乗せ、
タクシーは十数台停車し客待ちをしている。
また家族を迎いに来ているのだろうか・・・・。
乗用車も数台エンジンをつけたまま排気口から白煙を出しながら停車している。
夕闇が広がっているせいか、駅ビルや周りのビルのネオンが眩しく感じる。

そんなことを思いながら座っていたらバスが発車時刻となり運転手の声が聞こえた。
この路線にはあまり珍しくないが女性の運転手さん。
とても運転が上手で急発進や急停車をせず、声掛けもとても柔らかな口調でとても感じが良い。
1年ほど前に今の家に引っ越してきたが、この街を気に入ったうちの一つがこのことだ。
バスは駅ビルから繁華街を抜け、住宅地の大通りを安全運転で走った。
始発から6個目の停留所で降り、目の前のスーパーへ入った。

時間も時間だけに一人暮らしの人であろうかお惣菜コーナーに数人いたのを
横目で見ながら真っすぐ生鮮食品売り場へ足を向ける。
ここのところの体調を考えて量り売りをしてくれるお肉屋さんは避け、
パック売りされている肉を数点カゴに入れた。
お魚も同様にパック売りを1個。
野菜売り場で水菜を1束、長ネギを1束カゴへ入れた。
シリアルを1箱、プレーンヨーグルトをカゴに入れてレジへ向かった。
中身を確認して週末は、鍋にしようかなという考えがふと頭に浮かんだがそれもきっと・・・
「でもきっと計画倒れね・・・」と口の中で呟いた。
その口調がとても残念そうに自分自身聞こえ苦笑いしてしまった。

レジで会計を済ませ、エコバッグに商品を入れて肩から提げた。
本当は牛乳やペットボトル飲料も買いたかったが、
それは今週末来れたらその時にしようと思った。
スーパーから自宅までの道のりは5分ほど。
程なくして自宅のマンション前に到着した。
ふと顔を上げ、自分の部屋の灯りを確認した。
「電気が点いているはずないのにね・・・」と独り言を言い、
マンションのエントランスに入りオートロックの鍵を開けた。
エレベーターで自宅階へ上がり、自宅玄関の鍵を開ける。

戸建感覚のイメージがコンセプトで1軒ごと可愛いらしい門扉が付いている。
門扉横に置いてある植木が風で煽られたのか少し土をこぼして倒れている。
荷物を内玄関に入れ、植木を直した。
今夜は寒いが日中ほどの風は吹かないだろうが、
また倒れてしまっても可哀相なのでシューズボックスの棚へ置いた。
内玄関のフットライトが自然に点き、長い廊下をぼわっと仄かな明るさにしてくれる。
リビングに入ってすぐ床暖房のスイッチを入れ、エコバッグはキッチンへ置いた。
仕事に持って行ったトートバッグはリビングの隅に置き、
着ていたコートはリビングの隣の寝室のクローゼットの中にしまった。
エコバックの中身を片付けと食事の準備に取り掛かるためにキッチンへ入り、
それと同時に給湯のスイッチを入れ入浴の準備もした。


今夜のメニューはロールキャベツとパン、ポテトサラダも作った。
自分の体調でご飯を炊けないのが残念である。
ダイニングテーブルでは足が冷えてしまいあとで辛くなってしまうので
今夜も32インチテレビの前に置いてあるコタツで食事をすることにした。
クッション代わりに座椅子を部屋の隅から引っ張ってきてテレビの前に陣取る。
一人での食事は侘しいのでテレビ番組相手にさっさと済ませることにした。
食事も終わり、食器を片付けて明朝の準備をし入浴した。
入浴後、昨夜観れなかったドラマを録画を観ながら持ち帰り残業をやった。
ドラマの展開のイイところで『つづく・・・』の文字。
主人公の男性が切なげに笑っている顔を暫く見ていた。
そして少し溜息を吐き、録画している分をHDDからすぐに消した。
ふと見上げた壁掛け時計が23時を少し回ったところでテレビのスイッチも切り
コタツの電源も切った。

立ち上がったときトートバッグの中身が見え、手帳に挟んである『それ』を取り出した。
手帳を広げて『それ』を前にして再び座椅子に座り込んだ。
不安が全身に広がるのを押さえ込むようにして所謂体育座りをした。
涙が溢れてきた。
どうする?どうしたい?この言葉が全身を不安と共に駆け巡った。

Page.175

皆様、こんばんは。

年末年始の帰省からその後お子達の胃腸炎@風邪騒ぎからやっと解放されつつある私です。
そろそろ連載を始めようかと思っています。
とはいえ、相変わらずお子達に振り回される日々。。。

またお付き合い頂けたら嬉しいです。
切なくて、胸キュン☆なお話を皆様に届けられたら幸いです。
宜しくお願いします。


            紫苑あかね拝

Page.174

「ヤダヤダヤダ~~~やめてよ~~~」
「お前だって西とこういうことしているんだろ?俺としたって平気だろう?」
「そんなことっ!!」
「していないって言えるのかよ?俺とすれば西も喜ぶんじゃないか?『北山上手くなったな』ってね」
「なんてこと言うのよ!!あたしとユウキはそんな安っぽくないよっ!」
「男なんてそんなもんだよっ!」
「ユウキは違うもんっ!!」
「いいや、西も健全な男子なら同じだよ」

どこかこの状況を楽しんでいる悪魔の様な笑みを浮かべている尾方が怖くなり
頭のどこかで『逃げろ!』と警報が鳴っている。
あたしが更に怯えた顔をしたのか尾方はじりじりと近寄り
あたしの顎と頭を捉えて無理やり唇を押し付けてきた。
ユウキ以外の男性の唇が凄く嫌で力なく泣き出してしまった。
「ユウキ~~~ユウキ~~~」
木立の中の枯れ草の上に洋服のことも気にせずぺたんと座り込みしゃくり上げるように
助けを求めるように雄輝の名前を呼びながら子どものように泣いた。

『北山!?どうした?何があったのかっ?答えろ?どこにいる?』

そんな言葉が泣いているあたしの耳に届いた。
力なく持っている携帯電話の通話口から雄輝のかなり焦っている声が聴こえる。
「ユウキ・・・?ユウキ~~~助けてよ~~~」
「西か!?」

『どこだ?北山――――ッ!!』

電話の声と参道入り口から聞こえる声が重なりまるで音声多重で聴こえる。
涙でぐしゃぐしゃになったあたしは前方に雄輝の姿を捉えた。
尾方の手を思いっきり振り解き雄輝に向かって一目散に駆け出した。
携帯電話片手に周囲を探し回る雄輝の胸の中に飛び込むように駆け寄った。
飛び込んできた広子を抱きとめ食い入るように雄輝は彼女を見つめた。
その後からわざと動きを緩慢にしているのか、
ゆっくり木立の中から尾方が雄輝の前に姿を現した。
雄輝は自分の背に広子を庇うように立ち、尾方と対峙した。

「北山!?どうした?」
「え~~ん、ユウキィ~~~怖かったよ~~~」
「何があった?あの電話なんだ・・・・?あれは尾方?」
「あたし・・・あたし・・・・オガッチに・・・」
「オイオイ、北山~ちょっと遊ぼうと思っただけなのに大袈裟だな~~~」
「ってめぇ!北山に何をした!?」
「別に何もしてねぇよ、ちょっと、いつも西とやっていることをやらせろって言っただけさ」
「なんだと!?」
「に~し~、結構北山の唇って柔らかいんだな~
お前だけ独り占めはずるいし、俺とキスすれば上手くなって
西も喜ぶんじゃないか~~?って北山に言ったんだけどな・・・」
「・・・・・・」
「こんなことまで言われて殴らないのかよ?結構お前、へタレだな!」
「ユウキはそんなことないもんっ!」
「いいよ、北山。ここでお前を殴れば俺の気が済むかもしれない、
でもお前は殴るほどのヤツじゃないってことだ
つまり俺とは対等ではないということだ。俺はお前を相手にしていないってことだ!!」
「なんだよっ!結局ヘタレじゃねぇか・・・・」

そう捨て台詞を吐いて尾方は自宅の方向へ歩いていった。
身体を雄輝にピッタリくっ付けて未だ震えが止まらないあたしは力なく涙を流していた。
その間、参道入り口横のあずまや風のベンチにあたしを座らせけがをしていないか
素早く手を動かし確認していった。
乱れた髪を直し、スカートに枯れ草が付いてしまっているのを自分のハンカチでささっと払い
尾方に摑まれて赤くなってしまった手首を優しく擦ってくれた。

「バスを降りたところで北山から電話で悲鳴が聞こえて凄く驚いたよ」
「ごめんね・・・ユウキ」
「まるで映画かドラマみたいだったな・・・」
「暴れているうちのリダイヤルしたみたいで・・・ユウキにそのまま掛かっちゃったんだね」
「それで良かったんだよ、そのお陰で大事に至らなかった・・・」
「すっごく・・・・怖かったの・・・男子ってあんなに力が強いんだね。
ユウキはあんなに無理やりって絶対にしないし怖い思いさせないし・・・・
オガッチが言ってた『健康な男子ならキスの上手い子のほうが嬉しい』って、ユウキもなの?」
「いいや!そんなことない。俺は北山じゃないとダメだ、北山しかいらない・・・いつか北山が・・・」

顔をそっぽ向けて語尾が聴こえない状態で雄輝は口の中でなにやら呟いた。
あたしは急に顔を赤らめてそっぽを向いてしまった雄輝が怒ってしまったのか不安になった。

「ユウキ・・・怒ったの?あたしがあんなことされたから?」
「違うよ・・・健全な男子だからだよ・・・」
「やっぱり・・・キスが上手い方が良いんだ~」
「違うよっ!そこは重要視しなくてイイよ!あ~~~もうっ!そうじゃないからなっ!!」
「ユウキ、どうしたの・・・?」

涙が完全に渇きっていない状態のあたしは、彼にとってかなりキスしたくなる顔だったようで・・・。
あたしの髪を耳の後ろに掛けながらそのまま耳の後ろに優しく唇を寄せて囁いた。
「北山が無事で良かった。ここの氏神様のお陰だね」
そう言い、耳たぶを甘噛みして頬から首にかけて滑るように何度か唇を寄せた。
そしてギュッと力を込めてあたしの体を抱き締めた。
あたしの震えが治まるのを待って雄輝はあたしの顔を覗きこんだ。


「守ってくれた氏神様にお礼をしなきゃな、縁結びも固く結んでもらって・・・
更に北山の志望校合格もおねがいしなきゃな!」
「え~~そんなに?氏神様そんなに訊いてくれるかな?
『どれか一つにしなさい』って言っているかもよ」
「じゃぁ、守ってくれたお礼だな」
「うん、そうだね」

あたしは泣き笑いの様な顔で雄輝を見上げ、
彼の腕に手を絡ませて一緒に参道に向かって歩き出した。

Page.173

年も明け、今日はユウキと初詣に出掛ける。
近所の氏神様でお参りする予定なんだけれど・・・
ここがどういうわけかかなり有名らしくて方々から毎年沢山の人が参拝に来る。
学業・縁結び・家内安全・商売繁盛・・・その他諸々、ありとあらゆることを請け負ってくれるらしい。
加えてこの辺りの子ども達の七五三もここで済ませるくらいだ。
昨年まであたしも家族と一緒に元旦の朝、お参りに行っていた。
でも今年からは・・・ユウキとそういう仲になったので・・・・・
まぁ、ユウキ曰く「縁結びの神様だし、西との固い絆を結んでもらいたいからさ!」という。
弟には「正月からラブラブでイイですね~~♪」と茶化されるし。
初詣デートも良いんじゃないかな~vvなんてあたしは気楽に考えていたりする。

いつも出掛ける時、どちらかの家の前で待ち合わせなんだけれど
今日はユウキが親戚の家に寄ってから神社へ向かうという。
神社近くの郵便ポスト前で待ち合わせにした。
参道には露店が沢山出ているだろうから
特にあたしがそちらの方向へふらふら~~と脱線する可能性大なので
必ず食事はシッカリ済ませてくるように!と御達しまで付け加えられた。
うむぅ~~~ユウキめ~~よぉくあたしのことわかっているじゃん!!


曇り空の外は寒くてダウンジャケットと赤いチェックのプリーツスカート、
カラータイツとブーツを履いて来て正解だったかも。
ジャケットの下にはフリース素材のタートルネックと薄手のチュニックを着ているから結構暖かい。
お財布とハンカチとティッシュ、携帯電話は
フェイクファーがワンポイントになっている黒のショルダーバッグを斜め掛けにした。
母親に言われて一応使い捨てカイロを持って来たけど、これは登場させなくても済みそうかな。
学校と真反対の方向にある神社には、地元の人以外は最寄の駅からバスで行くらしい。
あたしは少し距離があるけれど自宅から徒歩で向かうことにした。


少し傾斜のある登り坂をサクサク歩いて・・・
あちゃ~~~出来れば始業式まで会いたくない人がこっち見て手を振っているよ。
同じクラスの『尾方聖司(おがたせいじ)』通称【オガッチ】同じクラスの陸上部の男子で
ユウキとは1,2争うライバルだって。
ユウキと同じようにファンクラブもあるらしくて、アイドル歌手顔負けの優しい顔立ちで
なかなか引き締まった身体をしているって・・・。
まぁ、これはクラスメートから情報なんだけれど。
クラスではどちらかといえば他の男子と一緒にふざけ合って人当たりも良くて
まぁ、クラス一のお調子者・人気者(でもスポーツ万能のイイヤツ)ってとこかな~。

でもあたしは何故か苦手なんだよね~~。
人気者ということを自覚していて『女子なら全員自分を好きになっておかしくない』
というナルシストな一面もあったるするからね。
で、あたしがユウキと付き合うようになってから
そのアプローチというかそういうことが特に酷くなったかも。
運動会の練習で倒れてしまったときもその後、
あたしが学校に出て来てからも何かと世話を焼こうとしていたっけ。
あの時は愛ちゃんに助けを求めたり、
休み時間にはユウキの所に逃げて行ったから大丈夫だったけれど・・・。

「よおっ!北山、こんなところで会うなんて偶然だな!
まっ!アケオメってことでヨロシクなっ」
「あぁ、オガッチ、アケオメ、こちらこそクラスメートとしてよろしく」
「どこ行くんだよ?この方向なら初詣か?」
「・・・・そう、初詣に行くよ」
「へぇ~~やっぱ行くんだ!俺も行くんだよ、
神社前で小学校時代のツレと待ち合わせなんだ」
「ふ~~ん、そうなんだ・・・・じゃぁ、あたしは先に行くね」
「ちょっと、待てよ。どうせ同じところに行くんなら一緒に行こうぜ!
それとも誰かこれから来る予定?」
「うぅん・・・神社の郵便ポスト前で西君と待ち合わせしているの」
「あぁ~そうなんだ~~じゃぁアイツと落ち合うまで俺と一緒にいようよ」

まったく同じところへ向かっているのに、ましてや同じクラスの男子なのに無碍に断る理由もなく
そのまま流されるように一緒に行くこととなった。
さすがクラスで人気者であるため話は楽しかった。
でもユウキと一緒にいるときの楽しさとは全然違うのだな・・・とも感じた。
待ち合わせ場所近くで携帯電話にユウキからメールが届いた。
親戚宅で手間取ってしまったので待ち合わせ時間に少々遅れるとの事。
メールの文面を見た途端あたしの顔が曇ったのがわかった尾方は心配そうな顔をした。

「どうした?西から?」
「うん、今親戚の家に寄って来るって言ってたんだけれど少し待ち合わせに遅れるって」
「ふ~~ん、それで北山の顔が途端に寂しくなったんだ」
「そう!?あからさまだったかな?」
「うん、思いっきり顔に書いてあるよ」
「ホント!?そんなつもりはないんだけれどね」
「・・・俺だったら北山をそんな思いさせない自信あるよ」
「えっ!?それって・・・・」
「言ったまんまだよ」
「でもあたしは・・・ユウキが・・・・」
「わかってるよ。でも俺だって北山のこと好きだし、
西には部活も北山のことも負けたくないんだよ!!」
「そんなこと言われても、部活はともかくあたしは
ユウキとオガッチとの勝負対象じゃないから・・・困るよ」
「ここの神社、縁結びの神様で有名だよね。ここでこんな風に話しているのもきっと何かの縁だよ
俺と付き合ってよ。どこか冷たい西より俺のほうが北山を大事にするよ」
「そんなのイヤ!それにユウキは冷たくないもん!」
「なんで?俺だってファンクラブあるんだよ?
その俺が北山が好いって言ってるんだから嬉しいだろう?」
「そんなの関係ないっ!あたしの気持ちは全然お構いなしじゃん!」
「そんなこと無いって!!」
「イヤだ~~離してよ~~~手が痛くなっちゃう~~」

待ち合わせ場所から少し引っ込んだところへ強引にズルズルと尾方に引っ張られた。
表の参道とは違い引っ張られていく道は、
通常宮司さんが出入りする参道のようで人通りは殆ど無い。
露店や人通りから少ししか離れていないのに
木立のせいであたし達は他の参拝客から死角になっている。

大きな木を背に身体を尾方に押し付けられて、無理やりキスされそうになり
パニックに陥ったあたしは両手をブンブンと回した。
その拍子に持っていた携帯電話でリダイヤルしていたようだった。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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