2009 / 02
≪ 2009 / 01 2009 / 03 ≫
Page.

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


Page.196

皆様、こんばんは。

『輝いている君へ』が無事に連載終了を迎えられました。
お付き合いくださいましてありがとうございました。
こちらは『Love Songを聴かせて』に登場するP(敢えて頭文字)のメンバーのお話です。
登場人物が名前は出てきても特に絡み等無かったので、続編・番外編とはしませんでした。

今回は夫婦モノに挑戦しました。
ラブラブ~vv時期を少し過ぎた若い夫婦の心の動きが表現できていたら幸いです。



実はウチの長女が来月小学校卒業します。
その他、私が相変わらずPTA本部の方が多忙になり始めまして。。。
PC前に鎮座することが出来るか否か・・・?
次回作の連載時期ですが。。。
ぼちぼちと時間を見つけてやっていこうと思っています。
また次回作の方もお付き合い頂けたら嬉しいです。
宜しくお願いします。




           紫苑あかね拝



スポンサーサイト
Page.195

全てが目まぐるしくまるでジェットコースターにでも乗っているかのような勢いで毎日が過ぎていく。
修二が制作発表前に幸乃とのことで記者会見を開いた。
既に結婚していたこと、相手は一般の女性で現在妊娠中であること、
そしてファンに黙っていたことを詫びた。
一時は特にネット上で色々な憶測が飛び交っていたようだが、
その後の映画の制作発表や彼の誠実な態度によりそれらの騒ぎは収束した。

撮影がクランクインするとやはり修二は多忙を極め、
世の単身赴任の如く二重生活を余儀なくされた。
その間、幸乃はマンションで1人留守番となっていたが、
プレママ教室や同じマンションの先輩ママ達との交流、また1日を置かずして
姉や両親、義母が入れ替わり立ち代り様子を見に来てくれたので寂しくはなかった。

「幸乃さん、今夜は家に泊まりに来る?」
「お義母さま、ありがとうございます。でも修君からスカイプで連絡が入る予定なんです」
「あら・・・そうなの?じゃぁ、ここにいたほうがいいわね。
そうそう、ビーフシチュー煮込んできたから後から来るお父さんと一緒に食べましょう」
「わぁ~ありがとうございます。お義母さまのこれ私大好きです」
「そう?今度レシピを書いてくるわね」
「お願いします・・・それと肉まんと餃子の皮からの作り方もお願いします」
「まぁ、幸乃さんったら・・・そんなに覚えるの?」
「はい、修君の大好物ですから。お義母さまが小さいときから作ってくれて『お袋の味』だそうです」
「そうだったのね・・・・こちらこそありがとうね。やっぱり幸乃さんには敵わないわ」
「お義母さま?」
そう言う義母は嬉しそうに持って来たタッパーの中身を鍋に移した。
それを見ながら幸乃はお茶の準備をした。
お腹のベビーちゃんのお陰で皆が幸せになっていくと実感した。


国内での撮影の合間、いよいよ幸乃の出産の時を迎えた。
修二は念願かなって立会い出産することが出来た。
しかしそこには「どっちが出産するのか!?」というくらい顔面蒼白な修二と冷静沈着な幸乃がいた。
義母からのお守りが功を奏したのか、幸乃は初産なのにかなり安産で模範的な妊婦だったらしい。
どちらかと言えば修二の方が・・・・・・・。
ここは敢えてアイドルとしての沽券に係わる問題なので多くは語らない方がイメージのためである。
この逸話は子どもが大きくなっても尚語り草となった。
病院中に響き渡るような大きな産声を上げた赤ん坊を胸に抱いた幸乃を抱き寄せ
涙ぐむ修二は何度も額にキスをして「ありがとう」と囁いた。
そしてこの時この瞬間を忘れないと・・・この者たちを守るのは自分しかいないのだと誓った。



映画のキャンペーンや他の仕事がひと段落ついたので自宅に戻った修二は
ふと門扉に置いてある植木に目を遣った。
あの時は一株しかなかったが、1年以上経ってだいぶ大きくなったので3個に分けたと・・・
先日幸乃が話していた。
1個は幸乃の実家に、もう1個は修二の実家の庭に植えるそうだ。
それぞれにあげる植木鉢の傍には水色のA型ベビーカーがたたまれて置いてある。
玄関扉を開けた途端、心地好い初春の風がふわっと通り抜けた。

「幸乃ちゃん、ただいま・・・」
「あっ、修君、お帰りなさい」
「寝ているのか?」
「うん、1時間くらい前におっぱいを飲んで寝ちゃった」
「そっか・・・もう少し早く帰りたかったんだけれど」
「でも、今日明日はお休みでしょう?」
「連続4日もお休み貰えたよ」
「本当?良かったね。じゃぁ、一緒に過ごせるね。すっごく嬉しいよ」
「俺が一番嬉しいよ!!あいつと幸乃ちゃんを独り占めできるんだもんな
いつも親父やお袋から話し聞くだけで終わっているだけなんだぜ?」
「修君・・・子どもみたい・・・」
「悪かったなっ!!」
「ほら~~またそうやってムキになる~~~起きちゃうでしょう?」

寝室のベビーベッドで眠っている我が子を
2人で見に行き安眠を妨げていないか確認した。
顔を横に向け、時折口をモグモグさせる様はなんとも言えず可愛らしい。
青色のゾウのタオル地のぬいぐるみに手を乗せスヤスヤと眠っている。
修二は、そっと息子の額に口付けた。
「ただいま、ママと良い子にしていたようだね。
今は・・・ママを返して貰うぞ!」
「修君、何それ?」
「イイんだよ!」

そう言い微笑みながらリビングに戻った。
お茶を淹れて2人でソファに座った。
窓からそよそよと風が吹いてくる。

「修君、今日も良いお仕事出来たみたいだね」
「あぁ、出来たよ・・・それもみんな周りの人のお陰だし、
何より幸乃ちゃんとあいつのおかげだ」
「そう?良かった。じゃぁ、ご褒美です」

幸乃は隣に座る修二の唇に自分のそれを寄せた。
「ご褒美と充電」と言いながら
修二は彼女の後頭部に手を添えてもっと深く口づける。
一度唇を離しお互いクスッと笑い、
再び磁石で吸い寄せられるようにそれはぴったりと合わさる。
徐々に深くなるキスは、唇を離れ幸乃の喉元、
大きく開いた長袖Tシャツの胸元にまで及んだ。
Tシャツに裾から利き手を忍び込ませて、
以前より少しふくよかになった幸乃の丸い胸をそっと包み込んだ。
彼女が甘い吐息を吐いたのを合図に、
彼が熱を帯びた眼差しで彼女を見つめながら
ソファに彼女の奇声を発したのを構わず押し倒した。

「もしかしたら・・・年子で子どもが生まれるかもな?」
「そうでもないかもよ?まだ授乳時期だもん」
「そういうものなのか?」
「うん、そういうものなのよ、パパさん、育児書を読んでくださいね」
「まだか・・・そっか~~~」
「『まだ』ってあからさまだわ・・・」

押し倒した幸乃の胸元に抱かれるように修二は今ある幸せを噛み締めた。
輝いていられるのは幸乃のおかげ、そして2人にとってかけがえのない宝物のおかげ。
暫くして寝室から「うっくぅ~~~ん」という可愛らしい声が聞こえる。

「目が覚めたみたい・・・」
「そうだな、連れてくるよ」
「お願いします」

修二はソファから立ち上がった。
寝室のベビーベッドで手足をパタパタ動かしている息子をそっと抱き上げた。
そして彼の額に掛かる薄い茶色の髪の毛をかきあげ、額にキスを落とした。
カーテン越しに陽の光が部屋に入り、とても穏やかな春の午後、
ふと顔を上げた修二の瞳には一瞬息子から光が放っているよう見えた。




                   -おわり-

Page.194

安定期に入るまでは絶対安静を強いられていた幸乃だったが
今は自宅に戻り穏やかな毎日を過ごしている。
結局仕事の方は辞めてしまったが、
いずれ子育てが一段落付いたら復帰すると宣言したのは先日のこと。
それも修二の母親の薦めだった。
戌の日に腹帯と安産のお守りを神社で貰って来て、
修二が自宅いる日に父親と一緒に届けに来た。

「これは鞠子さんにも贈ったものと同じなのよ。
彼女も2人産んでいるけれど安産だったから・・・きっとご利益あるわよ」
「お義母さま、ありがとうございます」
「幸乃さん・・・その・・・色々とごめんなさいね・・・・
私、後妻で・・・色々周りから引け目があってね」
「もう、忘れましたから・・・いいんです。
それより、湊家について色々教えてください」
「そうね、先ずはお料理からね・・・
それと幸乃さんのお仕事については私も一目おいています。
だから是非これからも続けられる範囲でやって言って欲しいわ」
「お義母さま・・・・」
「多分、いいえ、私はあなたに嫉妬していたのね。
夫に愛されて、天職と思える仕事に就いて頑張る姿が眩しすぎたのかも」
「・・・・・・」
「もし、修ちゃんが『仕事辞めろ!』って言ったら子ども連れて家に来なさいね。
お父さんと一緒に子どもの面倒は私が見るから、あなたは仕事に行けるでしょう?」
「そうだよ、幸乃さん、修二は頑固なところがあるからね。
もしそうなったら、修二は放り出して構わんよ!」
「絶対にそんなことにはなんねぇからな!!」

両親の挑発的な態度にムキになって怒る修二を見て幸乃は幸せを噛み締めながら
丸く膨らんできたお腹を優しく撫でた。
そして幸乃の手料理に舌鼓を打った両親は上機嫌で帰って行った。


入浴後幸乃はベッドの上で料理の本を広げていた。
来週末にフェニックスのメンバーを自宅に招くためにメニューを考えていた。
もう悪阻は治まっているのでこういう本を見ていても気分が悪くなることは殆どない。
むしろ必要以上にお腹が空いて困る。
検診時には「あまり体重を増やさないように!」と釘を刺されいている。
修二は首にタオルを掛け、ミネラルウォーターを持って寝室に入って来た。

「幸乃ちゃん、あんまり根詰めるなよ?」
「大丈夫だよ、それより、修君、コレ見て、美味しそうだよ~~」
「悪阻が治まった途端、今度は凄いな食欲が。まぁ、2人分だからな」
「うん、でもね、それでもバクバク食べちゃダメなんだって!
『カロリーオーバー』のはんこ押されちゃうんだよ」
「そっか・・・それは大変だね~~~」
「あっ!他人事のように言ってるな~~~」
「他人事だよ、俺の体じゃ無いし」
「ベビーちゃん、パパはあんなこと言っていますよ~~
出てきたら思いっきり『メッ!』ってしましょうね」
「パパは、そんなこと言っていませんよ~~~」

思わず2人は顔を見合わせて笑った。
暫く来週末について話をしてから修二は改まって幸乃に向き合った。

「再来月、映画の制作発表の会見がある。それで事務所社長とマネージャーと
それとメンバーともよく話し合った結果なんだけれど、幸乃とのこを正式発表しようと思う」
「えっ!?そうなの?制作発表の場で?」
「いや、そこでは場違いだし、他のスタッフの方々に申し訳ないからね、
その会見の前にすることにした」
「私は・・・その場に行かなくても良いんだよね?」
「うん、いいよ。幸乃ちゃんは芸能人じゃないし
ヒロもリュウも正式な記者会見の時にお嫁さんは同席していなかったから」
「良かった、こんな丸いお腹で出て行ったらイヤだもん」
「俺にとってはこんな幸乃ちゃんも可愛いと思うし、妊婦は美しいと思うよ。
幸乃ちゃんを愛した証がここですくすくと育っているんだよ・・・
愛しく思い、その母親を神々しく思うよ」
「修君、照れるよ・・・」
「そうか・・・・?」

左手で幸乃の肩を抱き、右手で顎の下に手を添えて彼女の顔を上向きさせた。
親指で彼女の唇をなぞりそれを半開きにさせた。
そっと唇を寄せて初めは啄ばむように、徐々に口付けは熱さを増し深くなっていった。
幸乃を横向きに寝かせ自分の腕に頭を乗せた。
パジャマの合わせ目から手を忍び込ませ特に敏感となった胸の頂に手を伸ばした。
彼女が過剰に反応し甘い声を出したので修二は手を引っ込めようとした。
幸乃は「大丈夫だから」と言い自らパジャマのボタンをはずした。

灯りをやわらかい光に落とし、修二は彼女の美しい姿に見惚れた。
潤んだ瞳で見つめる彼女に覆い被さり決して無理強いせず、ゆっくり、丁寧に愛した。
彼女の中から溢れ出る愛情をいつまでも味わった。
彼の自分への愛の強さを感じ、幸乃はそれを優しく撫でた。
そして労わり、彼自身が蕩けてしまうような感覚に陥らせた。
彼女を横向きにし修二は後ろから抱き締め、温かな彼女の中に己の熱い魂を埋めた。
そしてゆっくりと確実にお互いの愛情を確かめるように歓喜の中で溶け合った。

Page.193

只今あたし、北山広子、苦手なお菓子作りをしている。
いつもはなけなしのお小遣いの中からどうにか捻出して
ショッピングセンター内のバレンタインコーナーで
よーく、吟味して『コレ!!』というものを買っていた。
それで友チョコのドサクサにまぎれて本命チョコも渡していた。

でも今年は・・・・
ユウキの視線やアプローチがやたら強烈でぇぇぇ。
友チョコは女子だけにあげる。
男子にはユウキだけにあげる。
それがあたしの本命チョコ。

「北山―!東野先輩は手作りチョコ貰うんだって!」
「ふ~~ん、あぁ、愛ちゃんは家庭科全般得意だからね~
大人系の甘くないフォンダンショコラ作るんだって」
「へぇ~いいな~」
「そうだよね~あたしも愛ちゃんの作ったの食べてみたいvv」
「・・・・おいっ!なんでそうなるんだよ?
お前もそれくらい作れるんじゃね?」
「何言っているのよ!すっごく難しいんだよ~
あたしには絶対に無理だよ」
「お前さ~『無理!』って思う前に俺のために挑戦しようとする気持ちは起こらないのかよ?」
「ごめん・・・起こらない」
「なんだよ、それ・・・じゃぁ、バレンタインはスルーするつもりっだのか?」
「いや、それはないけれど・・・友チョコと同じ感じで本命チョコも・・・(ごにょごにょ)」
「クラスの男子への友チョコは絶対禁止!!!女子への友チョコも100歩譲ってやる!!
俺への愛情が本当なら手作りチョコをくれっ!!」
「えぇぇぇぇ~~~そんな~~~~」

というような一連の会話が約1週間前にあって現在に至っているわけで。
愛ちゃん曰く「チョコレー作りなんて簡単よ♪」。
ウソです。マジ、タイヘンです。
一定の温度を保っていなくちゃいけないし
ちょっと油断していたら砂糖が入っているからあっと言う間に焦げ付いちゃうし
材料を多めに用意しておいたけれど何故か足りなくなっているし
嗚呼、あたしきっと渡す時までにチョコレートの海で溺れてしまいそう。

もうこうなったらラッピングで誤魔化すしかない!?
でもユウキへの本気度が見てくれだけ!と解釈されてもかなり凹む。
だからといって・・・中身で、味で勝負するほど期待は出来ませぬ。
自ら作っていながら出来上がりとユウキの反応がもの凄く怖い。



【作り始めて十数時間後】

出来た・・・・・と思う。
ラッピングからもれてしまったかなり酷い失敗作を弟に試食してもらって・・・・
「まぁ、トリュフチョコをイメージして食べたらそれっぽいよ!」というお褒めの言葉頂き
我ながら大きな溜息を一つ。
悲観的な想いを募らせながらも、
出来上がったトリュフチョコはお世辞にも綺麗な出来栄えじゃない。
とてもいびつな形・・・・。

土曜日とはいえ午前中は体育館にてトレーニングがある。
彼とは自宅へ届けに行くと前日約束した。
自宅には雄輝のお母さんしかいなくて・・・。
それもあたしがお邪魔したら入れ替わりに留守番まで頼んで
華絵先輩とお出掛けされてしまった。
ラッピングされた手作りトリュフチョコを前に暫し雄輝の帰りを待つあたし。
階下の玄関がガチャリと開く音がして階段を軽やかに上がる音した。
おもむろに雄輝の部屋の扉が開く。

「あれっ?もう来てたんだ」
「うん、来てた・・・」
「北山、昼メシは?」
「家で食べてきた、ユウキは?」
「俺はこれからだけど、下でテキトーに食ってくるから待っていて」
「うん、仕度手伝う?」
「いいよ、多分お袋が用意してくれているはずだから・・・
そこの雑誌でも見て待っていてくれ」
ジャージ姿のユウキは着替えを持って階下へ行ってしまった。

嗚呼、何故か息が詰まる~~~。
嗚呼、今更ながら緊張する~~~。
嗚呼、このいびつなチョコに幻滅されてしまう~~~。
未だかつてないほど悲観的なあたしが部屋に取り残された。

暫くしてユウキが部屋に戻って来た。
あたしの横に座った。
「お待たせ、昼メシとシャワー済ませてきたよ」
「うぅん・・・そうなんだ」
「雑誌見てた?」
「うん、でもよくわからないや、男子の好みは・・・」
「そうかな・・・」
「うん、わからない」

本日の最大の目的をわかっているだけにお互い言葉が出てこない。
いつも自信満々の彼でさえ何故か挙動不審だし。
あたしの手の中にあるチョコが体温が伝わって溶けてしまわないうちに渡さなければ・・・
と、思った矢先、ふと雄輝のスポーツバッグのファスナーの縁にグリーンのリボンが見えた。
思わずそれに手を伸ばしてみて・・・それは明らかにバレンタインチョコだった。

「これ、何?」
「あぁ、今日部活の女子からのヤツ」
「友チョコだよね?」
「知らねぇ、多分そうじゃねぇの?全然興味ないし」
「まだ、バッグに入っているじゃん!!
あたしには本命チョコはユウキだけ!って言っておきながら
自分は本命チョコのつもりでくれた女子のは貰うんだ~~!?」
「だから、そんなの知らねぇし、俺には関係ないから!」
「もういいっ!あたしのは全然上手じゃないし、形もいびつだし、
慣れていないから材料も足りなくなっちゃって予定通りにならなかったし・・・」

もうあたしは支離滅裂なことを言い放ち、
何でこんなことで涙がぽろぽろ流れるのかわからなく半ばパニックを起こし
手作りチョコのプレッシャーからのストレスを雄輝にぶつけた。
あたしが喚き散らしている間に雄輝はラッピングをサクサクと開けてしまい
箱の大きさよりチョコの量が少なすぎるのを凝視している。
嗚呼、もうお終いだわ~~~。
嗚呼、不器用さ加減に呆れているよ~~~。
嗚呼、ユウキへの本気度を計られているよ~~~。

あたしの脳内はそんな考えがグゥルグゥル廻っているのをよそに雄輝は「クスリ」と笑い
長い指で摘み自分の口に一つ放り込んだ。
そしてまだ口をパクパクさせながらよくわからないことを言っているあたしの口の中にも一つ。
ココアパウダーの苦味に一瞬止まったあたしに雄輝は言った。

「形は良いんだよ、でも美味いよ?」
「う・・・・ん、そうかな・・・?」
「美味いよ、こんなに丁寧に作ってくれたんだもんな、北山の愛情感じる
どんなに見栄えよく作られたチョコよりずっと美味いよ!」
「そ、そうかな?でも、最初の予定より半分の量になっちゃたし・・・」
「そんなこと気しないよ、それでも気になるならこうしたら大丈夫だよ?」

そう言った雄輝は素早くあたしの顎に手をやり唇を寄せた。
そして口の中にまだ残っているチョコをあたしに口移しした。
あたしの口内には二つの溶けかかったチョコがあって・・・・。
「これで一つのチョコになっただろう?俺にもそうしてくれる?」と耳元で囁いた。
頷いてあたしは耳まで真っ赤になって残り二つとなった一つを口に入れ
雄輝がもう一つを口に入れたのを確認して彼の頬に手を添えて同じようにした。
彼の口内になくなっても、香りをも味わうようにいつまでもお互いのそれを合わせたままでいた。
雄輝は両手をあたしの身体に回し、優しく抱き寄せた。
右手で耳の後ろの髪を梳きながらもっとお互いが密着するように
背中に添えられている左手に力を込めた。


「来年は、もっと上手に作るね!」と言ったあたし。
「来年も、これで良いよ、だってこうして北山のチョコ味の唇も味わえるから」と言った雄輝。
雄輝の言葉はあたしのチョコ作りの上達を阻むこととなった。

Page.192

皆様、こんばんは。

いつも私のオリジナル恋愛小説をお読み頂きありがとうございます。

早速ですが、只今「輝いている君へ」を連載しておりますが。。。
本日は1年のうち女子が最も気合を入れる日バレンタイン・デーです。
これに合わせて掌編を書きました。

恐らく・・・ここへいらっしゃる方はわかっているかも。
いつもの2人の番外編です。
<誰って?中学生のあの子達です(笑)

UPは夜が明けてから~になると思います。
連載途中になりますが、ご興味のある方はどうぞ宜しくお願いします。



            紫苑あかね 拝

Page.191

太陽は天中を過ぎた頃彩乃は一度自宅に帰り
病室には修二と意識の無い幸乃2人だけだった。
帰る前に、自宅のこたつの天板上にあった物を修二に渡した。
渡された物を見た修二は絶句したまま、
それを握り締め何も言わずに無造作にポケットのしまった。


その後2回ほど年配の看護士が様子を見に来た。
先ほど修二は担当医師にカンファレンスルームに呼ばれて幸乃の容態の詳細を聞いた。
とにかく今は絶対安静、暫くは入院が必要とのことで幼稚園の園長にもすぐに連絡し
仕事の方は休むことにした。
念願かなってクラス担任になった彼女にとっては辛いことだが
かけがえのない彼女を守るためには致し方ない選択だった。
明日以降、自分が仕事に行っている間は彩乃や幸乃の両親が交代で来てくれる事となった。
しかし、修二自身の心の整理は正直言ってまだ出来ていない。
そんなことを考えているうちに昨夜からの睡眠不足や疲労等で
再び幸乃のベッドに寄りかかるように眠ってしまった。


髪を何度か梳かれる感じがする。
誰が・・・触っているのか?
この感触は覚えている・・・やわらかくて細い指先。
その持ち主を確かめるように修二は瞼を開きその手を見た。
そして手先から腕、その人を・・・見つめた。
彼女の頬を優しく撫でた。

「目が覚めた?俺の眠り姫・・・」
「うん、おはよう」
「もう、おはようの時間はとっくに過ぎているよ」
「そっか・・・もうそんな時間なんだ」
「どこか痛いところ、苦しいところないか?」
「うん、今はないよ・・・」
「何か飲むか?」
「うん、お水ある?」

修二は小さな冷蔵庫に入っているミネラルウォーターの口を開け、
起き上がろうとする幸乃を押し止めた。
ペットボトルに口を付けて少量口に含み幸乃の顎を優しく捉えて口移しで少しずつ流し込んだ。
彼女が欲しがるだけそれを数回に分けてした。
修二は口の端から流れ出た水をも唇で拭い、顔中にキスの雨を降らせた。
幸乃は自由の利く方の手を彼の身体に回し何度も「ごめんなさい」と謝った。
それに対して彼は「もう、いいから」と彼女を慰めた。
そして掛け布団の上から彼女お腹に手を添え、「この子は母親以上に強い子だ」と言った。
暫くしてジーンズの後ろポケットから彩乃から預かった紙を幸乃に見せた。

「こんなことまで考えていたんだな、ごめん、俺が追い詰めた・・・」
「ううん、これは自分で決めたことだから」
「俺は、幸乃ちゃんの望みは全て叶えたいと思っている。
だけどこれだけは絶対に叶えられない!!」
「でも・・・・」
「ここまでの事態になってもわからないか?
お腹の子だって母親がバカな考えを起こし始めていることを身を以って警告しているのに・・・」
「幸乃ちゃんは俺に仕事を続けて欲しい、映画も挑戦して欲しい
・・・とそう望んでいるならそうする。でもそれでも譲れないものがある。
それは幸乃ちゃんとお腹の子だよ。それを失ってまでも続ける仕事ってあるのかな?」
「それ・・・って・・・私、修君の傍にいていいの?赤ちゃん、産んで良いの?」
「最初からそうして欲しいって言っているのに・・・」
「今の俺にはわかるよ。俺は幸乃ちゃんがいて、赤ん坊がいて、俺が輝くってことを」
「修君・・・・」

彼女の目の前で『それ』を出来るだけ細かくちぎった。
修二のその行為を見て幸乃の目から涙が溢れてきた。
涙に滲んだ彼女の目じりにキスをした。
そして幸乃の方から修二に抱きつきキスを求めた。
彼の下唇を甘噛みし、唇を舌でなぞる。
お互いの吐息も飲み込むように熱い口付けを交わした。

修二は「ここが病院だということを忘れそうになる」と言ってやっと唇をはずした。
その時の彼の顔はニヤリと笑った。
そしても幸乃も修二の気持ちを察し、頬を朱に染め恥ずかしそうに笑った。

Page.190

壁に田園風景の油絵が飾られている。
こじんまりとした個室のベッドに眠る幸乃は穏やかな寝息を立てている。
左腕に点滴の針が刺さっているので反対側の手を握り締めたまま
修二は彼女のベッドに突っ伏すように眠っている。
入院準備のバッグを抱えた彩乃は、
朝日が燦々と降りそそぐ部屋の中は穏やかな時間が流れているのと感じた。
修二の横に行き、肩を軽く叩き声を掛けた。

「修二君、大丈夫?」
「・・・うぅ~~~ん、あっ!お義姉さん?俺、寝ちゃったんですね」
「昨夜から大変だったんだもの、眠いでしょう?
ここはいいから一度自宅に帰って仮眠をとってきたら?」
「いいえ、大丈夫です。幸乃ちゃんが目覚めた時ここにいたいんです」
「そう?じゃぁ、絶対に無理しないでって約束して!いい?」
「はい、わかりました」
「それと・・・あとで実家の両親がここに来るみたいだから」
「はい、俺、ご両親にはなんてお詫びをしたらいいか。どう償えばいいか・・・・」
「そんなこと気にしないで、まだあなた達は若いのだから
これからを見せていけば良いと思うのよ」
「それでも・・・」
「あなたがそんな風にクヨクヨしていたら幸乃はあなたが頼りなのにどうしたら良いの?」

彩乃は、かなり弱気になっている義弟に喝を入れた。
入院用の一式をバッグから出しサイドテーブルに置き、
着替え等は備え付けのクローゼットに仕舞った。
自宅から握ってきたおにぎり3個とペットボトルのお茶を修二に渡し
強い口調で食べるように言い聞かせた。
ベッド脇の椅子から入り口近くに置いてあるソファに彼を半ば無理やり座らせ
小さな子に言うように「よく噛んで召し上がれ!食べ終わるまでここを動いちゃダメよ!」と。
程好くにぎられたそれは口に含むとほろほろと舌の上で崩れ、

全身の緊張が解けていくようだった。
修二は、この頼れる義姉がいてくれて本当に感謝した。
自分1人だけだったらここまで出来ただろうか・・・。



午前中いっぱい幸乃は目覚めず、時折うわ言で謝ったり修二の名前を呼んだ。
ここは病院側の配慮で一般病棟から離れた位置にあるため
他の患者さんに気兼ねなく周囲への連絡等が出来て助かった。
自分の携帯電話には実家から数件着信があった。
幸乃のことを父親の携帯電話に連絡をしておいたからだ。
メンバーにはリーダーのマオにだけ明け方メールした。
マネージャーにも出来ることなら
仕事に支障が無い程度に休みが欲しかったので連絡をした。
それでも基本的なスケジュールは埋まっている状態で
空き時間に彼女を見舞うくらいしか出来ないのだと厳しい現実が待っていた。
正直言って仕事も何もかも投げ出してただひたすら彼女の傍にたかった。
しかし、フェニックスのヴォーカル・シュウも全部ひっくるめて俺を好いてくれている
幸乃のためにここは自分自身強くならなければ・・・と思った。
心は彼女の元に置いて来ても・・・・。

午前中に幸乃の両親が来てくれた。
全ては自分の所為なのに一言も責めず
むしろ憔悴しきった自分の肩を無骨な手で義父は何も言わず揉んでくれた。
ただ一言「幸乃は幸せ者だな・・・」と言った。
そして義母も何も言わず、ただ背中を撫でてくれた。
自分の彼女への独りよがりな頑なな想いは溶けていった。

幸乃の両親と入れ替わるように、修二の父親が見舞いに来た。
その風格とは似つかわしくない色鮮やかなガーベラを数本、
カスミソウやスターチス等をあしらった小振りな花束を抱えていた。

「修二、幸乃さんの具合はどうだ?」
「父さん、まだ意識が戻らないんだ」
「そうか・・・お前は大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「昨日の今日で驚いたよ」
「ごめん、心配掛けて・・・・」
「いや、それはいい。お前は幸乃さんを第一に考えてあげなさい。
嫁ぎ先で居心地を良くするのも、悪くするのもパイプ役としてお前次第だからな」
「はい、肝に銘じてそのつもりでいます」
「そうだな・・・幸乃さんを一番に守るのはお前のほかに誰もいないそ!」
「父さん・・・・」
「そうだ、母さんがさすがに驚いていてね。素直には・・・まだまだなんだがな・・・・
お前に怒鳴られて、叱られたことがそうとう応えたらしい。
その上幸乃さんが救急搬送だからな・・・
そのうち・・・まぁ、長い目で見てやって欲しい、すまんな」
「いえ、父さん、ありがとう」

父親が持って来た花束を修二が花瓶に生けて、
それを満足そうに眺めて父親は帰っていった。
帰り際「ガーベラのこの鮮やかな色は『ビタミンカラー』と言って人を元気にさせるそうだ。
まぁ、母さんの受け売りだがな・・・」言った。

Page.189

「お義姉さん!幸乃にとって自分がその程度のヤツじゃないと思っています。
でももし、そういうことなら・・・こんな機械を通さず直接彼女の口から聞きたいです」
「そうよね・・・」
「俺、家に帰ります」
「じゃぁ、送っていくわ。今度は私が運転して・・・私も幸乃にちゃんと聞きたいから」
「助かります、1人で帰ってまた彼女と喧嘩しかねないくらいで・・・
俺はまだ気持ちが揺れているんです」
「ええ、わかるわ。じゃぁ、ちょっと待っていて、支度してくるから」

彩乃が出掛けることを夫に伝え、ベンチコートを着込んで戻って来た。
修二は車に乗り込んだとき再び幸乃に電話を掛けた。
今度は家の電話にも掛けてみたが、機械音の様な留守電が応答するのみ。
義姉の家を出る前に頭の中で聞こえた幸乃の声が気になった。
とにかく今は彼女の顔を見たいそして抱き締めたい・・・その気持ちが体中を駆け巡った。
はやる気持ちを抑えながら、間もなく義姉の運転する車はマンション前に着いた。
助手席から見上げた我が家は、厚手のカーテンに窓が閉ざされていたものの
オレンジ色の暖かな光が漏れていた。

「修二君、先に自宅へ行っていて。私は地下駐車場の来客用に止めてからそっちに行くから」
「いえ、乗ったまま駐車場へ行きます」
「そう?いいの?早く幸乃に会いたそうだけど?」
「いいです、このままあそこから駐車場へ入ってください」
「わかったわ、そうしましょう」

地下駐車場に車を止め、エレベーターで自宅の階へ上がった。
角部屋の自宅へ、義姉と一緒に足早に向かった。
先ほど自分が出掛けた時、鍵を掛けずに出て来てしまった事を
今更ながらそうとう頭に血が上っていたことに心の中で苦笑いしてしまった。
玄関に入りフットライトが点灯した。
リビングに通じる扉が半分開いているのを確認し、幸乃の名を呼ぶ。

「幸乃ちゃん?起きているのか?」
「幸乃?どうしたの?寝ちゃったの?」

2人はリビングに足を踏み入れた。
こたつに両足を入れた状態で、座椅子から身体が大幅に外れるように幸乃は横向きに倒れていた。

「幸乃!こんなところでうたた寝したら具合が悪くなるわよ」
「幸乃ちゃん、寝ているのか?」

幸乃の手にはしっかり携帯電話が握られている。
・・・・といか、握り締めながらその淡いピンクの機械が小刻みに震えていた。
微かではあるがうめき声も聞こえた。

「幸乃!?どうしたの?」と彩乃が妹の顔を覗きこむ。
「幸乃ちゃん!!どうしたっ!?」と修二が彼女を抱き起こした。

彼女の顔には異常なほどの脂汗が滲んでいた。
「・・・・おな・・・か・・・痛・・・・いの・・・
しゅう・・・くん?ご・・・めん・・・・」
「幸乃ちゃん?何があった?」
「幸乃!お腹が痛いの?ちょっとごめんね、捲るよ・・・・あっ!!これは・・・
修二君、緊急事態よ!救急車を呼んで!!」
「えっ!?救急車?」
「幸乃、出血しているわ!!早くっ!!それとバスタオル持ってきてっ!!
しっかりするのよっ!!幸乃っ!!」

修二は動揺し震える手でどうにか救急車の要請をした。
全身が震えて仕方がなく、義姉の指示に機械的に返事をし動くことしか出来なかった。
幸乃を抱きかかえているだけがやっとの状態だった。
想いはただただ幸乃を、お腹の赤ん坊を失いたくないだけだった。


深夜ということもあって救急車のサイレンは消して間もなく到着した。
救急隊員が応急処置をして、修二は幸乃に付き添い救急車に乗り込んだ。
義姉は、入院準備や実家への連絡もあるというのでマンションに残ってくれた。
搬送される間、修二は片時も幸乃手を離さなかった。
痛みで悶える幸乃を励ました。
握っている手を自分の口に寄せて何度も「愛している、俺を1人にしないでくれ」と言い続けた。
救急病院に到着後、幸乃は処置室に運ばれた。
修二は身が切れるような思いでひたすら待っていた。

深夜の病院は、誰もいなくたまに処置室から看護師が出入りするくらいで
修二はその度にハッと顔を上げ、幸乃の様子を何度も聞いた。
彼はベンチに座り片手で頭を抱え後悔した。
いつだって自分の事ばかりで、自分の想いばかりを押し付けてきたのだろうか・・・と。
あの時、感情に任せてマンションから出て行かなければこんなことにはならなかったはず。
幸乃の傍にいると言っておきながら肝心な時に1人にさせた。
あの時の空メールは、自分を呼んでいたのか?
そう思った途端修二は全身の力が抜けた。

「幸乃・・・イヤだ・・・連れて行かないで、俺の幸乃を・・・赤ん坊を・・・
お願いだ、幸乃と赤ん坊以外、もう何もいらないから・・・」

彼女達の無事を切に願い、薄暗い病院の廊下で修二は声を殺して泣いた。

Page.188

「幸乃はね、修二君に職場近くで告白されてからあなたの職業について
彼女なりに情報収集したのよ。当時のスクラップブックがきっと家のどこかに隠してあるはずよ」
「ええ、当時の彼女の中にはフェニックスというアイドルグループは存在していなかったようです」
「そうなのよ・・・本当に勉強しかやってこなかった子だったから。
あの頃、父親の仕事もだいぶ縮小してしまってね。私はもう社会人になっていたけれど
まだ弟が高校受験する時期だったから。そんなに教育費にお金を掛けられなかったのよ」
「幸乃から聞いています」
「それでね、幸乃は奨学金制度を利用したの。ある程度の成績を取っておかなくちゃいけないからね
それでも女の子だしお小遣いは欲しいでしょう?少しはアルバイトもしていたしね・・・
わき目も振らずに一心不乱な4年間だったと思うわ」
「そんな苦労を・・・」
「でもね、あの子は苦労を苦労と感じない子なのよ。3人姉弟の真ん中で・・・
上下挟まれて、それなりに強くなっていったんじゃないかしら」
「ええ、芯は強いです」
「そうなのよ!芯が強いの。修二君が一番わかっているじゃないの?
あなたが傍にいなくても、きっと大丈夫よ。だってもう既に母親なのよ」
「母は強し・・・でしょうか?」
「そう、それ!!」

修二は自分が何も考えずに、いや、彼女のことを考えずに自分の気持ちだけを
優先させて選択肢を提示したことを恥ずかしく思った。
彩乃は3姉弟の最初の女の子、下の弟は初めての男の子・・・と
幼い頃の幸乃の心情を考えれば卑屈になってもおかしくない。
しかし、そんな中で天性の明るさと芯の強さで幸乃という人間を形成していったのだろう。
それだから彼女が眩しいほどに輝くのだろう。
そしてその輝きに自分が惹かれたのだろうと思った。

修二の中では未だ迷いがある。
彩乃の話を聞いてもすぐには決断できないくらい、
きっと自分は人生の岐路に立たされているのだろう。
ならば慎重に、尚且つ適切な選択をしなければならない。
それは全て愛する者を守るために・・・・。

そんなことを思いながら、彩乃が改めてお茶を淹れるためにキッチンへ立った時
テーブルに置いてある携帯電話が振動した。
「メールかな?」
「そうみたいです」
「今頃・・・・誰かな?」

そう言いながら、彩乃がお茶を淹れた急須を持って椅子に戻って来た。
待ち受け画面見て送信者名を確認しメール画面を開いた。
そして一瞬にして怪訝な顔をした。

「幸乃からなんだけれど・・・空メールなのよ」
「メッセージは何もないんですか?」
「ええ、何もないのよ・・・ヘンよね?」
「俺の方から電話してみます」
「修二君の電話に出るかな?さっき喧嘩したんでしょう?
私の方から電話してみるね」

すぐさま彩乃は幸乃の携帯電話に掛けた。
何度か呼び出しをしているのか、それでも出て欲しい人からの応答はなく・・・。
掛けなおしを数回試み、その後メールを2通ほど送信した。
返信や応答があると思い、2人は固唾を呑んで幸乃の反応を待った。

「やっぱりおかしいわ、喧嘩した後でも私からの応答すら出ないなんて・・・
それとも空メールが答えって解釈して良いのかしら?」
「答えって!?」
「う~~ん、あんまり深刻に考えて欲しくないけれど幸乃が修二君に対して
何の反応も示さないというか、それをも放棄したということなのか」
「そんな・・・・」
「ご、ごめんね。そこまで急に非情になれないわよ、幸乃は・・・」
修二は彩乃の言葉に血が凍りつくような錯覚に陥った。
「幸乃ちゃん・・・」と搾り出すように愛する人の名前を呼ぶだけことだけが精一杯だった。
その時、脳内に「修君!」という幸乃の声が聞こえたような気がした。

Page.187

勢いで家を出て来てしまった修二はマンションのエントランスホールで
携帯電話を取り出し、待ち受け画面を見て既に23時近い時間だった。
この時間に電話しても良いのだろうか・・・?とかなり気が引けたが
2人の家族であり、相談相手である幸乃の姉・彩乃(あやの)に電話を掛けた。

「夜分、申し訳ございません。修二です。
ちょっとお義姉さんに相談があるんですが・・・」
「修二君なの?どうしたの?喧嘩でもしたのかな~~今どこ?」
「今、自宅マンションの1階にいます」
「わかった!今から迎えに行くから・・・
風の当たらない所にいてちょうだいな。旦那に行かせるから」
「すみません、お休みのところ・・・」
「いいよ~~気にしないでね~~」

こんな時間でもかなりテンションの高い義姉は頼れる人である。
義姉家族は同じ地区に住んでいるが、一戸建てを最近建てた。
程なくして義兄の車がマンション前に到着し、修二はその車に乗り込み義姉宅へ行った。


「寒かったね~修二君、ご飯は食べた?」
「はい、実は今夜は俺の実家で食事をしたんです」
「そうだったのね・・・じゃぁ、日本茶が良いかな?」
「ええ、でもお構いなく・・・」
「そんなこと言っても一応、お茶は淹れなくちゃ。
後で妹に『お茶も出してくれなかったの?』って責められてもイヤだし」
「じゃぁ、濃い目のをお願いします」
「了解!!じゃぁ、待っていてね」

お茶を淹れるためにキッチンに立った義姉は修二から離れ、
隣に立つ自分の夫に携帯電話から妹にメールしてくれるようお願いをしておいた。

「幸乃が心配するから修二君の居場所を知らせておいたからね」
「すみません・・・」
「いいの、いいの、実はね、今夜、うちの上の子は旦那の実家へ遊びに行ってるのよ
下のおチビしかいないからどうぞ気兼ねしないでね」
「そうなんですか・・・」
「はい、じゃぁ、こゆ~~いお茶よ、熱いうちにどうぞ」
「ありがとうございます、いただきます」

お茶をすする修二を見ながら彩乃は、彼がこんな時間の訪問について大体察しがついた。
しかし、自分から話を振るわけにもいかず彼が話し出すのを待つことにした。
向かい合うようにダイニングテーブルに座り、
テーブルにはいつでも妹からの返信等が気が付けるように傍らに置いた。
ダイニングの壁に掛けられている時計の秒針の音だけが「コチコチ」と聞こえるだけで
暫く修二と彩乃は無言でいた。
そしておもむろに修二が口を開いた。

「実は俺に映画の話が来ていて。それを引き受けるか否か迷っていました
それで幸乃に相談したんですが、彼女の後押しもあって前向きに考えようとしました」
「そうなの・・・」
「でもその直後、幸乃が妊娠を告白してくれました。
俺としてはそんな大事な時期に傍にいてやれないことがイヤで・・・
妊娠がわかっているのに・・・
何故俺の背中を押した幸乃の気持ちがわからなくなってしまって」
「そうだったのね・・・」
「俺、映画の話を断ろうと彼女に言ったんです。
そしたら彼女がそんな選択をするな!の一点張りでした」
「うふふふ・・・幸乃らしい反応ね」
「えっ!?そうなんですか?」
「うん、そうよ。だって修二君のことが大好きなのよ。
フェニックスのシュウも好きだし・・・
それ以上に『湊修二』という人間が好きで好きで堪らないのよ」

彩乃からの幸乃についての告白は修二にとって新鮮であり、
改めて彼女を愛しいと感じた瞬間だった。
自分が先に彼女に一目惚れし告白し
大事に大事に愛を育み結婚まで漕ぎ付けたと思っていた。
彼女が自分を好きな以上、何倍も自分は彼女を愛していると思っていたからだ。

Page.186

1人部屋に残された幸乃はとても後悔した。
やはり・・・話さなければ良かったのかも、と。
お義母さまが仰るとおり今のうちに離婚して
人知れず出産してシングルでも育てていけばいいのかも。
写真を挟んでいた裏表紙の反対側に挟んである小さくたたんだ『それ』を出した。
緑色で印字されている用紙を広げた。
そこには既に自分の名前等は書き込んでおりあとは判を捺印するのみ。
薄い紙を前にしてまた涙が溢れ出た。


以前、職場近くで彼を何度か見かけた。
大学卒業後、既に公務員試験勉強中で補助の教員として今の幼稚園に勤務していた。
ある時、園庭を大きな門扉越しに覗く彼がいた。
一週間に一度ほぼ同じ時間に犬を連れて散歩なのだろうか・・・
覗いている時は大概、自分が子ども達と園庭で走り回っている時だった。
最初は彼が芸能人だとはわからなかった。
というより自分がそういうことにとても疎い生活を送っていたからだろう。

大学を卒業するまでは勉強に必死だった。
姉は働いていたが年の離れた弟は当時まだ中学生だったので
彼に教育を受けさせるためにはここで私が奨学金制度を使い
大学を無事の卒業しなければならなかった。
空いた時間はアルバイトとボランティア活動に精を出していたので
合コンや友人同士の旅行等の付き合いもしなかった。
また帰宅してもテレビなどは見ず、家事の手伝いや勉強をしていた。
だから職場の帰りに修二に初めて声を掛けられても、
同僚は舞い上がっても私はピンと来なかった。
今、思い出してもこの事に関しては悪かったな・・・と思う。

「こんばんは、ここの幼稚園の先生でしょう?」
「あの・・・・どういったご用件でしょうか?」
「いつも・・・というかたまに犬の散歩でここから幼稚園の中を見ている者です」
「あぁ~~~そういえば、あれ?今日犬クンはいないのですか?」
「『犬クン』!?あぁ、アイツは自宅です。
えっとぉ・・・最初の俺の質問ってどうなりましたか?」
「えっ!?何でしたっけ??」
「もう一度言いますね。ここの幼稚園の先生ですか?」

こんな会話があった矢先一緒に駅まで帰ろうと誘ってくれた
同僚が彼のことに気が付いたんだっけ。
「フェニックスのボーカルのシュウさんですよね!!」
「この辺りにお住まいなんですか!?感激です~~~~♪
私、大好きで、先日のライブにも行きましたっ!!!」

職場でも感情表現がオープンな同僚は感激の余り、
涙ぐみながら修二の腕に摑まっていた。
彼は驚いたようにその行為に目を見開きやんわりと放した。
その後、同僚の携帯電話に電話が掛かってきてその場で別れた。

私達は、立ち話もおかしいと思い駅までの道沿いにある小さな喫茶店に入ることにした。
ここは彼の小学生時代の友人宅なので気兼ねなく入れるという。
お互いコーヒーを前にして一言も喋らず、お見合い状態。
カウンターの中から友人の父親のマスターが怪訝な顔で彼を見ていたのが印象的だった。
「「あ、あの!」」同時に口を開いて、思わず噴出し声に出して笑ってしまった。

「お先にどうぞ」
「いえいえ、そちらからどうぞ仰ってください」
「じゃぁ、さっき中断してしまったけれど『あそこの幼稚園の先生ですか?』」
「ふふふ、先ずはお名前は?すみません、
同僚が話していたことがチンプンカンプンだったもので・・・」
「す、すみませんっ!俺って自分の事ばかりで。名前は『湊修二』で職業はミュージシャンです。
フェニックスっていうグループでボーカル担当です・・・・」
「ふ~~~ん、そうなんですか?」
「あれ?フェニックスをご存じない?
一応アイドルグループで歌番組にも出ていたりするんだけれど」
「アイドルですか・・・・」
「この頃はドラマや雑誌にも出たりして・・・・」
「ごめんなさいっ!!私、本当にそういうことって本当に疎くって。
話題の映画やドラマも観なくて音楽といえば・・・
幼児教育に関することやクラシックばかりなんです」
「そうなんだ・・・あぁ、俺達の知名度もまだまだなんだな~~
周りが騒ぐから有名人になったと勘違いしちゃってるよな~~俺達」

幸乃の目の前でがっくりとうな垂れる修二だった。
頃合いを見てコーヒーのおかわりを注いでくれたマスターが何やら彼に耳打ちをしていた。
何故かマスターに小さくガッツポーズをした彼が妙に可愛らしく見えた。

「本当にごめんなさい、そんなつもりもなくて・・・
私はあそこの幼稚園には今年から勤め始めて、まだクラス担任とかは受け持っていなくて
補助の教員で勤めています。名前は『荻嶋幸乃』です」
「幸乃ちゃんか~~可愛い名前だね。単刀直入に言います。俺と付き合ってください!!」
「えっ!?そんな、だってあなたは有名な方なのに・・・私は『遊び』は出来ません
だからごめんなさい・・・」
「謝らないで、俺も君の事、遊びだなんて思っていないから。
真剣に交際を申し込んでいるんだ」
「でもどうして?」
「犬クンの散歩がてら君を・・・幸乃ちゃんをあそこで見かけて
子供たちと元気に走り回っているのを見て
太陽の下でもっとお日様以上に輝いている君に一目惚れしたんだ」
「・・・・何だか照れくさいです」
「そう?こんなことを本人の前で告白する俺ももっと照れくさいよ
それで、返事は急がないけれど・・・
先ずは俺を知ってもらいたいからお友達からっということでイイ?」
「ハイ、ヨロシクお願いします」

お互いペコリと頭を下げ、同時ににっこりと笑い合った。
そして彼はマスターに向かって親指を立てていた。
『先ずはお友達から』という言葉に忠実だった。
デートと称して会っても手も繋がない感じだった。
私も誠実で優しく男らしい彼に徐々に惹かれた。
そしてお友達として付き合い始めてから・・・
2度目のクリスマスに私からきちんと告白した。

人生初の告白に終始震えが止まらなかった私を優しく抱き締め「ありがとう」と
小さな声で囁いた彼は私の額に誓いを立てるかのように厳かに口付けてくれた。
その後、彼はフェニックスのメンバーや家族に私を紹介した。
私の家族にも紹介し、両親が一番驚いていたが彼を温かく迎えてくれた。
それから改めて彼からプロポーズがあり、私もすぐにお受けした。

派手な傾向のある芸能人には珍しく、彼は古風な考え方なのか・・・・
結婚するまでは『清い仲』でいる!ということだった。
でも彼の母親からは反対されていた。
彼曰く「『親父が全て見守っている』ということだから
このまま結婚式・披露宴・入籍をしよう」と言ってくれた。


あの頃が一番、楽しくて、幸せだったのかも。
彼が輝いていなければ私の幸せも無い。
彼のこれからの未来の足かせにはなりたくない。
だから・・・・捺印して・・・夜が明けたらここを出て行こう。
実家の母と姉には体調の事を話してあるから、暫く実家に身を寄せようか。
高望みしすぎたのかも・・・。
ごめんね、赤ちゃん、パパに会えなくなっても・・・許してね・・・・・。


彼が出て行った後、すぐに下腹部に鈍痛があった。
座っている状態からココアのマグカップをキッチンに戻そうとして立ち上がった時、
下腹部の鈍痛は激痛に変わった。
「お腹、痛い・・・修・・・く・・・」そう口の中で呟きその場に倒れた。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

只今ランキング参加中なり。 ポチッとして頂けたら嬉しいです。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。