2009 / 03
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春休み中のクラブの合宿を終え、自宅のあるマンションまで帰って来た。
マンション入り口近くに1台のタクシーが止まっている。
トランクから赤いスーツケースを運転手が取り出しているのが見えた。
後ろの座席から隣のおばさんが降り、そして・・・・この1年間会いたくて仕方がなかった
少し髪が伸びた凪子が降りた。
彼女の姿を目に捉えた途端、一路は疲れた身体などものともせず全力で走り出した。

「一路っ!?」
「凪子、お帰りっ!!!」

抱きつきたいのをかなり我慢して一路は彼女の両腕に手を掛けた。
目の前にいる凪子は、目を瞬いてからにっこりと微笑んだ。
そして彼にだけ聞こえるように「ただいま・・・会いたかったよ」と囁いた。

「あらあら、一路君、合宿から帰って来たの?お帰りなさい。
どこまで行ったの?」
「おばさん、こんにちは。大学の合宿所です」
「そうだったのね・・・あそこは県内だけれど山の中だから結構寒かったでしょう?」
「はい、ちょっと寒かったです」

凪子の母親に声を掛けられて慌てて凪子の腕から手を離した。
手を下ろそうとしたが、一路の左手を凪子の手が掴んだ。

「一路、背が高くなったね・・・」
「そうかな?」
「うん、そうだよ、1年前は私よりちょっと大きかったのに、今は見上げるほどだよ?
いつの間にか手も大きくなったような気がするから」
「この1年でグングン伸びたかも」
「これからもっと伸びるね・・・きっと」
「まぁね、母親はそんなに大きくないけれど、父親は背が高いから」
「お父さんには会ってるの?」
「うん・・・たまにね、色々相談にのってもらっているよ」
「そっか・・・」

マンションの入り口で凪子の母親が自宅へ帰るように声を掛けて来た。
凪子はギュッと力を込めて一路の手を繋いだままだった。
彼女の手荷物を自分のスポーツバッグと一緒に持った。
エレベーターに乗り、それからそれぞれの自宅へ帰った。
凪子家族は今夜は親子水入らずで帰国祝いをするという。
一路とは翌日会う約束をした。

自宅には祖父母がいた。
祖母は母の代わりに食事の仕度をし、祖父は夕刊を読んでいた。
一路が制服から普段着に着替えてリビングに入って来て
新聞からふと視線を外した祖父が意味深な笑いをした。
意図するところがわかり、一路は耳まで真っ赤になった。
照れ隠しで派手にお菓子の入っている缶を開けて祖母に窘められた。


タクシーから降りて一番に会いたい人から大きな声で名前を呼ばれた。
今まで眠っていたのか・・・彼の声を聴いた途端、心が躍動したかのように思えた。
この1年で更に長身で逞しくなった躯体をまともに見ることは出来なかった。
母親がいてくれたお陰でそんな大胆な行動は止まった。

渡英したばかりの頃、挨拶代わりのハグやキスに戸惑ったが
人間慣れというのは怖いもので・・・・。
3ヶ月も経つと意外と受け入れらるようになった。

その勢いもあってか、さっき一路を目にした途端
抱きついてキスをしたい衝動に駆られた自分に改めて驚く。
そして1年前より今のほうが彼への気持ちがより強いと感じた。

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会いたい人は公園のベンチに座っていた。
足元をジッと見つめたまま俯いていた。
その顔をふと上げ、自分に向けてふわっと笑った。
足早にベンチに近づきお互い視線は合わせず、
夕焼けを見ながらただ静かに座っていた。
そして凪子から口を開いた。

「話って何?」
「うん・・・・その・・・・」
「出掛けに風花とちょっと喧嘩になっちゃった」
「俺も出掛けようとしたら玄関前で会った」
「そう・・・」
「なっちゃん・・・」
「いいよ、さっきみたいに呼び捨てでも」
「うん、凪子・・・行っちゃうんだよね?」
「再来週、出発する」
「見送りはいけないから、今、話すよ」
「うん、聞いているよ?どうしたの・・・寒いの?震えているよ・・・」

一路は前を見据えたままで膝の上にギュッと握り締めたこぶしは無意識に震えていた。
その手に凪子はそっと手を包み込むように手を繋いだ。
もう片方の手で自分の手と一緒に軽くポンポンと叩き話すように促した。

「何を言われても・・・ちゃんと聞いているから、話して」
「うん、あのさぁ、俺・・・
ここで凪子が中学のとき男子生徒と話しているのを見かけたことがあるんだ」
「そう・・・あの時のこと見られちゃったんだ」
「ごめん、それでその時凪子が酷く落ち込んだ顔をしていて・・・
俺、まだ小学生だったけれど、その男子生徒に嫉妬したんだ」
「それって、どうして?」

ここへ来て初めて凪子の顔を見た一路だった。
自分の顔をジッと見つめる彼女を見た途端一気に心拍数が上がるのがわかった。
でもここで言わなければきっと後悔する。
結果、彼女にとって自分は『隣の弟』でも良いと思ったからだ。

「俺、隣に引越ししてきてからずっと凪子が好きだった。
最初は一人っ子だし『隣のお姉さん』という感覚だったけれど
あの時、凪子が落ち込んだのを見た時、その感情はただの憧れじゃないと感じた」
「一路・・・」
「凪子が中学受験して今の学校に入ったと聞いたとき
男女共学だからきっと同じ学校に行かれると思ったから俺も受験した」
「動機が不純だね・・・」
「それでも!中等部と高等部では校舎が違ってもどこかで会えるから」
「そう言ってくれて正直嬉しいよ」
「入学してどこかに凪子がいるって思っていたのに・・・・
交換留学生の立候補したって聞いて、それで・・・」
「そっか・・・それで・・・」
「4歳年下なのはどうしたってどうにもならないのはわかっている
それでもこの気持ちは抑えられなくて」
「一路・・・ありがとう」

彼の手を握っている手を自分の胸に持って行った。
その行為に驚きの顔をした一路に優しく語りかけた。

「洋服の上からだからわかるかな?」
「・・・・・?」
「今、一路の話、ううん、告白を聞いて私の心臓はこんなに激しく打ってるんだよ」
「ドクドクしてる・・・」
「そうでしょう?」
「すっげぇ・・・」
「ふふふ・・・本当に『すっげぇ』でしょう?
私も最初は『隣の弟』と接してきたわ。それに妹の初恋の相手だしね。
どこかで気持ちをセーブしてきたんだと思う」
「もしかして・・・凪子も?」
「この気持ちが本当に一路に向いていると思うの。
でもね、まだどこかで・・・妹にも遠慮しているし、
年下のかわいい弟っていう気持ちも拭えないでいるの」
「それでも俺は嬉しいよ」
「こんな気持ちを置いたままイギリスに行くのは苦しい。
でもお互い離れてみて、再会した時まだ気持ちが残っていたりそれ以上だったら
きっとその気持ちは本物だと思うの」
「俺、待っていて良いんだよね?」
「一路がそうしたいのなら、いいよ」

彼は嬉しそうに、そして少しはにかんだように笑った。
それに釣られて凪子も微笑んだ。
胸に当てていた一路の手にそっと唇を寄せた。
そして「待っていてね、もっと良いヤツになっていてね」と囁いた。


それから2週間後、家族と友人に見送られて凪子はイギリスへ旅立ってしまった。
夏休みやクリスマス休暇には日本に帰ってくるようなことは話していたが
敢えて会うような約束はしなかった。

その代わり2~3週間に1通という割合で文通している。
絵葉書が中心だが、イギリスの街並みや田園風景が殆どだった。
こちらからは祖父が協力的でどこからか
日本的な絵葉書を大量に買ってきてくれた。

1通ごとに凪子への想いは強くなってくる。
会えない分、想いが募っていくのだろう。
彼女との約束「もっと良いヤツ」になれるために、
4歳年下を埋められるよう俺はその想いを
心の奥底に押し込みながら彼女の再会に想いを馳せた。

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渡り廊下で凪子と別れて委員会のため教室へ行った。
委員長と顧問の話は殆ど聞いていない状態だった。
1時間弱のその時間も長く感じられるほどだった。
終わり次第、学校を飛び出し、帰宅した。
自宅には祖母しかいなかったが、暫くしたら出掛ける旨を伝えた。
そして凪子から電話があり、30分後に近所の公園で会う約束した。

約束時間に間に合うように身支度を整えて家を出た。
玄関扉を開けたところに風花が立っていた。

「一路、どこ行くの?」
「どこだってイイだろう」
「風花も行ってイイ?」
「いや、来て欲しくない!」
「じゃ、誰に会うか教えて」
「言う必要ないだろう?」

そう言いその場から離れようとした。
一路の背中に向かって風花が言った。

「お姉ちゃんに会うんでしょう?」
「・・・・・・」
「学校の渡り廊下でのこと見たんだからね!」
「だから?」

一路はもう一度風花にゆっくりと向き直った。
小柄な彼女を上から威圧するような目つきで見つめた。

「お姉ちゃんは4歳も年上なんだよ?」
「それがどうしたんだよ?」
「一路は・・・お姉ちゃんが・・・
ううん、風花が一路のこと好きなの知っているでしょう?」
「それで?」
「お姉ちゃんはもうすぐイギリス行っちゃうのに
年下なんかに相手にしないんだからね!」
「言いたいことはそれだけか?」
「一路をお姉ちゃんになんか渡さない!」
「それはお前が決めることじゃないし、俺は物じゃないから」

冷たい視線をもう一度風花に向けて、エレベーターホールへ歩き出した。
背後では風花の大きな声が聞こえたが無視した。

言われなくてもわかっている。
風花が自分の事を好いてくれていることも。
自分が4歳年下のことも。
彼女が弟のようにしか思っていないことも。
自分が一番よく理解しているつもりだ。
それでもこの気持ちはもう心の内にしまいこんでいられないくらい溢れていた。

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自宅には妹が既に帰って来ていた。
学生かばんを勉強机の上に置き、制服からデニムのスカートに
長袖Tシャツと厚手のパーカーに着替えた。
保護者あての手紙を電話台前のコルクボードに貼り付けた。
風花はソファに座り、昨夜の連ドラの録画を見ていた。
妹を横目で見ながら緑茶のティバッグでお茶を淹れた。
ダイニングテーブルの椅子に浅く座り、
遠目で妹が見ているドラマを何の気なしに眺めた。
妹は視線をテレビ画面から外さずにおもむろ口を開いた。

「お姉ちゃん、さっき渡り廊下で一路と何を話していたの?」
「えっ?いつ?」
「さっき!放課後だよ!!」
「あぁ、あれね・・・特に話はしなかったけれど・・・」
「うそ!あんなにくっ付いて何を話していたの?」
「だから、特にないって・・・」
「じゃぁ、なんで一路はあんな風にお姉ちゃんの肩を掴むのよ!?」
「さぁ・・・?なんでだろう?それは一路しかわからないと思うよ」
「ダメだからね!一路はお姉ちゃんにはあげないからねっ!!
私の初恋が一路だって知っているでしょっ?」
「知ってるよ・・・」
「なんでも持っているお姉ちゃんは一路なんかいなくてもイイでしょ!
健康な身体とか良い成績とか、風花にはないもの持ってるじゃん!!」
「ふうちゃんったら・・・」

手元にあったお茶を一気に飲み干し、妹の言い分を半ば呆れながら席を立った。
キッチンで湯飲みを洗い、ベランダに干してある洗濯物を取り込んだ。

「今日はふうちゃんが洗濯物をたたむのとアイロンの当番だよ、やっておいてね」
「イヤッ!風花は今このドラマ見てるし、
それにさっきお姉ちゃんに話したから途中になっちゃったじゃん」
「ふうちゃん、好き勝手にお姉ちゃんに話し掛けて・・・
それにお手伝いはお母さんの為でしょう?
我が儘もいい加減にして!まったくなんて言い草なのよ!!」
「お姉ちゃんなんか嫌い!!イギリスでもどこでも行ってもう帰って来なくてイイよぉ!!」
「もう、勝手にしなさい!お手伝いしていなかったら、
ふうちゃんがお母さんやお父さんに注意されるんだよ?」
「お姉ちゃんのばか~~~!!」

風花は凪子に暴言を吐いて自室に引っ込んでしまった。
もうじき中2に進級するというのに幼稚園児のような我が儘ぶりに呆れた。
小さい頃、入退院を繰り返し両親からの愛情を一身に受けなかった・・・と、
寂しい印象があるのだろうか。
帰宅した母親が困ると思い、手伝いを放棄してしまった
風花の代わりに洗濯物をたたみ始めた。
一路と会う約束をしていたのでアイロンだけは
母に頼もうと専用のカゴに入れておいた。
それからそろそろ帰宅したであろう隣人宅へ電話を掛けた。
30分後に近所の公園で待ち合わせた。


小学生の頃よく一緒に遊んだ公園には人もまばらで、
遊具が置いてある方には小学生くらいの男子が数人サッカーに興じていた。
約束の時間より早めに出てきた凪子はベンチに座った。
学校を出る間際教室でクラスメートとの会話を思い出していた。

「箕面、再来週で出発か・・・?」
「うん、松原君、色々教えてくれてありがとう」
「いや、俺も高2のとき交換留学生だったし・・・
もう一度高2課程を修めなくちゃいけなくてこのクラスに編入して
箕面の力になれて良かったよ」
「1年先輩なんだよね~そんな風に見えないけれど」
「若いってか?」
「うふふふ・・・そういうことにしておこうかな?」
「なんだよ、それ・・・。あ、あのさ・・・箕面、俺さ・・・」
「何?」
「中学の時はそんな気分じゃなかったけれど・・・
1年間同じクラスメートとして過ごして
今は箕面の気持ちを受け止められると思うんだ」
「そのことね・・・」
「それに今付き合っているヤツいないし・・・
箕面がか帰って来るまで待っているから」
「今はフリーだから?それでも離れちゃうんだよ?
あの時、松原君への気持ちは・・・もう忘れたの、
ううん、一時の気の迷いだったのかもしれないから」
「箕面、俺は諦めないから」
「ごめん、帰るわ・・・人と会う約束しているから、バイバイ」

何で今更・・・?
当時、勇気を振り絞って『ダメもと』で告白して断られて今はそれで良かったと思っている。
あの時の彼への気持ちは単なる憧れだけだったのかも。
だからきっぱり断れたのだと思う。
今は、そう・・・・ふと顔を上げた時、前方に会いたかった人を見つけて鳥肌が立った。
そして心が無意識に震えた。

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春休み直前の放課後。
清掃時間も終わりクラブや委員会活動に向かう生徒や
その他の生徒は帰宅するため昇降口へ向かっていた。
職員室の前に凪子は英語担当教諭と話していた。

「箕面、春休み中にあっちに行くんだろう?」
「はい、3月中には出発します」
「そうか・・・まぁ、お前のことだからもう準備万端だろうな!」
「ええ、でも自分で準備するより両親の方が張り切ってしまって」
「そうか・・・お寂しいのだろうな」
「はい、そうみたいです」
「じゃぁ、修了式を終えたら・・・暫く会えないな、元気で行って来いよ!」
「ありがとうございます。失礼します」

会釈をして高等部の自分のクラスに戻ろうと近場の階段から3階まで上がり
渡り廊下を通ろうとした時一路に会った。
学生かばんを肩に掛けて壁に寄りかかっていた。
ここは中等部も利用する渡り廊下なのでいることは不思議ではない。

「一路、まだ帰っていなかったの?」
「・・・・これから委員会」
「そうなんだ・・・そういえば放送委員だったね」
「うん・・・・」
「じゃぁ、私はこれで帰るから・・・」
「うん・・・・」
「あっ、そうだ・・・私の留守中、妹のことお願いね」
「あぁ・・・でも・・・・」
「でも、なに?」
「お願いされても困るからっ!」
「急にどうしたの?」

壁に寄りかかっていた一路は身体を起こし顔は向き合うような方向で
凪子から視線を外すように横に立った。
中1とはいえ既に身長は凪子を少し越えていた。
左手で凪子の右肩を抱くようにそれを捉えるようにした。
一瞬驚いて凪子は一路の横顔を見た。
一路は視線を前方に見据えたままだった。

「何、一路?」
「なっち・・・いや、凪子!」
「何、急に、呼び捨て?」
「ごめん・・・年下なのに」
「別にイイけど・・・・」
「話、したいんだけど」
「委員会は?」
「急用できたって言ってくるから」
「中1なのにダメだよ。高等部の人たちに目を付けられるから」
「うん・・・・わかった」
「じゃぁ、私も用事あるから家に帰ったら、話をしようね」

そう言うと一路は凪子の肩に回していた手を静かに離した。
そして何も言わずにその場から立ち去った。
廊下に残された凪子は、摑まれていた肩がまだ彼の温かさが残っているように思えた。
左手でもう一度肩に手を添え、ゆっくりと撫でた。


俺は職員室前で凪子が英語教諭と話しているのを見かけた。
そこで声を掛けずに教室に戻るために渡り廊下を通ることをわかっていたので
待ち伏せすることにした。
暫く待っていると彼女の姿が見えた。
目に入っただけで自分の心臓が跳ね上がったような気がした。
まともに彼女を見つめることが出来なかったので真横に立った。
素通りされたくなくて、少しでも話しをしたくて無意識に彼女の肩を掴んだ。
凪子は変わらず優しくて自分に諭すように話をしてくれた。
彼女がいなくなってしまう前にこの想いを伝えたかった。

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「お姉ちゃん、やっぱり行くことにしたの?」
「うん、やっぱり・・・チャンスだから行こうかな~」
「風花も行きたいなぁ、一緒に行けないのかな?」
「それは無理じゃないの・・・だってふうちゃんはまだ中学生だもん
それに私が行くのはイギリスのハイスクールだよ」
「風花も英語得意だし、お姉ちゃんと離れるのイヤだもん!!」
「聞き分けのないこと言わないでよ、それよりもうじき中2なのに自分の事
『ふうか』って呼ぶのはどうかと思うよ?」
「えぇ~~そう?おかしいかな?だってさ、こうやって言うと
周りの皆が『かわいい♪』って思ってくれて大変な事とかやってくれたり
風花の思い通りになったりするんだもん」
「それって・・・・どうかと思うけれど・・・」
「いいの!!だってさ、小さい頃から学校にもまともに行かれなくて
病院ばっかり、注射ばっかり、薬ばっかり、
周りからは『あれダメ、これダメ』ばっかりだったもん」
「ふうちゃんはいいわね~~」

風花の部屋で数学を教えていた。
少々飽きっぽい妹は小休憩と称して姉に話し掛けて来た。
一路の中学受験を知ってから風花も一緒に塾に行き始めどうにか合格し
今は同じクラスとなった。
自分の姉が交換留学生に選ばれ、クラスメートからそんな話題になり羨ましがられ
風花は自分の事のように誇らしく思ったと同時に姉の努力をも妬ましく思った。

「お姉ちゃんだって、いいじゃないの?
交換留学生なんてそうそう自分に巡ってこないよ?
英語の先生や校長先生なんか良いこと言ったの?」
「ふうちゃん!そんな単純なことでこういうチャンスは無いんだよ
自分で言うのも変だけれどこれに関しては私自身結構努力したつもりよ」
「あぁ~そうだよね~お姉ちゃんは誰にも頼らず努力できるタイプだよね?
強いんだよね~~羨ましいよ!!お勉強だっていつもトップクラスでさ~~
風花の身にもなってよ~~いっつも比べられるんだから~~」
「ふうちゃんってば・・・・ハイハイ!もうこの話はお終いね!
さぁ、次の問題やってみようか?」
「ブゥーーーーーッ!!もうイヤだっ!!
数学なんか出来なくても困らないもん!!」

そう言って問題集とノートを乱暴に閉じて
足音を大きく響かせて部屋から出て行ってしまった。
妹が出て行ったほうに視線を向けて呆れながら机の上の問題集を揃えた。
開け放たれた扉の向こうにいる妹が
母親に向かって不平とそれをたしなめる父親の声が聞こえる。

「ふうちゃんは良いわね・・・そうやって我が儘が言えるんだもん」
声に出すつもりはなかったが、そんな風に独り言を呟いた凪子だった。


「凪子、おやつにしようか?」
「あっ、お父さん、今、行くわ」
「風花のことは気にするなよ」
「うん、別に気にしていないよ、いつもの癇癪でしょう?」
「そうなんだけれどね・・・いつも凪子に悪くてね」
「お父さん、大丈夫だよ、それに今回のことは私の我が儘聞いてもらえた形だし」
「いや、本当は心配だから行かせたくないんだよ、それでも滅多に我が儘を言わない
お前が言うのだからね・・・イギリスで良いのか?」
「うん、それにウチの高校の姉妹校だし安心だよ」
「正直言って、お母さんも心配しているよ、その分、準備は充分に手伝わせてくれ」
「うん、ありがとう、そうしてもらえて嬉しいよ、お父さん」

風花の部屋でそんな話をして父親は最後に凪子の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
その幼子にやるような行為に少し驚きを見せた凪子だったが、
その仕草と感触がとても懐かしくとても嬉しく思いにっこりと父親に向かって笑顔を見せた。

ダイニングテーブルには母特製のシフォンケーキが焼き上がっており
アッサムティーの良い香りが漂っている。
風花はまだへそを曲げているのか、凪子と視線を合わせずにいる。
キッチンでは母親がケーキに添えるホイップクリームを作っていた。
お皿等の準備をするため凪子は母親の傍へ行った。

「なっちゃん、大丈夫?ふうちゃんが・・・」
「ううん、大丈夫だよ、いつものことじゃないの」
「いつものことにしちゃいけないことよ?」
「大丈夫、それに今、お父さんがフォローしてくれたもん」
「そう?」
「うん、それにこの家に私が1年いなければ風花も少しは落ち着くんじゃないのかな?」
「そうかしら・・・・」
「きっと・・・そうだよ」

母親のホイップクリーム作りを交代して自分1人だけキッチンに残った。
無心になって泡立て器を使いちょうど良い感じでホイップクリームが出来上がった
背中には刺すような風花の視線は感じていたが・・・・。

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一路は凪子家族に看病してもらってから程なくして体調が全快した。
それから暫くして母親に凪子と同じ中学を受験したい旨を伝えた。

彼女の通っている中学は幼稚園から大学まである私立である。
凪子はそこに中学受験をしている。
幸いにして男女共学なので一路にも受験資格は充分にある。

そして学校の成績も良いほうで、
母親が女手一つで育てているのでそこは後々色々言われないために
早い時期から学習塾には通わせていた。
最初の頃は驚いて半分本気にしていなかったが、祖父母が応援してくれた。

一路は自分が小学低学年の頃から凪子に憧れという気持ちを抱いていたことを
『看病して貰った』という事がきっかけでその想いを改めて自分自身認識した。

だから中高一貫教育のそこに行けば校内でまた凪子に会えると思った。
そしていつか彼女の部屋で見かけた写真に
一緒に写っていた男子生徒が一体誰なのかもわかると思ったからだ。
子供心にも嫉妬心を芽生えさせ、その人が何故凪子を落ち込ませたのかを
それらの原因を知りたかった。

祖父母の全面的な応援もあって見事合格した。
その年の春に期待と多少の不安も抱えながら
一路は念願の凪子と同じ学校の中等部に入学した。
クラスメートとも仲良くなり、勉強も部活にも勤しんだ。
校舎のどこかにきっと凪子がいるのだろう・・・と思いながら過ごした。

中等部も高等部も共通の学内施設を使う。
授業の関係で廊下や入り口などでたまにお互いを見かけるときもある。
凪子に憧れて入学したが、徐々に思春期突入した一路は直接言葉を交わすことが
気恥ずかしく感じるようになった。

「一路、おはよう!これから体育の授業なの?」
「あぁ、おはよ・・・」
「どうした?調子悪いの?」
「別に・・・」
「じゃぁ、どうしたの?」
「別に・・・」
「出たね、一路の得意な『別に』発言!」
「・・・・・・」
「ふうちゃんがいっつも言っているよ!
一路はなんでも『別に』で済ますって~格好つけてんの?」
「・・・・別に」
「はいはい、ある種の返事だね・・・一路もちょっとは大人になったんだね」

そう話しているうちに凪子が男子生徒に声を掛けられた

「箕面、悪いんだけれど、一緒に理科準備室来てくれ!!」
「は~~い!いいよ。じゃぁね、一路、体育頑張ってね♪」

満面の笑みで大きく手を振ってくれている彼女の後ろにいる男子生徒が
自分の嫉妬心を煽る彼だとわかったのはだいぶ後になってからだった。
廊下を小走りで去って行く凪子の後ろ姿をチャイムが鳴るギリギリまで見ていた。
隣にいる風花に声を掛けられても気が付かないくらいだった。


どんなに足掻いても凪子との4歳という年齢差は縮まらない。
相手は、自分を『弟的存在』にしか見ていない。
望みはないと思っていても、憧れている気持ちはどうしても捨てられない。
男友達同士、それなりの際どい話題はする。
でも凪子をそういうことの話題の引き合いに出すことだけは絶対に出来なかった。
単純に憧れているから・・・という理由だけでなく、凪子はもう既に自分の中では
それだけに止まらない存在となっていったのかもしれない。

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ダイニングテーブルで試験勉強をしていた時
病院から母親が帰って来た。
スーパーのショッピングバッグから中身を出し
キッチンで手を洗いながら聞いてきた。

「なっちゃん、誰か来ているの?」
「お母さん、お帰りなさい、うん、お隣の一路が熱高くって
おじいちゃん達もいないんだって~」
「あら、そうなの?それでどこに寝ているの?」
「フラフラだったから私のベッドに寝かせちゃったわ」
「そう・・・じゃぁ、これから移すのも可哀相だから、
お父さんが帰って来るまでそこで寝かせておこうね。
如月ママは今夜、夜勤みたいだし」
「お母さん、ふうちゃんの具合はどう?」
「まぁね・・・いつものことよ。また暫く入院だわね」
「ふぅん、そうなんだ・・・」
「なっちゃんには悪いけれど、またバラバラ生活になりそうよ」
「いいよ、仕方がないじゃん」
「なっちゃんが小さい頃から物分りの良い子で助かったわ・・・
それに比べて・・・ふうちゃんは・・・」
「お母さん、ふうちゃんは小さい頃から大変だったんだもん」

娘の返事を苦笑いしながら聞いた母親は、
彼女のベッドで寝ている一路の様子を見に行った。
凪子は教科書の試験範囲をもう一度確認して、
それに順ずる応用問題集のページを開いた。
そして頭の中から一路のこと、妹のこと、
その他諸々の事を締め出し試験勉強に集中した。


風花は小さい頃から入退院の繰り返しで、それでも高学年になってからは
その回数も少なくなってきた方だった。
それでも風邪を拗らせたり、季節の変わり目には
発作が起こり長引かせないために入院をした。
今回も風邪から・・・ということと徐々に思春期の入り口に立ち始め
精神的に微妙な時期に達してきているため
発作の引き金になったのだろうか。
小さい頃からそんな状況なので、母親も心配するくらいかなり我が儘に育ってしまった。
凪子にとっては大事な妹で、多少の我が儘も許してきた。
自分の持ち物や欲しいと思っているものを妹が欲求したら速やかに譲ったり、遠慮してきた。
その行為は両親は凪子がそうしたいと思いこんでいる部分があった。
しかし、彼女は凄く我慢していた。
気の毒な妹なのに、大事な妹なのに、何故かいつも嫉妬心を抱いていた。


凪子の部屋から出てきた母親は氷枕に新しい氷を入れてから父親の職場に連絡をし
一路のことと早めに帰宅してもらうようお願いしていた。

「なっちゃん、一路君のママにはあとで病院に行くから
その時に彼のことを伝えておくわね」
「うん、そうしてあげて。今夜も夜勤だってね」
「そうなのよ・・・よく働くわよあの人は・・・
お夕飯だけれど、仕度しておくからお父さんと先に食べていてね
もちろん、一路君のお粥も作っておくから」
「はい、お願いします。ごめんね、お母さん、試験前じゃなかったら作るのに・・・」
「いいわよ、いつもなっちゃんには甘えられないもの」
「炊き込みご飯と煮魚作っておくから・・・それでいいかな?」
「うん、充分だよ!じゃぁ、和え物は私があとで作っておくから」
「そう?助かるわ。じゃぁ、作ったらもう一度病院行くわね。
面会時間ギリギリまでいてあげようと思うから」
「うん、そうしてあげて・・・ふうちゃん寂しいと思うし」
「ありがとう、なっちゃん、そうそう、この氷枕を一路君の所に持って行ってあげて
一応マスクした方が良いかもよ?」
「はぁい、わかった」

手近にあったガーゼマスクを付けた。
ダイニングテーブルに置いてもらった氷枕を手に自室へ入って行った。

「一路、入るよ?」
「・・・・・なっちゃん?」
「具合、どう?」
「汗、かいた・・・」
「じゃぁ、着替え持ってくるよ、それとこれ・・・頭の下に置いて」
「き・・・がえって?パジャ・・・マ?」
「一路ン家じゃ、わかんないから、お母さんに言って適当なもので代用しようね」
「薬、効いてきた・・・みたい・・・」
「そうだね・・・少し楽になった?でもまだまだだね・・・
何にも心配しないで今夜はウチに泊まるんだよ。
お父さんが帰ってきたら客間の方に移してあげるから」
「なっちゃん・・・ありがとう」
「そんなこと、気にしないの!一路は私にとって大事な弟みたいなものなんだから」

そう言われて一路は胸の奥がズキッと痛んだ。
また凪子もなにげに言った自分の言葉に酷く傷ついたような気分になった。

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いつの頃からだったのだろう。
あいつを意識始めたのは・・・・。
お隣の憧れのお姉さん的存在だった。
自分のクラスメートの姉で4歳年上。
母親の実家の隣人家族のしっかり者の長女というのが第一印象だった。
妹は青白い顔をして痩せていて小柄だったのに対して、
彼女は手足がすらりとして健康そうな体つきだった。
母親の陰に隠れてもじもじしていた自分に「よろしくね!」と握手をしてきた。
その手がとても温かくてとても安心できた。
そしてあっと言う間に俺の心の中に棲み付いた。
片時も忘れられない存在となっていった。

凪子の妹とは小1の頃から同じクラスで、
隣に住んでいるよしみで低学年の頃は登下校も一緒だった。
でもその頃の風花は1~2ヶ月に1度は入院するという体調だったので
実際の登校は姉の凪子と2人というのが殆どだった。
学校や自治会などの行事はいつも一緒に過ごした。
そんな生活も凪子が中学に入ってから徐々に少なくなっていった。


俺が小5の3学期、学内で風邪や流感が流行り始めた頃。
給食を食べ終わったくらいから悪寒が治まらなくなったため
掃除の時間に担任にその旨を伝えた。
保健室に行き検温したところ38℃以上あった。
自宅にいるであろう看護士の母親に連絡してもらい車で迎えに来てもらった。
今夜は夜勤だという母親は俺を車に乗せ、
マンション前で降ろしそのまま病院へ出勤してしまった。
子供心にもせめて玄関まで付いてきて欲しいと願ったが、
自分を女手一つで育て上げるため昼夜を問わず働きづめの母親には甘えられなかった。
最上階で止まっているエレベーターを呼ぶ間も
メリーゴーランドにでものっているような錯覚に陥るほど
世の中がグルグルと回転しているように思えた。

施錠している鍵をどうにか開けた。
肩にのめり込んでいるかのようなランドセルと絵の具バッグを
廊下に放り投げたまでは覚えている。
絶え間なく襲ってきた悪寒の中、
玄関扉が再び開いて隣のお姉ちゃんの凪子が駆け込んできた。

それから気が付けば彼女のベッドに寝かされている状態。
ぬるめのほうじ茶を半ば強引に飲まされ、氷枕を頭の下置き・・・・。
横になっているとはいえだいぶ身体は楽になった。

いつもならおばさんの元気な声が聞こえているのに
凪子の家はしんと静まり返っている。
昨夜、凪子の妹が発作を起こして入院したという。
低学年の頃は同じクラスだったので男子女子でも交流はあったが、
高学年になってクラス替えで違うクラスになり登下校すら一緒に行くこともなくなった。
しかし、隣人同士もあり、風花から声を掛けてくることもあった。

ベッドに寝ながら出来る範囲で視線をぐるりと回してみる。
6畳ほどの大きさの部屋には
こげ茶色の勉強机と同じ色合いの自分の背丈と同じくらいの本棚がある。
窓際にベッドが置いてあり足元には姿見の鏡が置いてある。
作り付けのクローゼット扉には中学の友人達と写した物であろうか・・・。
スナップ写真が数枚貼ってある。
ふとその中の1枚に目が止まった。
4~5人のクラブ活動仲間と写っている写真だったが、
凪子の横にいる男子生徒から目が離せなくなった。

いつのことだったか・・・。
その生徒と凪子がマンション近くの公園で話しているのを見かけた事がある。
その時の凪子の表情が酷く落ち込んでいて、遠目でもとても気になった。
そして子供心にも嫉妬心が芽生えた出来事だった。

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いつの頃からだったのだろう。
あいつを意識始めたのは・・・・。
お隣のかわいい弟的存在だった。
自分の妹のクラスメートで、妹の初恋の相手だった。
ある日突然私の前に現れた彼は、あっと言う間に私の心の中に棲み付いた。
そして片時も忘れられない存在となっていった。


妹が小学校に入学する年の3月の下旬、彼は母親と共にここへ引っ越してきた。
私、箕面凪子(みのお なぎこ)が小学校5年生の時、
小学1年生の如月一路(きさらぎ いちろ)は短髪で目がクリッとした男の子だった。
引越しの挨拶の時、母親の影に隠れて頭だけひょっこり出して前歯が抜け替わりなのか
隙ッ歯の顔でにっこりと笑ったのが印象的だった。
当時、お隣には一路の祖父母が長く住んでおり、
彼の両親が離婚し母親の実家であるここへ越してきた。

妹の風花(ふうか)と同い年だったので家族ぐるみで付き合うようになった。
毎朝の登校は私と妹と一路で出掛ける。
妹は元々身体が弱かったので小学校低学年の頃は入退院を繰り返していたため
自分が小学生時代の一路との登校は殆ど2人だけの時が多かったかもしれない。
彼が1~2年生の時だけでも一人っ子のせいか凄く人懐っこくて
いつも「なっちゃん!」と慕っていてくれたっけ。


春の運動会も夏祭りも初詣もいつも一緒に過ごしていた。
夏休みには隣県まで海水浴にも行った。
でも、それも私が中学に入る頃には徐々にそういう交流がなくなっていった。
・・・というより、私自身部活や勉強に忙しくなり
そういう家族ぐるみの付き合いから1人外れていったのかもしれない。


中3後期の期末試験の準備をしている頃・・・・。
隣の家の玄関扉を鍵で開ける金属音がして、
玄関にランドセルを放り投げるような音がした。
いつもならその後、改めて施錠する音とマンションの廊下を
パタパタと軽やかに走り去る音がするのだが
その日に限って自分が期待していた音がしなかった。
その代わりに我が家と真反対の間取りの家の壁に「ドン!」と
やや強めに物が当たるような音がした。

不審に思った私は自室から出て、一路の家の玄関扉を軽くノックしてから開けた。
黒いランドセルと絵の具バッグを廊下に放り出した形で、
その投げ出した本人は玄関先で蹲っている状態が目に入った。

「一路!どうしたの?」
「なっちゃん・・・?」
「怪我したの?」
「頭が・・・グルグルする・・・」
「熱出た?」

通学用の帽子を脱がせて額に手を当てると検温せずとも
一路の体温が明らかに平熱でないことがわかった。

「一路!熱出たのね?苦しいよね、
今日お母さんは?おばあちゃんとおじいちゃんは?」
「母さんは夜勤・・・ばあちゃんとじいちゃんは旅行に・・・行っている・・・」
「わかった・・・じゃぁ、うちに来て寝なさい!」
「でも、いいよ」
「ダメ!絶対にダメ!!そんな高熱であんたを家に置いておけないよ!!」

そう言いながら高学年になってからグングン身長が伸び、
今の私とそう変わらない背丈の一路を抱きかかえるようにして
半ば強引に自分の家に連れて来た。
ランドセル等は廊下の隅に置き、
下駄箱の上に大きな字で書いた手紙を一路の母親宛に置いた。

高熱でぐったりとしている一路を自分の部屋のベッドに寝かした。
ぬるめのほうじ茶を淹れ、すぐに氷枕と小児用の頓服薬も準備した。
その間、一路は歯の根も合わぬほどガタガタと震えていた。

「なっちゃん・・・ごめん・・・」
「ハイハイ、病人は気にしないんだよ?氷枕痛くない?もっとお茶飲む?」
「・・・・うぅん・・・・大丈夫・・・」
「そう?少し寝てね」
「うん・・・なっちゃん1人?・・・・おばさんは?」
「あぁ、お母さんはふうちゃんの付き添いで病院なのよ
昨夜、また発作があってね、そのまま入院になっちゃたから今は私1人お留守番よ」
「・・・・・・・・」
「寝ちゃったのね・・・・」

かなり息の荒い一路の額に手を置き、固く絞ったタオルをそっと載せた。
そして凪子は勉強道具を片手に自室からダイニングへ移った。

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皆様、こんばんは。

一雨ごとに春めいてくるはずの今日この頃、真冬に舞い戻ったのか!?と思うくらい私が住まう地域では冷たい雨が連日続いておりました。
今日(日付では昨日)は唯一の晴天になったようで、久し振りに大量の洗濯物をお天道様の温かい日差しの中干すことが出来ました。
でも私、数年前から花粉症でして・・・。
雨上がりの晴天は花粉がガンガン飛び捲くる~~~。

・・・と、気を取り直して。。。
そろそろ連載を始めたいと思います。
『年下モノ』です~~。

オフの方が多忙な時期にさしかかり、いつも以上に更新がのろのろとなりますが皆様、お付き合いいただけたら嬉しいです。
宜しくお願いします。


            紫苑あかね拝


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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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