2009 / 06
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凪子は祖父母宅へ越してから心にぽっかりと穴が開いてしまった。
それでも日々の時間は自分の気持ちとは関係なく、
一つのことに固執しているわけにもいかなかった。
高等部に進級し、この校舎のどこかに凪子がいるような残像を
暫くは探し続けていたようだった。

そんな生活の中で凪子との電話やメールのやり取りが
気持ちの上での支えとなっていた。
彼女の学業を考えて通話は1週間に1~2回。
メールはほぼ毎日。
お互いその日にあったことを写メ付きでメールを交わした。
そのお陰で彼女が引っ越してしまった当初よりも寂しさは薄らいでいった。


彼女には一言も話していはいないが、放課後何度も彼女の大学へ足を運んだ。
最初は偶然を装って『彼女に会えるのでは!?』という一縷の望みを抱いていたが
そのうちそうではなくこのキャンパス内に彼女がいることを
そして伸び伸びとキャンパスライフを謳歌しているであろうことを
確認すると同時にそれが自分にとって喜びとなっていた。

いつも自分が座るベンチは彼女の学部がある校舎が見える。
遠目に何度か校舎移動のための彼女を見かけた。
その時自分の心臓が早鐘のように鳴り響き
全ての音が聞こえなくなり彼女へ走り出そうとしていた。
こんなにも自分の中に凪子がいっぱいになっていたのだと改めて感じた瞬間だった。
だからこそもっと自分が強くなり、自信を持ち彼女と対等となったときに
改めて彼女に会おうと心に決めた。


高2の秋、彼女に一通のメールを送信した。

『明日、凪子の大学祭に行く。
○○の前で11:30に待ち合わせ、OK?
来なくてもずっと待っているから  一路 』

『会いたい』とか『元気?』とか『好きだ』という言葉敢えて使わず
ある意味彼女の気持ちに賭けをしたのかもしれない。
いつものベンチに座り暫し彼女を待った。

1年以上、殆ど習慣化していた彼女の大学へ足を運んでいた所為か
決まった時間帯にその場にいたお陰で顔馴染みになってしまった女子学生が数人いた。

「こんにちは!いつもここに来ている高校生だよね?」
「君のその制服って、隣県の私立大付属高校じゃないの?」
「ところで何年生?」
「結構イケメンじゃない?」
「お姉さん達と遊ばない?」

などなど、かなり大人っぽい雰囲気の女子学生数人に
所謂『逆ナン』常態で矢継ぎ早に話し掛けられた。
その中には恐らく凪子と同じ学部の女性もいた。
人だかりの向こう側に会いたくて堪らなかった女性
凪子の姿を一瞬捉えた。

「凪子?」
「えっ!?だ・・・れ?」

その声に円陣を組まれたような人だかりも自然と切れた。
スッと彼女の前に立ち出来るだけ優しい声で話掛けた。

「忘れちゃった?」
「一路・・・なの?」

目を大きく見開いた凪子がとても可愛く思えた瞬間、
右手で彼女の左手を引っ張り自分の腕の中にすっぽりと抱き寄せた。

「うん、会いたかった・・・」

周りの視線など構わずに抱き締めた腕に力を込めて
この1年で更に背丈が高くなったお陰で自分の顎を彼女の頭に置く形となり
そして彼女の髪とこめかみにキスをした。

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凪子が大学進学のために実家を出て行った。
隣県の祖父母の家で在学中は暮らすという。
彼女を応援すると決めたときからそのことは頭では納得していた。
でも、心は全く受け入れることは出来なかった。
だからいよいよ彼女が家を出るとき、うちにも挨拶に来た。
俺の母親や祖父母に挨拶するためだと・・・。

「おばさん、これから私、祖父の家に行くんです。
たまにはここへ帰ってくると思うのですが・・・一応ご挨拶と思って」
「まぁ、なっちゃん、ご丁寧にありがとう。
いよいよ大学生ね。きっと楽しいわよ、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
「一路を呼ぶ?っていうか、なっちゃんと暫く会えないのに
あの子、部屋から出て来ないのよ・・・ちょっと!一路、ちゃんと挨拶しなさいっ!」
「おばさん、いいんです。もう・・・えっと、一応お別れはしたから・・・」
「そうなの?それでも、礼儀だけは・・・」
「ホント、良いんです!」

凪子は手を目の前でブンブンと振るようにして一路のお母さんに話した。
きっと・・・凪子は、泣き笑いの様な顔をして母と話しているのだろう。
声の微妙な抑揚で彼女の心情が壁越しでも手に取るように感じられた。
今すぐにでも部屋から飛び出し、
家族の前でも構わず彼女を力いっぱい抱き締めたい衝動に駆られた。
しかし、今はそれをやれる時期ではないと・・・もう一歩だとしても自覚していた。
いつかもっと自分の心が強くなった時、そしてお互いにもっと心が強く惹かれあっていると
確信できた時まで我慢すると決めたから・・・。

彼女が留学後、お土産にくれたキーホルダーを手に握り締めて
2日前の彼女の儚げな面持ちを思い出しながら、
彼女への想いが涙という形となって溢れ出したのを感じたのは
そうなってからだいぶ経ってからだった。


彼女が祖父母に家に身を寄せてから暫くして
燐家は父親の転勤に伴い引越をしていった。
それまで何かと煩く付き纏っていた風花も体調を考慮して
転勤先へ付いていくこととなった。
必然的に学校も転校となってしまった。
それと同時に俺は風花にハッキリした態度を取ることにした。
それでも風花は尚も食下がって来たが、今までの自分の曖昧な態度が
凪子を、いや、この姉妹を犬猿の仲にさせてしまった一因であると思ったからだ。

「一路、ここを離れても風花と遠恋してよね?
お姉ちゃんに渡したくないから」
「俺は、物じゃないし」
「言い方が悪かったのは、ごめんなさい。でも小学校の時から一路が好きなの!
風花にとって一路は同級生だけれど憧れな存在だった。
小さい頃から体が弱かったあたしにとって、
元気に走り回れる、お姉ちゃんも一路も憧れなの!」
「そのこと、凪子に話したのか?」
「言えるはずないよ。お姉ちゃんは憧れの存在と同時に妬ましい存在だし・・・」
「何だよ、それ・・・?」
「一人っ子の一路にはわかんないよ」
「いずれにしても俺にとって風花はお隣の同級生であって、
それ以下でもそれ以上でもないから
これから先、俺に憧れる気持ちを持ってくれるのは構わないけれど
それに俺が応えることは出来ない・・・
俺にとって恋愛対象は凪子ただ1人だから」

その後風花が俺を涙ながらになじり、それっきり引っ越していってしまった。
恋に恋しているような風花にもきっと彼女を包み込んでくれるような男性(ひと)に
巡り合えようにと友人として祈らずにはいられなかった。

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暫しの別れを惜しみ、私は入学式の前に実家から離れた。
一路とはあの日から殆ど会っていない。

携帯電話の機械越しやメールのやり取りはしていた。
でも、彼の大学受験が佳境に入ってきた頃には週に1回メールがあるくらい。
連絡がないから元気な証拠・・・と頭で理解していても
春からは4回生になる不安や家族とのことで悩んでいたから無性に彼に会いたかった。
とても恋しかった。


大学に入学して間が無しに父が地方都市に転勤となってしまった。
風花の体調を考えて、今の住まいよりも環境などが良いということで
今まで住んでいた家は人に貸す形で、両親と妹は引っ越してしまった。
私は、祖父母宅に住み始めていたので殆ど生活ペースは変わらなかった。
それでも隣県に実家があるのとないのでは大きく違い、
まして日々の生活が忙しくてなかなか一路にも会う事が出来なかった。

そんな中、一度だけ2回生の大学祭に一路が来てくれた。
この時期キャンパス内でひと際秋を感じられる場所・・・。
正門近くの黄金色の色づいた銀杏並木の一角で彼と待ち合わせをした。

私はサークルの模擬店当番を早々に切り上げて待ち合わせ場所に急ぐ。
昨夜、遅くに一路からメールが届いた。

『明日、凪子の大学祭に行く。
○○の前で11:30に待ち合わせ、OK?
来なくてもずっと待っているから  一路 』

『元気?』とか
『会いたい』とか
『凪子、好きだ』とか・・・
いやいや、そういうことはきっと期待しても無駄かもしれない。

もっと気の利いた言葉も無く、用件のみのメール文。
それでも私はそのそっけない文章も嬉しかった。
待ち焦がれてやっと貰えたラブレターのように思えた。
その大切な文章が永久保存設定した携帯電話を握り締めて
私は待ち合わせ場所へ向かった。

あの角を曲がれば一路に会える。
そう思っただけで足が震えてきた。
自分がちゃんと歩けているかわからなくなってしまった。

待ち合わせ場所には特に模擬店等は出店されておらず、
良い雰囲気の散歩道となっているのに
その場と似合わない人だかりとなっていた。
10人前後の人を縫うように歩き待ち合わせ場所へ近づいたとき
ふいに私は斜め後ろから呼び止められた。

「凪子?」
「えっ!?だ・・・れ?」
「忘れちゃった?」
「一路・・・なの?」
「うん、会いたかった・・・」

気が付けば私は彼の腕の中にすっぽりと納まった形となっていた。


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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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