2017 / 11
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「お義姉さん!幸乃にとって自分がその程度のヤツじゃないと思っています。
でももし、そういうことなら・・・こんな機械を通さず直接彼女の口から聞きたいです」
「そうよね・・・」
「俺、家に帰ります」
「じゃぁ、送っていくわ。今度は私が運転して・・・私も幸乃にちゃんと聞きたいから」
「助かります、1人で帰ってまた彼女と喧嘩しかねないくらいで・・・
俺はまだ気持ちが揺れているんです」
「ええ、わかるわ。じゃぁ、ちょっと待っていて、支度してくるから」

彩乃が出掛けることを夫に伝え、ベンチコートを着込んで戻って来た。
修二は車に乗り込んだとき再び幸乃に電話を掛けた。
今度は家の電話にも掛けてみたが、機械音の様な留守電が応答するのみ。
義姉の家を出る前に頭の中で聞こえた幸乃の声が気になった。
とにかく今は彼女の顔を見たいそして抱き締めたい・・・その気持ちが体中を駆け巡った。
はやる気持ちを抑えながら、間もなく義姉の運転する車はマンション前に着いた。
助手席から見上げた我が家は、厚手のカーテンに窓が閉ざされていたものの
オレンジ色の暖かな光が漏れていた。

「修二君、先に自宅へ行っていて。私は地下駐車場の来客用に止めてからそっちに行くから」
「いえ、乗ったまま駐車場へ行きます」
「そう?いいの?早く幸乃に会いたそうだけど?」
「いいです、このままあそこから駐車場へ入ってください」
「わかったわ、そうしましょう」

地下駐車場に車を止め、エレベーターで自宅の階へ上がった。
角部屋の自宅へ、義姉と一緒に足早に向かった。
先ほど自分が出掛けた時、鍵を掛けずに出て来てしまった事を
今更ながらそうとう頭に血が上っていたことに心の中で苦笑いしてしまった。
玄関に入りフットライトが点灯した。
リビングに通じる扉が半分開いているのを確認し、幸乃の名を呼ぶ。

「幸乃ちゃん?起きているのか?」
「幸乃?どうしたの?寝ちゃったの?」

2人はリビングに足を踏み入れた。
こたつに両足を入れた状態で、座椅子から身体が大幅に外れるように幸乃は横向きに倒れていた。

「幸乃!こんなところでうたた寝したら具合が悪くなるわよ」
「幸乃ちゃん、寝ているのか?」

幸乃の手にはしっかり携帯電話が握られている。
・・・・といか、握り締めながらその淡いピンクの機械が小刻みに震えていた。
微かではあるがうめき声も聞こえた。

「幸乃!?どうしたの?」と彩乃が妹の顔を覗きこむ。
「幸乃ちゃん!!どうしたっ!?」と修二が彼女を抱き起こした。

彼女の顔には異常なほどの脂汗が滲んでいた。
「・・・・おな・・・か・・・痛・・・・いの・・・
しゅう・・・くん?ご・・・めん・・・・」
「幸乃ちゃん?何があった?」
「幸乃!お腹が痛いの?ちょっとごめんね、捲るよ・・・・あっ!!これは・・・
修二君、緊急事態よ!救急車を呼んで!!」
「えっ!?救急車?」
「幸乃、出血しているわ!!早くっ!!それとバスタオル持ってきてっ!!
しっかりするのよっ!!幸乃っ!!」

修二は動揺し震える手でどうにか救急車の要請をした。
全身が震えて仕方がなく、義姉の指示に機械的に返事をし動くことしか出来なかった。
幸乃を抱きかかえているだけがやっとの状態だった。
想いはただただ幸乃を、お腹の赤ん坊を失いたくないだけだった。


深夜ということもあって救急車のサイレンは消して間もなく到着した。
救急隊員が応急処置をして、修二は幸乃に付き添い救急車に乗り込んだ。
義姉は、入院準備や実家への連絡もあるというのでマンションに残ってくれた。
搬送される間、修二は片時も幸乃手を離さなかった。
痛みで悶える幸乃を励ました。
握っている手を自分の口に寄せて何度も「愛している、俺を1人にしないでくれ」と言い続けた。
救急病院に到着後、幸乃は処置室に運ばれた。
修二は身が切れるような思いでひたすら待っていた。

深夜の病院は、誰もいなくたまに処置室から看護師が出入りするくらいで
修二はその度にハッと顔を上げ、幸乃の様子を何度も聞いた。
彼はベンチに座り片手で頭を抱え後悔した。
いつだって自分の事ばかりで、自分の想いばかりを押し付けてきたのだろうか・・・と。
あの時、感情に任せてマンションから出て行かなければこんなことにはならなかったはず。
幸乃の傍にいると言っておきながら肝心な時に1人にさせた。
あの時の空メールは、自分を呼んでいたのか?
そう思った途端修二は全身の力が抜けた。

「幸乃・・・イヤだ・・・連れて行かないで、俺の幸乃を・・・赤ん坊を・・・
お願いだ、幸乃と赤ん坊以外、もう何もいらないから・・・」

彼女達の無事を切に願い、薄暗い病院の廊下で修二は声を殺して泣いた。
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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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