2017 / 07
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Page.190

壁に田園風景の油絵が飾られている。
こじんまりとした個室のベッドに眠る幸乃は穏やかな寝息を立てている。
左腕に点滴の針が刺さっているので反対側の手を握り締めたまま
修二は彼女のベッドに突っ伏すように眠っている。
入院準備のバッグを抱えた彩乃は、
朝日が燦々と降りそそぐ部屋の中は穏やかな時間が流れているのと感じた。
修二の横に行き、肩を軽く叩き声を掛けた。

「修二君、大丈夫?」
「・・・うぅ~~~ん、あっ!お義姉さん?俺、寝ちゃったんですね」
「昨夜から大変だったんだもの、眠いでしょう?
ここはいいから一度自宅に帰って仮眠をとってきたら?」
「いいえ、大丈夫です。幸乃ちゃんが目覚めた時ここにいたいんです」
「そう?じゃぁ、絶対に無理しないでって約束して!いい?」
「はい、わかりました」
「それと・・・あとで実家の両親がここに来るみたいだから」
「はい、俺、ご両親にはなんてお詫びをしたらいいか。どう償えばいいか・・・・」
「そんなこと気にしないで、まだあなた達は若いのだから
これからを見せていけば良いと思うのよ」
「それでも・・・」
「あなたがそんな風にクヨクヨしていたら幸乃はあなたが頼りなのにどうしたら良いの?」

彩乃は、かなり弱気になっている義弟に喝を入れた。
入院用の一式をバッグから出しサイドテーブルに置き、
着替え等は備え付けのクローゼットに仕舞った。
自宅から握ってきたおにぎり3個とペットボトルのお茶を修二に渡し
強い口調で食べるように言い聞かせた。
ベッド脇の椅子から入り口近くに置いてあるソファに彼を半ば無理やり座らせ
小さな子に言うように「よく噛んで召し上がれ!食べ終わるまでここを動いちゃダメよ!」と。
程好くにぎられたそれは口に含むとほろほろと舌の上で崩れ、

全身の緊張が解けていくようだった。
修二は、この頼れる義姉がいてくれて本当に感謝した。
自分1人だけだったらここまで出来ただろうか・・・。



午前中いっぱい幸乃は目覚めず、時折うわ言で謝ったり修二の名前を呼んだ。
ここは病院側の配慮で一般病棟から離れた位置にあるため
他の患者さんに気兼ねなく周囲への連絡等が出来て助かった。
自分の携帯電話には実家から数件着信があった。
幸乃のことを父親の携帯電話に連絡をしておいたからだ。
メンバーにはリーダーのマオにだけ明け方メールした。
マネージャーにも出来ることなら
仕事に支障が無い程度に休みが欲しかったので連絡をした。
それでも基本的なスケジュールは埋まっている状態で
空き時間に彼女を見舞うくらいしか出来ないのだと厳しい現実が待っていた。
正直言って仕事も何もかも投げ出してただひたすら彼女の傍にたかった。
しかし、フェニックスのヴォーカル・シュウも全部ひっくるめて俺を好いてくれている
幸乃のためにここは自分自身強くならなければ・・・と思った。
心は彼女の元に置いて来ても・・・・。

午前中に幸乃の両親が来てくれた。
全ては自分の所為なのに一言も責めず
むしろ憔悴しきった自分の肩を無骨な手で義父は何も言わず揉んでくれた。
ただ一言「幸乃は幸せ者だな・・・」と言った。
そして義母も何も言わず、ただ背中を撫でてくれた。
自分の彼女への独りよがりな頑なな想いは溶けていった。

幸乃の両親と入れ替わるように、修二の父親が見舞いに来た。
その風格とは似つかわしくない色鮮やかなガーベラを数本、
カスミソウやスターチス等をあしらった小振りな花束を抱えていた。

「修二、幸乃さんの具合はどうだ?」
「父さん、まだ意識が戻らないんだ」
「そうか・・・お前は大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
「昨日の今日で驚いたよ」
「ごめん、心配掛けて・・・・」
「いや、それはいい。お前は幸乃さんを第一に考えてあげなさい。
嫁ぎ先で居心地を良くするのも、悪くするのもパイプ役としてお前次第だからな」
「はい、肝に銘じてそのつもりでいます」
「そうだな・・・幸乃さんを一番に守るのはお前のほかに誰もいないそ!」
「父さん・・・・」
「そうだ、母さんがさすがに驚いていてね。素直には・・・まだまだなんだがな・・・・
お前に怒鳴られて、叱られたことがそうとう応えたらしい。
その上幸乃さんが救急搬送だからな・・・
そのうち・・・まぁ、長い目で見てやって欲しい、すまんな」
「いえ、父さん、ありがとう」

父親が持って来た花束を修二が花瓶に生けて、
それを満足そうに眺めて父親は帰っていった。
帰り際「ガーベラのこの鮮やかな色は『ビタミンカラー』と言って人を元気にさせるそうだ。
まぁ、母さんの受け売りだがな・・・」言った。
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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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