2017 / 05
≪ 2017 / 04 2017 / 06 ≫
Page.

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


Page.206

会いたい人は公園のベンチに座っていた。
足元をジッと見つめたまま俯いていた。
その顔をふと上げ、自分に向けてふわっと笑った。
足早にベンチに近づきお互い視線は合わせず、
夕焼けを見ながらただ静かに座っていた。
そして凪子から口を開いた。

「話って何?」
「うん・・・・その・・・・」
「出掛けに風花とちょっと喧嘩になっちゃった」
「俺も出掛けようとしたら玄関前で会った」
「そう・・・」
「なっちゃん・・・」
「いいよ、さっきみたいに呼び捨てでも」
「うん、凪子・・・行っちゃうんだよね?」
「再来週、出発する」
「見送りはいけないから、今、話すよ」
「うん、聞いているよ?どうしたの・・・寒いの?震えているよ・・・」

一路は前を見据えたままで膝の上にギュッと握り締めたこぶしは無意識に震えていた。
その手に凪子はそっと手を包み込むように手を繋いだ。
もう片方の手で自分の手と一緒に軽くポンポンと叩き話すように促した。

「何を言われても・・・ちゃんと聞いているから、話して」
「うん、あのさぁ、俺・・・
ここで凪子が中学のとき男子生徒と話しているのを見かけたことがあるんだ」
「そう・・・あの時のこと見られちゃったんだ」
「ごめん、それでその時凪子が酷く落ち込んだ顔をしていて・・・
俺、まだ小学生だったけれど、その男子生徒に嫉妬したんだ」
「それって、どうして?」

ここへ来て初めて凪子の顔を見た一路だった。
自分の顔をジッと見つめる彼女を見た途端一気に心拍数が上がるのがわかった。
でもここで言わなければきっと後悔する。
結果、彼女にとって自分は『隣の弟』でも良いと思ったからだ。

「俺、隣に引越ししてきてからずっと凪子が好きだった。
最初は一人っ子だし『隣のお姉さん』という感覚だったけれど
あの時、凪子が落ち込んだのを見た時、その感情はただの憧れじゃないと感じた」
「一路・・・」
「凪子が中学受験して今の学校に入ったと聞いたとき
男女共学だからきっと同じ学校に行かれると思ったから俺も受験した」
「動機が不純だね・・・」
「それでも!中等部と高等部では校舎が違ってもどこかで会えるから」
「そう言ってくれて正直嬉しいよ」
「入学してどこかに凪子がいるって思っていたのに・・・・
交換留学生の立候補したって聞いて、それで・・・」
「そっか・・・それで・・・」
「4歳年下なのはどうしたってどうにもならないのはわかっている
それでもこの気持ちは抑えられなくて」
「一路・・・ありがとう」

彼の手を握っている手を自分の胸に持って行った。
その行為に驚きの顔をした一路に優しく語りかけた。

「洋服の上からだからわかるかな?」
「・・・・・?」
「今、一路の話、ううん、告白を聞いて私の心臓はこんなに激しく打ってるんだよ」
「ドクドクしてる・・・」
「そうでしょう?」
「すっげぇ・・・」
「ふふふ・・・本当に『すっげぇ』でしょう?
私も最初は『隣の弟』と接してきたわ。それに妹の初恋の相手だしね。
どこかで気持ちをセーブしてきたんだと思う」
「もしかして・・・凪子も?」
「この気持ちが本当に一路に向いていると思うの。
でもね、まだどこかで・・・妹にも遠慮しているし、
年下のかわいい弟っていう気持ちも拭えないでいるの」
「それでも俺は嬉しいよ」
「こんな気持ちを置いたままイギリスに行くのは苦しい。
でもお互い離れてみて、再会した時まだ気持ちが残っていたりそれ以上だったら
きっとその気持ちは本物だと思うの」
「俺、待っていて良いんだよね?」
「一路がそうしたいのなら、いいよ」

彼は嬉しそうに、そして少しはにかんだように笑った。
それに釣られて凪子も微笑んだ。
胸に当てていた一路の手にそっと唇を寄せた。
そして「待っていてね、もっと良いヤツになっていてね」と囁いた。


それから2週間後、家族と友人に見送られて凪子はイギリスへ旅立ってしまった。
夏休みやクリスマス休暇には日本に帰ってくるようなことは話していたが
敢えて会うような約束はしなかった。

その代わり2~3週間に1通という割合で文通している。
絵葉書が中心だが、イギリスの街並みや田園風景が殆どだった。
こちらからは祖父が協力的でどこからか
日本的な絵葉書を大量に買ってきてくれた。

1通ごとに凪子への想いは強くなってくる。
会えない分、想いが募っていくのだろう。
彼女との約束「もっと良いヤツ」になれるために、
4歳年下を埋められるよう俺はその想いを
心の奥底に押し込みながら彼女の再会に想いを馳せた。
スポンサーサイト


この記事へコメントする
















presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

只今ランキング参加中なり。 ポチッとして頂けたら嬉しいです。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。