2017 / 05
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凪子は大学受験に合格した。
いよいよ2日後には実家から祖父母宅に身の周りの物を運び出すこととなった。
大きな家具はそのままではあったが、
愛用している細々とした物を連日段ボールに詰めているようだった。

俺の部屋からは直接凪子の部屋の様子など聞こえてこないが
きっとこの時間は荷造りの最中ではないか・・・?と自分でも驚くほどに
心の耳を研ぎ澄ませて感じるようになっていた。
そんな時は何も手が付かないほどだった。

凪子が夢を叶えるために選択した大学はここからは少し遠い。
この家に移り住んでからいつも隣にいた凪子と離れてしまうことに
今更ながら苦しさを感じていた。
出来ることなら、自分も凪子の傍に行きたいほどだった。
そんなことを考えているところに共通廊下に面した窓を「コツン!」と叩く音がした。

「一路、今、話せる?」
「凪子・・・か?」
「うん、ウチに来ても良いけれど、妹と母親がいるし・・・」
「じゃぁ、俺ん家来いよ、お袋もばーちゃん達いないし」
「うん、そうする」

そう言って玄関を静かに開ける音がして小さな声で「お邪魔します」と言う声がした。
凪子は俺の部屋の入り口に立ったまま、
優しくてでもどこか寂しげな眼差しで見つめていた。
俺はベッドに横になったままでいたが、凪子を目に捉えてすぐに起き上がり
ベッドに腰掛けるようにした。
そして無意識に手を伸ばし、凪子を部屋に招き入れた。
自分の横に静かに座った凪子の手には真新しいベビーブルーの携帯電話が握られていた。

「荷物はおおかた詰め終わったのか?」
「うん、大体ね。でも辞書とか・・・本とか・・・着替えとか、そんな物ばかりだから」
「家具はそのままなんだろう?」
「そうなの、おじいちゃんの家にもお父さんが使った古い勉強机とかもあるみたいだし
ベッドもゲストルームから移動するために今日はお父さんがあっちに行っているの」
「そうなんだ」

一言二言、言葉を交わした途端お互い沈黙してしまった。
しかしパッと顔を上に上げた凪子1人喋り始めた。

「そうだ、一路も4月で高等部だね、クラス替えもあるし・・・
担任は誰だろう・・・?委員会もそのまま続けるの?
高等部の教室はリフォームしたばかりだから、結構綺麗なんだよ!」
「凪子!」
「そうそう!妹のことも・・・相変わらずあんな感じだけれどよろしくね」
「おいっ!」
「あの渡り廊下でもう会うこともないんだね・・・」
「な・ぎ・こっ!!!」
「・・・・・・」
「1人でそんなに機関銃みたいに喋くるなよな」
「だって・・・・」

俺に喋らせないかのように1人いつも以上に賑やかに喋っていた凪子は
急に口を閉ざしてしまった。
そして携帯電話を握り締めながら俯いてしまった。
彼女の手を包み込むようにそっと手を握った。
しかしどんな表情をしているのか、髪の毛が邪魔をして伺えない。
それでも彼女が涙ぐみ始めたことがわかった。
「シュンッ」と鼻をすすり上げ、身体が小刻みに震え始めたからだ。
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紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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