2017 / 06
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「マオ、大丈夫か?」
「ああ?」
「お前・・・顔色悪いぞ」
「ああ、別に、大丈夫だ」
「そうか・・・なら、いいんだがな・・・
でもその顔色でPV撮りいいのか?」
「余計なお世話だ!」
「マオ!!」

俺は控え室のドアを蹴破るようにして
シュウの言葉を聴かずに出て行った。
撮影用のスタジオが入っている建物の非常階段を一気に駆け上がり、
ダークグリーンの鉄の重い扉を開け屋上に出た。

さあっと秋風に吹かれるまま、
柵までのろのろと歩み両腕をぐったりと凭れ掛けた。
都会の高層ビルや緑地が点々と見える。
いつか一緒に行った高層ビルも良く見えたがそれらをただぼんやりと
生気の無い虚ろな目で見つめていた。


あぁ、わかっているさ。
メンバーが俺のことを心配していることを。
無茶な酒の飲み方。
誰彼構わず、女なら誰でもいい。
気が向けば抱く。
昼夜逆転した生活。
そしてすべてを忘れるように
身体が悲鳴を上げていても自分自身をいたぶるような仕事の仕方。
一部始終を知っているメンバーにもどうすることも出来ないから
やるせいない気持ちを紛らわせるために
些細なことでメンバーと衝突する。

頭では理解できていても心が付いていかない。
違う、今のこの状況を拒絶しているんだ。

家族に恵まれていてもどこか孤独を感じていた自分。
そんな中で自分の居場所を今の仕事の中で見出し
更にやわらかな光のような。
それでいて必ず自分が守らなければならない存在を知ったのに。
どうしてまた孤独の中で生きていかれるのだろうか。
俺はそんなに強くない。
むしろ虚勢ばかり張って生きてきたから、一気に奈落の底に突き落とされれば
そこから這い上がる術を知らない。
光に導かれれば・・・それも出来るのかもしれないが・・・。

「どうしてだよ・・・?
俺じゃダメなのか・・・?
逢いたいよ・・・お前に・・・お互い溶けてしまうほどに抱きしめたいっ!」

1年以上我慢してきた感情がほとばしるように一気に溢れ出し
それは滂沱の涙となった。
嗚咽を漏らしながら俺は一人泣いた。


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昨日のお迎えのときから変な咳をしていた息子の体調を気にしながらも
仕事が立て込んでいるため半ば見切り発車で出掛けた。

「和華ちゃん、あっくんの顔色あまり良くないわね?」
「ええ、でも今日は、どうしてもダメなんです。
保育園は病児の子も預けられるように対応はしてくれますが・・・」
「そう?でも、どうしてもだったら私が預かるから」
「はい、その時は・・・お願いします」
「じゃぁ、行ってらっしゃい!」
「行ってきます。あっくん里津さんに『バイバイ』は?」

朝から少々機嫌の悪い息子は垣根の葉っぱ採りは勤しみながらも
大家さんである里津さんには
チラッと見上げておざなりで手をひらひらさせていた。
翔はいないらしく、いつもどおりバスに乗って保育園へ送って行った。


社長就任の辞令を人事部長から聞いた。
副社長だった人がそのまま上に昇進した形だ。
『野本嵩央(のもとたかお)』氏

ここまで大きな会社だと代表取締役ぐらいは把握していても
それ以下の方々に関しては正直言ってよくわからない。
働かせてもらっている身でありながらまったく失礼な話なのだが、
日々の生活の多忙さにかまけていてそこまで把握できていないのが
末端の女子社員の現状だろうと思う。

新社長の名前を聞いて『まさか・・・ね?』という言葉が頭の中にもたげた。
社長挨拶を会議室の大きなモニターで拝謁した。
第一印象は声が似ている・・・と思った。
でも男性なら似ている人が多くても不思議ではない。
だからこのときは気のせいだと思った。

そんなことを考えていたのはやはり一瞬のことで
午後一から仕事の忙しさに振り回され始めた。
一息を吐く頃、私に1本の電話が入った。

「お預かりしている映君ですが
朝から機嫌が悪くて・・・
先ほどお熱を測ったら38.0℃ありました。
他の園児とのこともありますので・・・
お迎えに来て頂きたいのですが・・・」

ああ~やっぱり、今日は行かせるべきではなかったんだわ。
私はすぐに里津さんの携帯電話に連絡を入れて
先に迎えに行ってもらうことを頼んだ。

上司は事情をよくご存知なのですんなりと早退させてもらった。
しかし同期とはいえ、年下の理子ちゃんや他の同僚は
私がシングルマザーだということは知らない。
血相を変えてオフィスを飛び出していった私を見て
あとからきっと不思議に思ったに違いない。

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『新進の俳優・石川翔に隠し子か!?お相手は一般の女性!!』

事務所の打ち合わせ室にあった新聞にこう記載されていた。
主要のスポーツ誌に大きく見出しを躍らせている記事が目に留まった。
一緒に掲載されている写真を見て愕然とした。
保育園であろうか門のところで小さな男の子を抱き上げている
事務所の後輩の石川が写っていた。

その隣に立つ女性を食い入るように見つめた。
石川を見上げてにこやかにしている。
肩に下げているショルダーバッグ
大きめなペンギンを模ったストラップがぶら下がっていた。

有名な水族館で買ったものだから
同じものを持っている人がいても不思議ではない。
しかし、一般の女性ということで目元は隠しているが・・・。
こんなに恋焦がれて、逢いたくて。
今でも愛している女性を忘れるはずがない!

記事を読み進めていけばまるで石川と夫婦のような
それを確信しているような内容だった。
新聞をぐしゃりと握り締めてこの事実を受け入れないと改めて感じた。


「翔!どういうことだ?」
「マネージャー、別に隠すことじゃないですよ」
「この記事どおりなのか!?」
「俺は・・・そうなりたいと思っています」
「ということは・・・彼女はお前の・・・というか子どもはお前の?」
「・・・残念ながら俺の子じゃないですよ。
でも生まれたときから世話しています。
彼女は幼友達で・・・シングルで育てています」
「じゃぁ、否定のコメントを出すようにする」
「いえ、俺はこの記事を利用しても・・・
彼女を俺のものにしたいです」
「翔、それは無謀だ!!
それに彼女の・・・その相手は知っているのか?」
「相手、それは俺も知らないです、
いくら聞いても絶対に答えてくれないです」
「お前がこの記事どおりに望んでいても、
相手のことをお前に打ち明けないということは
彼女はこの記事によって困っているはずだ。
本当に相手を想うならきちんとしたコメントを出すべきだ!」


まさか同じ事務所内でこんなやりとりをしているとは気づかず
俺は午後からオフなのをいいことに
このスポーツ誌の担当記者と連絡を取った。
そしてまたたく間にこの写真を撮ったであろう
保育園の場所と名前を聞き出した。

その見返りとしていつか俺から爆弾発言をするという確約した。
それは・・・彼女と俺、和華子とマオに関することだ。

俺は保育園近くまで来た。
ここに来れば彼女に逢えると思ったからだ。
しかし、夕方にはまだ早い時間。
お昼寝の時間であろうか・・・園庭もひっそりとしている。
数時間待っていれば彼女に逢えるのか?
それでも俺は待つつもりだった。
近くのコーヒーショップで時間を潰すことにした。
そしてあの頃のことを思い出していた。

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フェニックスのメンバーとしてデビューしたばかりの頃。
大手のプロダクションに籍を置いているとはいえ
自分たちのCDをショップで販売してもらうため
あるお店を訪れた。
そこで彼女は働いていた。

若い芸能人を前にして大概の女性は舞い上がってはしゃいでしまうところ
こういう仕事をしているせいなのか・・・。
彼女の性格なのか淡々と俺を始めメンバーに接していた。
後から考えればこういう性格だから惹かれたんだと・・・。

俺の一目惚れだったんだと思う。
その日のイベント以降も会いたくて
そんな理由が欲しくてわざと子どもじみたことをした。
故意的に控え室に自分のプライベート用の携帯電話を忘れてきた。
それは賭けだった。
きっと彼女が拾っておいてくれることを願って。

イベントが終わって半日過ぎてすぐに自分の携帯電話に掛けた。
一度は不在着信。
それから殆ど時を置かずして通話された。

「もしもし・・・」
「すみません、先ほど、お世話になりましたフェニックスのメンバーです」
「あ・・・あの、これ・・・」
「これ、俺の携帯電話です。君は、あのイベントで色々お世話してくれた」
「はい、堂前です」
「あ~良かった。君で!実は・・・わざと忘れたんだ、
もう一度君と話をしたかったから、ごめんね」
「ええ!?そうなんですか・・・
でも、どうして?それよりこの携帯電話とても大切なものでしょう。
すぐにお返しに行きます。それよりどこかに送りますか?」
「いや・・・いいよ、俺が取りに行くから」

そんな会話を数分交わしてすぐに会うことにした。
彼女は高校を卒業後は近所ではあるが家を出て
夜間大学に通っていた。
ごく普通の女性だったが自分にはこの子しかいない!
再会したときそう思った。
だから尚更大切にしたかった。

それから急速に仲良くなり自分の中では
彼女は一番大切な人となっていた。
メンバーも呆れるほどに、
彼女の話をするときは目がハートになっていたそうだ。

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それから2人で迎えた2度目の冬に
やっと彼女から合鍵を預かることが出来た。
俺自身の身の振り方を心配してか、
なかなか外でデートをすることは出来ない。

かといって、男性の一人暮らしの部屋に女性を頻繁に上がらせることも出来ない。
自分のオフと彼女の休みが合えば、デートを重ねた。
連絡手段は殆どがメールが多かった。
しかし、そのやりとりも俺にとっては
どんな栄養剤より元気にさせてくれるものだった。

「和華子、いつもごめんな・・・」
「なんで?マオさんがここに来てくれるのすっごく嬉しいんだよ?」
「やっぱ、フツーのお外でのデートしたいだろう?
メシ食いに行ったり、映画観たり、ショッピングしたり・・・」
「・・・・う~ん、そうだね~確かにそうかもしれないけど・・・
私は、沢山ファンのいるマオさんをひと時でも独り占めできるから幸せだよ」
「そっか?」

かわいい事を言ってくれる彼女の言葉に俺は有頂天になりながら
彼女を背後から抱きしめた。
花の香りのする彼女の髪に顔を埋めてギュッと腕に力を込めた。

俺の腕の中で俯きながら
身を反転させて向かい合うように彼女がそっと抱きついた。
一瞬顔を上げてふんわりと微笑み恥ずかしそうに俺の胸に頬を寄せて
小さな声で「大好き・・・愛している」と囁いた。

彼女の囁きに俺の身体がカッと熱くなる。
恥ずかしそうに俯く顔を半ば強引に上を向かせて
ぷるっとした唇にそっと口付けた。
最初は啄ばむように・・・。
彼女の吐息がやや荒くなるにつれて角度を変えながら
俺のありったけの愛情を注ぎ込むように熱く甘い口付けを何度もした。

彼女をそっと抱き上げて小さな白いベッドへ壊れ物を扱うように横たわらせた。
髪を優しく梳きながら額に、瞼に、頬に・・・そして唇にキスをした。
少し震えている彼女の手を取り口に寄せた。

「和華子、愛している・・・」
「マオさん・・・」

彼女のしっとりとした肌触りの首筋にキスをしながらニットの上から
彼女の胸を触った。

「・・・・んぁ・・・」
「イヤ?」
「ううん・・・」

ニットの裾から手を入れて下着の上から丸い丘に手を這わせて
胸の頂きを布越しに優しくこすった。
和華子の可愛い反応に比例して己の昂ぶりが増してくる。
甘い吐息を断続的に漏らしながら彼女の上半身は仰け反る。
ニットを上にずらしつつ、裾から手を這わせて下着の境目からそっと
あまり大きくない丘をやわやわと揉み、頂を少し強めに摘んだ。

「やぁ・・・ん・・・・」
「和華子・・・イイ?」

返事の変わりに彼女は俺の首にしがみついてきた。
彼女の透き通るような肌をほのかな灯りにさらし
一番大切な場所をまさぐれば入り口から溢れんばかりの泉を湛えていた。

そこを指で少しずつ愛でながら中の潤っているところへ進んだ。
彼女は大きく仰け反り頭を横に振るようにし、
最大の欲求を満たすべく準備は出来ていると判断した。

お互いの欲求を満たすために向か入れた。
誰よりの大切にしなければならない存在なのに、
自分が一番乱暴に扱ってしまっているのだろうかと思うくらい
彼女を全身で感じたくて・・・。
そして彼女と共に全てを満たされたくて早急に激しく求めて
高みに昇っていったのだった。

全てが終わり・・・。
お互い生まれたままの姿で抱き合い、
彼女は「幸せ・・・ありがとう」と一筋の涙を零しながら俺の腕の中で囁いた。


presented by 地球の名言

紫苑あかね

Author:紫苑あかね
恋する人たちの切ない想いを描いています。

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